元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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鹿島家への訪問

 

 

 

翌朝、目を覚ましたのは午前十時くらいだった。

夜が明ける前に寝たから、睡眠時間は六時間ほどだろうか。

普段、仕事があるのに夜更かしをして睡眠時間が削れることがあるが、それに比べればだいぶ長い時間眠っていた。

愛理が半同棲する形でここに来てからは睡眠の質も上がり、ただ睡眠時間が長かった頃を思えば、寧ろ良い方向に改善したと言える。

 

このまま惰眠を貪りたいところだが、今日はあいにくと予定がある。愛理の実家へ挨拶に向かわねばならないのだ。

昼食をあちらでご馳走になる予定なので、正午前には到着しなければならない。故にあまりゆっくりもしていられず、まだすやすやと幸せそうに眠る愛理を起こさなければならないわけだが……。そこで俺に邪念が生まれた。

 

「愛理さーん。朝ですよー」

 

小鳥が囀るように耳元で囁いて朝を伝える。

当然起こすつもりなのだが、彼女は幸せそうに頰を緩めるだけで起きる気配が全くない。

夢の中で愛でも囁かれているのか、幸せそうな表情だ。

 

「おーい……」

 

肩を揺さぶる度に大きくて形のいいおっぱいが揺れる。

一糸纏わぬ無防備な姿のせいか布団の中からぽろりと溢れたそれは、みずみずしい果実のように輝いて見えた。

 

「起きないと悪戯するぞ」

 

まぁ元よりそのつもりだったわけである。

ちょうど寝返りを打って背を向けた愛理の背後から、おっぱいを鷲掴みにした。

あ、柔らけえ。とか感想を胸の中にこぼしつつ、好き放題揉みまくる。

彼女から香る果実のような甘い香りに脳を焦がし、そっと首筋にキスをして夢中になっているとある変化が訪れた。

 

「んっ……」

 

甘やかな声を漏らして、愛理が身動ぐ。

どうやら起きてしまったらしい。

悪戯をやめてそのままじっとしていると、ころんと寝返りを打って抱きついてくる。

 

「朝からなーにしてるのかしら」

「起こそうと思って?」

「ふーん?起きてるのは、私じゃないみたいだけど」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべて、挑発してくる。

身体が触れ合う面積をできるだけ多くしようとして絡みつくように抱きついて、そのまま小鳥が啄むようなキスを交わす。

しかし、一回するとタガが外れたように今度は溶け合うようなキスを求めてくる。

 

「……ん。ふう。そろそろ起きないと……」

「まだ時間はあるだろ」

「あ、ちょっと……」

 

名残惜しくもベッドから出ようとした愛理と、時間が許す限り戯れた。

 

 

 

 

 

 

家を出て電車に乗って実家の最寄駅へ。

そこからまた歩いて、愛理の誘導に従うこと約三十分。

とある住宅街にある一軒の二階建ての家。

その前で立ち止まった愛理が見上げるように見つめる先に、それはあった。

 

「ここが実家よ」

 

赤い屋根のおしゃれなデザイン性の優れた家。庭は広く、車庫もあって、明らかに裕福そうな土地費用にも建築費用にも金を掛けてそうなそんなイメージだ。

 

観察するように見上げていると、二階の部屋の窓で何かが動いたような気がした。

その数秒後には、ドタバタと駆け下りるような音がして、玄関が勢いよく開く。

 

「いらっしゃいお兄さん!それとお姉ちゃんおかえり」

 

インターホンを押すべきか迷うついでに心の準備もできればと思ったが、そんな時間さえ与えてくれなかった。都が出迎えてくれたのだ。

 

「ちょっと。私はついで?」

「えー、客人を出迎えるのは普通でしょ」

 

不満そうに唇を尖らせる愛理の視線が怪しいと言わんばかりに光るが、都はそんな姉の様子もお構いなしにさぁ、上がれと家へ招き入れてくれた。

 

「お母さんは?」

「ご飯作ってる。もうすぐできるはずだけど」

 

姉妹が会話しながら慣れたように廊下を進む。

心の準備をするにはあまりにも短く、その時はすぐにやってきてしまう。

LDKと呼ばれる広い空間のキッチン。ダイニングもリビングも見渡せるその場所で、姉妹と同じ赤茶けた髪色の女性が鍋を掻き混ぜていた。その正体を知っていなければ愛理の姉かと勘違いしてしまっただろう。それくらい若々しく見える人だった。

 

「お母さん、お姉ちゃんたち来たよ」

「あら、本当ね。都、ちょっとかき混ぜてて」

 

俺たちに気づいた女性は都に鍋を任せて、満面の笑みを浮かべながらぱたぱたと駆けてきた。

 

「おかえり愛理。それと久しぶりね直人君」

「た、ただいま……」

「お、お久しぶりです……それとこれご家族でどうぞ」

「あら、ご丁寧にどうもありがとう」

 

