元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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不機嫌そうな冬海さん

 

 

 

「……う……うぅ……」

 

突然、朝の静寂を遮るようにけたたましい音が枕元で鳴った。

その音に穏やかな睡眠を妨害された俺は、枕に突っ伏しながら手探りでその原因を探り当てた。

未だアラームに震えるそれをノールックで停止させ、そのまま数秒活動を停止する。

 

「…………z……」

 

再び意識が闇に吸い込まれそうになった時、第二の刺客は既に寝室の中にいた。

 

「はーい、おっはようございま〜す!」

 

カーテンを全開にして朝日を呼び込む元気な女性の声に顔を上げると、カーテンの前にはエプロン姿の緋色の影。おまけにその下は下着だけという扇情的な格好だった。

 

「……陽菜先輩、おはようございます」

 

朝の挨拶を口にしたあと、俺は再び枕に顔を埋める。

 

「もう、二度寝はダメっすよ」

 

そんな俺に対して、陽菜先輩は慣れたように布団まで引き剥がした。おかげで外気に晒されて冷えた身体から、眠気が抜けていくのを実感していた。

 

「は〜い、枕から顔離して」

 

今度は俯せの状態から、仰向けに転がされる。

すると至近距離に下着エプロンの陽菜先輩の姿が映った。

 

「……今何時ですか?」

「午前七時です」

「……そうですか」

 

講義の時間を考えればまだ起きるには早いが、風呂に入って準備をしようとすると時間はギリギリだ。

 

「ところでなんで下着エプロンなんです?」

「直人君は裸エプロン派っすよね」

「……まぁ、どちらもいいと思いますけど、強いて言うならですかね」

 

色々なジャンルを嗜む身としては、甲乙つけ難い話である。本当に悩ましい問題だ。

 

「俺の嗜好に付き合ってくれる陽菜先輩としては、珍しいチョイスですね」

「あたしも裸エプロンで起こしてあげようと思ったんですけどね。……垂れてくるんですよ」

 

恥ずかしそうに脚を閉じる陽菜先輩は、太腿をもじもじと擦り合わせる。

 

「昨日はいくら大丈夫とはいえ、さすがにあれは妊娠しちゃうかと思いました」

「……すみません。つい」

「まあ、あたしとしては満足なんですけどね」

 

そう言って、陽菜先輩はにっこりと笑う。

 

「それよりどうします?大学に行ったらまた追われることになると思いますけど」

「その件については、朝は講義開始ギリギリの時間に行くしかないかと」

「そうなると九時までに着かないといけないっすね」

 

俺が通う大学は一限目の開始時刻が九時。そして、うちから大学までは徒歩で十五分だ。

 

「少なくとも八時四十分に出ないといけないわけです。……つまり、あと一時間四十分は準備にあてないといけないわけですが」

 

妖艶に微笑みながらベッドの上に四つん這いで乗ると、陽菜先輩はゆっくりと迫ってくる。そして、俺の上に跨るとそのまま引き締まったお尻をお腹の上に乗せた。

 

「昨日あんなにしたのに直人君の“これ”すっごい元気っすね」

「陽菜先輩がそんなエロい格好してるからですよ」

「……このままだと、講義出られないっすね」

 

挑発的な陽菜先輩の瞳が妖艶に揺れる。

「あたしを使って」と、物欲しそうに求めてきていた。

 

「あっ……」

 

すっかりやる気満々な陽菜先輩の太腿に右手を添えて、上体を起こした俺は反撃に出る。

ベッドに倒れた彼女に覆い被さると、空いていた左手で彼女の右腕を掴み押さえ込んだ。

 

「それじゃあ陽菜先輩にはその責任を取ってもらいましょうか」

「……あたしとしては、もう少し乱暴な感じがいいんですけど。昨日の夜みたいに」

 

それではお望み通りに–––、と腕を掴む指に力を込める。

 

「また気絶するくらい犯されて遅刻したいんですか?」

「残念でしたー、あたし一限目は休講なんで」

「なら、お望み通り、足腰立たなくなるまで使ってあげますから覚悟してくださいね。泣いて謝っても途中でやめられませんから」

「……あはっ。いいっすよ。たっぷりあたしの身体使って、朝の生理現象を解消してくださいね」

 

嬉しそうに微笑む陽菜先輩の唇を塞ぐ。

そうしてまた、俺は欲望のままに彼女を貪った。

 

 

 

 

 

 

ついうっかり夢中になりすぎて遅刻しかけたが、なんとか一限目には間に合った。煩悩に塗れていた昨夜が嘘のような清々しい気分で講義を受けて、気がつけば午前の講義は間もなく終了だ。

真面目に講義を受けているとポケットに入れていたスマホが振動する。教授の方に視線を向けながら確認をすると、メッセージが一件と通知されていた。

 

