元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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もっとも危険なゲームが始まります


クリスマスパーティー2

 

 

 

パーティー開始から一時間。用意された料理に舌鼓を打ち、談笑しながら穏やかな夜を過ごしているところ、都が二拍手を叩いた。

衆目を集めるその最中、彼女は悪戯っぽいいつもの笑みを浮かべるとこんなことを言い出す。

 

「さて、料理も少なくなってきたところでゲームをしたいと思います」

 

突然の宣言に、俺達は首を傾げる。

動揺していないのは、主催とメイドの二人だけ。

予め計画していたのか都の独壇場である。

他の面子は興味津々の様子だ。

 

「何をするの?」

「とっても楽しいゲームですよ」

 

酒が入った片桐が都に訊ねると、都はいっそう笑みを深くして言う。何故だかその笑顔が小悪魔めいたものに見えて嫌な予感がした。

 

「その名も、“愛してるゲーム”です」

 

聞き覚えのある名前なのにまったく馴染みがないそれに、俺や愛理は首を傾げた。

 

「なにそれ?」

「さぁ?」

「おや、お二人ともご存知でない。それじゃあ説明から始めますね」

 

そうして、都は楽しそうに解説を始める。

 

「愛してるゲームとは–––“愛してる”と愛を囁き、相手を照れさせたら勝ちというゲームです。ただ言ってる方も照れたら負けなので注意してくださいね」

「……何よ。そのアホっぽいゲーム」

 

そんなの子供じゃあるまいし。と、否定的ながら余裕を見せる愛理だが。

 

「ちなみに合法的にお兄さんに『愛してる』って言わせることができますよ」

「よし、やりましょう。今すぐに」

 

–––速攻でやる気になった。

 

「不参加でいい?」

「ダメですよ。みなさん強制参加です。それとも何を命令されるかわからない王様ゲームでもやりますか?」

「なんで大学生の飲み会みたいなゲームばかり……」

「ゲームやるならこういう方が楽しいかなと思ったんですよ」

「それ見せ物としてだろ」

 

少なくとも何を命令されるかわからない王様ゲームよりはマシなので、愛してるゲームで妥協することにする。

 

「それでどういう対戦形式なんだ?」

「そこは満遍なく遊べるように、総当たり戦でいこうかと」

 

そんなことを言っている間に、メイドが二人で大きな紙を持ってきた。二人で協力して広げた紙にはゲームの勝敗を記載する欄が用意されており、それぞれの名前が書かれている。

 

「–––って、総当たりって俺だけじゃねぇか!」

 

一番上には俺の名前だけが書かれており、その左下には順番に女性陣の名前が記入されている。明らかな集中砲火だ。

 

「こういうのって異性とやるのが面白いんですよ。ちょうどお兄さんしかいませんし、一人で大勢の女性に愛を囁かれるんですから役得だと思ってください」

 

確かに筋が通っている気もするが、何故か釈然としない。

そんなことを思っている間にも、第一ゲームの開始が無情にも宣言される。

 

 

 

「それではトップバッターは桜さんから。お願いしますね」

「はい、がんばります」

 

広間の一角に特設ステージが設けられ、俺と桜が対峙する。

普段通りぽやぽやと笑顔を浮かべるお嬢様の姿に、俺は少しだけ億劫になりながら前を見る。

 

「それではまず、先行は桜さんからいきましょう」

「はい、では……」

 

僅か30cmほどの距離まで桜が歩み寄り、自らの胸に手を当てる。深く深呼吸をひとつ。そうして目を見開いた桜は、その薄い桜色の唇を開いた。

 

「–––直人さんのこと、ずっと前からお慕いしておりました」

 

いつもとは違うとても柔らかな笑みと、僅かに羞恥で彩られた頰。そんな顔で紡がれた言葉の破壊力は絶大で、直接聞いた俺は心停止しそうなほどの衝撃を受けた。

彼女が財閥の令嬢などでなければ、本気で恋に落ちていたかもしれない。そう思わせるほどの破壊力だ。

 

問題はここから。平静を装って、俺は反撃しなければならない。

 

せっかくなので何か演出しようと考えて、ふと思いついたのがお嬢様と執事。禁断の恋である。

 

「……私もお慕いしておりましたよ。お嬢様」

「はぅ……!」

 

お嬢様にはクリティカルヒットしたようで、くらりとよろける。支えようと伸ばした手がスルッとお嬢様の手に包まれて、彼女は興奮気味に叫んだ。

 

「……転職しましょう直人さん。今日から私の執事になりませんか!」

「えぇ、仕事が……」

「私の執事になれば、三食おやつ付き月収手取り五十万出します。おまけに可愛い先輩メイドが手取り足取り仕事を教えてくれるオプション付きです!」

「お嬢様、落ち着いてくださいお嬢様!」

 

どこまで本気なのかとても魅力的な提案だ。

そんなお嬢様を、ぐいと引っ張って引き剥がす冬海。

 

