もう装備厳選とデイリーしかやることないのでイベントくるまでできるだけ更新したいと思います。
仕事が終わったのは、定時より二時間ほど後だった。
月曜日で気が抜けているのか片桐は仕事中も何かと合コンの件を詮索し、ついでに揶揄ったりしてくるせいか何かと作業が遅れ、その上凡ミスまでしてトラブルが多々あり、その尻拭いを何故か俺がする羽目になり……。
同じ部署の先輩や上司が帰宅する中、俺は片桐に懇願されて残業に付き合わされたのである。
これがブラック企業なら自業自得だと切って捨てたのだが、基本残業代有りの優良企業だったために断る理由もなく定時を過ぎても退社できずにいた。
俺を残業に道連れにした当人といえば、パソコンの前でデスクに突っ伏していた。
「や、やっと終わった〜!」
「じゃあ、お疲れ」
「素っ気なくない藤宮君?もっと労ってよ」
退勤の準備をしていた俺に、構って欲しそうに片桐が文句を垂れた。が、俺は気にする様子もなく鞄を手にした。
「元はといえば誰のせいだか」
「そう言って月曜日は毎回付き合ってくれるよね。藤宮君のそういうとこ私は好きだよ。あ、なにその嫌そうな顔」
「月曜日毎回付き合わせる前に、毎回月曜日になるとつまらないミスする癖直せよ」
「またまた〜、照れちゃって」
ニヤニヤと揶揄ってくる片桐は、そのまま床を蹴って上半身を起こした。
「それはそうとさ、飲みに行こうよ。お姉さんが奢ってあげるよ。今回のお礼も兼ねて」
「遠慮しておくわ。何かと詮索されそうだし」
「えー」
一日中詮索したにも関わらず、片桐はまだ根掘り葉掘り聞きたいことがあるらしい。
もうほぼ隠している話などないのだが、何度も粗を探すように同じようなことを聞いてくる。
飲みに行くのも、奢るのもついでだろう。
残業に付き合わせたのだってわざとの可能性もある。なかなかに食えない相手だ。
「あ、わかった。彼女さんと用事があるとか?」
「彼女じゃない。あと用事があったら、残業手伝ってないわ」
「それもそっか」
そして、会話の節々に“彼女”や“恋人”という単語を使って事実確認をしようとしてくる。仕事もそれだけ抜け目がなかったら文句はないのだが、女性の恋バナに関する情熱は仕事に勝るとも劣らない勢いだった。
「それに他の女性と二人きりで飲みに行くと、彼女さんも心配するしね」
何の心配をしているのか片桐はそう言った。
だから、そういう関係ではないのに。
でも、もし女性社員と飲みに行ったとあらば、説明を求められれば俺は間違いなく誤魔化すだろう。
それが想像できただけに、間違いとは言いづらい。
会社を出る時に、ふと時間が気になってスマホを見る。
一件のメッセージが届いていた。
噂をすれば、その愛理から連絡が来ていた。
『仕事終わった?』と。
それが一時間前。
定時は、五時だと教えた覚えがある。
俺はすぐに返信を送った。
『今終わった』
すぐに既読がつく。
『早く帰ってきなさいよ』
疑問が浮かぶ。
早く帰って来いも何も同棲もしていなければ、合鍵を渡した覚えもない。家で待つというには不自然すぎる。
なんだか嫌な予感がして、俺は走った。
家は会社から近い。走れば二十分も掛からないだろう。
マンションにたどり着くと、そのまま自分の部屋がある階まで駆け上がり、通路へと出た。
「……おまえ、何してんだよ」
俺の部屋の前には、一人の女性が座っていた。
大きなバッグを横に置いて、尻をつかないようにしゃがみ込んでいる。
背中は扉につけて、俺の声に振り向いた。
「あ、やっと帰ってきた。遅いわよ」
「残業してたんだよ。おまえこそ、いつからそこに?」
「ほんの十分前くらいかしら」
–––嘘だ。
直感的にそう思った。
昔から、あいつは嘘をつく時、目を逸らす。
多分、知っているのだろうが直せない癖。
