元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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それはそれとして

 

 

 

城への道中、取り敢えず片っ端から絶叫系アトラクションに乗ってみた。

定番のジェットコースター『フォレスト・スライダー』に始まり、空中ブランコ『妖精の楽園』、バイキング『海賊船の宴』など。

既に三つの絶叫系マシンを楽しみ、今は四つ目のライド・アトラクションに乗り込んでいた。

 

「……」

 

ゆっくりと高度が上がっていく中、不意に左手が握られる。

隣の愛理が、ちょっと不安そうに手を握ってきていた。

フリーフォール『バニー・ホップ』は、高さ100mにも及ぶ高所から落下する瞬間絶叫系アトラクションである。

国内でも最大級を誇るフリーフォールで、何時まで上がるのかわからない恐怖と、何時落下するかわからない恐怖、そして終わったと思ったら急に打ち上げられるように上昇したりする。

それはさながら兎が飛び跳ねているようで、そういった意味で名付けられたとか。

 

「–––らしい」

 

アトラクションの名前の由来を説明する最中、上昇する度に強く握られる手の感触を感じる。

不安でそわそわしている愛理は聞いているのかいないのか、にぎにぎと何度も握った手の感触を確かめていた。

 

「……ねえ」

「なんだ?」

「いつ落ちるの?」

「さぁ、もうだいぶ高いけどな」

 

まだゆっくりと高度を上げ続けるマシンから下を見下ろしながら、俺は一人景色を楽しんでいた。

園内を歩くミニスカサンタのお姉さんや、青少年の性癖を歪ませそうなバニーガールお姉さんまで。素晴らしき絶景である。

 

「なんか気の紛らわせるような話でもするか?」

「……お願い」

 

ジェットコースターを楽しんでいた愛理だが、日本でも最大級のフリーフォールは対象外のようで、そんな風に話を強請られる。

 

ならば仕方ないと、俺は話を続ける。

 

「実はこのテーマパーク、ちゃんとストーリー設定があるんだよ。あのお城にはピンク髪のそれはもう可愛いお姫様が住んでいてな」

「ねぇ、それ絶対あの子のことでしょう!?」

 

–––鋭いツッコミである。当然、米倉グループのお嬢様を知っていれば出る結論だ。

 

「そのお姫様が飼っている雪のように真っ白な兎が逃げ出したところからストーリーが始まるんだ。その兎を追い掛けて、お姫様も城の外に飛び出してしまうんだ。そこから大冒険が始まって、冒険者ギルドにペットの捜索依頼をしたり、森に行ったり、妖精と出会ったり、それはもう凄い大冒険が始まるんだが」

「そ、そう……っていうか随分と凝った設定なのね」

「今も大ヒットしてる長編ファンタジー小説だからな」

 

幼少期編が終わり、今は王国滅亡編である。それはさておき。

 

「このバニー・ホップは城壁の秘密の抜け道をぴょんぴょん飛び越えたところのアトラクションなんだよ」

「だからこんなに可愛らしい名前なのね」

 

そう愛理が感心したように言った瞬間、髪の毛が重力に逆らって上に垂れる。

 

「–––あ」

 

次の瞬間、落下した時特有の浮遊感が全身を襲った。

 

「いやあああぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

隣で絶叫する愛理の悲鳴が聞こえて、俺は無言でGに耐える。

しばらくして落下が止まり、再び跳ね上がるように上昇する。

 

「ふにゅっ!?」

 

素晴らしきは、跳ねるように動いたおっぱいであろうか。

制服であることが悔やまれるが、確かにおっぱいの躍動を感じた。

バニー・ホップとは、ホップとはよく名付けたものである。実によく跳ねるアトラクションだ。

 

–––ガタンッ。

 

跳ねて、停止する。

そして次の瞬間には、また落ちる。

 

「にゃっ!?」

 

情けない猫のような悲鳴を上げて、愛理は一度目とも比較しても劣らない絶叫を轟かせた。

 

何度か上昇と下降を繰り返して、地上に辿り着く。

その頃には魂の抜け切った顔で、安全レバーが外れてもすぐには立ち上がらずシートに座ったまま虚空を見つめていた。

 

「おーい、終わったぞ」

「おろして……立てないの」

「あぁ、そう……」

 

腰が抜けたのか未だ立ち上がらない彼女をお姫様抱っこして、すぐにマシンの座席を空ける。

するとアトラクションキャストさんは、微笑みながらフォローしてくれる。

 

「よくいらっしゃるんですよね。立てなくなっちゃう方」

 

恥ずかしそうに顔を赤くした愛理は手のひらで顔を覆い隠す。俺はぺこりと頭を下げて出口へと向かった。

 

「……全然可愛くないアトラクションだったわ」

「まあ、あの爺さんがグループの威信にかけて国内最大級になるように作ったからな」

 

余談ではあるが、当時の桜ちゃんは身長制限で乗れなかったとか。

 

 

 

 

 

 

愛理がお手洗いに行き、一人になる。

手持ち無沙汰にスマホを弄りながら待っていると、突然視界が真っ暗になった。

目元に感じる温かく柔らかな感触。

誰かに視界を塞がれているというのに、俺は冷静そのものでスマホの画面を消灯した。

 

「だ〜れだ?」

 

耳朶を擽ぐるその声は、懐かしくも昔を思い出させる。

鈴を転がすような、優しい声。

いつも慈愛に満ちていた少女らしからぬ包容力を含んだ声に、俺は盛大にため息を吐いた。

 

「……おまえなんでこんなところにいるんだよ?」

「質問に質問で返すなんて悪い子だね〜。答えになってないよ?」

 

肩を竦めて、俺はその名を呼ぶ。

 