「……なんていうか凄い食いつきですね」

「少女漫画嗜んでるから、そういうの好きなんだよ」

 

–––少々ハプニングはあったが、第一戦は終了した。

 

 

 

「……す、すみません。取り乱しました」

 

数分後、平静を取り戻したお嬢様に謝罪された。

気を取り直して、第二戦。

シャカシャカパチパチ–––カードゲーム特有の音を立てる方に顔を向けると、何やら怪しげな札を都がシャッフルしていた。

 

「……なにそれ?」

「さっきの試合を見ていて思いついたのですが、やっぱり普通じゃ面白くないなと思いまして。趣向を凝らしてみようかと。まずは女性からアピールどうぞ」

 

二回戦は黒川で、既にやる気は十分なようである。

 

「んんっ。……それじゃあ、やるね?」

 

咳払いひとつで意識を切り替えると、黒川はいつものように優しい笑顔を浮かべた。

 

「藤宮君、実は中学の頃からずっと気になってました。私と付き合ってください」

 

あまりに具体的な告白に本気で告白しているんじゃないかと錯覚する。心臓を射止めかねない本気の声音に心が掻き乱され、思わず反射的に抱きしめたくなってしまった。

 

「……妙に具体的ですね。京介が聞いたら発狂してますよ」

 

都の冷静なツッコミという評価も得ており、ついグッときてしまう告白だったといえよう。

 

「–––さて、ここでお兄さんに返事をしてほしいところで・す・が!」

 

都が五枚ほどの札を床に伏せる。

 

「鈴音さん、一枚引いてください」

「うん。……はい」

「これですね。おや、引いたのは『バックハグ』です!」

 

札をオープンして興奮気味に叫ぶ都に、当事者である俺と黒川は理解が追いつかず首を傾げる。そんな俺達に都は告げた。

 

「それではお兄さん、鈴音さんにバックハグして返事をしてあげてください!」

「えぇっ!?」

 

驚いた鈴音とは別にどこからか「いいなー」という声が上がる。

それどころではなかった俺は、それが誰の声だったのか特定できずに黒川の背後に回った。

そして、そのまま背後からぎゅっと抱きつく。

抱き竦めた肩越しに、俺は本人にだけ聞こえる声量で愛を囁く。

 

「俺もずっと昔からおまえのこと気になってた。鈴音」

「ふぇっ!?」

「–––愛してる」

 

そっと囁いて離れると、黒川は耳を真っ赤にしていた。

 

「……」

 

放心状態で固まっている。

どこからかドンドンと地団駄を踏む音が聞こえたが、聞こえないフリをした。

 

「……京介には見せられませんね。殺されますよ?」

 

–––いなくてよかった。と、心底思う。

 

 

 

「さて、テンポが悪かったので今度は予め引いておきましょうか。それでは片桐さん、一枚引いてください」

「ねぇ、一応聞くけどなにがあるの?」

「『バックハグ』『床ドン』『壁ドン』『顎クイ』ですね。他にもありますがメインはこの四つです」

「うわぁ〜、どれもいいな。藤宮君がやってくれるんだよね?」

 

もはやゲームというより罰ゲームのような気もするが、文句を言って水を差す気にもならない。

あとで都には仕返しをすると固く決意を胸に、片桐がカードを引くのを待つ。

 

「よし、これだ」

「え〜、なんですかね〜。お、『壁ドン』ですね」

「やった!」

「取り敢えず、先に片桐さんがアピールしてください。それともお兄さんからがいいですか?」

「あ、そこから選べるの?どうしよっかな。やっぱり男の人からがいいよね」

「–––だそうですよ、お兄さん」

 

趣向を変えて、男性側のアピールが先のようだ。

……何を言うべきか悩む。

そもそも俺は、告白の経験がない。

彼女ができても相手からで、自分から愛を伝えるという行為を控えていたように思う。

 

そう考えれば、自分から気持ちを伝えるのは“初めて”だ。

 

ただ何を言えばいいのか。

愛してる、では弱い気がする。

ならば、注意も兼ねて少し攻めてみよう。

そう考えて、片桐と向き合う。

 

「片桐、そっち行って」

「あぁ、そっか。壁ないと壁ドンできないよね」

 

片桐は背を向けて壁に向かう。

そうして壁に近づいたところで、振り返ろうとした片桐の顔の横にドンと肘をぶつける。

びっくりして驚いた顔をする彼女との距離は、僅か10cm。

覆い被さるような形で、俺は彼女の全体を影で覆い隠す。

腕とは反対の耳に唇を寄せて、囁くのは“愛”ではなく“警告”。

 

「……美月」

「は、はいっ」

「–––あんまり無防備にしてると、襲うぞ」

「ふにゅっ!?」

 

奇妙な悲鳴をあげて、ポンと顔を赤くする片桐の姿に俺はようやく仕返しができたと笑む。

 

