昼食後は、腹ごなし程度にプールで泳いだ。
流れるプールで浮き輪に乗って流され、波を生み出すプールでゆらゆらと水面を揺れる。
午前中に気に入った場所をもう一回りして遊んで、すっかり堪能した俺達は午後四時くらいにプールを出ることにした。
再び更衣室前で別れて着替える。更衣室から出ても合流地点に彼女の姿がなく、俺は自動販売機で買ったコーラを飲みながら冬海のことを待つ。
「お待たせしてすみません。先輩」
「いや、そんな待ってないよ」
「そうですか?その割には、随分と飲み物が減っているみたいですけど」
「喉渇いていたからな」
最後の一口を飲み干して、リサイクルボックスに入れた。
「おまえも何か飲むか?奢るぞ」
「自分で買いますからいいです」
「そうか」
冬海は鞄から財布を取り出すと、自販機で緑茶を購入して、こくこくと飲み始めた。
「はぁ……こまめに水分は取っていたつもりですけど、喉が渇きますね」
「だな。……それに疲れて何もやる気にならねぇよ」
「確かにいい運動になりましたからね」
「夜飯どうする?」
「そうですね。どうしましょうか?」
「どっかで食ってくか」
プールで遊んで疲れているところで作らせるのは申し訳ない。なのでそう提案すると、冬海も異存はなかったようで「はい」と短く返答してくれた。
「問題は何食うかだけど」
「お腹は空きましたけど、ガッツリって気分でもないですしね」
「そうだなぁ。……あ、そば食いたい」
「それなら和食が食べられるお店に行きましょうか」
受付で支払いを済ませてプール施設を出た俺達は、その足で近場にある和食屋に足を運んだ。
席に着いたら各々好きなものを頼んだ。俺は天ぷらそば、冬海は焼き魚定食。
夏の暑さによる食欲低下で箸が進むのは遅かったものの、食べ始めてみれば箸が止まらずに気がつけば完食していた。
「ごちそうさまでした。……帰るか」
「そうですね。座ったままでいると寝てしまいそうです」
適度な疲労と満腹感により睡魔に襲われた俺達は、最後の気力を振り絞って店を出た。
電車を乗り継ぎ、住んでいる街へ。
道中は会話もなかったことから、半分意識は飛んでいたのかもしれない。それは冬海も例外ではないことを、肩に残っている温もりが教えてくれていた。
最後は足を引き摺るように帰路を歩き、無事に家へと辿り着くともう何もやる気が起きなくなった。
「……眠い」
「ダメですよ。ちゃんとお風呂に入ってから寝てください。あと、歯磨きも」
「んー……」
箪笥からバスタオルをずるずると引き摺り出し、着替えを用意して風呂へと向かう。
服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びて、髪を乾かすのは程々に歯を磨いた。
歯磨き粉のミントの爽快感で少しだけ目が覚めたが、この覚醒状態がいつまで続くかわからない。俺は早々にベッドへ向かうことにした。
「ん〜、あれ?」
リビングに戻ると冬海の姿があった。ソファーにもたれてうとうとと……いや、完全に沈黙していた。
「お〜い、冬海?」
「ん……しぇんぱい?」
「歯磨いて寝ないとダメだぞ」
あのレジャー施設ではシャワー設備も完備されていた。俺は面倒だから使わなかったが、女性はそうもいかないだろう。その証拠に更衣室から出てきた冬海からは、塩素の匂いがしなかった。必然的に残っているのは歯磨きだけである。
「歯磨きなら先輩がお風呂入っている間にしましたよ……」
「そうか。ならいいのか……」
しかし、ここで寝るということは泊まるということである。俺はそのことについて考えられないほど、眠気に襲われて思考が停止気味だった。
「こんなところで寝ると風邪ひくぞ」
「……それなら先輩がベッドへ連れていってください」
「それはいいけど、着替えたほうがいいぞ」
「はい……」
妙に従順な冬海に着替えを用意するために一旦寝室へ。
勝手に陽菜先輩達のスッケスケのネグリジェを貸すわけにはいかないので、俺の私物からシャツとパジャマのズボンを引っ張り出した。
「ベッドの上に置いてある服に着替えてくれ」
「……」
「おーい、冬海?」
反応が薄い彼女を抱き起こして寝室に連れて行き、ベッドの上に優しく寝かせる。
「着替えろよ」
「はい……」
半ば夢の住人とかした冬海を寝室へ放置して、俺は一旦退室する。
約十分後、扉をノックする。
–––返事はない。
俺はそのことを確認して、そっと寝室の扉を開けた。
「冬海?着替えたか?」
「……すぅ……くぅ……くぅ……」
ベッドの上には深い眠りにつく美女の姿が。本来なら生唾を飲み込むシーンだが、俺にもそんな余裕はなかった。
「……俺も寝るか」
“冬海が眠るベッドへ潜り込む”と、そのまま睡魔に身を任せて深い眠りへと落ちていくのだった。