元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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そんな気はしてた

 

 

 

翌日、掲示板に米倉大学新聞部発行の構内新聞が張られていた。

 

『薄氷の白雪姫に熱愛発覚!?』

 

新聞の全面を飾るのは今月最大のビッグニュース。

入学当初から人気上昇中の女学生“冬海雪菜”に恋人ができたというものだった。

見出しにはデカデカとティータイムを楽しむ彼女の写真が載せられており、馴れ初め等がつらつらと書き連ねられていた。

 

そのストーリーは簡単に説明すると、とあるパーティー会場で出会った二人が恋に堕ち、時を越えて再会を果たし、また再び二人の時間を取り戻すというもの。

 

俺はまったく身に覚えのないストーリーに首を傾げたくなったが、入稿前に原稿をチェックした冬海が通したのなら問題はないのだろう。

おまけに左下には小さく顔に横線をした恋人の顔写真が掲載されており、その正体についてはこう記載されている。

 

「オカルト研究会のF・N氏だって〜」

「……そいつ誰だよ?」

「それってあれだろ?前にオカルト研究会の会長–––倉科さんと熱愛報道があった……」

「それって去年のミスコン一位の?」

「“あの”倉科さん?」

 

掲示板の前が騒つく。俺は気配を殺してこっそりと抜け出し、

 

「いたぞ!あいつだ!」

「捕まえろぉぉぉ!!!!」

 

誰かを追う怒声が聞こえた瞬間、反射的に反対へと駆け出した。

 

「奴が逃げたぞ!追え!」

 

人違いかもしれないので一度校舎の角で曲がってみたが、ガタイのいい連中が追ってくるのを背後に確認した。

ちらほらと人とすれ違うが追われているのは俺一人で、他に逃げているような人は見当たらない。

 

「あいつら暇かよっ」

 

既視感。確か麗花先輩と熱愛報道された時もそうだった。

あの時は一週間ほど追われることになり、講義時間外はほぼかくれんぼと鬼ごっこで休まる暇もなかった。

 

そして、今日からまたあの日々が始まろうとしている。

 

「何が大丈夫だよ!全然ダメじゃねぇか!」

 

サークル棟に逃げ込み、一度姿を視界から消す。

何処か逃げ込める部屋があればいいのだが……、と思ったら研究会の前には人集り。

 

「あ、奴だ!」

「来たぞ!狙い通りだ!」

「知ってたよちくしょうっ」

 

前回もオカルト研究会の部室前は包囲網が敷かれていた。

俺は別の出入口からサークル棟を抜け、あてもなくただ走る。

そうして逃げ回ったところで、第三校舎の何処からか聞き慣れた声が俺を呼んだ。

 

「こっちっすよ直人君!」

 

その声に反応して顔を上げると資料室から顔を出す陽菜先輩の姿が。罠の可能性を考える暇もなく、俺は反射的に資料室へと飛び込んでいた。

直後、資料室の扉が背後で閉まり、鍵までロックされる。

 

「くそっ、どこいった!?」

「探せ!やつはまだ近くにいるはずだ!」

「俺達はあっちに行く。おまえたちはあっちだ!」

 

資料室の外をドタドタと足音が遠ざかっていく。やがて足音が消えると、俺の隣に座り込んで同じく身を隠していた陽菜先輩が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「間一髪でしたね」

「誰のせいだと思ってんですか、誰のっ」

 

思わず悪態を吐いて返すと、彼女はそのまま四つん這いになって這い寄る。

 

「えー、せっかく助けてあげたのにそんなこと言うんですか〜?心外っすよ〜」

 

襟元から黒のブラジャーと鍾乳洞のように垂れ下がった胸が見えて、つい視線が顔ではなくその下を見てしまう。

 

「おや〜、気になるっすか?」

 

胸元を見やすいように小首を傾げてわざと挑発する陽菜先輩は、ニヤニヤと楽しそうな蠱惑的な笑みを浮かべている。

 

「あたしは君のそういうとこ好きですよ」

「奇遇ですね。俺もえっちな先輩は好きですよ」

「やった、両想いですね」

「それはそうと言い訳を聞きましょう」

「え〜、下着見せたのに許してくれないんすか?」

「その程度で許すと思ってんのか」

「……つまり、あたしの身体に仕返ししないと気が済まないとっ?」

 

頰を紅潮させて、興奮する陽菜先輩。俺はその姿を見て色々と察した。

 

「……」

「さ、最初はもうちょっとぼかす予定だったんですよ?でも、途中から興がノったというか、筆が捗っちゃって。あ、えっちな自撮りなら送っておくのでどうぞ直人君も筆を捗らせてください」

 

ピロン、とポケットから音が鳴る。

確認してみると陽菜先輩から一枚の写真が送られてきていた。

今日着ている黒の下着姿を身につけ、もう一方の腕で顔を隠しながら、鏡に反射した半裸を自撮りしている写真だ。

 

