元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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お嬢様ですわ

 

 

 

「きゃあっ、ちょっとお兄さんどこ掴んでるんですか!?」

「不可抗力だ!」

「耳!あ、顔近いです!離れてください!」

「無茶言うな!ってか、足掴むのやめてくれないか?」

「えー、無理ですよ。何掴めばいいんですか!?」

「俺が掴んでるんだから掴む必要ないだろ!」

「掴んでる方が安定するし、安心するんですよ!–––きゃっ」

「うおっ」

 

左右に揺さぶられ、急な下降にスピードを上げたスライダーに身を任せて数十秒、最後のトンネルを通ったかと思うとポンと空中に放り出された。

突然の浮遊感が感覚を引き延ばす中、弧を描いて水面に落ちる数秒先の未来が見えて、その直後には通常通り時間が進み、落ちていく感覚を自覚した。

 

「–––っ!?」

 

–––ドボンッ。

 

水に重いものを投げ込んだような音が鳴った。

反射的に俺は都から手を離して、水面へと浮上する。

都はすぐそばにいた。胸を隠すように掻き抱きながら、俺の方を赤い顔で睨んでいる。

 

「……お兄さんのえっち」

「いや、仕方ないだろう。本当に事故なんだって」

「絶対わざとですよ」

「急な下降で離れそうになって、掴み直した場所がその……なんだ、あれだったんだ。悪いと思ってるけど故意ではないから」

「言い訳が必死でそれもどうなのやら」

 

背を向けて都は歩き出す。いつまでもその場に留まると後続の邪魔になってしまうため、俺も都の後を追ってプールの端に移動する。

立ち止まった彼女の背後でなんとかご機嫌を取ろうとするも、押し問答の繰り返しで機嫌を直してくれない。本気で怒っているようには見えないが、それはそれ、これはこれである。

 

「お姉ちゃんに言っちゃおうかな〜。お兄さんにおっぱい触られたって」

 

わざとらしく声に出す都。それが俺を揶揄っているのだとしても、事故とはいえ事実なので俺は反論できない。

たとえ小悪魔めいた笑みを浮かべていたとしても、言葉通りに伝えられたら困るのだ。

 

「……何が目的だ?」

「え〜、そこまで言うなら夕食焼肉で手を打ってあげますよ?」

「わかったよ。……というか、おまえ最初からそれ目的だろう」

「そう言うお兄さんこそ、今日の夕食は外で食べるって決めてたんじゃないですか」

 

スパリゾートで遊び疲れた愛理に夕食の用意を頼む気はなかったのは確かだ。都のリクエストを甘んじて受け入れておくことにする。

 

「じゃあ、許しましょう」

 

機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら、都がプールから上がる。

小悪魔の微笑みをどこへやら、子供らしく喜色満面な様子に俺も少しだけ嬉しくなった。

 

「それで次はもう一つのスライダーか?」

「それもやってみたいんですが、またお兄さんに胸触られそうなので」

「……本当に事故だって」

「わかってますよ。お兄さんに女子中学生のおっぱいを触る度胸なんてありませんから」

 

複雑な気持ちだが、そんな度胸はいらないので黙っておく。

俺だって、愛理を置いて豚箱にぶちこまれたいわけじゃない。

 

「実はさっき小耳に挟んだんですが、翠ちゃんも来ているみたいなんですよねぇ〜」

 

まるで獲物を見つけたような顔で、そんなことを言い出す。

翠とは桜の妹の名前で、都の友達らしいというのはつい先ほど得た情報だ。

姉が来ているのだから、妹も来ているのは納得である。家族で来たのならなおさらだ。それを桜に聞いておいたのだろう。

 

「そうか。友達と遊ぶなら、俺は愛理の方行ってくるけど」

「いえいえ、まだお昼じゃないのでいてくださいよ。むしろいた方がおもしろ–––いえ、一緒の方が楽しいと思いますし」

「今すっごい不穏な言葉が聞こえた気がするんだが?」

 

俺の勘違いでなければ、「面白い」と言いかけていたような気がする。何が面白いのかわからないが。

 

「いる場所にあてはあるのか?」

「それがわからないから今から探すんじゃないですか」

 

背中を押されて適当な場所を歩きながら、ひたすらその人物を探す。

 

「っていうか、その翠ちゃんってどんなやつなんだ?」

「翠ちゃんは……お嬢様様です」

「いや、そりゃ財閥のお嬢様なんだからお嬢様だろう」

「いえ、そういうわけではなくて……生粋のお嬢様というか、ちょっと偉そうな感じなんですよね」

「偉そうなお嬢様って、おーっほっほっほ、とか高笑いしたりする?」

「ええ、しますよ。翠ちゃんは」

「本当にそんなやついるんだ!?」

 

