元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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HAPPY BAD END

 

 

 

一週間と経たずに盆休みがやってきた。

大人達の待ち侘びた夏季休暇が始まり、労働という地獄から一時的に解放される。

今日は鹿島宅で最後のパーティーをするということで、俺と鹿島姉妹は揃って顔を出していた。

鹿島父–––義父も今日帰ってくるらしい。

いつ離婚を切り出すのかは知らないが、事前に聞いている俺達は気が気じゃない。離婚を突きつける志穂さんが緊張している様子もないどころか、いつも通りの姿に脳がバグる。

 

「……いつも通りだよな?」

 

あまりにも自然体で過ごす志穂さんの姿に、あれは夢だったのでは?と思い始めたが、既に終わっている荷造りのことを考えると冗談でもドッキリでもないのだ。

 

「いつも通りですね。怖いくらいに。まぁ、お母さんって我慢強いし顔に出さないのでそういうところ母親らしいってことなんでしょうね」

 

キッチンに一人で立つ母親の姿を見ながら、都が個人的な見解を述べた。

今日は最後の日ということで、志穂さんが夫に最後の手料理を振る舞うという名目のもとキッチンを追い出されている。

当然愛理もノータッチで、一緒にソファーに座りながら慣れ親しんだ我が家で寛いでいた。

 

「問題はお父さんがどう出るかよね」

「泣いて縋るんじゃないですか。いつも通りに」

「でも、今回お母さん本気じゃない」

「そうですね。逆転の一手でも用意しておかないと、今度こそ離婚ですよね」

 

おまけに子供達は母親派。父親の擁護をする人間は誰もいない。完全な孤立無援状態である。

 

しばらく志穂さんを三人で眺めていると、家の前に一台のタクシーが止まる。そこから痩躯の男が一人降車して、タクシーは走り去っていった。

 

「どうやら帰ってきたみたいですよ」

 

実況めいた呟きに続いて、玄関のドアが開く。

その音に続いて、「ただいま」という声が家の中に響いた。

足音が近づき、リビングに入ってくる。

最初にキッチンを見て、妻の姿を確認したかと思うとリビングに愛娘の姿を見つけて顔を綻ばせた。

 

「やぁ、我が愛しの娘達。元気だったかい?」

「「お父さん、おかえり」」

 

熱烈な父の声に反して、娘二人は冷めた対応をする。

むしろ私達より妻の方に先に声を掛けろよ、と言わんばかりの視線が突き刺さる。

 

「……志穂、ただいま」

 

どこかぎこちない様子で妻に声を掛けるお義父さんの姿に、俺も姉妹も揃って首を傾げる。

 

「おかえり、あなた。もうすぐご飯できるから待っててね」

「あぁ、うん。それと直人君もいらっしゃい」

「おじゃましてます。お勤めご苦労様です」

「それだと私がどこかの暴力団の組員みたいじゃないか」

「出所してきたんですか?」

「娘達と同じ空気を吸うのは美味いって返すべきかな」

「まだシャバの空気は美味いって方が良かったと思います。変態みたいなので」

 

同じ空気どころか直に交換をしている俺としては、反応に困るボケだった。

 

俺とお義父さんがバカなやりとりをしている間に、ダイニングテーブルには料理が並んでいく。

 

「都、愛理、手伝って」

「「はーい」」

 

あとは料理を並べるだけなのか姉妹は母親に呼ばれる。

示し合わせたわけでもなく、息ぴったりに三人は夕食の準備を進めていった。

 

「お兄さんこっちにどうぞ」

「おう」

 

都に呼ばれて、ダイニングへ。

横並びに三つ椅子があり、俺はその真ん中へ誘導された。

両脇を姉妹が固めるつもりなのだろう。

配膳を終えた愛理と都が、残りのニ席を埋めた。

反対側には夫妻と京介が座り、全員が揃ったところで志穂さんは言う。

 

「それじゃあ食べましょうか」

 

そして、夕食会は始まった。

今日の献立は鹿島父の好物らしく和食を中心としたメニューが並んでいる。

筑前煮は時間を掛けて作っただけあって味がしっかり染みており、その美味さに箸が止まらなかった。

ただ何故か空気が最後の晩餐かと思うくらいに重い。

原因は鹿島父だ。いつも明るい鹿島父が娘にだる絡みすることもなく黙々と食事をしているのだ。それも妻や俺の様子を伺うように。

 

そうなるようにわざと関係を匂わせる電話をした志穂さんの思惑に嵌り、マッサージ中の電話の効果が出ているようである。俺と志穂さんがその後も関係を続けているのではと疑っているらしい。当たらずも遠からずだ。

