元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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おや、鹿島父の様子が……?

 

 

 

デスティニーランドを出たのは、午後六時に差し掛かる頃。

車で高速道路を飛ばして、鹿島家の夕食の時間ギリギリに帰って来た。

ガレージに停車して、車のヘッドライトを消す。エンジンを落とせば、静かな夜の気配が車内を包む。

月明かりと街灯のみの車内で、手探りにシートベルトを外して俺達は外に出た。

 

「さぁ、行きましょっ」

 

デートの興奮冷めやらぬ様子の愛理に腕を引かれて、そのまま鹿島家の玄関を開ける。

 

「ただいま」

「おじゃまします」

 

それぞれ声を掛けると、リビングの扉が開く。

顔を出したのは、都であった。

 

「おかえりお姉ちゃん。あと、いらっしゃいお兄さん」

「悪いな。世話になる」

 

少し気が重い俺の心情を察してか、都はにんまりと口角を歪める。むふん、といったところだろうか。

 

「さあ、入って入って。もう準備は出来てますから」

 

都の先導に従いリビングへ行くと、そこには鹿島一家が勢揃いしており、おまけに黒川の姿まである。

黒川はともかく、両親にはなんと挨拶したものか悩み、取り敢えず無難にジャブを放つことにした。

 

「お久しぶりです。本日はお招きありがとうございます」

「フンッ」

 

「おまえは招いていないぞ」という意思を感じたが、俺は極力無視することにした。–––内心では気になるが。

 

「それじゃあ始めましょうか」

 

夫の反応は予想通りと言わんばかりに、志穂さんは切り替えてそう言う。

 

それに合わせて、黒川と都が協力して料理を運ぶ。ダイニングテーブルはすぐに料理で埋め尽くされ、リビングに入った時から感じていたいい匂いの正体がようやくわかった。

 

「ミネストローネにグラタン、オムレツか……」

 

他にもコロッケかメンチカツっぽい揚げ物がある。サラダはサーモンとアボカドを使ったイタリアンサラダだ。

 

「あなた」

「あ、あぁ……」

 

飲み物も配膳され、鹿島父がグラスを掲げる。グラスには赤い液体が注がれており、僅かに香る匂いからワインだということがわかる。

 

「んんッ。–––それでは、愛理の二十五歳の誕生日を祝って。乾杯」

 

短い祝辞にて、誕生日会の開催が宣言された。

そのままグラスに口をつける鹿島父と志穂さん。

こういう日は飲むことが決まっているのか、愛理のグラスにもワインが注がれていた。

 

「その、ごめんね……私だけ飲んで」

「こういう特別な日は飲むって決めてるんだろ」

 

俺は車の運転があるから、という理由で酒は辞退している。帰ったら帰ったで一緒に飲もうと強請られる気がするので、その時にまた楽しめばいい。

 

–––そう思っていたまではいいのだが、そんな俺の覚悟に水を差すかのように不穏な影が迫っていた。

 

「まぁ、いいじゃないか。君も飲みたまえ」

「いや、車の運転があるので……」

「泊まっていくといい」

 

……おかしいな。鹿島父から泊まっていけと聞こえた気がするのだが?

 

どういう風の吹き回しか。逆に怪しすぎて気になったが、警戒するよりも早く志穂さんがグラスを出して、愛理がグラスにワインを注いでしまう。

 

「しかし……」

 

まだ泊まっていくにはハードルが高過ぎる。

歓迎的?な雰囲気も謎のままだ。

恐縮した態度で警戒を隠す俺に対して、愛理は俺の手にグラスを寄越した。

 

「別にいいじゃない。泊まる泊まらないは別にして、電車で帰って買い物ついでに明日取りに来ればいいし。それに……」

 

続けて、耳元に顔を寄せて小さく呟く。

 

「–––私も我慢できないし」

 

その言葉で、俺は決意した。

この宴席を乗り越え、必ずや愛理を持ち帰ると。

 

「それとも私の酒が飲めないとでも言うのかね?」

「では、お言葉に甘えていただきます」

 

罠だろうがなんだろうがどんとこい。全部捩じ伏せてやる。

一杯目のワインを、まずは香りを確かめ、舌先を濡らすように味わいながら飲む。

随分といいものなのか、普段飲むものより高級な気がする。娘の誕生日とあって奮発したのであろう。特別なワインというのがなんとなくわかった。

 

「これ、美味しいですね」

「そうだろう?好きなだけ飲むといい」

 

笑顔があまりにも不気味だったが、最初の一杯を飲み干す。すると二杯目が鹿島父の手によって注がれた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

女性陣が作ったであろう料理に舌鼓を打ち、そのおかげでワインが何倍にも進む。

どうやら揚げ物は、コロッケ、メンチカツ、カニクリームコロッケの三種だったらしくどれもワインと相性が良かった。サラダもワインが進むいい味で手が止まらないとはこのことだ。

 

「藤宮君って本当に美味しそうに食べるよね」

「そうですよね。まあ、お兄さんのそういうところが作り手冥利に尽きるといいますか」

「そう。なんていうか作ってよかった、って思うよね」

 

