元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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時間がない!


相席スタート

 

 

 

「で、どういうことか説明してくれるかしら?」

 

当然のように相席がスタートして、対面に座った愛理がそんなことを言い出す。

とてもいい笑顔なのに感じる圧力は就活していた時の圧迫面接並で、むしろそれ以上のような気もする。

俺はどう説明したものか、と新しく注文したフルーツティーに舌鼓を打ちつつ考える。

左には絶対零度の視線を向けてくる非番メイド。

右には何故か目を逸らして顔を合わせようとしない同僚。

おまけに俺と同じ苦境に立たされている都は、お目当てのロールケーキを堪能しているところだ。数秒視線を送っていると何を勘違いしたのかロールケーキをフォークで突き出してくる。すると愛理さんからの視線に圧力が増す。

 

「おまえわざとやってるだろ」

「え〜、何がですか〜?」

 

ロールケーキを自分で食べた都は、あざとくもそう言っておかわりのレモンティーで喉を潤すと、再びロールケーキの丸太を切り崩しに掛かった。

 

「なにをいちゃいちゃしてるのかしら?」

「してないしてない」

 

怒りのボルテージが上がる愛理をどうどうと宥めすかし、怒りを和らげようとするが不信な視線が変わることはなかった。

 

「それよりどうして三人がここにいるんだ?」

 

ならば、と現状を整理しに掛かる。

すると冬海が淡々と口を開いた。

 

「私達は片桐様にお誘いされて、お嬢様のバイト先に遊びに来たのです」

「ノリがまるっきり学生のそれなんだよなぁ」

 

それでもって割と迷惑なのだが、桜お嬢様に至ってはいたるところのバイト先で遭遇するのでそうでもない。当人はむしろ喜ぶタイプである。

冬海が片桐の誘いを受けたのも、きっとお嬢様絡みで渡りに船とついてきたのだろう。

 

「藤宮様はどうしてこちらに?」

 

そのメイドから話題を振り出しに戻され、笑顔のキラーパス。

逃がしませんよ、という鋼の意志を感じる。

どうにか誤魔化す方法を高速回転する脳で考えるも、ろくな考えが浮かばない。

カップに目を泳がせて、しどろもどろに答える。

 

「……俺は、美味いケーキを求めて?」

 

三人から鋭い視線を浴びせられる。よくみれば隣の都も「それはないでしょう」とジト目を向けてきていた。

小さく「はぁ」とため息をひとつ、フォークを皿の上に置いて、ようやく口を開いた。

 

「お兄さんにおねだりしたら、買ってくれることになったんですよ。期間限定の森の切り株ロールケーキ。つまりデートですね」

 

ざわり、と空気がざわめく。

 

「藤宮様は本当に救いようがないですね」

「ちょっと待て。どういう意味だ?」

「ロリコンで、変態で、女の敵という意味ですが」

「ええ……」

 

あまりの酷評に言葉を失う。もっとも強く否定したところで、必死すぎると逆に怪しいという自論があるからだが。

 

「まあ、お兄さんがロリコンかどうかはさておき」

「置くな。おまえからも否定しておけ?」

「え、常に身の危険を感じてるんですけど」

「真実味を帯びさせるのやめろ」

 

ただちょっとスカートから覗く太腿とかに目が吸い寄せられているだけである。もしや手遅れ?

驚愕の事実に愕然としていると、追及の手がすぐそこまで伸びてきていた。

 

「それじゃあ、私に黙って来た理由は?」

 

怒涛の攻めをやめない愛理から、次の質問が飛んでくる。

姉の責めるような視線には、都の嘘に対する追及と、俺の黙秘に対する追及が含まれているようである。

 

「えー、いいんですか、言っちゃっても?」

「なによ?言えないの?」

 

勿体ぶるように引っ張る都に、愛理が焦れる。

そんな姉に小悪魔が微笑んだ。

 

「お姉ちゃん最近体重を気にしているようなので、代わりに私を誘ってくれたんですよ」

「うぐっ」

 

確かに最近体重は気にしている。同棲を始めた時より2kgくらい体重が増えたような気もしないでもない。と、そんなことが顔に書いてあるようだ。

 

ならば何故、こんなところにいるのかは聞かない。その理由は俺達の主張に矛盾が生じるからである。

 

