十二月二十四日。クリスマスパーティー当日。
日が完全に暮れてしまうその前に、俺達は米倉邸へと辿り着いていた。
隣には愛理と黒川の二人。都と片桐、それと京介は既に到着しているらしく残るは俺達の三人だけだった。
「うわ〜、おっきいね〜……」
見たことのない豪邸を見上げながら、黒川がのんびりとそう言う。愛理は言葉が出ないようで、口を半開きにして呆然としていた。
「と言っても、まだ屋敷にすら辿り着いてないんだけどな……」
現在地は正門前。屋敷は広大な敷地の庭中である。
アニメや漫画で見るような利便性に欠けた無駄に広いだけの庭じゃないのが救いで、敷地面積もある意味では常識的な範囲である。
「取り敢えず、呼び鈴押すぞ」
玄関先のインターホンを押す。すると数秒ほどで応答があった。
「藤宮様と鹿島様、それと黒川様ですね。門をお開けします」
そのあとすぐに高さ4mもある門が自動で開き、俺達は招き入れられた。
正門を抜ければ、屋敷まで約50mほどの庭。
噴水があって、手入れのされた花が咲き乱れている。そして、何故かバカデカいモミの木が植えてあった。飾りはクリスマス仕様でところどころにイルミネーションライトが巻き付けられている。
その横を通り抜けて本邸に辿り着くと、ドアノックを四回鳴らす。するとすぐに扉が開いた。
「ようこそおいでくださいました。藤宮様、鹿島様、黒川様」
迎え入れてくれたのは冬海で、その姿は普段のメイド服ではなくミニスカサンタ。デコルテの映えるオフショルダータイプだ。
こいつの性格ならスタンダードな普通のやつか、背開きのタイプを選ぶかと思ったのだが珍しく露出の多いものを着ている。
「……お嬢様に不躾な視線を向けられても、困りますので」
–––かと思えば、納得の理由を語られた。
「つまり、スケープゴートか」
なら、せっかくなのでメイドさんのいやらしいサンタコス姿を合法的に堂々と拝ませてもらう。
頬を緩ませて悦に浸れば、その頬の伸縮性を確かめるようにぐいっと伸ばされた。
「なに鼻の下伸ばしてるのよ、もう」
「いててっ、不可抗力だ。こんな見てくださいってサンタがいれば誰だって見るだろっ」
「ほどほどにねー」
「ほら、黒川だってこう言ってる」
必死の弁明が効いたのか頰が解放された。
冬海は『バカな男』とでも言うかのように呆れた顔だ。
「更衣室はあちらです。みなさんもう既にお着替えですので」
「ありがとう。さっそく着替えてくるわね」
「そうだね。……そういえば、私のサンタコスってどんなのだろ」
女性二人が他のメイドに案内されて更衣室の方へと消えていく。
「藤宮様はこちらを」
「……おまえ、それ」
「トナカイらしくツノです」
「……本物に見えるんだが」
「実際の動物のツノを使ってますので」
そして、一人になった俺に冬海が差し出したのはトナカイのツノのカチューシャである。
サンタコスの見物料とでも言わんばかりに俺の頭にそれをつけて、冬海は小さく笑った。
「たいへんよくお似合いですよ」
「去年はサンタ、今度はトナカイか……」
「赤鼻もご用意しましょうか?」
「それだとどっちかというとピエロになるだろ」
「来年はそれもいいかもしれませんね」
「冗談はよしてくれ」
道化を演じるのは構わないが、ピエロの珍妙な格好は似合いそうにない。大道芸も出来る気がしない。
「こちらです」
冬海の案内で通されたのは、一階にある大広間。
その扉を開けると、飛び込んできたのはクリスマス仕様の装飾が施された室内だった。
そこで一番に目を引くのは、動き回るミニスカサンタ達。そのうちの一人が気づいて、勢いよくこちらに駆けてきた。
「お兄さん!」
都の動きに合わせて、胸元についた紐の先の白い綿が揺れる。
その動力源たる足の片方には、一本の黒いベルト。
露出が多めのオフショルダーからは、中学生にしてはやや大きめの胸の谷間とデコルテが覗いている。
控えめに言って“天使”と言ってもいいその姿に、俺は目を奪われていた。
「……ロリコン」
隣の冬海の罵倒が刺さったが、そういう趣味ではないとだけ目で訴えておく。伝わるかどうかは別として。
