「本当に帰るの?泊まっていけばいいのに」
昼だけの予定だった実家への訪問は、結局夜まで滞在することになってしまった。志穂さんの提案をなんとか断って、鹿島家をあとにしたのは夜七時を過ぎた頃だった。
「はぁ〜、なんだかちょっと疲れたわね」
「疲れたって、ほとんど寝てただろ」
「……あはは。いや、お酒飲むと眠くなっちゃって」
申し訳なさそうに頰を掻いて目を逸らす。
愛理のそんな姿は可愛らしく思うも、少しだけ心配になってしまう。
あんな無防備な姿、よく男どもに持ち帰られなかったなと。
大学時代にも、社会人時代にも飲み会のような集まりはあったはずだ。
「おまえ会社の飲み会とか気をつけろよ」
「なに?心配してくれるの?」
「……そりゃあ、まぁ」
「ふふ、安心しなさいよ。あんたの前じゃないとあんな姿見せないから」
「さようで」
「でも、行かないでって直人が言うなら考えてあげなくもないけど」
「……」
悪戯っぽく笑って、揶揄ってくる。
そんな彼女と手を繋ぎながら、電車に乗って自宅へと帰る。
途中のスーパーで買い物をしたせいか、八時を過ぎたあたりで家についた。
自宅に帰還したことで安心してソファーに座り込む。
夕飯も鹿島家で母娘の合作料理を味わったため、もうあとは風呂に入って寝るだけしかやることはない。
愛理も買った食材を冷蔵庫に詰めると、俺が寛ぐソファーに来て覆い被さるように跨ってきた。
「大丈夫?疲れてない?」
「まぁ、多少緊張はしたけど。それなりに有意義だったよ」
当然起きた愛理は自分の写真が大多数収められたアルバムを見せられて怒ったわけだが、志穂さんはのらりくらりと娘を闘牛のようにやり過ごした。
その件について思い出し少しだけ口角を上げると、ぽこぽこと胸を叩かれて抗議を受ける。
「も〜、結構恥ずかしいんだからね!あんたの実家に行ったらアルバム漁りまくってやるから!」
「ははは。……あったかなアルバム」
鹿島家に比べて、俺の両親はずぼらだ。
幼い頃の写真はあるだろうが、小学生になる頃には親離れが始まってしまったため甘えることがなくなってしまった。
休日は大抵友人と遊ぶし、放課後も遊び呆けていたので何処かに遊びに行ったのも数えるほどしかない。
記念写真も、小学校入学式くらいのもので形に残るものは少なかったはずだ。
「……ねぇ、おっぱい揉む?」
「揉む」
すりすりと甘えるように太腿を擦り付けて、愛理がおっぱいを揉みやすいように抱きついてくる。
俺はそっと彼女の乳房に手を伸ばして、その柔らかさをまずは手のひらで存分に堪能した。
「……ところで、これには何の意図が?」
脊髄反射のように「揉む」と応えてからがっしりと愛理のおっぱいを鷲掴んだところで疑問が浮かぶ。文字通り骨の髄まで愛理にダメにされてしまった身体は、磁石のようにくっついて離れない。ならば仕方ないと開き直って、抱き寄せるように腕を回してぎゅっとハグをすると温かく柔らかな感触に溶けそうになって、思考はふわふわと何も考えられなくなる。
そんな状態での質問に、彼女は優しく笑う。
「んっ……疲れてるみたいだったし。ほら、私寝ちゃったじゃない?そのお詫びも兼ねて」
「それなら存分に堪能させてもらおう」
「……それと」
「それと?」
「お母さんのおっぱいばっかり見てたみたいだから」
嫉妬を孕んだ視線が妖しく輝く。
もぞもぞと動いたかと思うと、押し潰すようにおっぱいを顔面に押し付けてきた。
そのまま頭を掻き抱き、ぎゅっとされれば真っ暗な暗い海に放り出されたような錯覚を覚える。視界には光がなく、息もできない。おっぱいに溺れるとはまさにこのことだ。
ただ少しだけ温かなところもあって、安心して身を委ねてしまった。
ここで深呼吸を一つ。
甘やかな果実の香りが鼻腔を満たした。
「……おやすみ」
「ダメよ。今夜は寝かせないから」
そのまま意識を落としそうなところで視界に光が戻ってくる。
至近距離には愛理の顔があり、不満げに頰を膨らませる姿が目に入る。
