元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

51 / 190
※本編とは関係がありません。感想返しから生まれたネタです。
※時系列は卒業式後です。


if『二人だけの卒業式』1

 

 

 

–––知らない天井だ。

 

目を覚まして、じっと天井を見続けた出た結論がそれだった。

時間にして約三十秒、寝惚け眼で白い天井を眺めて、いつもと違う違和感を覚える。

自分の部屋の天井じゃないことに気づいて、定番のセリフを心の中で呟きつつ意識を覚醒させたあとで、ようやくそこで自分が寝ている寝具が違うことに気づく。

反発力がいいマットレスに、よく跳ねるスプリング。おまけにサイズはシングルではなく、ダブルだ。良質なだけなら違和感で済んだが、さすがにサイズは間違いようがない。

 

少しだけベッドを軋ませて楽しんだあと、ベッドから身を起こすと、ようやく部屋の全体像が見えた。

ワンルームほどのサイズに他の家具はなく、空調用の換気扇と、小さな窓、それから何故かガラス張りの壁の向こうにバスタブとシャワーヘッドが見えた。おそらくは浴室なのだろう。

寝室の真横に浴室。それも透け透けのガラスの壁。建築家は何を考えてこのような構造にしたのか意味がわからないが、なんとなく心惹かれるものがあった。

 

奥には通路があり、トイレであろう部屋と、ドアらしきものも見える。ただ修学旅行で見た電子ロック式の鍵のようで、ランプは赤く光っており、その色の意味がそのままならロックされているということである。

 

もし、出入り口があれだけなら、俺と“ベッドで眠りこけている女性”は閉じ込められているということだ。

 

そして、解除する方法はひとつ。

その方法が記された、壁に吊るされた額縁を見る。

 

『交尾しないと出られない部屋』

 

–––と、書かれたそれを。

 

白い壁に、達筆な黒い文字で書かれたそれはよく目立つ。

ワードセンスもさることながら、内容が内容なだけに注目せざるを得ない。

本当は目を逸らしていたかったが、無視することは許さないとばかりにデカデカと書かれているのだ。

 

「誰だよこんなくだらない悪戯したやつ……」

 

目覚めて最初の発言がそれでいいのかと思ったが、思わず口から漏れてしまったものは仕方がない。

この危機的?状況を共有する女性はまだぐっすりと眠っており、起こす気にもならず、とりあえずは状況の把握をしようと一人ベッドから足を踏み出した。

 

まずは、脱出経路の確認である。

出入り口らしき扉は電子ロックの機械がついており、鍵穴のようなものは見当たらない。

赤いランプが示す通り、ドアノブを回そうとしても開かない。

正規ルートは間違いなく塞がれており、壊すという選択肢もあったがそれで解除できる確証はないので、軽率に行動に移すのはやめておいた。

 

次は小さな窓。

数は二つほどで、普通に開くことができる。

ただし頭一つしか通らない上、鉄格子が取り付けられている。

ここからの脱出は不可能だろう。

 

次に二つほどあった扉だ。

片方は予想通り、トイレだった。和式ではなく、洋式であったのが救いか。スペースはなんというかちょうどいい家庭の大きさである。実に落ち着く雰囲気だ。

そしてもう一つの扉は、食糧庫のようだった。

冷蔵庫、電子レンジ、ダイニングテーブルと椅子が置いてあるだけで他は何もない。

あとはダンボールに詰められた保存食やレトルト食品の類である。

 

そして最後に、ペットの出入り口を彷彿とする謎の小さな扉。

当然、人間が出入りできるサイズではない。

 

「……本当に閉じ込められてる」

 

ベッドに戻った俺は、わざと声に出して言った。

この状況を知らずあどけない寝顔を浮かべている女性に対しての抗議でもあったのだが、夢の中の彼女には全く聞こえていないらしい。健やかな寝息を立てて熟睡中だ。

 

「……起こしても面倒だしな」

 

しかし、目を背け続けたって意味がない。

たとえ“あどけない顔で寝ている女性が卒業式の日に盛大に振った相手”だろうと、最終的には向き合わなければならないのだから。

 

「……」

 

自分だけこんな心労を抱えているのが不満で、抗議のためにそっと手を伸ばす。

あどけない寝顔を浮かべているその頰を、そっと優しくついてみた。思ったよりもしっとり柔らかで、冷たさに温かさがあるような感触に、少しだけ胸が熱くなる。

 

一回目は、起きないかの確認だ。すぐに指は引っ込めた。だが、やつは起きないし、むしろ幸せそうに頰を擦り寄せてくる。

 

二回目は一度だけではなく、ぷにぷにと何度も頰を突いてみた。その度に柔らかく形を変える頰の肌触りがよく、こいつが女だというのを意識してしまう。

 

そして、三度、手を伸ばした瞬間–––

 

『ピンポンパンポーン。–––あー、起きた藤宮君?』

 

–––文字通り、天の声が、天井の方から聞こえた。

 