 

「……直人君、妻とは仲良くしているかい?」

 

俺の妻か、彼の妻か。普段のお義父さんなら“俺の妻”は“娘”と呼ぶ。早々に切り込んできた質問に俺はどう答えるべきか迷ってしまう。

 

「えぇ、仲良くしてますよ」

 

迷った結果、当たり障りのない言葉で濁す。

どっちとだって仲は良いし、嘘にはならない。

 

「そうか……。それはよかった」

 

彼の期待した答えは得られなかったようで、お義父さんは気難しい顔をしたまま味噌汁を飲む。

 

「……」

 

一見して和やかな食事会は小さな漣を起こして、ゆっくりと終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

「ねぇ、あなた。話があるんだけど」

 

ついにきた。

子供達が蜘蛛の子を散らすようにダイニングから逃げていく。

リビングのソファーをバリケードに見立てて、ダイニングの様子を三人で窺う。

 

予定調和の如く始まった話し合いに、俺も遅れてソファーへとこっそり移動した。

 

「どうしたんだい改まって?」

 

妻のいつになく本気の姿に気圧されて、鹿島父は緊張の色を顔に映す。だけどそれは、テーブルの上に置かれた一枚の紙切れとその上に置かれた結婚指輪によって驚愕に染まる。

 

「なっ……!」

「離婚しましょう」

 

未練の欠片もない志穂さんの言葉に椅子を弾き出すように勢いよく立ち上がった鹿島父は、妻を見て本気であることを悟った。

予想外の出来事に処理し切れないのかテーブルに手をつきながら、ぶつぶつと何事かを唱える。

沈痛な面持ちをそのままに今突きつけられた現実を理解した彼は、ゆっくりと腰を下ろしながら口を開く。

 

「…………何故なんだ?」

「そうね。理由は色々とあるけど。……一番の理由は夫婦生活をこのまま維持することが困難だからかしら」

「わ、私達は上手くやっていただろう!?」

「ええ、そうね。……表向きは」

「……表向きは?」

「あなたの望んだ家庭を作って、あなたを支えてきた。理想的な夫婦を描いたままにそれを忠実に再現した。全部あなたの理想通りに」

 

ダイニングにある志穂さんの背中が小さく見えた。その背中が一瞬だけ寂しそうに見えて、つい視線が引き寄せられる。

 

「確かにそれは私の理想に近かったわ」

「それだったら何故–––」

「夫婦生活が何で成り立つのか知ってる?」

「それは、愛、とか」

「ええ、そうね。それと少しの妥協よ。いくら夫婦でも意見が全部一致するわけじゃない。どちらかが妥協するのも必要なのよ」

 

寂しそうに笑う志穂さんの顔は翳る。

 

「不満があるなら言ってくれたらよかったじゃないか」

「言ったわよ。それでも直さなかったのはあなたよ。京介のことだってそう。都といつも比べて平等に扱わないじゃない。それであの子がどれだけ傷ついたと思って–––」

 

ついに愚痴が口先から溢れ始めた瞬間、京介が耳を塞いだ。

 

「なにしてんのおまえ?」

「目の前で陰口叩かれてるみたいでむず痒いんだよ」

「あぁ、確かに。気にされるのもなんか嫌だよな」

 

一言ごとにヒートアップしていく愚痴は三十分続き、ついに夫婦生活の根本へと至る。

 

「–––抱いてくれないし、セックス下手だし、そもそもあなたの粗品で一度だってイッたことないわよ!」

 

性欲強めの愚痴を吐き出したところで、ついに言いたいことも尽きたのか志穂さんは荒い呼吸をしながら肩を上下させる。

一方で三十分にも及ぶ愚痴を聞いた夫の方は、聞いたこともないような妻の不満を受けて呆然としていた。

 

「……自信も尊厳もボロボロだな。それにしてはたいして効いてないような気もするけど」

「あのビデオ見たあとですからね」

「……」

 

例のビデオとやらに一瞬だけ京介も興味を示したが、母親がヤるところなんて死んでも見たくないと自制したようで、結局は何も言わなかった。

 

「……とにかく、私はもうあなたとは一緒にはいられないの。これ以上時間を無駄にしたくない。私は私の幸せのために生きたいの」

 

ペンがテーブルに置かれる。

離婚届は志穂さんだけ記入済みで、あとは鹿島父の署名だけだ。そして、役所に提出すれば二人は晴れて?他人になる。

鹿島父はずっと下を向いたままで、何も言い返さない。外された結婚指輪を見つめているだけだ。

 

