元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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今日は誰かの命日らしい

 

 

 

朝起きた時、身体に僅かな違和感を感じた。

何かが身体に乗っているかのように圧迫感があったのだ。重さは苦しいというほどではなく、心地良い重さだ。それに柔らかくて、人肌のように温かくて、安心する。

ふと目を開けて、寝ぼけ眼に映ったのは女神も裸足で逃げ出す美貌の女性。その女性は裸で覆い被さるように馬乗りになって、うつ伏せになって朝から顔を覗き込んでいるのだ。

僅かに視線を下に向ければ、そこは桃源郷。うつ伏せになった身体から果実のようにおっぱいがぶら下がり、それがまた胸板で卑猥に歪むという扇情的な光景が広がっている。

 

あまりの絶景に、我が愚息はスタンディングオベーションだ。

 

「おはよう直人。こっちにも挨拶した方がいいかしら」

 

お互いに裸でいるためかその感触はダイレクトに伝わる。

どこが、とは言わないが擦れた。

 

「是非ともそうしてくれ」

「もう、朝から元気なんだから。昨日あんなにしたのに……」

 

呆れたように愛理は言うが、嫌がっているようには見えない。むしろこうやって甘えてくるあたり、その言葉を待っていたのかもしれない。

 

「でも、だ〜め。早く朝ごはん食べないと」

 

しかし、愛理は楽しげに人差し指を俺の鼻に当てると窘めるようにそう言ったのだ。

 

「期待させておいて落とすなよ」

「今日は実家に行かないといけないでしょう。朝ごはんも早めに食べないと、お昼食べられなくなっちゃうわよ」

 

おっとそれはいけない。

 

「……むしろ食べないという選択肢は?」

「私お腹空いたんだけど。誰かさんが激しくするせいで」

 

第二の選択肢として朝を抜くことを提案すれば、昨日の夜のことを引き合いに出される。もはや俺に選択肢はなかった。

 

「じゃあ、朝飯にするか」

「その前にお風呂ね。汗流したいし」

「……そうだな」

「いまえっちなこと考えたでしょう」

「目の前に裸の女がいて、えっちなこと考えるなって方が無理あるだろ」

「もう」

 

満更でもない様子で、愛理は困ったように微笑んだ。

 

 

 

一時間かけてシャワーを浴びて、二人でゆっくりと湯船に浸かって日頃の疲れを癒したあと、二人で朝食の用意をした。

一枚のトーストに、半熟の目玉焼きと表面をカリカリに焼いたベーコン。それにレタスを付け合わせた簡単な軽食だ。

完食したあとは二人で珈琲を飲みながら、ソファーに座って適当なニュースを眺めていた。

 

「……」

 

交通事故や殺人事件のニュースに続き、芸能人のスキャンダルがニュースに流れる。だが、残念ながら芸能人や有名人といった流行りには疎く、有名だと言われても誰だかわからないのが現状だ。流行りの歌手とか、俳優とか、芸人とか。どこかで見たなぁぐらいの感想しかわかないし、興味もない。その点は愛理も同じようで、誰?という顔で画面を眺めていた。

 

「そんなことより–––」

 

大事なことがある。流行りの歌手とか、バンドとか、ドラマよりも。優先すべきは手土産だ。

朝のニュース番組をつけたのも、妹ちゃん……鹿島家に持っていく菓子折り候補を探すためなのだ。

 

「何持って行ったら喜ぶと思う?」

「適当にケーキでいいんじゃない。っていうか、気にする必要ないわよ」

 

愛理はこう言うが気にした方がいいだろう。毎回持っていく手土産を楽しみにしているみたいだし、本人曰く甘いものは好きらしいので。ただ今までに持って行ったものは目新しさがなく、同じものとなっては芸がない。

職場の女性達の噂では、和菓子が人気らしいが女子中学生にはいかがなものかと悩んでいるのである。

 

「なぁ、都って和菓子食う?」

「それなりに好きよ。甘いもの好きだし」

「じゃあ、羊羹やどら焼きでも持ってくか」

 

最近、テレビにも出た和菓子店が大人の女性に人気らしく噂になっていた。念のため愛理に聞いてみれば、そんな噂が彼女の勤める会社でも流れているらしい。そこで買って行くことに決めた。

 

「ねぇ」

「ん」

「……呼んだだけ」

「そうか」

 

珈琲を飲み終わった愛理が、首を傾ける。

俺の肩に頭を乗せて、幸せそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

少しだけ早めに家を出て、話題の和菓子屋で人気の和菓子を購入したあと。電車に乗って地元へと帰って来た。

帰って来たと言っても短期間に三度も訪れていれば、帰って来たという感覚はない。実家にも寄らず、愛理の実家に通い詰めているあたり思うところがないわけでもないが、考えるだけ億劫になるので強制的に頭から振り払う。

 

「ただいま」

 

躊躇いもなく実家の玄関を開けて入って行く愛理を追って、俺もまた敷居を跨ぐ。三度ともなると少しだけ慣れたが、やはり他人の家というのはどうも落ち着かなかった。

 

借りてきた猫のようにおとなしく追従してリビングへ向かうと、いつも通りいい匂いがキッチンからしてくる。誘われるように視線を向けると、キッチンに都が一人立っていた。

 

「いらっしゃいお兄さん」

「おじゃましてるよ。はい、これ。今日は和菓子」

「おや、奇遇ですね。今日は和食中心なんですよ。とりあえずそこ置いておいてください」

 

言われたままにダイニングテーブルの上に置いて、見当たらない人影を探す。

 