「まぁ、そんな気遣いも無駄だったみたいですけど」

 

だから、あっさりトドメを刺しに行った妹なんて最初からいないのだ。俺は全部聞かなかったことにした。

 

「……別にそれなら最初から言ってくれればよかったじゃない」

 

愛理の敗戦が濃厚になったところで、負け惜しみのような声が聞こえたが、都は笑顔を崩さず胸に刺さる一言を口にする。

 

「それに浮気だ逢引きだなんて騒ぎ立ててますけど、お姉ちゃん別に付き合ってるわけじゃないですし、そういう重いところが結婚に踏み切る邪魔をしてるんじゃないですかね?」

「ぐふっ!」

 

とんでもない一撃がクリティカルヒットして、愛理は胸を押さえてテーブルの下に視線を落とした。

 

「うっわ、妹ちゃん容赦ない……っ!」

 

何故かテーブルの下に身体を隠して、顔だけを出した片桐が都の評価を口にする。綺麗なものには棘があるとは云うが、その実例を前に戦慄しているようである。

 

「はぁ……。先が思いやられますね」

 

冬海は何を思ったのか、肩を竦めてそう評した。

そして、ちらりと俺に目配せをする。

「ほら、おまえの嫁だろうなんとかしろ」と目で訴えてくる冬海に、俺もまた目を瞑って眉間の皺を揉んだ。

 

「まあ、そういうことはどうでもいいだろ。何食べにきたんだ?一緒に食べよう、な?」

「お兄さんのそういう曖昧な態度も問題だと思いますが」

「おまえどっちの味方だよ」

 

–––都は俺の味方じゃなかった。驚愕の事実についそうツッコむ。

 

「私は私の味方です」

 

自信満々に胸を張る都は、ちょっと生意気だが可愛かったので良しとする。

 

 

 

一時休戦したあとは、三人分の飲み物とケーキを追加して五人のティータイムが始まる。

席を入れ替えて、俺の左右を鹿島姉妹が独占して、円形のテーブルの向こう側に残り二人が座る形となっている。

メンタルをぼっこぼこにされてから、必要以上にくっついてくる愛理と都に挟まれて、俺の二の腕はおっぱいの食べ比べと贅沢な状況を味わっていた。

 

「それにしても珍しいな。おまえたち三人が集まるなんて」

 

俺の認識では三人とも“藤宮直人”という人物を介した知り合いといった関係で、それほど親しくはなかったはずである。

度重なる会合で仲良くなった可能性もあるが、愛理から個人的に片桐と親交があるという話は聞いたことがない。

冬海に関してはそれなりに付き合いも長いので可能性だけなら、なし崩し的にコミュ力お化けの片桐に引っ張られた感じであろうか。

 

そんな三人の関係性を推測しつつ、三杯目にオリジナルブレンドの珈琲を飲みながら、左右から供給される糖分を中和する。

右からロールケーキ、左から桃のパイ–––ではなく、タルトを押し付けられること数回、間接キスの回数を換算すると二桁ほど繰り返している。

 

その様子を正面から眺める二人は、苦々しげに珈琲を啜っていた。注文したチーズケーキやブルーベリータルトを半分ほど食べたところで、もう甘いものはお腹いっぱいという顔で。

 

「藤宮君ってよくその状況でいられるよね」

 

店内から羨む視線の数々が突き刺さる中、羨望の光景に見惚れるあまり連れてきたパートナーに頰をつねられているカップルを尻目に、片桐はそう言って非難するが俺は何食わぬ顔で享受することをやめない。

 

「いいだろう」

「刺されるよ、そのうち」

「女の子に刺されて死ねるなら本望だ」

 

ニヒルな笑みを浮かべて見せると、若干引いた様子で実際に片桐が椅子を引く。

 

「本気で言ってるところがなんというか救いようがないなぁ」

「まぁ、簡単には死なないんだけど」

 

具体的には返り討ちにしてやろう、という気概くらいはあるわけである。

 

「藤宮様がバカなのは昔からですので」

「酷いな」

「事実ですから」

 

淡々と告げる冬海に、顔を顰める。

 

「というかおまえ、オフの日くらい楽にしろよ。仕事モード入ってるぞ」

「職業病ですので」

「状況によって対応を変えられない駄メイド」

 

