元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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十二月

 

 

 

『十二月』

 

最初の土曜日。二日。

俺は愛理に黙ってこっそりと出掛けていた。

目前には、赤い屋根の洒落た家。

言わずと知れた愛理の実家である。

本来は一人で来るのは抵抗があるのだが、愛理の母親である志穂さんたっての希望で訪問する約束なのである。

 

『はーい』

 

インターホンを押すと応答した後に、玄関が開いた。

顔を出したのは、俺を呼び出した志穂さん本人である。

 

「……お久しぶりです?」

 

最後に会ったのはいつだったか。十月、俺の誕生日以来、と思い出したところで『なんで愛理の母親に誕生日を祝われたんだろう』という疑問が今更ながらに浮かんだが、その疑問には蓋をしておくことにした。

 

「さ、入って入って」

「おじゃまします」

 

志穂さんの先導に従い、玄関へと踏み入れる。

いつも通りリビングへと足を運び、ソファーに腰を下ろした。

 

「直人君、紅茶でいい?」

「はい」

 

しばらくして、温かい湯気を立ち昇らせるカップを二つ手にした志穂さんが戻ってくる。

一つを俺の前に置いて、対面のソファーに座った。

 

「……それで、話というのは?」

 

突然連絡があり、二人きりで話したいと言われたのが昨日のこと。愛理には内緒とのことで一人で訪問することになってしまったのである。

まだ熱いカップにふうふうと息を吹きかけて、一口紅茶を飲んだ志穂さんは、カップをソーサーに置いて改まって姿勢を正した。

 

「そうね。取り敢えず、今月は何があるか知ってる?」

 

試すような口振りで志穂さんは言う。

特別な何かがあるとすれば、それは……。

真っ先に思い浮かんだのは、愛理の誕生日だ。

他に答えがあるのか、都に言われていなければ忘れていたかもしれない。

俺は愛理本人には言えない事実を隠しつつ、求められている答えを口にする。

 

「愛理の誕生日、ですかね……」

「そう。ちゃんと知ってたのね」

 

満足そうに志穂さんが頷いた。

都がケーキがどうのと言ってなければ、危なかった。

 

「まあ、それもそうなんだけど」

「他にも何か?」

 

思い当たる節がなく、聞き返す。

するとヒントを与えるように、志穂さんは呟く。

 

「恋人がいるなら、大事な日よね」

「クリスマスですか……」

 

あまりにも馴染みがないので、ぞんざいにそれを口にする。するとあまり思い入れのない俺の反応が気になったのか志穂さんは不思議そうに首を傾げた。

 

「あら、大事な日でしょう」

「恋人たちにはそうらしいですね」

「そういえば二人は“恋人”ではなかったわね」

「同棲はしてるんですけどね」

 

何故同棲することになったのか、と問われれば『わからない』と答えるしかない現状に苦笑しつつ、カップに口をつける。思ったよりも熱くて舌先を火傷した。

 

「愛理の誕生日は十六日。クリスマスは二十四日。二人はどうするつもり?」

 

また何かするつもりなのか、志穂さんは相談を持ちかけたという。つまり二人きりで過ごすか、みんなでパーティーをするか。そう聞いているのだ。

 

「デートくらいはしてあげたいと思うんですけどね」

「まあ、素敵ね」

 

問題は行き先だ。映画館や水族館等の主要なデートスポットは粗方行った。行ってないのは遊園地くらいのものだが、あれはデートスポットでも最高難易度を誇る罠スポットなのだ。

理由は待ち時間の長さである。平均一時間以上の待ち時間を会話で繋がなければならない。それにもし夏に挑もうものならば、熱中症というリスクまで追い打ちをかけてくる。

故にデート初心者が避けるべきデートスポットとは、どこかの漫画に書いてあった。

 

「どこに行くか決まってるの?」

「ええ、まあ……デスティニーランドに行こうかと」

 

言わずと知れた米倉グループが保有するテーマパークである。

男女二人でデートすると永遠に結ばれる、という噂がある遊園地型テーマパークであり、学生にも人気のスポットだ。

家族客にも人気が高く、学生から大人まで楽しめる場所となっている。

そして一番の注目は、パーク内でのコスプレが許可されており、様々な衣装に身を包めるのだ。貸し衣装もあり、ハロウィンはたいそう盛り上がるのだが今の時期はサンタコスが主流だろう。が、目的はそれではない。

 

「あそこなら、母校の制服を来て制服デートができるんですよねえ」

「制服デート?懐かしいわね。私もよく夫とやったわ。あなた達は……」

 

そう言い掛けて察する。気不味そうに口を噤んだ。

 

「あいつそういうの気にしてるんで、まだギリギリ似合ううちにやっておきたいんですよね。制服デート」

 

あくまで愛理の要望だと主張すれば、納得したように志穂さんは頷いた。たとえ二十代の娘が高校時代の制服に袖を通すとしても。

 

「そういうわけでデスティニーランドに行こうかと」

「いいわね〜、私も夫を誘ってみようかしら」

 

四十代の両親の制服姿など、子供達は見たくないであろうからそこは二人きりで行って欲しいところである。いや、俺は志穂さんの制服姿見てみたいが。少なくとも実母のは見たくない。

 

「ところで、プレゼントは何にするか決まったの?」

 

予定の大半も決まったところでほっとしたのも束の間、一番の問題が残っていた。

今言われなければ、忘れていた可能性すらある。

「あ」と口を開ければ、志穂さんには忘れていたことを悟られてしまった。

 

「忘れてたら、あの子泣くわよ」

「ですよね……」

 

ちびちびと紅茶を飲みながら、何かないか探る。

欲しそうなのが婚姻届と指輪くらいしか思い浮かばない。

 

「ちなみに志穂さんは何を?」

「私はワインよ。こういうプレゼントで渡せば絶対飲むし、積極的になるにはいいでしょう?」

 

飲酒後に何があるというのか。志穂さんは含み笑いを浮かべる。

 

「まさかクリスマスも必要とかないよな……?」

 

一つですら思い浮かばないのに、二つとか。気が遠くなりそうである。

 

「……それで話を戻すけど」

「ああ、はい」

 

プレゼントの件は今すぐには決められないので、志穂さんの呼び掛けでプレゼントの件は一旦保留に。

そういえば愛理の誕生日とクリスマスの予定の話だったと、脱線しかけた話が戻る。

 

「できればどっちかはうちに顔を出してくれると嬉しいのよね」

「どっちか、ですか……」

 

正直、どっちも顔を出していいのだが……。

 

「実は夫が帰ってくるから、顔を出さないと煩いのよね」

 

その一言で、顔を出す気が著しく失せた。

 

「帰ってくるんですね」

「大変よ。今はほら、都もいるでしょう?」

「……」

 

愛娘がどっちもいないとなれば、その怒りの矛先は間違いなく攫っていった俺であろう。

何が面白いのか志穂さんはニコニコと笑顔を浮かべている。

 

「……考えておきます」

 

今はただ、それだけしか言えなかった。

 

 

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