元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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妹ちゃん視点の話。


鹿島都の帰宅

 

 

 

「ただいまー」

 

帰宅した私を出迎えたのは、リビングから漏れる明かりだけ。

いるはずの弟は部屋に籠っているだろうし、仕事を終えて帰宅した母は何をしてるやら。

誘蛾灯に誘われるように、明かりに誘われてリビングへ行くとそこに母がいた。

テレビを見ながら、肉野菜炒めをつまみにワインを飲んでいる。

昔から綺麗で美人だった母で、優雅にワインを飲む姿は気品があって大人っぽい。その実年齢は既に四十代であるはずなのに、三十前半に見えるくらい若々しすぎた。

 

「あら、おかえり」

 

私に気づいた母が、ちらりと視線を向ける。

我が母ながらやはり色っぽい。

三者面談や家庭訪問では、男性教師が時間いっぱいまで粘るわけだ。

例えるならば、アイドルの握手会でギリギリまで粘るファンに似ているだろうか。

もっともその心情は計り知れないが。

 

「お母さんまたお酒?もう若くないんだから、ほどほどにしておきなよ」

「わかってるわよ」

 

母が嗜む程度に飲むことは知っているが、たまに嫌なことがあるとワイン丸々一本飲んでしまうこともあるため忠告をしておくと、これまた慣れたように母は軽くあしらって、唇を濡らすようにグラスを傾けた。

 

「……愛理は?一緒だったんじゃないの?」

「お姉ちゃんは……」

 

何と説明したものだろうか。

私は悩んだ挙句、取り敢えず簡潔な報告をする。

 

「帰った」

「帰った?」

 

家はここなのに帰ったとはこれいかに。

聞き返す母も、きょとんと首を傾げている。

私も何を言っているのかわからない。

だって姉は、帰るべき場所があそこにあると言わんばかりに別れていったのだ。

それ以外にどう説明しろと。

 

「帰るってどこへ?」

「男の人の家〜」

 

わざわざ姉のために言い訳を用意するのも馬鹿馬鹿しくなって、私はわざとらしくそう言った。

冷蔵庫からお茶を取り出して、コップに注ぎつつ悪意ある説明をすると、視界の端の先で母が体ごとこちらに向けて驚いた表情をしている。

長い話になりそうだなー、と思いながらコップを持ってリビングに行くと案の定そこに座れと言わんばかりにソファーを勧められた。

これもまた母娘の交流だと思えば、姉の犠牲は尊い犠牲であったと私は言う。

元々は姉が悪いのだ。姉に何が起きても私は悪くない。口止めもされてないし。

 

「なにそれちょっとどういうこと!?」

「どうって言われても、お姉ちゃん最近男の人の家に入り浸っているみたいだよ」

「お、男の人の家ってなに。そんな相手がいたっていうこと?」

「付き合ってはないみたいだけど」

「ふーん。っていうことは、愛理が押しかけてるのかしら?」

「うーん、そうなのかな」

 

私に大人の恋愛はわからないけれど。きゃっきゃっと楽しそうにはしゃいでいる母を見れば、全然心配をしているようには見えない。

 

「お母さんは心配じゃないの?」

「私の娘だもの。変な人は選ばないわよ」

「そうかな?」

 

上機嫌にワインを飲んで、頬を緩ませる母。

私にはまったく理解できない心境だった。

会ってもない、知りもしない人間にそこまで信頼するとは。

娘を信じるにしても、もう少し疑いを持つべきではとは思うのだ。

 

「都は愛理が心配?」

「そりゃあね、心配だったよ。最近のお姉ちゃんおかしかったし」

 

突然朝帰りはするわ、家に帰ってこなくなるわ。

姉がブラック企業で働いて深夜遅くに帰ってきて、そんな生活が続いて体をぶっ壊して倒れた以来ではないだろうか。

あの時の母の剣幕といったら、思い出しただけで……。

それだけ愛されているのはわかるが、あれを見て私は母を怒らせるのは絶対にやめようと誓った。

 

「この前、お姉ちゃんが朝帰りしたことあったよね」

「あぁ、確か友達の家に泊まるって連絡してきた時?」

「そう。男の人の家に行ってたんだよ」

「あら〜、やるわねあの娘も」

「いや、お姉ちゃんが悪い人に酔わされて無理矢理とか考えないの?」

 

あまりにも母が能天気にしているものだから、怒りを通り越して呆れてしまった。そんな私に母はくすくす笑っている。

 

「お姉ちゃんのこと大好きなのね」

「べ、別に家族として心配するのは当然のことだと思うけど」

 

そう。家族として当然のこと、のはずだ。

 

「そうね。でも、ひとつだけ忘れてない?」

「……」

「あの子、男の人苦手でしょう。そんな簡単に心許すような性格してないわよ」

 

母はまたワインで唇を濡らす。

 

「そ・れ・で、相手はどんな人?会ったんでしょう?」

「まぁ、一応。お姉ちゃんを朝帰りさせたにしては、優しそうな人だったよ」

「写真とかないの?」

「え、そんなの撮って……いや、あるかも」

 

私はそう言ってリビングを出て階段を駆け上がる。

目的は私の部屋ではなく、姉の部屋。

普段から姉には勝手に入らないよう言われているのだが、母がお相手の写真をご所望なのだ。許可は得た。

しかし心理的には忍び込む気分なので、ゆっくりと扉を開けてこっそり入る。

勉強机の上に設置された棚にある小中高と並んだ卒業アルバムの中から、比較的新しい高校の卒業アルバムを手に入れると階段を下りてリビングへ戻った。

 

「えっと、たぶん……あった。この人だ」

 

卒業アルバムをパラパラと捲り、クラスの名簿の部分を見つけて姉と同じクラスを探せば、あのお兄さんの若い頃の顔写真を見つけた。

 

「あら、この子……」

「お母さん知ってるの?」

「知ってるも何も愛理の初恋の子じゃない」

「え、卒業式の日、ふられたんじゃなかったっけ?」

「卒業式で大泣きしてると思ったら、好きな子に振られてだって。ふふ、それが今は一緒にいるのね」

 

相手がわかるや五割増しの笑みでワインを飲む母は、最後の一杯をグラスに注ぐと残りのワインを仕舞う。

 

「今度、話を聞くのが楽しみね」

 

うん。私は悪くない。

 

 

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