元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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女王様と撮影会

 

 

 

「ふふっ……とてもよくお似合いですよ、旦那様」

 

鏡の前には、複雑な面をした目つきの悪い男。白い軍服調の騎士服を着込んだ姿は、王子様というよりは末端の騎士といった風貌に見える。

馬子にも衣装とまでも言えない俺の姿を見て、冬海はクスッと小さく笑って褒め称えるが、口角が上がっているとこらを見れば揶揄い半分なのが見て取れる。

 

「似合うわけないだろ。主役ってガラじゃないんだから」

「……私は素敵だと思いますよ。先輩」

 

時折、後輩モードで褒められると調子が狂う。

俺は頭を掻き毟ろうとして、その腕を咄嗟に掴まれた。

 

「せっかくセットしたのに台無しにする気ですか?」

「あぁ、悪い……つい癖で」

 

気恥ずかしいのを誤魔化そうとすれば、冬海に見破られて止められる。

手を下ろした時には、メイドモードの冬海雪菜へと戻っていた。

 

「それではお嬢様がお待ちですので、参りましょうか」

「あいよ」

 

ドレッシングルームをあとにして、廊下を歩く。

しばらく長い廊下を歩けば、美しい中庭に出た。

中央近くにはガゼボが設置され、そこには一人のお姫様がいた。チェリーピンクのドレスを身に纏った米倉桜だ。

優雅にお茶を楽しみながらガーデンを眺めていたかと思うと、そばにいたメイドに小さく何かを耳打ちされ、すぐに振り返っては俺達に向かって手を振ってきた。

 

呼ばれている気がしたので、近づいてわざと大仰に手を広げて芝居がかった口調で挨拶に回る。

 

「これはこれは桜姫ではないですか。ご機嫌麗しゅう。今日もお美しいあなたに会えて光栄ですよ」

「ええ、こちらこそあなたに会えて嬉しいですよ。直人様」

 

それっぽい言葉を並べ立てれば、見事に返された。

すぐに肩を竦めて、降参の意を示す。

 

「ふふ、こちらへどうぞ」

「なら、お言葉に甘えて」

 

何故ここにという疑問は冬海がいる時点で解消されているので、俺は気にすることなく同席する。

元々は米倉の爺さんが孫娘のために作ったものなので、所有者である桜お嬢様がいるのは普通のことである。

この話を持ち掛けた相手も桜ちゃんなので、偶然たまたま居合わせても不自然ではない。

 

手際良くもう一つカップが用意されて、ハーブティーが注がれる。ちょうど喉が渇いていた俺はティーカップを口につけた。

 

「はぁ〜、少し肌寒いけど悪くないな。こういうのも」

「よろしければ、こちらもどうぞ」

 

三段式ケーキスタンドからお嬢様自らが取り分けてくれたスコーンを口に運ぶ。そして、またハーブティーで流し込み一息ついた。

 

「それにしてもありがとうな。頼みを聞いてくれて」

「お友達の頼みですから当然ですよ」

 

心底嬉しそうに言う桜は、そう言ってから首を小さく傾げる。

 

「でも、よかったんですか?通常料金で」

「おう」

 

デスティニーランドには一般人の知らない裏プランがある。それがこの城での記念撮影及び城内見学だ。大きな声では言えないが、二桁万円から三桁万円はする。

最初は厚意でタダ同然による提供をお嬢様から提案されたが、俺はその提案を断り自腹で払うと言ったのだ。

お友達からお金は取れないとお嬢様が駄々を捏ねたが、説得の上で通常料金による利用になったのも随分と記憶に新しい。

 

「書類審査とか面談とか面倒な工程飛ばせただけでもよかったよ」

 

問題は金額ではなく、プラン利用に辿り着く過程である。

 

一般には出回っていないパスを買う窓口は、主に三つ。

建設計画及び出資者である米倉源十郎。

所有権を持つ米倉桜。

上記二つを含む、関係者或いは各所への打診のみである。

そこから書類審査や面談による選定により、利用者を信用に足る人物かどうか厳重にチェックするのだが、審査が一番厳しい。多額の資金を投じただけあって、下手な人物を入れられないのである。

 

普段なら予約に一月ほどかかるが、何故か俺はあっさりと書類審査と面談を通過した。

それもそのはず、お嬢様に近しい人物として身辺調査はもちろんのこと、素行は常にチェックされているわけである。

面談も利用目的は直接伝えているので、過程をすっ飛ばして特別なパスを手に入れられたわけだ。

 

「そうじゃなきゃ間に合わなかったし」

 

相談したのは、愛理の誕生日二週間前である。

これでも十分無理を言っているため、コネは最大限に利用したと言えよう。

 

「お力になれてよかったです」

 

桜は満面の笑みで言う。その笑顔はあまりにも無垢で、純粋。悪い人に騙されないか心配だ。米倉の警備を掻い潜れる悪人がいるとは思えないが。

 

「–––あ、どうやら準備が終わったみたいですよ」

 

お嬢様–––桜姫との雑談を楽しんでいると、不意に俺の背後へと視線を向ける。

 

釣られて振り返れば、真紅のドレスを纏った“姫”がいた。

暗い夜に燃えるような炎を思わせるそのドレスに、手間暇をかけて豪華に弄ばれた髪はクラウンハーフアップに纏めてあり、ティアラが載せられていた。

両手は薄い黒のイブニンググローブに覆われており、それが彼女の手をどこか艶かしく見せる。

 

