元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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家族会議

 

 

 

夕食を終えて、車で鹿島宅へ。

そのまま家に上がり、リビングで話し合いをすることになった。

食後の珈琲を人数分淹れて、ソファーに座る。

一息ついたところで、愛理がテーブルの上に一つのUSBメモリーを置いた。

 

「さて、それじゃあ聞かせて欲しいんだけど」

 

真剣な表情で母親をまっすぐ見る愛理に、志穂さんは唇を引き結ぶ。数秒沈黙したあとで、彼女は口を開いた。

 

「……と、言われてもねぇ。夫が『妻を他の男に抱かせたい』って言ったのが事実で、それ以上に言うことはないんだけど。ね、直人君」

 

澄ました顔で珈琲を啜り、艶やかな唇を湿らせた志穂さんはUSBメモリーを見つめる。

 

「……それで、中身は見たのかしら?」

「「……うん」」

「最初から最後まで?」

「「……」」

「もう、やだ……恥ずかしい」

 

母親の痴態が詰まったビデオを全編予習済み。

その事実を受け止めて、志穂さんは羞恥で頰を染めた。

それに映っているのは、母ではなく女の顔。

醜態を見られたというのに、動揺するどころか志穂さんは達観した様子だ。

 

「聞きたいことがあるんだけど」

「なにかしら?」

「別にお父さんの言うこと聞く必要なかったわよね?嫌なら嫌って言えばよかったんだし、なんでお母さんはお父さんの無茶振りを引き受けたのかしら?」

 

娘の鋭い質問に志穂さんは真面目な顔に戻る。そして、視線だけをゆっくりと恥ずかしげに逸らした。

 

「……私だって、女なのよ。母親である前に、女なの」

「いい歳して?」

 

ダイニングチェアに腰掛けながら、スマホゲームを遊んでいた京介が母親の急所を突く。

その一言にショックを受けた志穂さんだが、すぐに気を取り直して珈琲カップをコースターに置いて、膝の上に手を置く。

 

「私だって諦めてたんだけどね。ほら、バレンタインに夫と喧嘩して出ていったでしょう。母親がいるのに、三人が寝室であんなことやこんなことをしてるから羨ましくなっちゃったのよ」

「「うっ……」」

 

原因に心当たりがあった二人は、バツが悪そうに視線を逸らす。姉妹揃って明後日の方向を見る。

 

「それに母親に媚薬なんて盛るから」

「あれは直人に盛ったのよ。勝手に食べたのはお母さんじゃない」

 

責任転嫁と言うべきか、自業自得と言うべきか。これには当事者の一人である都も容易に口を挟まなかった。

 

あまりその話を広げられても困るので、愛理は話題を逸らそうと努力する。

 

「それよりなんで直人なのよ?他にも男なんていくらでもいるでしょう?」

「直人君がよかったからよ。それ以外に理由が必要?」

 

その理由を聞いているのだ、と言わんばかりの視線を愛理が向ける。納得しない娘に志穂さんは濁そうとしたその先を口にした。

 

「直人君は知らない仲じゃないし、普段からいい子だなって思ってたの。それに愛理があんな気持ちよさそうにしてるんだもの。私もあんな風に直人君に抱かれたいって思っちゃったのよ」

「なっ……!」

 

思わぬ藪蛇に愛理が顔を真っ赤になる。

都は藪蛇をつついた姉に、「あーあ」と呆れた表情だ。

 

「お姉ちゃんって時々バカですよね」

「今のは姉貴が悪いよな」

 

元より言い争いで愛理が母親に勝ったことがないのを知っているからか、双子は揃って姉を酷評した。

 

「それに比べてお母さんは強かというか」

「追い詰められて失うもの何もない状況だから強いって可能性もあるけど」

「なるほど。それは確かに。私達に恥部を知られた以上、ある程度割り切っているんでしょう」

 

それに比べて母親の評価はよく、形勢は志穂さんに傾きつつあった。

 

俺はその様子を眺めながら、苦い珈琲を舌の上で転がす。

独特の苦味と渋味を味わったあと、すっかりぬるくなった珈琲を飲み込んだ。

 

志穂さんは未だ不敵に珈琲を飲んでいる。

そんな母親の姿を愛理は恨めしそうに睨んだ。

 

「でも、話を聞く限り“目的は達成した”でしょう。それなら今日、直人に襲い掛かったのは何なのよ?」

 

鹿島父の願いと、鹿島志穂の願い。それが無事に達成された以上、今日の出来事は辻褄が合わないと愛理が責め立てる。

 

「……そうね。そう言われると、返す言葉がないんだけど」

 

何かを考えるかのように目を閉じて、志穂さんは思慮に耽る。やがてその唇から、決定的な一言が紡がれた。

 

「……やっぱり、直人君が好きだからかしら。一人の男として」

「「なっ……!」」

 

絶句した姉妹が顔を見合わせた。それからがっくりと都が首を折る。

 

