元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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√冬海雪菜
冬海雪菜との出会い


 

 

 

高校卒業から約一年の時が経った。

大学生活も二年目となり、一月が経過している。

五月になるというのに新入部員獲得に各サークルは勧誘合戦を継続しており、今も新入生の一部が何枚ものビラを押し付けられていた。

 

そんな五月のある日、午前の講義が終わったところで同じ講義を受けていた友人が声を掛けてきた。

 

「藤宮、こんな噂を知ってるか?」

 

よく講義が被るせいかすっかり顔馴染みになった学友、遠坂俊介は俺が小さく反応を返したのを見て話を続ける。

 

「今年の新入生にすっげぇ美人がいるんだってよ」

 

自身もイケメンと評判の遠坂氏は、興奮した様子を隠さずに騒ぎ立てた。

 

「へぇ……」

「へぇ、って相変わらず女に興味がないな。せっかくの大学生活なんだから、彼女の一人や二人作らないと損だぞ」

 

俺の冷めた態度にも気分を害することなく、遠坂は訳知り顔で頷く。

 

「まぁ、今に始まった話でもないけどよ」

 

まったく興味のなさそうな俺に対して、「はぁ」と小さくため息を吐く。俺は仕方なく話の続きを促すことにした。

 

「で、美人がどうしたって?」

「おう、それがさ今年の新入生にマジ美人がいるんだよ。人呼んで“薄氷の白雪姫”」

「……薄氷の白雪姫?」

 

また厨二っぽいネーミングをつけられたものである。本人は迷惑しているだろうなぁ、とは他人事だから出る感想だ。

 

「話によると入学してから約一ヶ月、告白してきた男をバッサリ切ってるらしい。その被害者はなんともう十人になるとか。しかも、サッカー部の主将とか、野球部のエースとか、全員ばっさりだぜ」

「入学してから一ヶ月で十人って、また凄い数だな」

「だろう。ついその噂が気になって、俺も見に行ったわけよ」

 

既に友人はその身姿を確認しに行ったらしく、思い出すかのように彼は語る。

 

「……あれはやばかった。マジで美人」

 

腕を組み、瞼を閉じる遠坂は噂の白雪姫とやらの容姿を脳裏に思い描いているようだった。

 

「ふ〜ん。そう」

 

自他共に認めるイケメンの遠坂が話題に出すほどの美人。

その噂の女性が気にならないわけではないが、俺にとってはどうでもいいことだった。

高嶺の花に元より興味はない。手を伸ばしても届かない存在に手を伸ばすことが、どれだけ愚かなことか俺は知っている。並いるイケメンがダメなら、俺はもっとダメだろう。

 

「話は終わったか?」

「ところがどっこいまだ話は終わってないんだよなぁ」

「……なんだよ?」

 

急に身を寄せてくる遠坂が、ひそひそと内緒話をするかのように手を立てる。さっきよりも半分ほどの声量でこう告げた。

 

「実は、その白雪姫と合コンする約束を取り付けた」

「ふ〜ん、そう」

 

自慢話も終わったようで、俺は席から立ち上がる。

 

「待て待て待て待て、なに帰ろうとしてんだよ?」

「いや、話終わったろ」

「終わってねぇよ。今本題に入ったとこじゃん!」

 

興奮気味に叫ぶ遠坂に反応して、周りの学生達から視線が集まったが、彼はなんでもないとジェスチャーをすると学生達は各々の作業に戻った。

 

「相手は三人、こっちも男を三人用意しないといけない。そこでおまえにもチャンスをやろうと–––」

「パスで」

 

今度こそ食堂にでも移動しようと立ち上がると、腕をがっしりと掴んで止められる。

 

「いやいやいや、おまえも数ヶ月前に彼女と別れたばかりだろ。これを機に新しい出逢いとかいいんじゃないか?」

「余計なお世話だ。で、本音は?」

「……ははは、さすが我が友。話が早い」

「うるせぇ。早く要件を言え」

 

俺が不機嫌そうに睨み返すと、遠坂はさっきまでのおちゃらけた雰囲気を消して、真面目な顔になった。

 

「白雪姫ちゃんを狙う男って多いんだよ。その点、おまえはその心配がないじゃん。だから数合わせに参加してくれないかなって」

「相手もそれなりの容姿のやつ期待してるんじゃないか?」

「だからおまえ呼んでんだよ。顔はちょっと目つき悪いけど、話してみるといいやつだしな。学食三日分でどうだ?」

「……わかったよ。つーか、俺がその白雪姫とやらに本気で惚れたらどうすんだ?」

「おまえ基本ヘタレじゃん。少なくともおまえから動くことはないだろ。それだけで十分だよ」

 

“噂”とやらを知った以上、その白雪姫とやらが気になってきた。

せっかくの機会だから顔くらい拝んでやろうかと、俺は少しだけその気になった。

 

「で、いつ?」

「今日の夕方」

 

 

 

 

 

 

大学での講義が終わり、約束の夕方になった。

待ち合わせ場所の大学最寄駅前に行くと、昼とは違う格好をした–––五割り増しお洒落した男二人がいた。

 

「いや、気合い入れすぎだろ……」

 

普段のパーカー、ジーンズ姿の俺からすれば一人だけ場違いである。ある意味狙い通りではあるのだろうが。

 

「お、きたな。おーい、こっちこっち」

 

遠坂は目敏く俺を見つけて、手を大きく振った。

待たせているようなので少し足早に移動して二人と合流した。

 

「取り敢えず、知らないだろうから軽く自己紹介するな。こいつは千堂」

「……よろしく」

 

随分と寡黙な奴を連れてきたようである。もしかしたら俺と馴れ合うつもりはないだけかもしれないが。

 