なるほど。確かにそれは面白い、というか見てみたい気はする。本当ならそういうこと言ってはいけないのだろうが、非常に翠ちゃんという人物に興味が沸いた。

 

「どんなやつかはわかったが、容姿は?」

「シンデレラバストです」

「身体的な特徴だけど、そういう意味じゃないんだよ」

「えー、お兄さんおっぱい好きじゃないですか。会って残念な気持ちにならないように最初に教えておこうと思って」

「余計なお世話だ」

 

ゴホン、とわざとらしく咳をする。

 

「探してる情報がシンデレラバストだけだと、わからないんだよ」

「そうですね。姉と同じ桃色の髪で、縦ロールです」

 

–––思ったよりもわかりやすい情報がきた。

 

「瞳は翡翠色ですね」

「なるほど。……それってあんなの?」

 

ちょうど視界の隅に、ビーチチェアで寛ぎながらメイドっぽい人に椰子の葉のようなもので扇がれている桃色縦ロールを見つけて、指差すと都は瞬きを一つして頷く。

 

「あれですね」

「だよなぁ」

「じゃあ、行きましょうか」

 

そう言って都は遠回りに進む。お嬢様に見つからないように死角に回り込み、悪戯な笑みを浮かべながらそっと近づいていく彼女を俺は止めることができなかった。

 

メイドさんは気づいたようだが、都を見ると「なんだあの子か」と素知らぬふりをして業務に戻った。

ビーチチェアの後ろに隠れて様子を窺い、その悪戯な笑みはより一層強く輝いた。次の瞬間、都は勢いよく立ち上がる。

 

「わっ!」

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

突然目の前に現れた都に驚く少女は、ビーチチェアから転げ落ちてそのままへたり込む。

 

「なんですの!?なんですの!?」

「やっほー、翠ちゃん」

「鹿島都ぉ、何故あなたがここに!?」

「なんでって遊びにきたからですけど」

 

遊びにきたと言って、都は両手をがおーと構える。その手がわきわきと何か揉むように動いているのはきっと気のせいだろう。

 

「へーい、彼女。可愛い水着だね」

「その手はなんですの?–––きゃあ!ちょっと!やめてくださいまし!」

「あれ、ちょっと大きくなった?」

「本当ですの!?」

 

都は少女に襲いかかり、その手を迷うことなくシンデレラバストと呼ばれる胸に伸ばし、思う存分捏ねくり回す。最初は抵抗していたお嬢様だったが、胸が大きくなった?と言われて抵抗が止んだ。

 

「あ、ごめん。やっぱ気のせいかも」

「あなたの言うことを信じたわたくしがバカでしたわ!」

 

ぺしっ、とお嬢様が都の手を払う。

ようやく都が離れて、お嬢様はこちらを見た。

 

「……誰ですの?」

「お姉ちゃんの大切な人。翠ちゃんにわかりやすい表現をするなら、義兄になるかもしれない人かな」

 

耳聡く反応したお嬢様は、ワンピースの水着で綺麗にカーテシーする。

 

「はじめまして。わたくし米倉翠です。今後とも末永くよろしくお願いしますわ。お兄様」

「お兄様……?」

 

何故か米倉財閥のご令嬢にお兄様と呼ばれて困惑する。すると都がこそっと耳打ちしてくれた。

 

「翠ちゃんは京介のこと好きなんだ。片思いだけど」

「あぁ、そういう……?」

 

それにしたって先走りすぎじゃないかと思うのだが、俺も都にお兄さんと呼ばれているあたり強く言えるわけがなかった。

 

「俺は藤宮直人。よろしく翠ちゃん」

「藤宮直人……?どこかで聞いた名前ですわね」

「桜ちゃんから何か聞いてないか?」

「あぁ、お姉様のご友人の方。姉が日頃からお世話になっておりますわ」

 

お世話した覚えはないのだが、世辞だろうし強く反論する必要はないだろう。俺は気にしないことにした。

 

「それはそうと都さん、あなたがいるということは……あの方は?」

「いるよ。どこにいるか知らないけど」

「そう。ちょっとわたくし急用ができたので失礼しますわ」

「頑張ってね〜」

「それではごきげんよう」

 

去っていくお嬢様の口から「すぐに監視室に連絡して、京介様の居場所を捜しなさい」とかメイドに囁く声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

「京介のやつ、面白いやつに好かれてるな」

「でも、片思いですからね。ただ翠ちゃんはいつも高圧的なので、京介に好意が伝わってないんですよね」

「どこかで聞いた話だなぁ」

「奇遇ですね。身近にそんなカップルがいた気がします」

 

さて、誰のことやら。

 

 

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