「……考え直してくれないか?」

「もう何度も考え直したわよ。子供達が大きくなるまでは……そう思って、何度も。これ以上私は自分の人生を浪費したくないの」

 

もう夫に愛などないと言わんばかりで、強硬な態度を示す志穂さんは冷たく言い放った。

 

どう言い繕っても妻を引き止める方法が思い浮かばず、鹿島父は助けを求めるかのように子供達の方を見た。

 

「……ちょっと複雑だけど、私は文句ないわよ」

「私達のわがままで引き止めるわけにもいきませんしね。というか今回に至っては、お父さんが全面的に悪いと思いますし」

 

そう言って都はソファーから立ち上がり、ダイニングへ行くとテーブルの上に一本のUSBメモリーを置いた。

 

「そ、それは……」

「“私達のお母さんをどこの馬の骨とも知れない男に抱かせようとした”。この罪は重いですよ」

「え、あ……」

「まぁ、お兄さんだからよかったものの。……いえ、むしろお姉ちゃんを知り尽くしたお兄さんに抱かせるなんてこうなった原因の一つでもあるんですけど」

「どちらにしろ、あの人にそう提案された時点で愛想尽きてたわよ」

 

既に企みも娘達にバレたとあって、鹿島父は顔を青くさせてしまう。

 

「ち、ちがっ、直人君はダメだって私は反対したんだっ」

「別に直人がダメってわけじゃないわよ。私達は“お母さんを他人に抱かせたこと”に怒ってるの。お母さんはお父さんの妻である前に、私達の母親なのよ」

 

パニックになった鹿島父は支離滅裂で、何か言い繕おうとしたがさらにとんでもないことを言い出す。

 

「わ、わかった。直人君とはどんな関係になってもいいから離婚だけはやめてくれ」

「「「うわぁ……」」」

 

意味のわからないことを言い出した父親に呆れる子供達三人の声が揃った。

 

「直人君が人妻好きなら……って言いたいところだけど、今更あなたとの婚姻関係を続けるのは嫌よ」

 

取りつく島もないとはこのことで、志穂さんは拒む。

 

「よかったじゃない。あなたの望み通り寝取られて」

「そ、それは……」

「あなたの望み通り私は直人君に抱かれた。彼がいないと生きられない体になったし、もう少しも離れたくないの。ビデオを見たあなたならわかるでしょう?」

「そ、それでもいいから–––」

「親権を渡すって言ったら、どうする?」

 

志穂さんの一言に、なにそれ聞いてないと双子が反応する。

ぎょっと目を見開いて、両親を見た。

 

「……」

「ほらね、あなたが愛してるのは娘達だけ。あの子達はもう高校生よ。選ぶ権利があるわ」

「お、おまえのことだって愛して–––」

「嘘よ。あなたが愛してるのは“あの子達の母親という立場”だけ。さようなら、あなた。元気でね」

 

そう言い残して、志穂さんは家を出て行った。

 

「……お兄さん」

「なんだ?」

「……帰ったらお望み通りお母さんにお仕置きしてあげてくださいね。泣きが入るまで」

「容赦ねぇな」

 

笑顔で怖いことを言う都の瞳は、全然笑っていなかった。

 

 

 

 

 

 

–––あれから約半年。

 

離婚は無事に成立した。長女夫婦の家に転がり込んできた志穂さんは、すっかり我が家に馴染みつつある。

多少性的な暴走癖があり娘達に怒られることも度々あるが、母親の尊厳をかなぐり捨てた彼女には効かなかった。

 

「おかえりなさい直人君。愛理にする?都にする?それとも、わ・た・し?」

「ごはんで」

 

家に帰ると出迎えてくれる志穂さんは、度々こう言っては困らせてくる。

最初は彼女の挑発に乗って悪戯を敢行したものの、夕食前に悪戯をすると愛理に怒られるので自重一択だ。

 

「もう、直人君の意地悪」

 

拗ねた様子で踵を返した志穂さんは、先にリビングへと戻る。

そのあとを追って、俺もリビングへと急いだ。

 

「おかえり直人」

「おかえりお兄さん」

 

キッチンでは姉妹揃って料理をしていて、出汁と卵と鶏肉のいい匂いがふんわりと香っていた。

 

「ただいま」

「もうすぐできるから座って待ってて」

「あいよ」

 

そう言っている間にも、志穂さんが漬物の小鉢を持ってくる。他にも里芋入りの豚汁、ピーマンの肉詰め、椎茸の肉詰め、ポテトサラダが入った皿が置かれた。

 

