元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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黒川鈴音の来訪

 

 

 

「–––それで、二人とも何か言うことは?」

 

対面のソファーに座った黒髪の女性。黒川鈴音は二言目に柔らかな微笑みと共にそう言う。

こんな和やかな表情なのに、幼馴染である愛理は目線を逸らしたまま一度も彼女の方を見ようとしない。

俺の膝の上にいた都は、何かを察したか黒川の隣に移動していた。その反対側に京介がしれっと座っている。

 

「久しぶりだな。黒川」

「うん。久しぶり藤宮君。卒業式以来だよね。まさかこんなところで会うとは思ってなかったなー」

 

言葉の節々に若干の棘を感じつつも、俺はポーカーフェイスを貫く。

嘘つけ、知ってただろ–––と叫ばなかった自分を褒めたい。

 

「ねぇ、愛理。私に何か言うことは?」

「……ひ、ひさしぶり」

 

何故か怯えたように挨拶を返す愛理。

 

「ねぇ、愛理。人と話す時は目を見て話しましょうって子供の頃に教わらなかった?」

 

そんな幼馴染の様子を見てか黒川は淡々と告げる。まるで子供に言い聞かせる大人のようだが、言葉の節々に背筋が凍るような迫力がある。

 

「あー、黒川。何を怒ってるんだ?」

 

喧嘩でもしたのか、と訊ねれば藪を叩いた蛇の如くぎろんと視線がこちらに向く。しまった藪蛇だったかと後悔した時にはもう遅い。ターゲットが俺に変わっていた。

 

「別に怒ってないよ?小学校のはじめから高校の終わりまでいつまでもぐじぐじヤキモキするようなラブコメを見せられた挙句、納得できない終わり方したくせにいつの間にかくっついていた二人に怒ってるわけじゃないよ?」

 

世間一般的にはそれを怒っているというのだが、あくまで黒川は認めないつもりらしい。

 

「そのくせくっついた報告を半年以上黙っていた二人に怒ってるわけじゃないよ?」

 

最後の一言に全てが集約され、俺は反論できずに押し黙る。

 

「……いや、俺連絡先知らないし」

「ねぇちょっと!?」

 

俺の突然の裏切りに愛理が顔を上げる。

そうすれば、自ずと怒りの矛先は一人に向いた。

 

「月に一回は連絡を取り合っていたのに、どうして教えてくれなかったのかな?」

「だ、だって付き合ってるわけじゃないし、不確かな状態で変なこと言うと誤解されそうだったし……!」

「それにしたって一言くらいあってもいいよね?ひさしぶりに地元に帰ってきてみれば、愛理は初恋の人と同棲しはじめたって聞くし、私はその報告を本人から聞きたかったわけなんだけど」

「そっちこそ帰ってくるなんて言わなかったじゃない!」

「私は驚かせようと思って。まぁ、逆に驚かされる形になっちゃったけど」

 

誰が報告、または密告したのかは知らないが情報源は間違いなく鹿島家の誰かだ。直接愛理の不在を知られた場合は仕方がないので追及するという選択もなかった。

 

「県外に引っ越したって聞いてたんだけど」

「愛理から聞いたんだ。じゃあ、私の職業知ってる?」

「いや、聞いたことないな」

 

お互いに意識的に避けていたので必要以上に他人の詮索はしていない。話題に上がったのもつい最近で、深く追求したりはしなかった。特に黒川の話題は愛理も話したがらなかった。

 

「正解は〜、学校の先生です」

「あ〜、そういえば昔、おまえやりたいって言ってたっけ」

「うん。今年の二学期から、今の三年生が卒業するまで母校の中学校でね。産休に入る先生がいるからその代役」

 

その言葉を聞いた瞬間、愛理が双子に視線を向ける。

二人は揃って別々の方向に顔を逸らした。

 

「なら、夏休みの終わりくらいにはもう帰ってきてたのか」

「そうだよ。驚かせようと思って愛理の家に来たら、二人は同棲中だし」

 

もはや二人揃って黒川の前に呼び出されるのは時間の問題だったらしい。さもありなん。

 

「だ、だけど、本当に付き合ってるわけじゃないのよ」

「それは聞いてるよ。でも、言葉通りに受け取るにはちょっと無理があるかなぁ」

 

ジト目が俺と愛理を捉える。

 

「半年も一緒にいて、まさかヤってないなんてことはないよね?」

 

答えづらい質問–––否、断定に俺と愛理は揃って反論できなかった。それどころか初日に体の関係を持ち、毎日のように美味しくいただいているのだから反論できるはずもない。

 