「……お父さんもバカですよね。よりによってお兄さんに大事な妻を抱かせるなんて」

「……そうよね。直人に寝盗る意思がないにしても、あんなことされたら堕ちない女はいないっていうか」

「お兄さんがする性行為って、自分が気持ちよくなるより、女の子を気持ちよくさせて喜ぶ女を堕とす交尾ですからね」

 

何故か二人だけ訳知り顔でこそこそ喋るのを、志穂さんと京介は黙って見つめる。それから京介はどうすんのこれ?と困惑した視線を投げかけてきていた。

 

「–––と、いうわけで今日、お母さんは直人君の家に泊まるからね」

 

もはや志穂さんは遠慮の欠片もなくお泊まりを宣言する。それを聞いた京介は自然体で首肯した。

 

「ん。わかった」

「いや、ダメでしょ。お母さんにはお父さんがいるのよ」

「あら、別にダメなことはないでしょ。あの人が自分で言ったんだから」

 

そう言って志穂さんは、対面のソファーから移動して俺に抱きついてくる。正面から来たせいでおっぱいが前面から押し潰され、体全体が女性特有の柔らかさに包まれる。膝には股下と太腿の感覚が伝わってきていた。

 

「今更やめろなんてどの口が言えると思う?」

 

USBメモリーの中身を見られたとあって、志穂さんは子供達の前でも積極的に絡みついてくる。

つい抱き留めてしまった手は、しっかりと彼女の腰へ回されていた。

 

「ちょっ、直人もなにがっつり抱きしめてるのよ!?」

「いや、条件反射でつい」

「とにかく離れなさいっ!」

 

強引に娘に引き剥がされると、志穂さんは元の席へ戻った。

 

「と、とにかく、またヤりたいならお父さんに許可取ってよ。不倫になっちゃうから」

「こういうのは事後承諾でいいと思うのだけど」

「そう言って、お母さんに都合が悪いからじゃない?連絡すると」

「……」

 

何か心当たりでもあるのか志穂さんは悔しげに沈黙する。そして、最後の切り札とばかりに突かれたくない弱点を突いてくる。

 

「ねぇ、直人君。女子高生はよくて人妻はダメなのかしら?」

「そう言われるとお兄さんも弱いですよね」

 

都もそれを理解していたから、難しい顔をする。

俺としても都との関係をやめろ、と言われたら困るので志穂さんの味方に傾きつつある。

そういう事情を考慮しているあたり、志穂さんは油断できない手練れだ。

 

志穂さんは翻弄される俺達を見て、楽しそうに微笑む。そして、衝撃的一言を放った。

 

「もういっそのことあの人と別れちゃおうかしら?」

「「「えっ……!?」」」

 

母親の突然の離婚宣言に、子供達は狼狽する。

 

「どうしてそうなるのよ!?」

 

一番最初に口を出せたのは、やはり年長者の愛理だった。

夫はあげないわよ、と抱きついて主張するあたり私情が見え隠れしているが両親の事だって私情だ。

双子はそんな姉の疑問の答えを耳を澄ませて待っている。スマホをタップする音ですら止んでいた。

 

そんな子供達の反応を一瞥してから、志穂さんはそっと視線を落とす。

 

「……今まで何度も夫と別れるって言ってたでしょう。あれ、割と本気よ?」

「「「……」」」

 

真剣に話す母親の声に子供達は押し黙った。

俺自身は色々と愚痴を聞いていたから不思議ではなかったが、子供達にとっては寝耳に水。

母親の様子から冗談ではないことに、今更気づいたみたいだ。

 

元々俺にこぼす愚痴は子供にも旦那にも漏らせないもので、酒に酔ってついといった感じだった。俺を頼れる男と思ったのかは別として、不満という不満をこれでもかとぶち撒けている。

 

志穂さんは子供達に内心を吐露してしまった以上、全部吐き出してしまう気になったのか、珈琲カップの中身を飲み干して口の中の苦さを飲み込む。

 

「……最初は、いつだったのかもう覚えてないわ。それくらい昔のことだし、夫婦生活って不満が溜まるものなのよ。でも、あなた達がまだ小さかったから離婚できるわけないでしょ」

 

なんでもないことのように吐露したが、その言葉は意外にも深く子供達の心に刺さったらしい。姉妹は揃って所在なさげに視線を逸らしていた。

 

「いい歳してって言うけれど、あなた達が高校生になるまではって考えるとこの年齢になっちゃったのよね」

「……っ」

「だから、私は直人君に女として扱ってもらえたのが凄く嬉しかった。別に愛理から奪うつもりはないのよ。愛理の幸せが一番だし、少しだけその幸せを分けて貰えれば」

「「……っ」」

 

的確に言葉で刺しながら強かに振る舞う母親の言葉に、次第に心動かされる子供達。

 

–––巧妙な詐欺師だなと思うのは俺だけだろうか?