「メインはこれです」

 

ほどなくして大きな丼が四つ運ばれてくる。

テーブルに置かれた丼の中には、美しい黄色と出汁の中に小さな鶏肉がいくつも浮かんでいた。

 

「親子丼だ」

「はい。それだけではお兄さんは物足りないと思うので肉詰めも完備です」

「おかわりもあるからたくさん食べてね、直人」

 

ダイニングテーブルに四人揃ってつく。

こうしていつもの和やかな夕食が始まった。

 

「あったけぇ」

 

まずは里芋入りの豚汁で冷えた体を温めて、メインの親子丼に手を伸ばす。親子丼の餡は鶏肉はしっとり、卵はとろとろであまりの美味しさに頰が蕩けそうであった。

 

「直人君美味しい?」

「はい。それはもう」

「ふふ、よかった」

 

すっかりメスの顔–––もとい女の顔で志穂さんは微笑み、愛しそうに見つめてくる。

 

「……すっかりお母さんもこの家に馴染みましたね」

 

そんな母親の様子を見て、慣れた姉妹は完璧なスルーを決め込んでいた。動画で母親の尊厳は既に失墜しており、度重なる痴態を披露したことでその関係と距離感はさらに近くなっている。

謂わば女友達とも呼ぶべき距離感で、幸か不幸か母娘の垣根がなくなっていたのだ。

 

もはや志穂さんが俺に甘えるのが当たり前になりつつある我が家では、母親の仮面をしなくなった彼女は自由に生きている。

 

ただそのあまりの自由さに振り回されつつあるが、姉妹は揃って新しい関係に慣れつつあった。

 

「半年もあったら馴染むだろ」

「半年っていうか、もう初日からフルスロットルでしたけどね」

「離婚突きつけたその日に手を出したものね」

 

鹿島父–––元夫に離婚届を突きつけたあの日、その夜から志穂さんとの関係は深くなった。

既に度重なるマッサージ(都曰くエッチなマッサージ)により、限界を迎えた志穂さんに襲われたのである。

後顧の憂いも断ち切ったとあって、首輪の千切れた彼女はそれはもうたまりに溜まった性欲をぶつけてきたのだ。

 

その日から狂ったように発情する母親を見て、姉妹は揃って発情期と揶揄した。

 

–––そして、それは今も続いている。

 

暇さえあれば構ってアピールする志穂さんは、娘達の前で恥も外聞も気にした様子もない。初日のうちに痴態を晒しまくったせいもあるのだろう。ブレーキは完全に壊れていた。

 

「そういえばその離婚したお父さんのことですけど」

 

都が思い出したかのように話題に出すと、志穂さんはすんと真顔になる。その名前は口に出すなと言わんばかりだ。

それでも都は無視をして、話を続けた。

 

「再婚したらしいですよ」

「……随分早いな」

「元々お父さんモテますからね。地元に帰った時に再会した十歳下の幼馴染と結婚したとかで、もう子供もできたそうですよ」

「……EDじゃなかったっけ?」

「お母さん寝取られて性癖と一緒にEDも治ったんじゃないですかね」

「そんな簡単に治るなら医者いらねぇんだよ」

「ですよね。おかげで毎日来ていたおやすみ電話がなくなってスッキリです」

 

鹿島父のことは心配ではあったものの、そういう報告を聞けば俺の心労も軽くなるというものだ。ある意味引き裂いた張本人とも言えなくもないので。

 

「あの人ゴキブリ並みにしぶといから。ほら、すぐに立ち直ったでしょう?」

「でも、十歳も歳下とか本当に凄いな」

「十歳下の女子高生と親子ほど歳の離れた女性と関係を持ってる男が何か言ってるわね」

 

愛理にジト目で刺されて、俺は聞こえなかったふりをして豚汁を啜る。全部皿を空にすると都が気づいた。

 

「お兄さん、親子丼おかわりありますよ」

「それじゃあ貰おうかな」

「はい、それじゃあ承りました」

 

愛理と志穂さんが揃って立ち上がる。

俺の両脇を固めて、強引に立ち上がらせた。

 

「それじゃあ奥の部屋にご案内♪」

 

そのまま寝室へと連行される。

ベッドに半ば強制的に押し倒されて、三人が迫ってきた。

 

「それじゃあたっぷり味わって食べてね。親子丼♪」

 

二杯目の親子丼は、一杯目より甘く蕩ける味がした。

 




ようやくNTR√志穂が終わったので次回からはメイドさん√でもやろうかなと思います。
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