「こいつが藤宮だ」

「……よろしく」

「普段からそうなんだよ。おまえら気が合うかもな」

「やめろよ。試しに二人にするなよ。友達の友達と二人きりになった微妙な空間が形成されるから」

「安心しろよ、千堂はおまえより喋るから」

 

千堂も例に違わずイケメンで、俺は胃が重たくなった。

 

「……なぁ、やっぱ俺、場違いじゃね?」

「おまえも十分顔はいいと思うけどな。目つき悪いけど」

 

俺の顔の話をするやつは大概「目つき悪いけど」が語尾になりつつある。それはいいのだが、女性達の期待だと俊介のイケメンの友達がくる想定だろう。そう考えると本当に気が重い。

 

「……もうやだ、俺なんで安請け合いしたんだろう」

 

そもそもこいつだってばっさり振られる可能性はゼロではないのだ。俺が参加するかしないかは別にしても。

 

「それより時間だから行くぞ。もうあっちはついてるって」

 

男三人揃ったところで駅前から移動して近くの飲食店街へ。

先導する遠坂は一件の居酒屋の前で立ち止まった。

 

「ここって居酒屋?」

「どこに行くと思ったんだ?」

「お洒落なフレンチレストランとか」

「そこまで気合い入れてたらドン引きされるだろ」

 

そう言うおまえ服装気合い入りすぎじゃね?とは、流石に言う気も失せた。

 

「よし、いくぞ」

 

掛け声は誰に向けて言ったのか。

気合いの入った一声の後、彼は暖簾を掻き分けて居酒屋へと足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませ–––っ、何名様で?」

 

居酒屋で働いていた女性店員が、一瞬だけ遠坂に見惚れた。しかし、すぐに業務を思い出すと人数の確認をする。

 

「六名で予約して、先に三人の女性が来ているはずなんですが……」

「座敷席のご予約ですね。こちらへどうぞ」

 

そういった対応にも慣れているのか、女性店員は事情を察してすぐさま案内へと移る。狭い通路を移動して角を曲がり、奥の一角へと通された。

 

「こちらです。では、ごゆっくりどうぞ」

 

去っていく店員を見送ってから、遠坂は戸をノックした。

 

「遠坂だ」

「どうぞ」

 

中から返事がかえってきて遠坂が襖を開ける。

すると奥の席には、三人の美女が揃って座っていた。

 

その中でも特に目を引くのが、端に座っている黒髪とアズライトの瞳の女性。ただ座っているだけなのに姿勢が綺麗すぎるせいで、異質なほどの存在感を放っていた。

 

彼女の姿を一目見た瞬間、俺は理解した。

誰も彼もが告白して、玉砕した理由を。

触れるのを躊躇うほどの綺麗な花。しかし、こんな綺麗な花を手折るのは自分でありたいと思わせてしまうほどの魅力が彼女にはあったのだ。

 

「取り敢えず座って。飲み物頼もっか」

 

真ん中にいた黒に近い深緑の髪色の巨乳美人に着席を促されて、俺達は入ってきた順番に腰を下ろす。

主催の一人である遠坂が真ん中で、その奥に千堂が座った。俺は奇しくも噂の白雪姫様の正面だ。

 

「じゃあ、まずは私達から。春咲恵です。県内の女子校から来ました。気軽にメグって呼んでください。あ、ちなみに彼氏募集中で〜す♪」

 

あまりにも天真爛漫というか、軽い感じで絡んでくる彼女があちら側の主催なのだろう。彼女は自己紹介をしてすぐに隣の黒髪の女性の肩を叩く。

 

「ほら、雪の番だよ」

「……今年から先輩達と同じ大学に通うことになりました。冬海雪菜です。よろしくお願いします」

 

無表情で淡々と自己紹介をする彼女の口調からは、嫌々という感情が伝わってくる。その理由はすぐにわかった。

 

「実は雪は幼馴染で、一緒のバイト先で働いてるの。だから、今日は無理言って来てもらったんだ」

 

どうやら彼女も押し切られた人間側らしいのだ。

それでも嫌な顔を一切見せないあたり、彼女は随分と真面目で優しい性格のようだ。

 

 

 

自己紹介が一通り終わったところで、飲み物と適当な料理を注文した。居酒屋おすすめの焼き鳥、だし巻き玉子、唐揚げ等の摘める料理を中心に十品ほどだ。

 

既に三十分ほどが経過したが、遠坂は果敢にも白雪姫攻略を繰り返したが、当人の素っ気無い返答で何度も返り討ちに遭っている。さっきは連絡先を聞いて断られていた。

 

俺はその様子をBGMにしながらガッツリ飯を食べており、今は焼き鳥を頬張っている最中である。

二本目のねぎま串に齧り付いていると、正面から凝視するような視線を感じた。

 

「……」

「……冬海さんも食べる?」

「いえ、結構です」

 

焼き鳥が欲しいから見ているのかと思えば、そうでもないらしい。「ダイエット」って言葉を出すと「デリカシーがない」とか言われそうなので自重した。

 

「もぐもぐもくもぐ……」

「……」

 

その後もなんだかよくわからない視線を浴びせられて、俺は妙に居心地の悪い気分を味わっていた。まだ無視されていた方がマシだった。

 

もしかしたら俺が何かやったのかもしれない。自覚はないがそういうこともあるかもしれない。俺としては直接言ってくれた方が助かるのだが、相手には全然そんな気配がない。

 

「……なに?」

「いえ、ちょっと知り合いに似ていた気がしたので」

 

–––そう言った彼女の頰が一瞬だけ、僅かに緩んだような気がした。

 

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