正直、鹿島愛理を性的な目で見たことはないとは言えない。
初めて彼女を女性として意識したのは、小学校三年から四年にかけての頃だろうか。
女性の成長期はその頃に始まるらしく、その頃には目に見えた変化があった。胸が大きくなり始めたのだ。
同じクラスでは一番早く大きくなり始め、やがてその大きさは小学四年生にしてはでかいと言えるくらい、大きくなっていたのである。
同じ学年で探しても、そのサイズは一人もいなかった。当然男子達は愛理の胸に視線を寄せたし、男女の違いというのを目に見えて理解させられた。
ただ俺にとってはその一度“愛理を異性として見た”という意識は、すぐに喧嘩と嫌悪感、それと恋愛感情に対する無関心さによって消えてしまったのだった。
それからもう一度、彼女を女性として意識したのは中学生の時だった。
小学生の時は花より団子、色気より食い気であったのだが、ここで異性というものを強く意識するようになったのである。
異性を意識した–––とはいうが、実際は性的なことに興味が出ただけだ。
当時はキスやおっぱいに触ることが一番性的なことだと思っていたのだが、性行為という動物における繁殖方法を知ってしまったのである。
俺の信条からすれば、性行為とは愛し合うものがするべき。
ただそれを揺るがしたのが、クラスで一番性的な魅力を秘めていた愛理だ。
それは恋ではなく、ただの情欲。
気になりはしたが、すぐにその感情は塗り替えられるのである。愛理への嫌悪によって。
そして、その感情がいつしか混ざり合い、“このメスガキをわからせたい”というものに変わっていった。
当然その方法は倫理的にまずいことであったし、情欲と嫌悪が混ざったケダモノとも呼べる欲望に変化したのだが、理性はそれをよしとしなかった。
何が正常で、何が異常なのか。
まず間違いなく言えることは、鹿島愛理を恋愛対象としては見ていないということだ。
嫌悪していたとも言える相手に、情欲を抱くのは正常なのか。
そのことに関して言うなら、俺は間違いなく性癖が捻じ曲がってしまったと言えるのかもしれない。
俺の信条からすれば、“性行為とは愛し合う者”とするべきことで。同時にこの欲望は異常だとも言えることなのだ。
「ねぇ、私の身体じゃダメ……?」
–––そして、今、合法的に彼女をぐちゃぐちゃにする権利を得てしまった俺は、一つの選択を迫られている。
目の前には、半裸の愛理がいる。ボタンを全て外し、はだけた扇情的な姿。誘うようなセリフは何を意図してのものなのか。
俺がもし彼女を無遠慮に傷つけられる悪人であったのなら、今すぐ彼女を組み伏せて、服を脱がして、欲望のままに犯していたのかもしれない。
そうだったならどれだけ楽であっただろうか……。
この状況になっても、理性が邪魔をした。
「な、何言ってるんだよ……」
欲望と理性の狭間で動揺する。
目を逸らそうとしたが、はだけた衣服の隙間から見える繊細な刺繍のブラと、それが形作る大きな胸の谷間、その下に見える小さな臍に目を奪われて視線が磁力に引き摺られるように戻ってしまう。
その反応でも十分、俺に色仕掛けが有効と思ったのか、愛理はそのままパジャマの上着を脱ぎ捨てた。
「なにってわかってるくせに。……たまに私の身体をそういう風に見てたの知ってるんだから。今もほら、目を逸らさないでしょ」
愛理が四つん這いで近づいてくる。
その姿は、まるで獣のようでどこか艶かしい。
手を伸ばせば触れられる距離。
そこでようやく、愛理は止まった。
「ちょっと待った。おちつけ。な?」
「……落ち着いてるわよ。昨日振られて、泣いて、どうすればよかったんだろうってずっと考えてた。それでも諦められないの。だから、私はどんな手を使ってもあなたを繋ぎ留めたいって思ったの」
確固たる決意のこもった声で愛理は言う。
俺が動揺している隙に、俺の腕を掴んでその手を自分の胸へと当てる。