何故か女性陣の間で俺の株が上がった音が聞こえた気がしたが、気にしていても仕方ないので食事に戻る。

あまりにも京介が静かだったので、ワインを飲むついでに見回せば、彼は珍しくサラダを草食動物のようにもしゃもしゃと一心不乱に食べ続けていた。

 

「……なるほど、サラダが黒川の作った料理か」

 

基本肉食なのに珍しくサラダを食べているかと思えば、理由は案外単純なものだったりする。

二杯目でほろ酔いになりながらそんなことをぼーっと考えていると、横合いからどーんと体当たりを受ける。

 

「えへへ」

 

ほろ酔いで上機嫌な愛理が、絡みついてきた。

椅子をわざわざくっつけて、愛情表現いっぱいに油でテカテカな唇で頰に口付けをする。

 

「ぐっふ」

 

そんな娘の痴態を見て、鹿島父は唇を血を流さん勢いで噛む。口の端からはワインが垂れ、グラスに注がれたワインは振動で波打つように揺れていた。

 

甘えてくる愛理。我慢する鹿島父。

天国と地獄ともいえる狭間で、俺は無心で食事を続けた。

 

「……どうしたもんかな。これ」

 

–––温度差で酔いが覚めそう。

 

 

 

 

 

 

テーブルの上にあった料理も綺麗に片付き、ダイニングからリビングへと移った。

ソファーには俺と愛理が隣り合い、その横で澄ました顔をして座っているのが黒川だ。

対面のソファーにはぐったりとした様子で鹿島父が凭れており、その横に志穂さんが何食わぬ顔で座りながらワインを片手にゆったりと楽しんでいた。

 

「……何がしたかったんだ?」

 

何か思惑があったのか、それとも何も考えてなかったのか。酒を勧め続ける鹿島父は早々にダウンしてあの様子。

真相を知ってそうな志穂さんは、俺にデレデレと甘える愛理を見て酒の肴にしている様子で、はぐらかすばかりで答える気がない。

 

「まあ、いいじゃないですか。平和的に終わって」

 

何食わぬ顔で俺の膝に座り込む都がそう言う。

 

「他のところ座れよ」

「もう席がないんですよ」

 

確かにあっちは父親が二人分の空間を占領し、母親が一人分の席に座っている。

 

こっちも満席だが、俺の膝の上が……。

 

「今日はあまり愛理を困らせるようなことはやめて欲しいんだがな」

「大丈夫ですよ。あの様子ですし、きっと嫉妬もいいスパイスになるんじゃないですか?」

「もうこれ以上にないってくらい上機嫌なんだけどな」

 

家族や親友の前にも拘らず女の顔をする愛理。酒だけじゃなくデートの効果もあって、普段とは比べ物にならないくらい色気を感じる。

具体的に言えば、京介が直視するのを避けるようにダイニングで一人座っているくらい強烈だった。

 

「ねぇ、早く帰ろう直人。ね?」

 

何かを催促するように、甘く耳元で囁く愛理。

その意味がわかったのか、黒川の顔が真っ赤に染まる。

 

「愛理ちゃん大胆……」

「他に人がいること忘れてませんか……?」

 

父親が起きていたなら、引き留めていたのだろうが……相変わらず泥酔しているため起きる気配がない。

 

「これを車なしで持って帰らないといけないのか……」

 

ちょっと憂鬱な気分になり、少しだけ後悔する。やっぱり飲まなければよかったと。

 

「泊まってくなら歓迎するわよ。こうなったら夫は朝まで起きないし、愛理の部屋が空いてるから。少しくらい煩くても、ね?」

 

揶揄うように志穂さんが言って、ワインを飲み干した。

 

「いえ、さすがにそれは……」

「二人とも私がいること忘れて、たまに隣に丸聞こえの凄い音たてますからね。この様子だときっとお姉ちゃん自制できないんじゃないですか」

「二人とも女子中学生がいるんだから自重して」

 

教師の顔をした黒川に叱責されて、俺もバツが悪くて顔を逸らす。

 

「善処してるんだよこれでも。……ただ、人類にはそうやって繁殖してきた歴史もあってですね……」

 

性行為は自然の摂理だと訴える。が、黒川は許さなかった。

 

「藤宮君、道徳のお勉強する?」

「保健体育だろどう考えても」

 

中学生なら部位についても習うはずだ。

コウノトリが運んでくるとか、今更信じてはいまい。

下ネタを言う中学生だっているだろう。

親が仲良ししている光景を見たとか、そういうのもあるかもしれない。

京介はエロ本の類持ってるらしいし、都も耳年増だ。

全部俺が悪いわけじゃないと信じたい。

 

「お姉ちゃん、赤ちゃんってどうやってできるか知ってる?」

「ん〜?今から作る……?」

「おい、黒川。酔ってる愛理に道徳説いてやってくれ」

「無理。そういうのは二人でやって」

「そうだな。……取り敢えず、これ以上失言する前に帰るか」

 

責任を持って愛理を持ち帰るため、俺は肩を竦めて立ち上がった。

 

 

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