八月某日。
夜の街を一台の軽自動車が走行していた。
もうすぐ日付が変わる時間帯にどこへ行こうというのか。それを知るのは車の持ち主兼運転手の麗花先輩だけであり、聞いても『ついてからのお楽しみ』という一点張りだ。
こういう時、麗花先輩に質問をしても無駄なことを知っている俺は潔く夜のドライブを楽しむことにした。
流れる夜の景色、麗花先輩のTシャツパイスラ、華麗な足捌きを見せるホットパンツとニーハイソックスの絶対領域。
あまりにも素敵なドライブに本来の目的を忘れ、俺はちらちらと助手席の幸福を享受する。
「……」
そして、バックミラーを見ると後部座席にはさらに二人の美少女が座っていた。
ミニスカートにTシャツというラフな格好をしている陽菜先輩と、胸元のシースルー生地が綺麗なワンピース姿の冬海だ。
特に初参加の冬海には『動きやすい服装』と忠告しておいたのだが、膝丈のワンピースという少し引っ掛かりやすい服装をしている。むしろあれは『脱がしやすい服装』と脳内に邪な考えが浮かんだが、流石に口に出すのは憚られたので口に出してはいない。
その冬海はなにやら緊張した様子で、車に乗ってからずっと膝の上に置いた手を見つめている。たまにバックミラー越しに目が合うと、
「!」
すぐにバッと顔を逸らして、再び膝の上に視線を戻して、耳を赤くするのがなんだか可愛くて俺はその様子をニヤニヤしながら見ていた。隣の陽菜先輩も同様である。
『次の信号を右方向』
カーナビの指示に従い車が右折する。すると同じ道に進む車が減って、道路は貸切状態だった。
「……あの、先輩方。これ本当に道あってますか?」
街から外れたことに疑問と不安を覚えた冬海が、恐る恐る疑問を口にしたが、麗花先輩は不敵な笑みを漏らすばかりだ。
「今にわかるよ」
「……えっと、その……向かっているのは、ホテル、ですよね?」
その名を口に出すのを憚られたのか名称を濁す冬海。ただしその頰は薄らと赤い。
「ラブホっすね」
「っ!」
動じない陽菜先輩の断言に、冬海はさらに頰を赤く染めた。
「……」
それ以上の詮索は恥ずかしいのか再び沈黙する冬海。
俺は初々しい彼女の様子を眺めながら、揶揄うのが好きな二人と同類なのを自覚していた。
–––それから約二十分後……。
『目的地に到着しました』というカーナビの労いの音声が、しんとした車内に響いた。その声に反応して顔を上げた冬海が、外を見てきょとんと間の抜けた顔をする。
「……あの、先輩方?あの……なんか暗くありませんか?」
車の外に映る光景を目にした冬海の表情が、困惑と混乱というたいそう珍しい表情に変わる。
彼女の言った通り、看板にはネオンの光もなく、夜は光るであろう蛍光看板は消灯中であった。それに外観もどこか寂しげな雰囲気を発しており、真新しいのに廃墟のような様相だった。
「さぁ、降りるよ」
「やっと着いたか」
「ん〜、夜なのにやっぱりあっついっすねぇ」
「……」
さっさと降りる俺達に続いて、冬海は恐る恐る車外へ出た。
外に出て見上げてみても、ラブホ?は営業中に見えなくて……。
「……あの、これ、営業してます?」
「してないよ。今は」
「……え?」
冬海は推定ラブホを見上げながら呆然とした。
「なにやら認識が食い違っているようだけど……君は、営業中のラブホに行ってナニをするつもりだったのかなぁ?」
そんな彼女にニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、麗花先輩が初心な後輩を揶揄う。
『一人だけいやらしい妄想をしていた』という事態を察した冬海は、月明かりでもわかるくらい顔を真っ赤にして狼狽える。
「ち、ちがっ、だって、それは……わ、私は先輩が変なことをしないように監視をしようとっ」
慌てふためき言い訳を言い募る冬海の前に蹲み込み、麗花先輩は彼女のスカートをばさりと捲った。
翻るスカート、露わになるパンツ、ただし俺の角度から見えたのは健康的な太ももだけ。とても残念である。合法的に冬海のパンツを見るチャンスだったのに。
「その割には随分気合入ってるみたいだけど」
「きゃっ、な、なにするんですか!?」
「ほう、どれどれ……」
スカートを慌てて押さえた冬海の背後から、まるで暖簾をくぐるかのようにスカートの裾を持ち上げる陽菜先輩は、中を覗き込みながら目を見開いた。
「おおっ、これ数日前に卸したおろしたての勝負パンツじゃないっすか!」
「〜〜〜ッ!?!?!?」
「ぷげっ!」
なんでそういうことを知っているのかはさておき。
反射的に踵を振り上げた冬海のヒールキックが、陽菜先輩の顎を強打する。そのままひっくり返った陽菜先輩は自らのパンツをミニスカートから晒した。淡いオレンジのお気に入りの紐パンを。
「……」
男性である俺は、女性特有?の絡みについていくこともできず、ただ得られた情報から冬海の秘められたスカートの下を夢想した。当然陽菜先輩のパンチラも忘れない。
「ち、違いますから!私そんなはしたない子じゃありませんから!」
じっとその様子を眺めていた俺に、冬海は動揺しながら言い訳を募る。が、俺の関心は冬海のスカートの中である。心ここに在らずとはこのことか。
「あ〜、わかってるから。先輩さっさと行きましょう」
「ん、そうだね」
麗花先輩は立ち上がりながら、よいしょっと声を上げた。
「一応言っておくけど、うちはヤリサーじゃないからね。藤宮君を中心に爛れた生活を送ってるけど、ちゃんとサークル活動もしてるんだよ。今日みたいにね。みんな乗り気じゃないみたいだけど」
腰に手を当てながら、新人部員の冬海を見据える。
「さて、もうお察しかもしれないけど、ラブホ(廃)で毎年恒例の肝試しをやります」
「き、肝試し……?」
「そう。肝試し」
「……」
冬海の表情がスン。別の意味で強張った。
「え、入るんですかあれ?」
「うん」
「あの、不法侵入じゃ……」
「大丈夫。許可は取ってあるから」
法的に問題がないことを告げると、冬海は口角を引き攣らせた。
「実はこのホテル随分と曰く付きでね。浮気して殺されたり、プレイの最中に死んだり、いろいろ死亡事件があって廃業だって。その霊がうようよいるらしいんだ」
楽しげに語る麗花先輩の姿に、喉を鳴らして冬海は息を呑んだ。
「あ、もし本当に無理なら車で待っていてもらってもいいよ。……ただ、こういう展開って一人になった人から消えるのが定番だけど。残る?」
「っ、い、いえ、行きます」
「それはよかった」
麗花先輩の善意?の忠告に冬海は震える声で応じた。選択肢なんて最初からあるはずもなく、俺は遠い目をしてしまう。
「さて、それじゃあ行こうか」
オカルト研究会会長の号令によって、俺達は真夏の肝試し大会にラブホ(廃)へと足を踏み入れるのだった。