「どんな理由でくっつかないのかは知らないけれど、愛理は重いし、藤宮君は情が深いし、こうなった以上なし崩し的に死ぬまで一緒のような気がするから長年見守ってきた私としては、二人の関係が前進したようでなによりなんだけど……」

 

その瞳から一瞬だけ、光が消えた。

 

「その私にただ一度の報告もないなんて、ね」

「いや、その……ね?」

「ふふ、私がいったいどれだけ苦労したと思ってるのかなぁ。二人を毎回同じ班にするために席替えのくじ引きの券を譲ったり、喧嘩したら毎回私が仲裁したりなんかして。イベントで毎回同じ班になるように誘導するの苦労したんだよ?」

「苦労したんですねぇ……」

 

しみじみと呟く都に、黒川はこう言った。

 

「挙句の果てに、藤宮君の好みのタイプが私だって噂が流れて、愛理と私が絶交しかけた話聞きたい?」

「あ、それはぜひ詳しく教えてください」

 

興味津々な都は、とても面白そうな話題にくらいついた。

制止する間もなく、黒川は語る。

 

「修学旅行の翌週だったかなぁ。藤宮君たち男子が恋バナしたらしくて、誰が好みか、好きな人が誰か話したらしいの。藤宮君は好みだけを答えたらしいんだけど、その特徴が私と一致してね。それどころか噂は捻じ曲がって『藤宮直人の好きな人は黒川鈴音』って噂が流れ始めて、それを聞いた愛理が不機嫌になってもう大変で……」

 

うわぁ、と都が同情した視線を黒川に向けた。

 

「ねぇ、理不尽だと思わない?」

「あ、あの件については、本当にごめんって謝ったじゃない……」

 

だから一時期二人の仲が悪くなっていたのか。

納得していると、敵視する視線がここにもあった。

黒川の隣、京介である。

警戒したような目で俺を睨んでは、不機嫌そうなオーラが滲み出ている。

 

「だそうですけど、お兄さん的にはどうなんですか?」

 

注目が俺に全て集まった。

 

「なんだよ」

「お兄さん、鈴音さんのことどう思ってたんですか?」

「どうって別にどうも……」

「そうですか〜?女の私から見ても、鈴音さんは魅力的だと思いますが。お姉ちゃんより」

「まぁ、確かに当時はどちらかといえば黒川の方がいいな、と思うことはあったけど、別に恋愛感情があったわけじゃないぞ」

 

すっぱりと言い切ると、都は面白くなさそうに唇を尖らせた。

 

「えー、嘘だー」

「誰かさんのおかげで女性が苦手だったもんで」

 

全員の視線が愛理に向いた。視線が集中した愛理はそっと視線を逸らす。

 

「じゃあ、仕方ありませんね」

「そうだろ」

「それで鈴音さんはお兄さんのことどう思ってたんですか?」

「えっ?」

 

話題の的が自分に移り、黒川が驚く。

 

「そういえばちゃんと聞いたことなかったわね」

「そ、そうだったかな。喧嘩した時にはっきり言ったと思うんだけど。恋愛対象として見てないって」

「それってお姉ちゃんがいるから遠慮して、とかじゃないんですか?」

 

すごくいやらしい質問を繰り返す都に、黒川の表情が崩れる。余裕のある微笑みが苦笑へと変わった。

 

「ん〜、そうだね。それもあるかな。藤宮君のことは人として好きだけど、異性として見るにはやっぱり愛理がいたからね」

 

何故か告白していないのに俺が振られた形になった。

 

「残念でしたねお兄さん」

「何が残念なのかわからないが、本当に女って恋バナ好きだよな」

「身近な人の恋愛話って気になるじゃないですか。参考になるかもしれないですし」

 

都はソファーから立ち上がると、とてとて走ってテーブルを回る。そして、俺の膝の上にぽんと飛び乗ってきた。

 

「じゃあ、ここは私の特等席ということで」

「自動マッサージ機能付きだ。よかったな」

「お兄さんのえっち」

「誤解を生むような発言するなよ」

 

確かにどこを触ってもセクハラになりそうだ。手を握るならギリギリセーフかもしれないが、それも全て都次第である。

 

「都ちゃんと藤宮君って仲良いんだね」

「そうですよ。私とお兄さんはそれはもう深く繋がっておりますので」

 

これみよがしに抱きついて仲の良さをアピールする。

隣で歯軋りの音が聞こえた。すぐにでも取り返したいところだが、親友の手前我慢しているのだろう。

代わりに愛理は俺の腕を痛いくらいに強く握った。

 

「あんまり愛理を揶揄っちゃだめだよ」

 

妹に弄ばれている様子を見て、小さな笑みを浮かべると黒川はそう言った。

 

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