新居での生活も数回を迎えた朝。
ベッドの上には幸せな光景が広がっていた。
左隣には裸の妻。右隣には裸の義妹。
二人は白いシーツに包まれてぐっすりと眠っており、規則正しい呼吸音と共に胸が上下していた。
「何度見てもすごい光景だな……」
妻だけでは飽き足らず、義妹とも体の関係を持っている。
昨日も三人で夜の営みを楽しみ、つい朝日が昇るまで堪能してしまった。
改めて考えると、凄いことだ。
普通こんな不貞を妻が許してくれることはない。
惚れた弱み故か、愛理は実の妹ですらも俺に差し出した。
–––否、利用したというべきだろうか。
都が俺に好意を持っているのも事実で、利害の一致というのが一番正しい表現だろうか。共有ともいうかもしれないが。
「寝てるところを悪戯してやりたいところなんだけどな」
キッチンの方からは物音が聞こえる。
もう一人の仮住人が起きているのだろう。
「さて、と」
そっちを一人きりにして昨夜は楽しんだため、少々放置気味もまずいかとベッドを抜け出す。
パンツにハーフパンツ、Tシャツを身につけて寝室を出た。
すると廊下にはいい香りが漂ってきており、キッチンに近づけば近づくほど匂いが強くなっていった。
リビングのドアを開けると、キッチンにエプロン姿の志穂さんの姿があった。彼女は俺に気がつくと嬉しそうに微笑む。
「おはよう直人君」
「おはようございます。志穂さん」
人妻のはずなのに、何故か志穂さんは俺の妻であるかのように振る舞う。その笑顔は娘の夫に向ける顔ではなく、愛する者へ向ける愛情が込められていた。
「待っててね。もうすぐ朝ごはんできるから」
パチパチと弾ける油の音が止まる。
手早く料理を皿に盛り付けると、そのまま皿をダイニングへ運ぶ。テーブルに白米と味噌汁、白菜の漬物、ソーセージ、卵焼きが並べられた。
二人分の朝食の準備を済ませると、志穂さんは隣に並ぶ。
エプロンを外した彼女はキャミソール一枚に、パンツ一枚という普段やらないような格好をしていた。
おまけに椅子も近づけて、触れ合うような位置に座る。
彼女の日々熾烈になるアピールの完成形がこれだ。セックスがダメなら献身的介護で女として見てもらおうというものだ。
「今日も美味しそうですね」
「最近よく寝坊する二人に代わってこれくらいしないとね」
言外に「昨夜は私を放置して娘達とお楽しみでしたね」という鋭いツッコミを俺は華麗にスルーする。
喉の渇きを潤すために、最初に味噌汁を手に取り啜ってみた。赤味噌の濃い味が疲れた体に染み渡る気がする。
「どう、美味しいかしら?」
「はい。それはもう」
ソーセージの焼き加減も、だし巻き卵のとろとろ具合も、白菜の漬物も全部完璧だ。これがほぼ毎日食べられるのは本当に贅沢なことだと思う。
「はい、あーん」
「–––もぐ。もぐもぐ、ごくん」
おまけにこんな美女から食べさせてもらえるのだ。美味しさは何倍にも膨れ上がる。
「ふふ、こういう特権も悪くないわね。私としてはこっちを食べてほしいところだけど」
キャミソールをわざとずらして、胸元をちらりと見せてくる志穂さんの悪戯っぽい笑みは妖艶で、男の情欲を誘うには十分な破壊力を秘めていた。
「……まぁ、それももう少しの辛抱ね」
やがて朝食を完食する。空になった皿は志穂さんがまとめてシンクに持っていった。
我が家の朝はいつの間にか新しいルールが作られ、一番最後に食べた人が洗うという謎の暗黙の了解が出来上がっている。
そのまま志穂さんは温かい珈琲を淹れて、ダイニングへと戻ってきた。
朝食のあとはリビングのソファーで一緒に過ごすことが日課となっており、俺は志穂さんと一緒にリビングのソファーへ移動する。そこで珈琲に口をつけながら、軽いスキンシップを繰り返す。