「黒川」

「おぉ、正解」

 

手のひらが顔から退けられて振り返る。

するとそこには、目を疑うような姿があった。

黒川も“制服”を着ていたのだ。

懐かしい姿につい凝視をしてしまい、上から順繰りに見ていって下の方で止まる。下はいつも通りタイツであったのだ。

 

「君って昔から胸の辺り見てから、太もも見るよねぇ。……好きなの?」

「ノーコメントで」

「お兄さんは脚フェチですよ」

 

その声が黒川の後ろから聞こえて、俺は目を瞬かせた。

 

「おまえもいるのかよ都」

「奇遇ですね、こんなところで」

 

奇遇も何も行き先を知っていた都が、そんなことをいけしゃあしゃあと宣う。あまりにも堂々としているので文句を言う隙もない。

 

「まどろっこしいのはなしだ。で、何しに来たんだよ?」

「それは当然、お兄さんとお姉ちゃんの制服姿を拝みにですが」

「知ってた」

 

何を当然のことを、と言いながらパシャリ。写真を一枚撮られた。

 

「どうせ連れてきたのはおまえだろ黒川」

「邪魔する気はなかったんだよ。でも、制服デートするっていうからちょっと気になってつい……」

 

悪気はあったのか目を逸らしつつ白状する黒川から、発案者へと視線を戻す。

 

「いいよ別に。言い出したのは都だろうから」

「酷いですね。人を元凶みたいに」

「いや、巻き込んだのはどう考えてもお前だろ」

「まあそうですけど!」

 

ドヤ、と胸を張る都に俺はジト目を向ける。反省するつもりは毛頭ないらしい。

 

「まあ、その割にはノリノリだよなぁ」

「こ、これは変装というかなんというか……」

「教師がコスプレって」

「うぐぅっ!?」

 

あまりにもな物言いに、教師(黒川)は膝から崩れ落ちる。

 

「生徒の模範になる教師が、生徒を連れて制服テーマパークか」

「そう言う藤宮君だっていい歳して高校の制服着てるくせに!」

 

カウンター気味なセリフに、俺はつい今の自分の格好を思い出す。そうだった高校の制服着てるんだった。

 

「まぁ、似合ってるんじゃないか」

「うう、嬉しいような、悲しいような複雑な気持ちなんだけど……」

「それはさっき俺も味わった」

 

顔を見合わせて、先に表情を変えたのは黒川だった。

 

「ふふ、お互い様だねぇ」

 

破顔して、楽しそうに声を出して笑う。

こんな馬鹿なことをするのは学生以来で、つい俺も笑った。

いや、馬鹿なことと言えばしょっちゅうやっているのだが。

こういう健全な馬鹿なことは、本当に久しぶりかもしれない。

 

「っていうか、おまえら本当にそれだけのために来たのかよ?」

「まあ、それもありますが、実はもう一つ目的はあるんですよねぇ」

「遊びに来たのか?」

「それもそうなんですが、目的は別なんですよねぇ。お兄さんは『ドールズガーデン』ってお店ご存知ですか?」

 

知っているも何も、今日の目的の一つである。

特別な衣装をオーダーメイドしてくれる店で、バニースーツからゴスロリ、果てにはドレスまで仕立ててくれるというコスプレ業界の老舗らしい。

ハイクオリティな分、値段が高くなっているがそれ相応の物を仕立ててくれるらしいとの噂である。

その『ドールズガーデン』がこのデスティニーランドに支店を出しているらしく、ゲート入ってすぐのエリアに店を構えているのだ。

 

いったい都がそこに何の用なのか?

中学生の財布では買えないお値段の商品が多く疑問に思っていると、こっそりと耳に囁くように都が言う。

 

「お兄さんがお金を出してくれるなら、バニーガールでもミニスカサンタでもなんでも着てあげますよ?」

 

途轍もなく甘い誘惑に、俺は即決で頷いた。

 

「よし、金なら出す」

「そういうところ藤宮君も男の子だねぇ」

 

こそこそ内緒話をしていたはずだが、黒川には丸聞こえだったらしい。慈愛に満ちた顔で微笑まれた。

 

「今なら鈴音さんもミニスカサンタを着てくれます」

「マジで!?–––あたっ!?」

 

あの黒川がミニスカサンタ!?と驚いていると、スパコンと頭を叩かれた。

せっかく人がいい気分だったのに何してやがんだ?と凄むように顔を上げると、そこにはお手洗いに行ったはずの愛理の顔がある。

一瞬だけチベットスナギツネみたいな顔になり、真顔になった俺は冷静さを取り戻す。

 

「ちょっと目を離した隙にナンパされてると思ったら、いったい何の話をしてるのよ?」

「わからずに叩くなよ」

「私の耳には親友にミニスカサンタを着せるって聞こえたんだけど?」

 

概ね間違ってない。だけどまだ、着てくれると決まったわけではない。故に未遂である。

 

「それについては語弊があるというか、なんというかですね……?」

「お兄さんデート中に他の女のミニスカサンタ姿想像するなんて最低ですよ」

 

申し開きのできない指摘に、俺は反論すら出来ず。

そもそもおまえのせいだろうと、半目で睨んだがやっぱり誘いには乗っていたので弁解弁明の余地もない。

 

「っていうか、二人ともなんでこんなところにいるのよ!?」

「来週クリスマスパーティーするので、その準備ですね」

 

あっけらかんと用意していた半分本当の嘘を吐く都。誤魔化された姉といえば、さっきのこともあって簡単に騙される。

 

「あぁ、だからミニスカサンタね……」

「まぁ、おまえも着るんだけどな」

「え?」

 

ミニスカサンタが衣装の一つとは、この時の彼女はまだ知る由もなかった。

 

 

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