ピクッ、と冬海の顔が引き攣った。

 

「……先輩?」

 

冬の海より冷たい声で呼び掛けられて、二人から分け与えられていた体温が急激に下がる。

藪を突きすぎたと理解して、俺はすぐに両手を挙げて降参する。

 

「悪かった。降参だ」

「わかればいいんです」

 

そんな俺と冬海の気安いやり取りを、見つめる瞳が二組。

 

「……そういえばメイドさんとお兄さんって大学の先輩後輩なんですよね。それにしては仲がいいですよね」

「そうよね。むしろ先輩後輩ってだけで、直人がそんな風に仲良くしている相手が大学にいたとは思えないけど」

 

訝しむような視線に、鋭い指摘が飛ぶ。

それに何よりわかりやすく反応したのは、片桐だ。

 

「あー、そういえばそんな話あったね」

 

そんな話あったどころか元カノだって話も知ってるくせに、目を逸らしつつ「私よく知らないよー」と主張する彼女は、これ以上不用意に口を開かないようにカップに口をつける。

 

「ただの先輩後輩ですよ。ちょっと頼りになって普段は不甲斐ない先輩と、面倒見がいい後輩の」

「いや、どっちかというと私なんでも一人でできますって感じで周囲突き放してたのはおまえの方–––」

「なんですか先輩?」

 

視線で釘を刺されて、俺もまた珈琲の海に沈んだ。

カップの被害者、二人目である。

 

「調教されてる……」

「見習うべきかしら……」

「できればおまえらはそのままでいてくれ」

 

とんでもない師匠が付きそうだったので、俺は慌てて二人を止めておく。

 

「まぁ、攻略は攻略本見ない方が楽しいですから」

「ゲーム感覚で攻略しようとするな」

 

ギャルゲーにしようと都が見立てたところで、俺はついそう言ってしまった。

 

「どっちかというと昼ドラ?」

「おまえはこれでも食ってろ」

 

片桐に自分のプリンを差し出すと、ふわりと花が咲くように頰を赤くする。

え、これ食べていいの?食べていいよね?と小動物のように問う様子に俺が頷くと、彼女は嬉しそうにスプーンに食らいついた。

 

「あ、目を離した隙にお兄さんが別の女といちゃついてますよ」

「そうね。こんなに密着してるのに」

 

そして、わざとらしく愛理が他の客からはわからないように身を寄せて胸を擦り付けてくる。当然、目の前の二人からはバレバレだが。プリンの余韻に浸っている片桐は気づいた様子もなく、冬海は公共の場でよくもまあと感心半分呆れ半分でこちらを見ていた。

 

「あといつからギャルゲーは二人プレイ推奨になった?」

「やだなあ、主人公はお兄さんなので一人プレイですよ」

「俺攻略する側かよ」

「当然じゃないですか」

「二十歳超えたおっさんが未成年口説くのは問題だろ」

「『※登場人物は全員二十歳以上です』はデフォですから」

「お約束だなぁ」

 

姉妹丼と云うワードが脳裏を掠める。

非現実的なワード過ぎて、脳内からすぐに振り払ったが。

 

「まあ、私かお姉ちゃんか、それとも姉妹丼ルートかは今はどうでもいいんですよ」

「置いておくフリしてとんでもない爆弾セットするな」

「そんなことよりも歳下後輩クールメイドをお兄さんが攻略しないはずがないんですよね」

 

あまりに具体的な指摘に、俺は一拍言葉に詰まる。

 

「そもそも俺がこいつの本職メイドだって知ったの、社会人になってからだぞ」

「お兄さんがクール後輩キャラを攻略しないはずがないんですよ」

 

言い換えたところで結局はそこに行き着いたらしい結論に、俺と冬海は微妙な表情をしてしまう。

それから数秒悩んでから、珈琲にミルクを追加してクルクルとマドラーで掻き混ぜる。そうしてできた渦を見つめながら、諦めたように冬海がため息を吐いた。

 

「さあ、どうでしょうね?」

 

普段は見ないメイドの柔らかな微笑は、まるで映画のワンシーンのように綺麗で。

その顔があの頃の姿と重なって、俺もまた惹きつけられるように見ていた。……頰をつねられるその時まで。

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