元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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ようやくこの話に辿り着いた


デキ婚報告

 

 

 

『子供ができた』と言われて、どんな気持ちになったかと聞かれたら、俺は『わからない』と答える。

俺自身誰かと結婚している想像ができなかったし、子供なんて作る想像ができなかったから。できたらその時考えようなんて先延ばしにした罰が、今当たったように思う。

 

「……ですから、先輩との赤ちゃんです」

 

だけど、その相手が都で良かったと思ったのは本当だった。

何かに怯えながらも報告してくれた彼女に対して、俺は明確に愛おしさを感じていたのだから。

 

『おめでとう』も違う。

『ありがとう』も違う。

 

今胸の中にあるこの気持ちを表せる言葉を持ち合わせていない。だから、俺はまず目の前にいる都を抱きしめることにした。

 

「……あの、先輩?」

「結婚しよう都」

「–––ふぇっ!?」

 

腕の中から顔を出して、都は俺を見上げる。

その頰は真っ赤で、さっきまでの顔色とは真逆だった。

 

「あの、私は別に結婚がしたいから先輩に報告したわけではなくて、いやそれはもちろん期待してなかったというのは嘘にはなりますけど、それに先輩は冬海さんが–––っ!?」

 

そんなことを言い出した都の唇を塞ぐ。強引に押し付けられた唇に驚いた彼女は、最初は驚いていたものの力なく体を委ねてきた。目を閉じて、ただひたすらキスの感触を楽しむ。数十秒そうしたあとで、ゆっくりと唇を離す。

 

「別に責任取るとかそういう話じゃなくて、俺が結婚したいから言ってるんだ」

「いや、でも……」

「確かに俺は冬海のことが好きだよ。でも、それ以上におまえのこと好きなんだよ」

「えっ!?」

「いや、何驚いてんだよ……」

 

本気で驚くと同時に、耳まで赤くなる都が愛おしくなる。

もう一度唇を塞ぎたいところだが、彼女を強く抱きしめることで堪えた。

 

「嘘です……」

「嘘じゃねぇよ」

「だっておかしいじゃないですか」

「何がだよ?」

「だって全部私に都合が良すぎるんですもん。妊娠したら先輩に責任取ってもらえて、結婚してくれるなんて。きっとエイプリルフールの嘘に決まってます!」

 

エイプリルフールと言われて、俺はそういえば四月一日にはそんな文化があったなと思い出す。

あまりのタイミングの悪さに、俺は自分の迂闊さを呪った。

 

「なら、明日も求婚する」

「い、今だけならなんとでも言えますよ」

「じゃあ、どうしたら信じてくれるんだ?」

「そ、それは……」

 

都の視線が、俺の目から僅かに下へ。

そこにあるのは、唇だ。

 

「……キスしてください。私のこと誰よりも愛してるってわかるくらいに、激しくて甘いキスを」

「何度だってしてやるよ。おまえがちゃんとわかるまで、何度も、何度でも」

 

もう一度、唇を重ねる。

 

「はぁ……んっ……ちゅ……」

 

息もできないくらい激しいキスをして、不意に唇が離れて、その度にまた求めて。何度も、何度も、何度も。時間を忘れて俺達は唇を重ねあった。

 

 

 

 

 

 

次の週末。俺と都は一軒の住宅の前にいた。

赤い屋根の二階建ての家だ。大きな庭と、車庫があるデザイン性の優れた家。鹿島都の実家だ。

今日は、都の御両親に挨拶に来たのである。

 

「……はぁ。来ちまったなぁ」

「諦めてください。ついうっかり孕ませちゃったのは先輩なんですから」

「……デキ婚だから余計に印象が悪いだろ」

「身から出た錆だと思いますよ」

 

都の実家を見上げながら、俺は気持ちを切り替える。

俺の右手は、都の左手と繋がれている。そして、その薬指には婚約指輪が嵌められていた。

 

「憂鬱だ……」

「じゃあ、取り敢えずインターホン押しますね」

「ちょっと待て、心の準備を–––」

「もう押しました」

 

都は俺の制止の声も聞かず、勝手にインターホンを押す。

それから数秒後、回線が繋がる音がした。

 

「先輩を連れて来ました」

『はーい。今開けるわね』

 

回線が切れたあと、パタパタという足音が聞こえてくる。

その数秒後、玄関が開いて赤茶髪の綺麗なお姉さんが出て来た。

歳は三十くらいで、おまけに巨乳でグラマラスな体型の女性だ。片桐を越えるクラスの巨乳の登場に、つい視線が下がってしまう。

 

「お姉さんですか?」

「あら、嬉しいわね。お姉さんだなんて」

 

照れた様子で喜ぶ推定三十代の女性は、赤らめた頰に手を当てて嬉しそうな顔をする。

 

「……母です」

 

横からの密告に、俺は瞠目した。

 

「えっ!?母!?!?!?」

「ちなみにアラフィフです」

 

精一杯年齢を濁す都の告白に、俺はさらに驚いてしまう。

 

「嘘だろ!?」

「事実です」

「……三十代くらいかと思ってた」

「これで五十超えてます」

 

美魔女とも呼ぶべき母親の登場に、開いた口が塞がらない。度肝を抜かれっぱなしである。

 

「それよりお父さんは?」

「リビングにいるわよ。今も貧乏揺すりしながら待ってるわ」

「さっさと行った方が良さそうですね」

「本当ね」

 

母娘のなんだか気になる会話を耳にしながら、俺は冷や汗をかいていた。

 

「初めましてお義母さん。藤宮直人と申します。それとこれつまらないものですが」

「あら、ご丁寧にどうも。私は鹿島志穂。志穂って呼んでね」

「志穂さんと呼ばせていただきます」

 