その感触は想像よりも大きくて、柔らかくて、温かかった。
初めて触れた女性のおっぱいの感触に、頰が紅潮して、下半身に血が集まるのを感じる。身体は正直であった。
「こ、こういうことは恋人同士でやるものだろ」
「恋人になってくれなかったのはあなたじゃない」
「いや、好きでもないのに付き合うとか、そういうことするとかな……」
「別にいいわよ。あんたが私のこと好きじゃなくても。私が初めての相手にあんたを選んだの」
彼女の手が俺の手を包み込むように、彼女のおっぱいの上で重ねられた。
「我慢しないで、揉みしだいていいのよ」
ピクンと跳ねた指が、彼女のおっぱいの上でタップダンスを踊る。
その感触に愛理はくすぐったそうに甘い吐息を漏らした。
「恋愛対象として見られてないのは知ってる。私を愛してなくてもいい。それでも私は、あんたに抱いて欲しいって思ってるの」
愛理の視線がちらりと下に向いた。
うちの愚息は朝礼に起立したままだ。
僅かに紅潮する愛理の頰。
少なくとも性的には見ている証拠となってしまった。
「………………ちょっと考える時間をくれ」
豊かな胸の上に乗せられた手は振り払えないまま、そんなことを口にしていた。
◇
『交尾しないと出られない部屋』–––三日目。
ここに来て、何もしない日々が続いていた。
スマホも、ゲーム機も、テレビもない。
娯楽はなく、暇潰しをする方法というものが一切存在していない世界は、ある意味では健康的でいいのだが、この閉鎖空間に至っては常人なら精神が病むのではないだろうか。
–––実際、俺は我慢の限界だった。
何故か浴室は寝室の隣–––というよりは、併設されているのである。ガラス張りの壁の向こうにある故に、風呂に入っている様子がよく見えて、裸どころか色々恥ずかしいところも丸見えだ。
食堂の方に逃げようとすれば、愛理は見てもいいと言って誘惑してくる。男である俺は、そのお誘いに抗うことができず彼女が入浴する様子を隣で眺めているしかないのだ。
ベッドも一つしかなく寝る時は一緒で、寝巻きは支給された肌が透けるベビードール。
おまけに寝る時はベッドから落ちるからと、必要以上に身を寄せてくっついてくるのである。
–––そして、問題が一つ。
彼女はこの三日間、全力で誘惑してきた。
そのせいで昂った性欲は、鎮める場所すらない。
おかげで溜まりに溜まり、彼女を襲いたいという欲求が日に日に強くなっていく。
しかも三食全部、精力のつく料理ばかりだ。
今日が終わる夜の時間。
夕食後、今日は俺から先に入ってもいいと言われたので、風呂に入ることにした。
相変わらずガラス張りで心許ない壁は何も隠せていないが、男である俺は特に羞恥とかはなかった。
むしろ愛理が風呂に入る度に、盗み見る俺の方が緊張している有様である。
「……」
ガラスの向こうに愛理がいる。
その状況では愚痴も吐けず、シャワーの蛇口を捻る。
ようやく水音に隠れて、独り言を呟こうという時だった。
「入るわね」
トイレ、浴室、唯一一人になれる空間。
そこに侵入する愛理。
当然彼女は、一糸纏わぬ裸体を晒している。
ぎょっとしている俺に、そのまま近づいてあからさまに抱きついてきた。
「なっ、おまっ」
今までで一番の触れ合い。
お互いに阻むものはない肌同士の接触。
大きな胸の感触も、男にはない肌触りも全てが纏わりついて、身体にぴったりと張り付くようであった。
「なにしにきたっ?」
「背中流してあげようと思って」
うちの愚息はこういう時も素直である。もはや本体と言っても過言ではなく、口よりも俺の本心を表していた。
「それともする?」
魅力的な提案に愚息の方が反応する。
その様子をにんまりと笑顔を浮かべて確認していた。
「冗談よ。誘惑はしにきたけど」
そう言って、シャワーでお湯を頭から被せる。
そのまま彼女は慣れたようにシャンプーを手に出した。