「志穂さんは?」

「お母さんなら少し出掛けてます。そのうち帰ってきますよ」

「そうか……」

 

挨拶をしておきたかったのだが仕方ない。おとなしく待つことにする。

 

「なんですか〜、せっかく可愛い女子中学生に会えたっていうのに、お母さんの方が会いたかったんですか〜?」

「そういう誤解を招く言い方をするなよ。俺の脇腹が死ぬ」

 

愛理がちょっと不満そうに脇腹を抓ってくるのだ。誤解にしたって酷い。

 

「とりあえずお兄さんはソファーにでも座って待っていてください。そこに立っていられると邪魔なので」

 

女子中学生にお叱りを受けて、リビングにあるソファーに座る。手伝おうとした愛理も邪魔と言われて俺の隣に腰を下ろした。

 

「そういえば京介は?」

「部屋でゲームでもしてるんじゃないですか。今の時間暑いですし」

 

姉の疑問に煮物の様子を見ながら、都は具材の柔らかさを確かめるために竹串を突き刺す。菜箸で適当にしないあたりうちの母親とは大違いだ。

 

「ねぇ、直人は様子見に行かないの?」

「なんで?」

「ほら、仮にも勉強教えることになってるわけだし」

「あくまで高校に入れるように面倒見ろってだけで、厳密には違うんだがな」

 

きっと志穂さんも理解しているはずなのだ。京介はやればできる子なのだと。

考えてもみてほしい。『勉強をしろ』と言うのは簡単だ。ただそれでやるかどうかは別問題で、結果が出るかどうかも別問題だ。急いては事を仕損じるとも言うし、ほどほどに頑張るのが効率的な結果を生み出すというのが自論である。

 

「それにもしここで勉強しろ、だなんてやる気のあるやつに言うとどうなると思う?」

「んー、励みに……はならないわね」

 

実例に心当たりがあるのか、愛理は少し考えたあとで苦笑する。

 

「今からやろうとしてたって子供の言い訳があるだろう。実際にやろうとしていた時に言われたら腹立つし、やる気をなくす。俺も同じタイプだったからよくわかる」

「実体験なのね。まぁ、直人らしいっていえばそうだけど」

 

クスクス笑う愛理は学生時代を思い出しているのか、ちょっと楽しげだった。

 

「だから、冷やかしに行くのはナシだ」

 

俺は絶対に見に行かないというスタンスを崩さない。

それに俺が行ったところで、京介がやる気を出すだろうか?

自分なら美人な家庭教師にでも見てもらいたいところだ。

 

「あまり煩く言うと逆効果だから、適当に餌ばら撒いたわけだけど」

「お兄さんってそういう子供の扱い上手いですよね」

 

煮物の火を止めて、都がリビングの方へとくる。

 

「まぁ、彼自身が大きい子供みたいなものだし」

「子供のまま大人になるとこうなるんですね」

 

姉妹揃って俺の評価が酷い。

 

「その子供のまま大人になった男を好きなのは、どこの誰だよ」

「感謝しなさいよね。あんたの面倒見切れるの私くらいなんだから」

 

姉妹揃って揶揄ってくるので言い返すと、愛理は調子良さげにそんなことを言い出す。

 

「お姉ちゃんに捨てられたら、拾ってあげましょうか?」

「助かる」

「ちょっとなに浮気しようとしてるのよ」

 

雲行きが怪しくなったところで、愛理が焦ったように腕を掴んできた。私のだと言わんばかりに密着して腕を絡みつかせ、牽制するように妹の方を睨む。

 

「–––あ、お母さん帰ってきた」

 

姉までも揶揄ってみせた都は、逃げるように視線を逸らす。ただそれは嘘ではないようで、車庫のあたりで車の音がする。

耳慣れた音のようで、愛理も車のエンジン音に反応して顔を上げた。

 

–––ガチャッ。

 

車のエンジン音が消えて、玄関が開いた。

話し声がする。男性と女性のものだ。

片方は志穂さんのもので、もう一つは……。

嫌な予感がした。

 

「ただいま愛しのマイスウィートエンジェル!パパが帰ってきたよ!」

 

リビングの扉が開け放たれて、反射的に振り返った俺と男性の視線が合う。合ってしまった。

どうやら今日が俺の命日らしいと悟った瞬間だった。

 

 




ラスボス降臨。

今後やるかどうか不明なのでスペック説明。
愛理が大学生の時に交通事故で生死の境を彷徨ったが、奇跡的に回復して生き残る。当人曰く、娘の花嫁姿見るまで死ねないとのこと。ただし娘は嫁にやらんが基本なので、その未来は遠い。
その後、バージンロードを娘と歩きたいという理由でリハビリを頑張り回復に至ったが、その間に将来性に不安を持った妻が再就職した。
元から病弱なこともあって、流行病には弱くインフルエンザは高確率で疾患する。他にも病気等で約一年ほど休職していた。
その後、仕事を頑張るため出張や単身赴任を繰り返している。元々は家族皆で引越したかったが、妻には仕事を理由に、娘にも仕事を理由に、双子には学校を理由に断られ泣く泣く独りで向かった。
RPG風にスペックを解説すると、『娘の花嫁姿を見るまで死なない』『娘は嫁にやらない』という常時バフ状態で無敵状態と言える。ラスボススペック。
ポケモン風に言うなら、厚底ブーツと防塵ゴーグル両方持ったヌケニン。

シュレーディンガーした時から登場させるなら、迎え火しかないと思って書いた。ちなみに迎え火にも、送り火にもまだ早いもよう。
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