なんというか甘え方がいつも以上にパワフルだった。
少し眠り過ぎたせいか、今日はあまり眠くないのかもしれない。文字通り寝かせてくれるつもりはないだろう。
「もし私より先に寝たら、罰ゲームだからね」
「具体的には?」
「一日中えっちしてもらいます」
「それ罰ゲームじゃないだろ」
今からやるか、明日やるかの違いだけで。
「そうね。でも今日は、私のわがまま聞いて欲しいから」
「……何するんだよ?」
ナニをするかは決まっているのだが。その言葉を待っていたと言わんばかりに、愛理は笑みを浮かべた。
「ふふ、今日は一緒にお風呂入りたいなって思って」
「いつも通りじゃねぇか」
「今日はお風呂場でエッチなの禁止」
「えー」
「たまにはいいでしょ。普通にいちゃいちゃしたって」
「うちの愚息最近反抗期なんで」
保証はできないとだけ言っておく。
◇
一緒にお風呂に入った回数は数え切れない。
服を脱ぐ衣擦れの音は何度だって聞いたし、その度に露わになっていく素肌に何度魅入られてしまっただろうか。
張りのある健康的な白い肌に、女性らしい丸みを帯びた身体。たわわに実ったおっぱいに、腰から伸びた曲線が美しく、すらりと伸びた肢体はどれも惚れ惚れするものだ。
あれを常日頃から好き放題している事実に興奮を覚えるものの、どうしてもっと早く手に入れておかなかったのだろうかと後悔もしている。
もう何度目かわからないくらい見惚れていると、下着以外脱ぎ去った愛理がこちらをちらりと振り返る。
少し恥ずかしそうに、でもどこか満足げに悪戯っぽい笑みを浮かべながら、少しだけ視線を下に動かした。もう見慣れたはずなのに彼女の頰も少し赤くなっていた。
「なんでもうやる気満々なのかしら」
「綺麗な女性が目の前でストリップショー始めたら、誰だってこうなるわ」
「ふーん。あ、プールの授業の時もそうだったの?」
「いや、そんな常時発情してたら大変だろ」
そんなことバレたら女子生徒には白い目で見られ、男子生徒には一年中妙な渾名をつけられて弄り倒されるだろう。でも、間違いなくプールから上がれないやつはいたと思う。
「それに俺、プールの授業はだいたい見学だし」
「そういえばそうだったわね。水着忘れたり、寝不足、朝食を食べてないのを理由に見学して、よく先生に怒られてたわね。あれ絶対わざとでしょう」
「ああ、水泳の授業嫌いだったからな」
懐かしい話だ。水泳の授業に参加しないために、あの手この手を使った。連続で持ち物を忘れると不審がられるため適当な体調不良を理由にしたこともある。
「なんでよ?もしかして、女子の水着姿を見学したかったとか?」
「いや、授業に参加しても見れるだろそれ」
愛理が背中に手を回して、ホックを外す。
そのままするりとブラジャーを床に落とした。
「ただ面倒だっただけだ。着替えるのとか」
「まぁ、確かにね。男子の視線とか殊更増えるし、私もあんまり好きじゃなかったかな」
滑らせるように指を引っ掛けて、パンツを脱いでいく。その途中でちらりとこちらを見上げた。
「女の子ってね、そういう視線に敏感なのよ。ほら、今も見てくるし」
「見たらダメなのか?」
「……ダメじゃないけど。恥ずかしいのよ」
脱いだ服を籠に入れて、逃げるように愛理が浴室へ向かった。そのあとを追って俺も浴室に入る。
「ねぇ、どっちから洗う?」
「俺の理性が保っている間におまえから先に洗っちまうか」
先に愛理を椅子に座らせて、まずは髪を洗う。
シャンプーにトリートメント、コンディショナー。彼女が買い揃えた品を使って丁寧に手入れしていく。髪を梳くように指を通して、丁寧に丁寧に。最後に洗い流すといつも通り柔らかで綺麗な髪に仕上がった。
「じゃあ、次は体お願いね」
「おう」
ボディタオルにボディソープを出して、擦るように泡立てていく。
泡立ったところで彼女の首筋から、そっと腕を回して優しく丁寧に擦る。
鎖骨から首筋のあたりを洗ったあとは、腕から指先まで撫でるように両腕を洗ったところで、今度は目の前に広がる小さな背中を傷つけないように優しく磨き上げていく。