呼び捨てはさすがに恐れ多く、訂正しておく。

手土産を渡して、取り敢えず第一段階はクリアだ。

 

志穂さんに連れられて、家に上がる。

廊下を進み、リビングへ。

ついに俺は、都の父親と対面することになった。

 

「……」

 

リビングのソファーには、腕を組みトントンと肘を叩きながら貧乏揺すりをしている四十代くらいの男性がいた。

きっとあれが父親なのだろう。チラッと向けられた視線から殺気を感じた。

 

「そこに座って直人君」

 

ラスボス、父親の対面を勧められて、俺は都にも押し込められてソファーに座る。その隣に都が座り、しばらくしたあとで志穂さんが紅茶を四人分持って現れた。

 

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

志穂さんは鹿島父の隣に座り、厳かな会合が始まる。

 

「「……」」

 

両者睨み合ったまま、無言の時が過ぎる。

先手を取るべきか、出方を伺うべきか俺は悩む。

その間に鹿島父が口を開いた。

 

「君がうちの娘を孕ませたという会社の先輩かね?」

「……はい。藤宮直人と申します」

 

なんかすっごい怨みがましい口調に、やはり先手を取るべきだっかと後悔する。

あとは粛々と鹿島父の言葉を聞くしかないからだ。

 

「聞けば君は指導係だったそうだね。その立場を利用して近づいたということかい?」

「お父さん。その立場を利用して近づいたのは私の方だよ」

「……そうか」

 

鹿島父は都の援護に苦虫を噛み潰したような顔をする。よっぽど悔しいらしい。

 

「社会人になって間もない娘がデキ婚。単刀直入に聞こう藤宮(ゲス男)君、君は都の人生を狂わせた責任を取れるのかね」

 

鷹のような鋭い眼光で睨んでくる鹿島父に、俺は怯まず真っ直ぐ見返す。

 

「はい。–––ですからお義父さん、都さんを俺にください」

 

まさか俺がこんなコッテコテの台詞を吐くことになるとは思わず、自分で言って奇妙な余韻を噛み締める。

 

だがその瞬間、鹿島父はニッコリ笑って言った。

 

「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないッ!!」

 

まぁ、そうだろうなとは思う。俺だって相手の立場だったら同じことを言っているかもしれない。

大事な娘が婚前に孕まされるとか、俺ならブチ切れてるだろう。たぶん俺の命も今危ない。

 

「必ず幸せにしてみせます」

「そんなもの口ではなんとでも言えるだろう。世の夫婦が別れない保証などないんだ。わかるだろう?」

「それはまぁ確かに……」

 

一理あると同意したところで、右から袖を引かれた。

 

「先輩なんで丸め込まれそうになってるんですか」

「いや、だって事実だろ」

 

世の中には結婚したものの、価値観が合わず離婚したカップルが後を絶たないのだ。それを考えると俺が辿ろうとしているのは先人達の通った道なのだから、確約ができないのも当然である。

 

「……不倫騒動でお母さんと離婚しかけたお父さんが言うと説得力違うね」

 

反論する方法に困った俺の横から、都がぼそりと呟く。

すると目に見えて鹿島父は顔色を悪くした。

 

「と、とにかくおまえに娘はやらん!絶対やらん!」

 

意固地になる鹿島父だが、これで帰るわけにもいかないのだ。

実際問題孕ませてるし、都とは結婚するつもりだし。

ただどう攻略していいのかわからないので、完全に打つ手なしだ。

さすが父親、難攻不落である。

 

「いい加減にしてくださいあなた。都の幸せを潰すつもりですか?嫁ぎ先がなくなって困るのはこの子よ?」

「いや、しかしだなぁ……」

 

妻の前で弱くなる夫の姿に、俺はこの家の力関係を把握した。母親一強である。

 

「私はこういう正直な子、好きよ」

 

何が好印象を与えたのか志穂さんはこっち側。

敵はもはや父親だけである。

 

「うぐっ……」

 

絶対にやらん。絶対にやらんぞ!という意思が込められた目ではあるのだが、顔色はやや分が悪そうである。

 

もう一押しでなんとかできそう。

そう思って、畳み掛けようとした瞬間だった。

 

「ただいま」

 

玄関先から女性の声が聞こえた。

その足音が、リビングに近づいてくる。

都には姉がいると聞いていた。その姉が帰宅したらしい。

やがてその足音は、リビングの前で止まった。そして、リビングの扉が開かれる。

 

「都帰って来てるの?–––あら、お客さ……っ」

「初めまして。都さんとお付き合いさせていただいてる藤宮直人と……」

 

最後まで言い切る前に、バッグが落ちた音が響いた。

鹿島姉の手から落ちたバッグが、水面に波紋を打ったかのように静寂を生む。

そのバッグを落とした姉は、動揺したように瞳を揺らしたままこちらを見ていた。

 

「なんで……あなたが……都と、付き合ってるのって……っ。嘘よ。そんなの嘘っ!」

 

そのまま鹿島姉は反転。逃げるようにリビングを出て、階段を駆け上がって行った。

 

「……鹿島愛理?」

 

彼女の瞳には、涙が光っていた気がする。

そして、その腕には–––ボロボロのシュシュが付いていた。

 




これが書きたくて頑張ってたんだ私は。
他にも書きたい話があるけど、他の話を作る前にやりたいことやっておかないと消化不良になっちゃうからね。
TSも書きたいし、親子丼も書きたい。だけど今一番書きたいのは、√志穂なんですよね。需要あるかわかりませんけど。

√新卒都編があと数話で終わるといいなぁ。本当はここまで長くするつもりはなかったのに何故……。
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