あの白い液体が、いやらしいものに見えてしまったのは俺の心が穢れているからか。
とりあえず無心を貫くことにした。
「じゃあ、洗うわね」
姿見ほどの大きさの鏡がある。
鏡の中には、裸で映る男女が二人。
無防備で、今まで一番近い距離で彼女の裸を見ることができて、俺は身体を洗われていることよりそちらの方が気になった。
なんというか手慣れているのも、他に誰かにこんなことをしているのではないかという邪推が浮かんでしまう。
「……手慣れてるんだな」
思わず、口をついてそのことが出た。
すると愛理は胸を張って言う。
「弟や妹と一緒にお風呂に入るからね。その時洗ってあげたりしてるから」
「そうか」
弟君はなんと素晴らしい体験をしているのだろうか。羨ましい限りである。
「はい、じゃあ目を瞑って。流すからね〜」
間延びした声で、幼子に言い聞かせるように愛理は言って、再び頭からお湯を掛けて泡を流す。
背中に触れていた巨乳とも呼ぶべきおっぱいの感触が離れて、少しだけ名残惜しく感じたが、少し動くだけで擦れ合いもどかしく感じてしまう。
もしこのおっぱいを好きにできたら、好きなだけ揉みしだいてしまいたい。そんな欲望が沸々と湧く。
「じゃあ、次は身体ね」
ボディタオルにボディソープを垂らして、泡立てていく。
十分に泡立てたそれを、まずは首へと当ててきた。
「自分で洗える」
「ダメ」
丁寧に首を拭かれるように擦られて、動くたびに背中で彼女の胸が形を変えていく。それを自らの目で確認できないのは残念だが、背中は十分にその状況を楽しんでいた。
「動かないでね」
また背中から柔らかな感触が離れる。
そうして今度は、ボディタオルが背中を撫でる感触になった。
「いつもこんなことをやってるのか?」
「そうね。ほとんど毎日。なに、妬いてるの?」
「違う。ただ羨ましいと思っただけだ」
こんな美人な姉と毎日一緒に風呂に入る。
それを聞いた男子生徒達が羨ましがる話をどこかで聞いた覚えがある。
俺もその一人で、そういった願望はあった。
残念ながら、美人な姉も妹もいなかったが。
「あんたが望むなら、それ以上のこともしてあげるんだけど」
そう言われて嫌な男はいない。
理性の糸が張り詰めて、ピンと張った。
「……そういうのセフレって言うんでしょ」
背中を洗い終えたのか背中を擦る手が止まった。
「本来は、ここまでなんだけど……」
肩から腕に愛理が手を伸ばす。そして、丁寧に洗い上げていく。その度におっぱいに腕が当たって、それがもどかしいとばかりに強く押しつけられた。
右腕に始まり、左腕を洗い終える。指先まで丁寧に一本一本洗った。
「……」
背中側から正面へ。
移動してきた彼女は、目の前で膝をついた。頰を紅潮させて、ちらりと俺の下腹部に視線を向けてくる。その顔がさらに真っ赤に染まる。
彼女の身体は背中に当たってしまったせいか胸の頂は雲に覆われ、下腹部は手に持ったボディタオルで隠れており、肝心の部分は自主規制されていた。
「そ、それじゃあ、前を洗うわね」
どこを洗う気か聞く前に、胸板にボディタオルが触れた。
腕に挟まれた胸が、谷間を作り、より激しくぷるぷる揺れて、たまにそれが腹に当たる。
とてもよくない状況だ。うちの愚息が……。
そこまで考えたところで、俺は無意識に彼女の腕を掴んでいた。
「–––え、な、なに?」
「誘惑してきたのはおまえだからな」
千切れた理性の糸を、さらに引きちぎるように愛理を引き倒す。
そこまでされて状況をようやく理解したのか、顔どころか耳まで顔を赤くしている。
「ま、待って、洗ってる途中だし–––」
「そんなの後にすればいいだろ。今更遅い」
–––十二年分、揶揄われた仕返しが始まった。
余談ですが、このあと扉が開いても二人とも大学生活が始まる直前まで帰らなかったし、大学生活一年目はぐだぐだ関係を続けつつ、卒業後にはくっつきました。
そんな世界線もあったかもしれない、ifです。