俺は壇上を盗み見ながらメッセージを確認する。

『直人君のせいで遅刻した』と、陽菜先輩から苦情がひとつ。

俺が既読すると鬼のようにスタンプ連打をしてきた。

 

『もう動けない……』

 

四つん這いになっている女の子が、滂沱の涙を流しながら後悔しているスタンプである。緋色髪のポニーテールが陽菜先輩っぽくて可愛いスタンプだった。

 

『すみませんでした。また可愛がってあげるので許してください』

『じゃあ、もっとハードなプレイ期待してます』

 

凄い食い気味(三秒)で返ってきたメッセージに、ブレないなぁと内心で満更でもない思いを抱きながらスマホを閉じる。

 

講義終了まであと三分。ノートや参考書を鞄にしまい込むと、ちょうど講義終了時間に教授が質問の有無を聞いて講義室を出て行くのを確認した。

 

「なぁ、藤宮」

 

それを見計らってか隣にいた遠坂が声を掛けてくるが、俺には一分一秒のタイムロスは命の危機に繋がるのだ。

 

「悪いな。遠坂、今おまえに構ってる余裕はない」

 

そうこう言っているうちにガタイのいい男達が、講義室の前後の出入口を塞ぐ。その目が講義室内を見回して、ひとつの場所に辿り着いた。

 

「ほら、お出ましだ」

 

俺と目が合った瞬間、指さしながら仲間と何事かを呟き合った。

 

出入口にガタイのいい門番を残して、他の数人がこちらにやってくるのを確認すると、俺はすぐに窓を開け放った。

 

「それじゃあまたな」

「おい、ここ二階……あぁ、あれか」

 

俺は予め用意していた鉤縄を窓枠に引っ掛けて、そのまま窓を飛び出した。

 

「なっ!?」

 

突然目の前で行われた強行に男達が目を剥く。

俺は懸垂降下で数秒で陸へと降り立った。

見下ろす男達が、悔しそうに顔を歪めるのがわかる。

それを一瞬確認してから、一目散に逃げ出した。

 

当然逃げた先はオカルト研究会の部室。

誰にも見られていないことを確認しながら、音もなく扉を開けて部屋の中に滑り込む。

中には麗花先輩と冬海が既にソファーに座っていた。

 

「おはようございます麗花先輩、冬海」

「おはよう藤宮君。どうやら無事に辿り着いたようだね」

「ええまぁ、なんとか」

 

二つのソファーで対面している二人を見て、俺はどちらに座るべきか逡巡してから麗花先輩の隣に座る。

 

「……先輩」

 

すると何故か不機嫌そうな声色で冬海が声を掛けてきた。

 

「仮にも先輩は私の恋人なんですから、私の隣に座るべきだと思います」

 

正当な言い分に聞こえる冬海の主張は説得力がある。が、今更座席を変更するのも変な気がするので俺は丁重に断る言葉を探す。

 

「……おまえ、俺が隣に座ったら嫌じゃない?仮に恋人とはいえ偽物なわけだし」

「そんなわけないじゃないですか。むしろ仮に彼女なんですよ。それらしい振る舞いをするべきです。先輩の女性関係にとやかく言うつもりはありませんが、気をつけてください」

「……。なんだよ嫉妬してるのか?」

 

反撃とばかりに冗談めかした問いをすると、冬海は無表情で沈黙した。

数秒フリーズした彼女は、テーブルに置いた包みからお弁当箱をひとつ取り出した。

 

「あ、ありが……?」

 

いつも通りお弁当箱に手を伸ばすと、何故かひょいと遠ざけられる。

 

「……冬海さん?」

「思えば私達、恋人らしいことなにひとつしてませんよね」

 

そう言いながらお弁当箱を開けた。いつもと違うランチボックスには、おにぎりとおかず類が詰め込まれていた。

その中から箸で摘めるサイズのおにぎりを摘むと、そのまま俺の方へと差し出してきた。

 

「どうぞ。はい、あーんしてください」

 

緊張からか箸は震えてるし、狙いが定まっていない。

突然の急変に、俺は困惑した。

 

「いや、どうした?」

「早く食べてください」

「……お、おう」

 

なんだかよくわからない気迫に圧を感じて、俺は素直にテーブルに身を乗り出してぱくりと箸の先端ごとおにぎりを口に入れた。

もぐもぐと咀嚼しながら冬海を観察すると、彼女は色々な感情が綯交ぜになった表情を俯かせていた。

 

「美味しいですか?」

「うん。美味い」

「……それならよかったです」

 

未だ不機嫌なものの少しは溜飲が下がったのか、冬海は自分も卵焼きを口へと運んでいた。

 

「……いやらしい娘だね。今さらっと間接キスしたよ」

「っ〜〜〜」

 

隣で傍観していた麗花先輩の一言で、ようやく気づいた冬海は顔を真っ赤にさせて数分間狼狽えた。

 




恋愛初心者の会心の一撃。
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