元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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ラブコメの主人公さんは今

 

 

 

昼の二時を過ぎた頃。

俺達は夕食の材料を買うために、最寄りのスーパーに買い出しに来た。

スーパーの中へと入る少し手前で、都が一歩先に踏み出してくるりと振り返る。

 

「ところで私からひとつ提案があるんですが」

 

何か面白そうなことでも思いついたのか、都は楽しげな笑みを浮かべながらそう言う。

 

「……なによ?」

 

その悪戯っぽい笑みに怪訝な表情を浮かべたのは、またろくでもないことを考えてるなと察した実の姉だ。

 

「ただ作るのも面白くないのでお料理をする上でルールを決めようと思いまして。私とお母さん、お姉ちゃん、鈴音さんでそれぞれ一品ずつ作って誰が作った料理が一番美味しかったか、お兄さんに決めて貰うなんてどうですか?」

「ふふ、それは楽しそうね」

 

都の提案に考える間もなく、志穂さんもそう言って娘の提案に乗る。

 

「……いいわ。そろそろ決着をつけなきゃと思ってたところだし」

 

そんなわかりやすい挑発に愛理も乗った。

負けるはずがないと、そういう自信が溢れているような態度である。

食べるだけなら簡単、と言いたいところだが。

もっとも大変なのは優劣を決める俺だ。

助けを求めて黒川の方を見れば、澄まし顔でクスクスと笑っていた。

 

「鈴音さんはどうですか?」

「そうだね。いいんじゃないかな」

 

人の苦労も知らず、黒川も都の提案に乗る。

 

「それじゃあお兄さんのリクエストのローストビーフ以外の品で勝負ということで」

 

そこまで言って都が俺の腕を掴む。

 

「それではお兄さんは私がもらって行きますので」

 

そのまま強く引っ張る都に引き摺られるように、俺はスーパーへと入店する。

後ろで愛理が「あ、こら、狡いわよ!」と怒っていたが、それよりも早くコーナーを曲がり商品棚の一角に連れ込まれてしまった。

 

「また怒られるぞ」

「そういうお兄さんこそ私と二人っきりになりたくて自分でついてきたくせに」

「抵抗するのは無意味だからな」

「ものは言いようですね」

 

揶揄うような言葉選びで都は俺を弄んだあと、そのまま腕にぎゅっと抱きついてくる。

 

「それでお兄さん。ローストビーフ以外に何が食べたいですか?」

「また小狡い手を使ったものだな」

「やだなぁ、私は善意で聞いてるんですよ。それにお姉ちゃんたちだってお兄さんの好みは把握してますから、それを考慮した上で料理を作ると思いますけど」

 

適当に商品棚を見ながら、通路を歩く。

お菓子コーナーで、今日の夕食とは全然関係がない。

故に追いかけてこない、とも言える。

 

「–––で、本当の目的は?」

 

二人きりになったのには理由があるのだろうと問い掛けると、都は悪戯っぽい笑みを潜ませて少しだけ柔らかく笑った。

 

「ふふ、やっぱりお兄さんは勘が鋭いですね」

「あんなあからさまに連れ出されたらな」

 

商品棚の一角から顔を出して、野菜コーナーの方を見る。

カートを押す京介が黒川と楽しそうに談笑している。

『姉の親友×弟』か『教師×生徒』とも見れる禁断の関係は実にラブロマンスを感じる。

どこのラブコメの主人公だ、と思わず突っ込みたくなってしまう構図だ。その上お嬢様に好かれているのだから、彼の青春は充実したものだと言えるだろう。実に羨ましい。

 

「お兄さんから見て、あれどう思います?」

「どうとは?」

「お兄さんから見て、京介の初恋は叶うと思いますか?」

「無理だろ」

 

つい思わず即答してしまった。

 

「やっぱりお兄さんもそう思います?」

 

都も同意見らしい。

 

「理由を聞いても?」

「どう見ても親友の弟って感じだろ」

「歳だってかなり離れてますからね」

「まぁ、そういう意味じゃ男として認識されてないだろ」

 

それはかつての同級生たちにも言えることなのだが、それについては今は置いておく。

 

「私としてはさっさと諦めて、翠ちゃんとくっついて欲しいんですけどね」

「そりゃまたなんで?」

「友達ですので。友達の恋路は応援したいじゃないですか」

「弟の恋路はいいのかよ」

「そもそも無謀ですからねぇ」

 

双子の姉から見ても無謀らしい見立てである。

普段から二人を知る都から見てもそうなら、そうなのであろう。

そのまま観察を続けていると、人影が視界を遮った。

 

「二人ともそんなところからこっそり覗き込んで何してるのよ?」

「そこのところどう思いますかお姉ちゃん?」

「何の話よ?」

 

何もわからずとも愛理まで物陰に隠れて俺達の視線を追う。それから数秒して全てを察した。

 

「お姉ちゃんから見て、あれどう思います?」

「……私としては、翠ちゃんを推したいところだけど」

「お姉ちゃんと翠ちゃん似たところありますからねぇ。一部全然違いますけど」

 

姉と友人の姿に何を重ねたのか。

少なくとも、胸の大きさではなさそうだ。

俺は隣の愛理の胸元に視線を落として、再確認する。

 

「ところで翠ちゃんは知ってるのか?」

「それがまだなんですよねぇ。学校ではただの生徒と教師なので」

 

もう少し危機感を持つべきなのだろうが、こればっかりは俺にはどうにもできない。介入できるとしたら都だけなのだから。その都はスマホのカメラを構えている。

 

「一応聞くけど、何してるんだ?」

「少し尻を蹴飛ばすために、報告用の資料はとっておこうと思いまして。これならどっちにも肩入れしたことにはなりませんよね。ただの報告なので」

「そうね。やっちゃいなさい」

 

親友と弟をくっつけるのは嫌なのか、純粋に翠を推しているのか定かではないが、姉の後押しもあり、都はすぐに写真を撮りそれをそのまま送信してしまった。

 

「あ、電話がきた」

 

数秒で着信を報せるバイブレーションが鳴り、都が応答する。

 

『ちょっとどうして黒川先生と京介様が休日にデートしてるんですの!?』

 

いったい何と報告したのかあれは“デート”と称するらしい。

教師と生徒がそんな関係に発展していたら色々と問題があるらしいが、俺としては実に面白い展開としか言えない。

都が電話口で面白おかしく説明しているが、僅かばかり拡大解釈されているようである。

 

『すぐにわたくしも行きますわ!』

 

そう宣言するなり電話は切れた。

 

「お祝い事は人が多い方がいいですからね〜」

「祝い事?」

「……そういうお兄さんの鈍感なところ、私は好きですよ。同時に嫌いですが」

「悪かったな鈍感で」

 

まるで俺だけ知らないかのような物言いに愛理に視線を向けると、そっと視線を逸らされた。

 

「……なんで俺だけ除け者?」

「べ、別に仲間外れにしてるわけじゃないのよ」

「あとお兄さんだけは料理の完成まで一階に降りてきちゃダメですからね」

「なんで!?」

 

徹底的に排除すると言わんばかりの宣言に、つい涙が溢れそうになる。

 

「だって誰が作った料理かわかったら勝負の意味がないじゃないですか」

 

そう言われたら、除け者の意味がわかり安心する。

それならそうと最初に言っておいてほしい。

 

「さて、何を作りましょうかね〜」

「早く決めないとね。そういえばケーキはどうするの?」

「ケーキは既に手配が済んでますよ。手作りにするにしても、料理するスペースが足りないので別で作ってもらうことにしました」

 

仲良く談義を始める姉妹の背中を、俺はゆっくりと追いかけた。

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