正直、なんて挨拶するべきか迷っていた。

一度も会ったことない相手だったなら。迷うことなく初めましてだったのだが。

そう言えない理由が、あるにはあるのだ。

 

鹿島母とは初対面ではない。

愛理とは小学校の頃から一緒で、授業参観や運動会のイベントでは当然親が来る。基本的には母親だけのところが多いのだが、鹿島家は夫婦揃っての参加だった。それだけ娘を愛していたということだろう。

鹿島父は授業参観の時には愛娘に擦り寄る男子には睨みを利かせ、運動会の際にはビデオカメラを手に誰よりも白熱した様子を見せていた。昼食の時に隣り合った時は人を殺せそうな目で睨まれたことだってある。

今ではその理由もわかるが、小学生の俺にとってはトラウマの一つだ。

その後も鹿島母とは三者面談の待合所で一緒になったことはあるが、一方的に話しかけられるだけで特筆するようなことは何もなかったはずだ。

 

手土産に買って来た駅前のケーキの入った箱を渡すと、冷蔵庫に入れながら鹿島母が振り返った。

 

「そうだ。直人君はワイン飲める?」

「飲めないということはないですが……」

「ふふ、君とは飲んでみたかったの。愛理も飲む?」

「ちょっとお母さん、昼間っからお酒?」

「いいじゃない。せっかくの機会だし。飲めないわけではないでしょう。それに飲んでおいた方が色々と楽よ?」

「いったいなにを聞くつもり!?」

「それより先にご飯にしましょう。都、京介呼んできて」

「はーい」

 

鍋の火を止めて、都がキッチンを出て階段を上がっていく。

それからしばらくして、男子中学生くらいの男の子と一緒に下りてきた。赤茶髪の父親似の爽やかそうなイケメンなのだが、ちょっとだけ目つきが悪いヤンチャそうな風貌の少年だ。

姉妹が母親似であるのなら、少年は父親似。目元が俺の記憶にある鹿島父と酷似している。

その少年は俺を見て、首を傾げた。

 

「……誰?」

「お姉ちゃんを誑かした人です」

 

都の紹介の仕方に物申したくもあるが、他に言えることもないので黙っていると観察するような視線が鹿島双子弟–––京介から送られてきた。

 

「……姉貴は、こんなののどこがいいの?」

 

確かに俺なんかのどこがいいんだろう。と、同意したくなってしまったがそれはそれ。随分と生意気そうだ。

 

「こんなの……?ふふ。そんなこと言う子には、たーっぷりと教えてあげましょうか」

 

そんな弟の肩を掴んで、説教もとい惚気が始まってしまい。

俺と都は目配せをして、そっと逃げるようにその場を離れた。

 

 

 

鹿島母–––志穂さんの料理はどれも絶品だった。

パエリア、カプレーゼ、ハンバーグ、ボルシチ、アスパラのベーコン巻き。そのどれもがワインと相性がよく。そして、ワインが食事の味を引き立てていたのだ。

あまりの美味しさにワインも食事もすぐになくなり、食事を終えたところでもう一杯とワインを注がれたところだ。

出された以上は残すな。とはうちの家訓で、ほぼ初対面もいいところだがこうして飲んでしまっているわけだ。

 

「すごく美味しかったです。ご馳走様でした」

「ふふ。いいのよ。あんなに美味しそうに食べられると作り甲斐があるから」

 

リビングのソファーで寛ぎながら、大人三人で対面する。

昼食を終えると部屋に戻った京介君を見送りつつ、今度は大人だけの時間に。

リビングから見えるキッチンでは、都が一人皿を洗っていた。

 

「……ふふ。それにしても随分大きくなったわね。愛理の高校卒業式以来かしら」

 

そんな娘の頑張る姿をちらりと見てから、ようやく志穂さんは話を切り出す。ワインのせいか上気した頰は艶かしく、Vネックのノースリーブから見える胸の谷間は大人の色香が漂ってきていた。

親子ほどの歳の差なのに、つい胸の谷間に目が入った瞬間、隣の愛理に太ももを抓られる。

 

「覚えていたんですね」

「そりゃあそうよ。娘の初恋の相手ですもの」

「ちょっとお母さん!?私言った覚えないんだけど!?」

 

どうやら認知されているのは愛理のせいではないらしい。が、そんな認識も次の一言で吹き飛んでしまった。

 

「そんなの見てればわかるわよ。あなた授業参観もお構いなしにちらちらちらちら直人君の方を見てたじゃない。他の子達が親に見られていることに緊張してるのに」

 

自分の昔の秘密を暴露されて、愛理の顔が耳まで真っ赤になる。

今更何を恥ずかしがっているのか。

高校の時は「ずっと好きだった」と告白し、毎晩自ら好きと何度も言っているのに。

 