「……ぅぅ」

 

当人は恥ずかしいのか僅かに頬を赤らめて俯いている。垂らした右腕を左手で掴んでいるから、コルセットによってより凶悪になった胸が強調されているように見えた。

 

「まぁ、素敵!」

 

俺が声を掛けるよりも早く、お嬢様が言った。

出遅れた俺は、苦境を強いられることになる。あとになればなるほど、言いづらくなるわけで。

不安そうな顔を向けられた俺は、しどろもどろになりながらも感想を口にする。

 

「……い、いいんじゃないか。すげぇ似合ってる」

「そ、そう?」

 

どっちかというと姫様ではなく、女王様っぽいが。こういう令嬢も物語には出てこなくもないので、可愛いというよりは綺麗なお姫様と言ったところだろう。

 

「……えへへ」

 

照れ笑いで喜びながら、愛理は静かに近寄ってくる。

俺を見て、さらに顔を赤くしながら言う。

 

「そういう直人も似合ってるわよ」

「……」

「なんで不満そうなのよ」

「……いや、似合ってるって言われてもなぁ」

 

エキストラ–––モブくらいがちょうどいい俺にとっては、王子様はガラじゃないので素直に喜べない。

 

「まぁ、いいんだよ。俺はおまけだし」

 

メインイベントは愛理のドレス姿だ。撮ってよし、見てよし、愛でてよし。プロの手による記念撮影で思い出を残そうという企画である。

当然プロだけではなく、自分も撮影に回る。せっかくなので一眼レフを借りて撮影班に交ざる予定だ。

 

「–––というわけで、まずは一枚」

 

何処からともなくメイドが用意した一眼レフを借りる。早速電源をつけて、ファインダーを覗き込み設定を弄ろうとして……。

 

「んん???」

 

–––光がないことに気づいた。

 

「……キャップついてんのかよ」

 

音もなく冬海が笑っているのを感じて、仕掛けられたことを悟る。知ってたなこいつ。

気を取り直してISO感度、F値、シャッタースピードを良い感じに変える。

一眼レフカメラを扱うのは割と久しぶりだったが、触っているうちになんとか設定を終えた。

ファインダーを覗き込みながら、もう一度レンズを絞り直してフォーカスし、シャッターを切る。

 

「う〜ん。まぁ、悪くはないか?」

 

撮れた写真を確認すると、ぎこちなく固まったままの愛理の姿が撮れていた。

 

「よければ私が一枚撮りましょうか?」

「そうだな。頼む」

 

カメラを渡して、愛理の隣に並ぶ。

すると愛理は嬉々として腕に抱きついてきた。

 

「それでは、はい、チーズ」

 

–––パシャッ。

 

その後何枚か撮って、画面を確認する。

一仕事終えて近寄ってきた冬海に、俺は言った。

 

「はい、チーズって古いらしいぞ」

 

珍しくショックを受けた表情で、冬海が停止した。

 

 

 

その後、色々な場所で写真を撮った。

最初は少し恥ずかしがっていた愛理も、気分が乗ってきたのか楽しそうにポーズをとっていた。

庭園、寝室、バルコニー。今は玉座の間で撮影中である。

玉座に座り、脚を組んで、頬杖をつく様はまさに女王様。或いは、意地悪な悪役令嬢か。

 

「……なんていうか様になってますね」

 

悪い笑み(悪役令嬢の顔)をする愛理を見て、桜が言う。

普段から悪戯する時とか、搾り取る時とか、あんな顔をしているので珍しくもないのだが。

学生の頃もよく、あんな顔をしていた。

そう思えば、相性の良い役柄なのかもしれない。

 

「は〜い、一旦休憩で〜す」

 

プロによる撮影が一段落して、愛理が玉座から離れる。

そのまま早足に歩み寄ってきて、踏み止まらずに抱きついてきた。

 

「はい、おかえり」

「ただいま」

 

本当に楽しそうで、声が弾んでいた。

 

「他にあと何を撮るの?」

 

甘えるように抱きついたまま、愛理が顔を覗き込んでくる。

無邪気に楽しんでいる愛理に、俺はにっと悪い顔をした。

 

「俺にしか撮れない写真とかな」

 

一眼レフを持ち上げて、さっそく誘導する。

背景に良さそうな場所に移動して、寝そべるようにカメラを構える。

 

「それじゃあ、踏んでくれ」

「ええっ?踏むって、その……あれ?」

 

言われたことが理解できなかったのか、愛理は再度聞き返してきた。

 

「そう、あれ」

「普段あなたたちは何をやってるんですか?……いえ、いいです。聞かなかったことにします」

 

お嬢様の手前、踏み込まなかったメイドが躊躇するが、俺は躊躇いも恥じらいもなく言い切った。

 

「そう。踏んでくれ。その方がいい画が撮れそうだから」

「もう、しょうがないわねぇ。どこ踏めばいいの?」

「ん〜、頭とか?」

 

アングルを考えると、背中を踏まれるよりよりレンズに近い方がいいだろうとそう答える。

俺は嬉々として、プロの方には許していない超至近距離のローアングルに挑戦だ。

 

「……踏むわよ?」

「OK,いつでもこい」

 

愛理がゆっくりと俺の頭に脚を乗せる。

残念ながら下着は見えなかったが、いい写真は撮れた。

 

 




主人公君の名誉のために言っておきますが踏まれるような趣味はありません
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