 

最後のトドメとばかりに、志穂さんは言う。

 

「直人君って親子丼好きなのよね?きっと直人君にはいい親子丼をご馳走できると思うのだけど」

「「……」」

 

その言葉の意味は、俺の持つエロ同人の電子書籍の蔵書を知る二人にはしっかりと伝わった。

 

「……まぁ、いいんじゃね。離婚しても」

 

一番最初に母親の気持ちに理解を示したのは、ダイニングで話を聞いていた京介だった。

 

「ただ俺はついてくなら母さんがいいけど」

 

そこで問題になるのは親権である。

未成年の場合は、よほどのことがない限り本人の意思が尊重されるはずだ。物事の分別がつく年齢なら尚更である。

 

「まぁ、そうなると私もついてくならお母さんですね。お父さんについていくと転勤や出張についてこいとか言いかねませんし。それに私としてはお兄さんの家に住むつもりなので、お母さんについて行ったほうがいいというか」

 

打算的な考えを口にして都も賛同した。

 

「両親が離婚するのはちょっと複雑だけど、私はもう結婚してるし文句はないわよ。お母さんの好きにすればいいんじゃない?」

 

子供達は全員複雑な顔だ。未だ割り切れていないといったところだろう。だけど、母親が言うなら仕方ないと肯定的ではある。

 

そんな子供達を代表して、都が口を開いた。

 

「参考までに聞きますけど、今回離婚を決意した理由はなんですか?」

「他の男に妻を抱かせようとする男なんて信用できないもの」

 

母親の一言に、「あぁ……」と納得の顔をする子供達。

 

「確かにそれは嫌ですね。仕方ないと思います」

「言っていいことと悪いことあるわよね」

「親父が悪いわ」

 

母親大好きっ子達には理由がしっくりきたようで、複雑だった表情も納得に変わる。

 

「そうなると兄貴」

「なに?」

 

今まで傍観していた俺に、京介が話し掛けてきた。

いつもの面倒そうな表情で、しかしその瞳には打算っぽい色が見え隠れしていた。その顔を見て双子なんだなと都の小悪魔的表情を思い出す。

 

「兄貴にとっても悪くない提案があるんだけど」

「ほう、聞こうじゃないか」

「俺一人暮らししたいんだけど」

 

突拍子もない提案に、俺達は首を傾げる。

 

「なんで?」

「その方が兄貴にとっても都合がいいだろ。母さんは兄貴の家に転がり込めるし。それに目の前で四六時中いちゃいちゃされるのキツイし」

「そうね。直人君さえよければ私もそうしたいわ。老いて直人君に興味無くされる前にたくさん可愛がって欲しいもの」

「条件は家賃と光熱費、兄貴持ちで。食費とスマホ代はバイトでなんとかするし」

 

話が転がり始めると次々と問題が出てくる。既にあっちの二人は乗り気だ。

 

「……お姉ちゃん。あれを知ってしまった以上、お母さんもうお兄さん抜きじゃ生きられないと思うんですよね」

「それには同意するけれど、なんだかとても複雑なのよね」

 

はぁ……。と、特大のため息を吐く。

それからニコニコで計画する母親に釘を刺しにいく。

 

「お母さん」

「なに愛理?」

「お父さんと離婚するまで直人とするの禁止ね」

「なっ!?」

 

思わぬ展開に志穂さんは驚きに目を見開いた。そして、悲しげに愛理を見つめる。

 

「な、なんで……?」

「離婚しないと色々問題が起きるでしょう」

「そ、それなら、今から電話で夫に–––」

「大切なことは直接話しなさいよ。三ヶ月くらいでお父さん帰ってくるんでしょ。その時にお母さんの気持ちが変わってないんだったら私も諦めるわよ」

 

愛理のぐうの音も出ない主張に志穂さんは涙目だ。

こっちにやってきて、縋るように娘に抱きつく。

 

「そんなの酷いわ。もうずっと我慢してるのよ?こんなところでお預けされたらおかしくなっちゃう」

「……お姉ちゃん。覚えたてが一番キツイですし、今日くらい大目に見ては?」

 

あまりにも必死な姿にドン引きで、都が母親を擁護する。こんな姿にした張本人としてはコメントに困る。

 

あまりにも酷い母親の醜態に、愛理もドン引きだ。

ただ母親のこの姿に覚えがあるのか、愛理は頭痛がするのかこめかみを押さえる。

 

「……今日だけ、直人と一緒にお風呂に入るの許してあげる。そこで“何が起こっても私達は知らない”から」

 

娘の独り言を聞いて、志穂さんは枯れた花が水を吸ったかのように妖艶な花を咲かせた。

 

「……これもう返品不可能じゃないですか。お兄さん責任とってくださいね?」

「ちゃんと返したつもりだったんだけどなぁ」

 

それは無理があるんじゃないかと、三人分の視線が俺に突き刺さっていた。

 

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