「……で、本音は?」

 

俺は陽菜先輩を背後から羽交締めにして、おっぱいをむんずと掴む。ちょっと痛いくらい強く掴み、逃がさないように腰を抱いた。

 

「ひんっ!?……だ、だってこうしたら最近かまってくれない直人君があたしにお仕置きしてくれると思ったら、つい筆が……!」

「盗撮魔でストーカーでドMって本当に救いようないですね」

 

元からわかっていただけに期待はしていなかったが、結果的にこうなるまで放っておいたのは自分である。だから、胸を強く揉みしだくのもほどほどに触る程度で許すことにした。

 

「……はぁ。厄日だ」

「そんなこと言ってあたしに会いたかったくせに」

 

自信満々に言ってのける先輩の顔は本当に綺麗で見惚れるものなのだが、それを言うと調子に乗りそうなので俺は口を噤んだ。

 

「そうですね。会いたかったですよ。でも、そろそろ教室に行かないと……って、あ」

 

スマホの時計を見るともう既に一限目の開始時刻を過ぎていた。完全な遅刻である。

 

「……はぁ。またかよ」

 

前回もこうして逃げ回った結果、講義に間に合わなかったことがある。

途中から教室に入るのも面倒だし、普段真面目にしているからサボっても問題はないが、とても損をした気分になる。

 

「ちょっ、あ、そんなガッツリ揉まれたら……!」

 

ついイライラして手持ち無沙汰に陽菜先輩のおっぱいを揉み、イライラを解消する。八つ当たり–––半分自業自得な気もするが、それはお互い様というやつだ。それはそうと追ってきた奴らマジで許さん。

 

「……と、いうか陽菜先輩もこんなところにいていいんですか?」

「あたしはちゃんと単位とか取ってるので、一日くらい休んでも平気っすよ。それよりあの、そんなにされると最後まで期待しちゃうんですけど……」

 

俺の膝の上に乗りながら頰を擦り付けるように甘えてくる陽菜先輩は、強請るように蕩けた瞳を向けてきた。

 

「こんなところでしませんよ」

「あ、あたしは、いつでも何処でも君の劣情を受け止める準備はできてますよ」

「俺が嫌なんですよ」

「……そうでしたね。直人君はなんでも独り占めしないと気が済まないタイプですもんね」

 

新聞部のゴシップクイーン倉崎陽菜が握っている情報は尋常ではない。

名前から生年月日、年齢、体重、身長。好きなものから、嫌いなもの。趣味、経歴、性癖まで完全網羅している。彼女の前では秘密は秘密ではなくなるのだ。

おまけにこの人は盗撮癖に加えてストーカー癖まである。それを知っているのは、“ストーカーされている”俺くらいなもので、本人も気づいたのは去年のことである。

 

「ところで先輩、俺の昨日の夜飯なんだったか知ってます?」

「米倉系列のハンバーガーチェーン店、米バーガーの和風炙り焼き醤油米粉バーガーのセットにチキンナゲット十五ピースですよね。ドリンクはアイスティー」

 

俺は昨日の夜飯は何を食べたか誰にも言ってない。

陽菜先輩は色情に塗れた瞳で俺を見つめ、首に腕を絡ませてくる。

 

「それより時間も空いたことですし、ホテルでもどうっすか?」

「そんなことしたら今日の講義全部欠席しそうなので却下です」

「でも少なくともあと三日は追いかけまわされますよ?」

「……そうだった」

 

移動・準備時間に鬼ごっことか毎回やるわけにもいかない。だが、講義に出ないのも問題だ。

 

「はぁ……めんどくせぇ」

「もう諦めてあたしとデートしましょう。ほら、周期的にも直人君だって溜まってるっすよね?」

 

当然のように自家発電の周期も把握されている。

俺も先輩が手伝ってくれるというなら手伝って欲しいところだが、性欲を満たしたい欲求に傾いたところで思い出した。

 

「あー、いや、冬海が弁当作ってくれてると思うんで」

 

せっかく作ってくれた弁当を無駄にするわけにもいかず、悩んだ末に俺は陽菜先輩の誘惑を断つ。

 

「じゃあ、放課後どうっすか?」

「バイトですよ」

「それじゃあバイトのあと!夜ご飯作って待ってますから!」

「それならまぁ」

 

やった、と喜んで陽菜先輩は勢いに任せてキスしてくる。軽く唇を押し付ける程度で離すと、名残惜しそうに唇を見つめてきた。

 

「本当はもっとしたいんですけど、そうなると我慢できなくなっちゃいますから。もう子宮が疼いてきたっす」

 

しかし、離れる気はないのかそのまま抱きついてくる。

 

俺はゴロゴロと甘えてくる大きな猫を可愛がりながら、出会った当時のことを思い出していた。

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