デスティニーランド–––ゲートエリア。
入場してすぐの位置にあるこの場所を別名・城下町エリアとも呼ぶ。
酒場や冒険者ギルドのようなファンタジーではお馴染みの建物が並ぶ、ショッピングエリアである。
その実態は土産屋や食事処のような役割であり、そういう外観と雰囲気を演出する舞台装置のようなもので、所狭しと並べられた建物には様々なグッズが売っている。
メインストリートへと伸びるそのエリアに、一軒の赤煉瓦のお店がある。
ショーウィンドウには数体のマネキンが並び、着せられているのはドレスやバニースーツなどの衣装。
看板には『dolls garden』の文字がこれまた煌びやかに飾られていた。
「おぉ〜、すごいクオリティですね〜」
その店の前で、ショーウィンドウに飾られたマネキンにまんまと目を奪われた視線が四対。その視線の先には季節限定のサンタ衣装に身を包んだマネキンが一体いる。
「……なんていうかその、露出多すぎない?」
ミニとまではいかない膝丈のスカートを見て、黒川がそう口にする。私にああいう服は似合わないとばかりに拒絶しようとしているが、ここまで来て今更着ないという選択肢はない。
「まあ、店先じゃ迷惑だろうしとにかく入ろうぜ」
俺は同じくマネキンを無言で見つめている愛理と黒川の退路を断つように、背中を押して入店を促す。既に店内の店員に捕捉された以上、逃げると云う選択肢はないのだから。
ドアを開くとドアベルの音がカランコロンと鳴り、入店を店内へと報せる。それよりも早く店員が「いらっしゃいませ」と歓迎していたような気もするが、緊張した様子の愛理と黒川にそんなことを気にする余裕はなかった。
「ようこそ、ドールズガーデン・デスティニーランド支店へ。本日はどういった衣装をお求めでしょう」
すかさずバニースーツを着たぶるんぶるんのお姉さんが接客してくれる。揺れる谷間に注視していると、太腿の裏と右腕が抓られたような痛みが走った。
「なに鼻の下伸ばしてるのよ」
「そうですよ。お兄さん。店員さんに不躾な視線浴びせて恥ずかしくないんですか」
「私もそれはどうかと思うなー」
咎めるような口調で責められて、俺はそっとバニー店員の谷間から視線を逸らす。
「奥へどうぞ〜」
しかし、バニーガールは気にした様子もなく案内を開始する。慣れたことなのか恥じらいの一つも感じない対応に、俺は少しだけ首を傾げてしまう。プロ意識としては立派だが、商売意欲に欠けるように感じたのだ。恥じらえば男の一つ(買い手)でも釣れたであろうに。
「今度はお尻?」
「いえ、脚ですよ」
「ん〜、背中じゃないかなぁ」
バニーガールの背中を見送っていると背中にチクチクと言葉を刺される。俺は逃げるように大股で歩いてバニーガールについていき、開けられた個室への扉を潜る。
そこは窓のない一見して応接室のような間取りで、座り心地の良さそうなソファーとテーブル以外には、壁際に試着室のようなブースが設置されている。
俺がソファーに腰を下ろすと、その両隣を愛理と都が埋める。愛理の隣に黒川が座った。
「それで今日は、どういった衣装をお求めでしょう?」
ソファーに座ったバニーガールがわざとらしく脚を組み、胸の谷間を寄せるように腕で持ち上げて前屈みになる。
この上なくあざとく演出されたバニースーツの良さに、俺は内心で絶対に購入してやると決めた。
「サンタの衣装を」
「クリスマス間近ですからね。よく注文するお客様は多いんですよ。……それで、どちらの方が?」
当然着るのは女性三人だ。そう伝えると、うんうんと頷くバニーガールのうさ耳がみょんみょん動く。
「なるほど。それでどういったサンタ衣装をお求めでしょう?」
「ミニスカサンタです」
都が元気よく答えると「あんまり過激なのは……」と二人が反応したが、当然そんな主張は通らない。特に愛理は。
「なるほどなるほど……サンタ衣装といっても色々あるんですよねぇ」
どこからともなくバニーガールが取り出したのは、大きめのタブレット端末だった。数回タップするとファイルが開かれて、様々なサンタ衣装が画面に並ぶ。今言ったミニスカサンタを素体とした、カットソーやオフショルダー、背中開きのバックレスなど。ざっと見ただけで数パターン。組み合わせだけでも数十種類だ。
「お〜、色々あるんですねぇ」
「うちはオーダーメイドが基本ですから、資料としてこれくらいは用意しておかないと。お客様のニーズに合った商品をお届けし、笑顔にするのは私達の使命ですので」
キリッと答えるバニーガールさんについ感激してしまう。天国はここにあったのかと。
「これだけあると迷っちゃいますね」
「そうね。どれも可愛いわよね」
「う〜ん、私はどれでもいいんだけどなぁ」
あまり気乗りしていないのか黒川がそんなことを言う。
「じゃあ、これは?」
「こ、これはちょっと……」
試しにと下着同然のサンタ衣装を指差せば、案の定拒否されてしまった。
「じゃあ、私が着ちゃいましょうかね」
「ダメに決まってるでしょ」
悪ノリした都を愛理が咎め、下着同然のサンタ衣装は却下されてしまった。
「まあ、男の俺でもこれはちょっとなぁ」
「食指が動きませんか?」
「難しい言葉を知ってるな」
あまりにも露出が多い点がサンタらしからぬというか。それなら下着でいいのでは?となってしまう。
「私はお兄さんに決めてもらおっかな。迷っちゃうし」
「そうね。私もそうしようかしら」
「私もよくわからないし、じゃあ私も……?」
あまりにも種類が多過ぎて、三人とも丸投げである。
その様子を見て、バニーガールはテーブルにあったハンドベルを鳴らした。
すぐに店の奥から別の店員、ミニスカサンタが出てきた。
「それではあちらの係員に従って、採寸してください」
壁際の試着室のようなものに三人が誘導され、俺は一人取り残される。この部屋から出て行かなくていいのだろうか?その気配がない。そう考えている間に衣擦れの音が聞こえ始めた!
「さて、どれにいたしましょう。私どものおすすめとしてはこちらのオフショルや背中開きのものが大変人気ですよ」
「二つはそれに決まりだな。あと一つはどうするか……」
衣擦れの音が気になりすぎて、それどころではない。よくよく考えれば愛理だけではなく黒川と都も服を脱いでいるのだ。気にならないわけがない。
「……ところで、こちらはある程度大きい方におすすめしているのですが」
不意にバニーガールが一つのサンタ衣装をピックアップする。下から覗いたら下乳が見えちゃうようなサンタ衣装で、お臍はもちろん丸出しであった。
「膝枕をしてもらえれば、絶景間違いなしですよ」
「よし、最後の一つはこれにしよう」
「毎度ありがとうございます♪」
いいように転がされたような気もするが、サンタ衣装の商談は終了である。
「ところでバニースーツも欲しいんだが」
「はい。バニースーツにも色々ありまして、逆バニーとかどうでしょう?」
「さすがに逆バニーはなぁ」
このバニーガールは俺をなんだと思っているのか問いたいところではあるが、趣味ではないのでそうとだけ答えておく。
「ん〜、色か。スタンダードな黒か、白もいいな」
いっそ両方着せたい、と思うが予算が厳しい。
ただでさえ、最近散財気味なのだ。
クリスマスプレゼントも考えると、あまり浪費していられないのだ。
「じゃあ、黒と白一つずつで」
姉妹でバニースーツ。その光景を思い浮かべるだけで、寿命が十年は延びそうな気がした。