「んっ……」
志穂さんの腰を抱き寄せて、そのまま腰のくびれを掌で堪能する。キャミソールの下に指を這わせて、無意識にもさわさわと弄ってしまう。
「……もう、擽ったいわよ」
志穂さんは満更でもない様子でじゃれついてくる。俺の肩に額を押し付けるように擦り付けては、甘えるような顔をした。
すべすべの肌があまりにも気持ちよくて今度は剥き出しの太腿へ、閉じられた太腿の間に指をすっぽりと突っ込んだ。
「もう、だーめ。それ以上されたら我慢できなくなっちゃうわ。ただでさえ連日娘達との仲の良さを見せつけられてるのに。……それとも直人君は、最後まで私を楽しませてくれるのかしら?」
期待を込めた表情で見上げてくる視線。残念だが、その期待に応えたくとも応えられないのが現状のもどかしさを生み出している。
「俺も本音で言うと志穂さんとやりたいんですけどね」
「あら、昨日は娘達とあんなにしたのに物足りないの?」
「それはそれ、これはこれですよ。肉だって、鳥肉、豚肉、牛肉、いろいろあるじゃないですか」
「……それじゃあ私は食べ物に例えると何かしら?」
「極上のA5ランクの肉ですかね。本来なら手を出すのも憚られるタイプの高級品です」
人妻というとんでもないスパイス付き。それが余計に彼女を魅力的にさせている。
「……本当にお義父さんは何考えてんだか」
「そう言って私との逢瀬を楽しんでたのはどこのどなたかしら?」
「それは志穂さんもでしょう」
お互い様だと言い合いながら戯れる。あの日からより親密になった関係は、終わるどころか日を追うごとに熱を増す。
心は触れ合う距離にあるのに、手を出せないもどかしさが余計に愛情を増幅させた。
今も盛んなスキンシップをしながら恋人のような時間を味わっている。彼女のたわわに熟したおっぱいに触れてもお咎めなしだ。
「……ほっぺにちゅーくらいはいいわよね?」
志穂さんは独り言をこぼして、許可を得るまでもなく頰に口付けをしてくる。
そのまま視線が首に下りたところで赤い痕が見つかってしまう。まるで蚊に刺されたかのような痕を見て、彼女は激しい対抗心をその瞳に燃やした。
「んっ」
これは自分の所有物だと示すかのように首筋にキスをして、マーキングを施す。
–––ピロン♪
二つ目をつけている最中、ソファーで音が鳴った。
その音に現実に引き戻された志穂さんは、手早くスマホを引き寄せた。
「夫ね。……あら♪」
そして、画面を見た瞬間、嬉しそうに頬を緩める。
この瞬間を待ち侘びたと言わんばかりの表情で、それがどうにも心に引っ掛かった。
「……どうしたんですか?」
「夫がお盆中に帰ってくるって」
「それで嬉しそうに画面を見てたんですか?」
醜い嫉妬心が浮かんでしまう。だけど、どうにもその顔は“妻”や“女”の顔とは言い難い。
「ふふ、違うわよ。これでようやく我慢しなくていいんだと思うと嬉しくて。離婚するのは確定だから安心して」
「それはそれで旦那さんが可哀想な気もしますけど……」
「あら、直人君は人妻の私の方が好み?」
「そういう意味じゃないです」
「これは私の幸せを掴むための離婚なの。だからこれは、あの人を不幸にするためのものではないわ。それどころかあの人私のことはどうでもいいのよ。あの人が大切にしてるのは、あの娘達の“母親”である私なの」
未練などなさそうな志穂さんの毅然とした態度には、確固たる意思があることを示している。
「ねぇ、直人君。今更捨てるなんて言われたら泣いちゃうわよ?私を女にした責任は取ってもらうからね」
–––泣きたいのは旦那さんじゃないかな、とは口に出せなかった。