僅かばかり逸らした視線が、それを物語っていた。
「少なくとも三十分は座り込んでただろ」
無言で手を差し出す。愛理を引っ張り起こす時に握った手はもう春なのに冷たい。長時間座り込んでいたのは、まず間違いないだろう。
「……それより、早く開けなさいよ」
露骨に話題を逸らした。
部屋の前で押し問答をしても仕方ないので、ポケットから鍵を取り出して開錠する。
我先にと愛理が扉を開けて、荷物を運んだ。
「来るなら連絡しろよ」
「したわよ。仕事終わった?って」
「報連相って知ってるか?」
「ほうれん草、美味しいわよね」
また露骨に話題を逸らす。
「それにいいじゃない。お裾分けしにきてあげたんだから」
お裾分けとは、隣人がこれ作りすぎちゃったのでと夕飯をお裾分けしにきてくれるイベントだと俺は思っている。決して、遠く離れた家から持ってくるものではない。
「ご飯炊いてあげるから、早くお風呂に入ってきなさい」
「わかったよ」
誘導されている気がしなくもないが、仕事後で何もやる気がしなかったので厚意に甘えておく。
スーツを脱いで、風呂の準備をして風呂場へ向かった。
手早くシャワーで済ませて、さっと身体を拭いてラフな格好に着替えてからリビングへ戻る。
どっかりとソファーに腰を下ろして手持ち無沙汰にスマホを弄っていると、愛理が俺の膝の間に腰を下ろした。これは構ってほしい時のサインである。
俺は空いている手で目の前に座り込んだ愛理を抱き寄せて、取り敢えず自己主張の激しい胸を下から持ち上げてみた。
「ひゃっ!……もう、おっぱい好きなんだから」
「嫌いな男はいないだろ」
「でも、片手間に弄ばれるのは嫌なんだけど」
スマホかおっぱいかどっちか選べ、と不満げに主張してくる愛理は全力で背中を預けてくる。程良い重みが心地良く、少しだけ仕事の疲れが癒やされる気がした。とりあえずスマホを置いて腰に手を回して抱きしめる。
「そういえばこんな話知ってる?」
「知らん」
「聞きなさいよ」
回した腕に手が重ねられる。
「気になる異性とハグするとストレス解消になるんですって」
「そういや昔、学校でそんな話聞いたことあるな」
「ねぇ、試してみない?」
「えー、めんどい」
「とか言いながら、あんたはしっかり抱いてるじゃない」
そう言えなくもないが、なんとなく認めたくない自分がいる。
「まぁ、勝手にやるんだけど」
愛理が身を反転して、ぎゅーっと抱きついてくる。
彼女は首に、俺は腰に、腕を回してハグ。
全身柔らかく、いい匂いがして、温かさに身を包まれる。
なんとも言えない感覚に、幸福感が–––。
「……ねぇ、仕事の疲れは癒せそう?」
「癒されるどころか、むしろ興奮する」
「なによそれ」
「性的に興奮する」
「に、二度も言わなくていいわよ」
身の危険を感じたのか愛理の体が強張る。頰も赤く、それでも逃げる気はないのかずっと抱きついたままだった。
「やばい、もうこれなしじゃ生活できなくなりそう」
「そう。じゃあ、私がいないとダメなくらいダメにしてあげるから存分に溺れなさい」
人をダメにする枕とかあるが、これは間違いなく男をダメにする。手放すなんてできそうにない。
「ねぇ、ちょっと触り方がやらしいんだけど」
「気のせいだろ」
「……まだ、ご飯も食べてないのに」
このまま始めてしまえば夕食のことなんて頭の片隅にも残らないだろう。
どちらからともなく顔を近づけて、唇を重ね合わせようとした時だった。
ピーという電子音が二人の意識を現実に戻す。
そのままキスしようとしていた愛理は、顔を真っ赤にした。
「ご、ご飯炊けたわね。……わ、私、準備してくるわね」
愛理は慌てて離れていく。獲物に逃げられた猛獣の気分で、俺は大人しく夕食を待つのだった。
勤務時間すごく悩みました。