「ふふ、どうですかお兄さん。可愛いミニスカサンタさんの感想は?」
「凄く似合ってるよ。抱きしめたくなるくらい可愛い」
「抱きしめてもいいんですよ?」
手を広げて受け入れる体勢の都。せっかくなので抱きしめさせてもらう。
するとそれが予想外だったのか、少しだけ驚いた様子で都は受け入れるように手を背中に回してきた。
「お兄さんも似合ってますよ、それ」
「……そうか」
素材が素材なだけに気に入ってはいるが、付けるのは全く別の問題である。
「いらっしゃい直人さん」
「桜ちゃんか。本日はお招きありがとう、でいいのかな」
「もう、そういう堅苦しい挨拶は不要だって言ったじゃないですか」
「何回来ても慣れないんだよ。この豪邸は」
準備から本格的すぎて、少しだけ気後れしてしまうのも事実。
堅苦しくない身内だけのパーティーと聞いてはいるが、一般人は緊張するものなのだ。
「約一名、いや二名か。気にしてないのもいるが」
気楽に手を振っている片桐と都のことである。
「桜ちゃんも似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうございます」
桜は背開きのタイプを着ているようで、綺麗な背中が丸見えだった。ドレスもそういうのが多いようなので、慣れているのだろう。
「……それにしたって、肌の露出多くないか?」
いくら身内だけのパーティーとはいえ、もう少し肌の露出を控えてはどうだろう。片桐もオフショルタイプで胸元を隠すつもりがない。男からすればご褒美に違いはないのだが、一人もスタンダードなタイプがいないのは腑に落ちないのだ。
「でも、お兄さん好きですよね?」
「否定はしないがな」
視界の端では、トナカイの角をつけた京介が翠に絡まれている。そちらのお嬢様も背開きだ。
もしオフショルなら見えてはいけないものがチラチラしていたかもしれない。
「残りの二人もお召し替えが終わったようですよ」
冬海に言われて振り返れば、扉から愛理と黒川の二人が入ってくるところだった。
黒川は俺の要望通り背開きのタイプで、愛理はお臍丸見えのいかがわしいミニスカサンタコスをしている。腕を組んで恥ずかしそうにしているが、まったく隠れていないのも魅力の一つだろう。
「うぅ、やっぱりこれ露出多くない……?」
「鈴音はまだマシじゃない。私なんてお臍どころか下乳見えちゃいそうなんだけど」
文句を言いながらやってきた二人をマジマジと観察する。すると二人は、色々言いたいことはあるけど何を言うか定まらず、取り敢えず視線で訴えてみようと目だけで抗議を申し立ててきた。
「いや〜、眼福だなぁ」
愛理が下乳隠すために腕を組んでいるところとか。
普段は露出しない黒川の脚が黒のストッキングに包まれているのに、背中だけぱっくり開いているところとか。
普段はメイド服でガードも硬い冬海が、自らオフショルなんて露出の多い格好をしているところとか。
都の太ももに巻かれた謎のベルトとか。
可愛い系の女性同僚の露出した谷間とか。
全て眼福である。
「なぁ、京介?」
「べ、別に……」
「むっつり〜」
唯一の同性に意見を求めてみれば、赤い顔で黒川から視線を逸らす。
都はそんな弟を揶揄うように、イタズラっぽい笑みを浮かべている。
「京介様、夜景を見に行きますわよ!」
「うわっ、ちょ、まっ!?」
それが面白くない恋する乙女は、他の女性に懸想する想い人を強引に引っ張っていく。その当人といえば『まだ見足りないのに!』と言わんばかりに名残惜しそうに助けを求めるが、誰も止めようとはしない。
「あぁ、もう、夜景ってどこに行くんだよ!」
「私達だけの特別な場所ですわ!」
ぐいぐいと引っ張られて二人が退室する。
その後、何やらヘリのような音が何処からか響き始め–––。
「……夜景って、何処に見に行ったんだ?」
「おそらくは、空かと……」
あまりにも一般的ではない『夜景』に、愛理と黒川の二人は呆然とただ夜空を見つめた。窓の向こうの空を。
「さて、それでは始めましょうか」
よくあることなのか、桜は何事もなかったかのようにクリスマスパーティーの開催を宣言した。