「さて、次は前だな」
「……っ」
背後からぎゅっと抱きしめるように腕を伸ばして、鎖骨から下、胸のあたりに手を伸ばす。
ボディタオル越しに伝わる柔らかい感触が泡で滑り、卑猥に歪む様子を特等席で見ながら、谷間から胸の下。隅々まで泡だらけにする。その度にくぐもった喘ぎ声が聞こえて、思わず夢中になって洗ってしまった。
「……んっ、ねぇ……ちょっと……」
「なんだ?」
「触りすぎ。手つきがやらしいんだけど」
「いや、おまえがいい反応するからついな」
そのままボディタオルを投げ捨てて両手で撫で回すことをしなかった。それだけでも理性を保っていたと言えるだろう。
「もう。……まぁ、それは私も悪いとは思うけど。って、油断も隙もないわね」
残ったお腹まわりから下腹部に手を伸ばすと怒られてしまった。
「んじゃあ、次は立ってくれ」
愛理が椅子から立ち上がって振り向く。
向かい合った状態で手を伸ばし、腰から下。太股を洗った。
そのあとまた座ってもらい、膝から下、爪先まで指の間も余すところなく手をつけていく。
「よし、終わったぞ」
「待って」
終わって泡を流そうとすれば、愛理に手を掴んで止められた。
「どうした?」
「どうせ次は直人を洗うんだし、流すのはあとでいいと思うの」
「足滑らせて転ぶなよ」
「そんなドジしないわよ。それよりほら、座って」
攻守交代とばかりに愛理が立ち上がる。交代して座らされた椅子は、彼女の体温で少し生温かく泡でぬるぬるとしていた。
「じゃあ、洗うわよ」
「おう」
いつも通り任せると背中に柔らかな感触が当たる。その感触は少しだけ、というかいつもより強く押し当てられている気がした。
「なぁ、当たってるんだが」
「当ててるのよ」
髪を洗うために指を動かす度、押しつけられたおっぱいが背中で柔らかく潰れたり、擦れたりする感触が背中に伝わる。
意識は当然そちらに奪われた。手のひらでは味わえない感覚にもどかしいやら、もういっそ抱きしめて全身で感触を楽しみたい気持ちを必死に堪える。
「泡流すわよー」
……終わった頃には、身体の一部がガッチガチになっていた。
「ほら、今度は身体を洗うから。……悪戯したらダメよ」
「そういうおまえこそ、わざと誘惑してるだろ」
「さぁ、どうかしら?」
しらばっくれたまま彼女が、膝の上に座ってくる。
ボディーソープを泡立てて、タオルを絞って泡を胸の谷間に垂らす。そして、もう用はなくなったと言わんばかりに、タオルを掛けてしまった。
「……おまえ絶対あとで泣いて謝っても許さないからな」
あとで仕返すことを決意した瞬間だった。
「はぁ〜。こうやって湯船に浸かるのって久しぶりじゃない?」
お互いの体を洗い終えたあと、二人一緒に湯船に浸かった。
膝の上に座ってきた愛理を背後から抱きしめて、肩に顎を乗せて可能な限りくっつく。もうどちらの体温かお湯の温度なのかわからないくらい密着していた。
「そうだな。最近は面倒だから、手早く済ませるしな」
「私としては、毎日こうして浴槽の中で抱きしめて欲しいんだけど」
「それじゃあ、毎日やってやろう」
「喧嘩したりしても?」
「嫌がっても無理矢理連れてってやる」
「それは楽しみね。きっと喧嘩なんてすぐに忘れるわ」
愛理はクスッと小さく微笑んで、身を反転させた。
向き合う形になって、抱きしめ合う。
数秒ほど見つめあった彼女の瞳は、既に欲望に濡れていた。
次第に顔を近づけてきて、吐息が唇に触れたかと思った瞬間には、彼女の方から口付けを交わしてきた。
「ん……ふぅ……っ……」
触れ合った唇が擦れ合い、それだけでは飽き足らず舌を絡め合う。
唾液が絡み混ざり合う中、溶け合って境界線すら曖昧になるような快楽に身を浸す。
何度も、何度も、何度も。呼吸すら忘れて、お互いを貪り合うように繰り返し舌を絡め合った。
「……ねぇ、もうお風呂上がらない……?」
物欲しそうに見上げてくる彼女の唇から、銀の橋が落ちた。
今まで書かなかった理由は言わずもがな。