「というか誰かに見られてる気がしてたが、おまえだったのかよ」

「そうよ。悪い!?」

 

錯乱しているらしく怒鳴るように開き直る。

ここが自分の家なら、唇を塞いで落ち着かせていたところだがそうもいかない。

普段の落ち着きも、少しだけ昔に戻ったようである。

おそらくは酒が入っているのが原因だろうが、もはやどうすることもできなかった。

 

「ふんっ」

 

ちびちびと飲んでいたお酒をぐいっと飲み干す。自分のグラスが空になると俺のグラスまで勢いよく掴み、そのままぐいっと二杯目も飲み干してしまった。

 

「ふふ〜ん♪」

 

気分が良くなってきたのか愛理は俺に凭れ掛かると、そのまま肩を借りてすやすやと寝息を立て始めてしまう。ここまでほんの一分の出来事だ。

 

「あら、仲良いわね」

「ちょっと愛理。寝るな。起きろ。頼むから一人にするなッ」

 

俺の願いも虚しく、愛理は夢の中だ。

 

「あれ、お姉ちゃん寝ちゃったんですか?」

「……ああ」

 

洗い物を終えてリビングに来た都は、自分で用意したオレンジジュースを手に母親の横に座る。

 

「まぁ、これはこれで都合がいいわ。愛理が聞いてない方が都合がいいこともあるし」

 

いっそ俺も意識を手放すか、愛理を置いて逃げ帰りたいところだがそうはいかない。がっちりと掴まれた服は寝ているくせに力強く、振り解かないほどだったのだ。

 

「どこまでヤったか聞くのは野暮よね。あなた達の年齢でヤることヤってないわけがないんだし。むしろその歳でセックスレスなら浮気を疑うところよ」

 

酒が入っているせいか恥も外聞もなく志穂さんは饒舌に攻め立ててくる。都は平常心を装いつつも頬が僅かに赤いところを見るに、興味津々とばかりに聞き耳を立てている。

 

「で、直人君。どうして高校の頃、愛理を振ったのかしら?」

 

中学生の前でやる話ではないと思い直してくれたのか夜の営みについて聞かれなかったのは良かったが、あまりにも核心をつく尋問に一瞬だけ呼吸が止まる。口にワインでも含んでいたら、吹き出していたところだ。

 

「それ知ってたんですね……」

「だって中学の卒業式では泣かなかったのに、高校の卒業式では大泣きしてるんだもの。夫がお祝いに外食に行こうと誘っても家に帰って部屋に引き篭もるし、大変だったんだから。夫なんてあの小僧殺してやるってキレてたわよ」

「うっ、それは申し訳ありません」

 

間接的に迷惑をかけてしまったようで申し訳なくなる。

この場に親父さんがいなくて安心したが、前途多難な言葉を聞かされて余計に会いたくなくなってしまった。

本人は詳細には語らなかったが、そこまで落ち込んでいたなんて知らなかった。

 

「別に振ったことは怒ってないわよ。個人の自由だしね。私が知りたいのは振った理由よ」

 

舌を濡らすように、グラスを傾ける志穂さん。

その横でちびちびとオレンジジュースを飲みながら、興味津々といった様子で都が前のめりになっていた。

幾つになっても女の子は恋バナが好きなのか、その事実をまざまざと見せられているようだった。

母娘揃って興味を示されれば、確認するまでもないだろう。

 

簡潔に言えば「嫌いだったから」だが。

母親相手に直球で叩きつけられるほど俺の肝は太くない。

だが、僅かな酔いが勇気をくれる。

ありきたりな言葉を、当たり感触のない言葉に変えようと必死に思考を巡らせたが、ついには言葉が出なくて諦めた。

 

「……嫌いだったから、です」

「それはなんで?」

「今聞かれるとなんで嫌いだったのか思い出せないんですけど、愛理とは当時喧嘩ばかりだったんですよね。妙に俺ばかりに突っかかってきて、神経を逆撫でするようなことを言うから。喧嘩ばかりしてる記憶しかありません」

「あー……」

 

納得と言わんばかりに、志穂さんが遠い目をする。思い当たる節があるみたいだ。

 

「じゃあ、その後は交流はなかったわけね」

「そうですね」

「なら、いつ娘と再会したの?」

「……合コンで」

 

大変に不本意ながら合コンで、だ。

きょとん、と首を傾げる母娘。

その様子を見るに予想はしていなかったらしい。

いや、知らなかったと言うべきか。

しかし、なんかもうそんなことどうでもいいや酒が美味いとばかりにワインを飲んで、ぽやぽやと幸せそうな表情をしながら指を突き合わせた。

 

「あの娘が合コンね〜。そこで再会するなんてドラマチックね。で、そのまま娘をお持ち帰りして食べちゃったのね」

 

正確には押し掛けられて今に至るとは、説明する元気は残っていなかった。

 

 

 




長くなりそうなので後半に続く。
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