その声はよく知っている声だ。

十二年、同じ学校に在籍していたのだ。

忘れるはずがないだろう。

鹿島愛理の幼馴染–––黒川鈴音。

優しくも、慈悲深い、学校じゃ聖女様なんて異名を持っていた女子生徒だ。

 

「おまえ黒川、これはどういうつもりだ!?」

 

反射的に見上げた天井には、スピーカーのようなものと監視カメラがついていた。

そちらの方角に向かって吠えるように叫ぶと、ベッドの方がもぞもぞと動いた。今は気にする余裕がない。

 

『先に言っておくけど、これは私だけの意思じゃないよ。クラスの総意』

「クラスの総意?」

 

悪びれもなく伝える声には、少しだけ感情が見え隠れしている。もっともそれが何かは本人に聞いてみないとわからないのだが。

もう聞くのも面倒くさくて、別のことに突っ込みたくなった。

 

「いや、誰だよこんな脳みそエロ漫画一色の頭悪い企画考えたやつ」

『それは円堂君』

 

円堂はたまに猥談をクラスでしている男子生徒だ。なお水泳の授業で女子の胸見て「あいつの胸大きいよな」で猥談を始めるのはだいたい円堂だ。納得した。

 

「それにしたってこんな場所を用意するのは、高校生には無理がないか?」

『円堂君、お父さんがとある映像制作会社の社長さんやってるんだって。それで作ったスタジオを貸してくれたの』

 

もうどこから突っ込んでいいのかわからない父親の職業に、用意された経緯を知ってしまい俺は頭を抱える。

 

「でも、さすがに外泊許可とか取れないだろ。俺はともかく、こいつの父親が黙ってないだろ」

 

そう言ってベッドに横になっている女–––愛理を指差すためにちらりと視線を向ければ、真紅の瞳と目が合う。俺はそれを無視するように監視カメラへと視線を戻す。

 

『そこはほら、ちゃんと許可は取ったよ』

「……嘘だな」

『嘘じゃないよ。お母さんの方には事情を説明したら、快く送り出してくれたよ。しばらく帰ってこなくていいって』

 

–––それは父親は無許可ということではないだろうか。

 

おそらく外泊許可は取ったが、詳細までは話していないだろう。そうでなければこんな企画に母親が加担するはずもない。

 

『別にそういうことしなくてもいいけど、その場合は大学生活が始まる三日前までは開けないから。それじゃあ二人とも起きたみたいだし、あとはごゆっくり。あ、ご飯は一日三回私が差し入れするから心配しないでね』

 

ぷっつりとマイクの電源を切った音が鳴る。

シンと静まり返った部屋に取り残された俺達は、しばらくの間、呆然とするしかないのであった。

 

 

 

それから十分ほど、視線すら合わせず二人きり。

昨日振った女と『交尾しないと出られない部屋』に軟禁されるという状況に追い込まれた俺は、起きた愛理からずっと目を逸らし続けていた。

 

「ねぇ……」

 

それも長くは続かず、沈黙を破ったのは愛理だった。

変わらず視線は向けない。気まずくて向けるはずもない。

そんな俺の服の袖を引っ張る感触がした。

誰が引っ張ったかなど、考えるまでもない。

この部屋には、俺と愛理の二人きり。他の人がいるはずもないのだから。

 

「なんだよ」

「そんなに私のこと嫌い……?」

 

ショックを受けたような暗い声。泣きそうな声。そうではないと否定してほしいと言わんばかりの声は、いったい何を悲しんでのものなのか。

あまりにも居心地の悪い空間に深いため息を吐いて、俺は彼女の方へと身体を向ける。

 

「……嫌い、だと思う」

「それって私の姿も見たくないくらい?」

「……いや、今のはその……卒業式のこととかあるだろ。振った手前、顔合わせ辛くて……」

 

『顔も見たくない』と思ったことはある。だが、今までのことを謝罪されたことで、少し緩和したはずなのだ。愛理がどうして俺に意地悪したのか頭では理解している。むしろ俺は理解のある方だ。

問題は心の方だろう。ツンデレというものを知識では理解しているが、心が受け入れられなかったのだ。

 

「……あんたがそんなこと思う必要ないのに。全部、悪いのは私だし……」

「バレンタインはその……俺も悪かっただろ」

「私の方が悪いわよ。元々その原因を作ったのは私だし」

「そうかもしれないけどな……」

 

俺は悪くない、なんて言える状況でもない。

理由はどうあれ、俺だって彼女を傷つけたのだから。

 

今度は愛理が目を合わせないように、視線を下げてしまった。

パジャマに包まれた胸の谷間に、視線が下がる。

愛理はそのまま何を思ったのか、意を決したようにその手をパジャマへと掛けた。

ぷちぷちと一つずつボタンを外していく。その度に今まで制服の下に秘められていた美しい肌が、下着と共に姿を現していく。

 

「ねぇ、私の身体じゃダメ……?」

 

最後のボタンを外して、愛理は懇願するように見つめてきた。

 

 




後半に続く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。