「返事は?」

「……は、初めてだから、優しくお願いします……」

 

–––違う。そうじゃない。

 

 

 

 

「さて、それじゃあ……次はお姉ちゃんで」

 

さっきから外野で百面相していた愛理。その圧力に押されて、都は次の犠牲者に姉を選んだ。

 

「それじゃあまずは札を引いてください」

「わかってるわよ。……ねぇ、どれがいいと思う?」

「不正はダメですよ。私は公正ですので」

 

身内という立場を利用して、不正を試みたが妹に突っぱねられた。

明らかにフラストレーションが溜まっている愛理は、適当に札を引くと難しい顔をする。

 

「『顎クイ』かぁ……」

 

普段似たようなことをやっている身としては、目新しさがなくてつまらないといったところか。

 

「それじゃあやってもらおうかしら」

 

不敵に笑みを浮かべる愛理が、椅子に座って待つ。

女王様を前にして、俺は速攻で降伏した。

 

「降参します」

「さっきまでそんなのなかったじゃない!なんで私だけダメなのよ!」

「はーい、受理します」

「ちょっと待ちなさい!顎クイくらいやりなさいよ!」

「普段似たようなことやってるだろ」

「嫌。ここでして」

「ええ……」

 

わがままな女王様の顎に手を添える。

 

「これで–––」

 

–––いいか?

 

「–––んっ」

 

そんな短い言葉を言い切ることもできず、唇が彼女の唇によって塞がれる。その時間は一秒にも満たなかったが、見せつけるには十分過ぎた。

 

「あら、顔真っ赤よ?」

「そういうおまえこそ顔真っ赤だが?」

 

–––都曰く、引き分けだったらしい。

 

 

 

「さて、残すところあと二人。メイドさん、それではどうぞ」

「はぁ……引かなければいけないですか?」

「ルールですので」

「お嬢様は引いてませんが」

「あとで二人にはやり直してもらいます」

 

何故か桜との再戦が決定する。

そこでようやく諦めた冬海は、札を一枚引いた。

 

「『バックハグ』ですね。ちなみにうちのクラスでは一番人気ですよ」

「そうですか……」

 

憂鬱そうに冬海が都の話を受け流す。

そして、ちらりと視線を俺の方に向ける。

彼女は澄まし顔でゆっくりと歩いてくるが–––何故か薄らと耳がピンク色に色付いている。

 

「さっさとしてください。……藤宮様」

「何度もやったのに、いまさら緊張してんのかよ」

「ひ、久しぶりですのでお手柔らかにお願いします」

 

元カノにバックハグ。

あまりにも奇妙な状況に俺も緊張する。

冬海も同様に緊張しており、声が僅かに揺れていた。

知らないとわからない差異。

もう顔は見れないとばかりに背中を向けた冬海が、瞑目してその時を待つ。

 

「……雪菜」

「……はい、先輩」

 

伸ばした手が震える。それでも、しっかりと腕を回して。そうして久しぶりに彼女を包み込んで、俺は冬海が緊張で身体が強張っているのに気づいた。

 

「……愛してる」

「……私も、愛してますよ」

 

名残惜しくも手を離して、抱擁を解く。

胸に残ったのは、氷も溶かせない微熱で。

指先には、まだ冬海の–––雪菜の体温が残っていた。

 

 

 

「さて、残すは真打都ちゃんの番ですね!」

 

札をセルフでシャッフルして、自分で引く。

 

「おや、『バックハグ』ですね」

 

宣言した通り、都が反転して見せた札にはそう書かれている。

余裕の表情でにんまりと笑みを浮かべる都は、「さあどうぞ」と両手を広げる。

 

「随分と余裕だな」

「その程度で動揺する都ちゃんではないので」

 

では、お望み通り背後からバックハグをしようと腕を回してぎゅっ。

 

「さぁ、私にはどんな愛を囁いて–––きゃっ!?」

 

–––と抱擁したあとで、腰と膝裏に腕を回してそのまま持ち上げる。

 

目を白黒とさせて驚いている都を、ソファーまで連れて行く。

当然お姫様抱っこを継続したまま腰を下ろし、そのまま俺の膝上に下ろした。

お腹に腕を回してバックハグの体勢を作ると、僅かに緊張したように都の身体が強張る。

 

「いつも膝の上に乗ってるのに、今日は随分と緊張してるな」

「な、なんだかお兄さん今日は随分と様子が違いませんか……?」

 

実際、都の方から膝の上に乗ることはあっても、俺から乗せたことはない。そういう意味ではいつもと違う。

 

「都」

「は、はい。なんですか……?」

「いつも美味い飯作ってくれてありがとう」

「い、いえ……」

「毎日食べたいくらい美味い」

「……料理は得意なので」

 

借りてきた猫のようにおとなしい都に、少しだけ嗜虐心がそそられる。

 

背中越しに見える無防備な肩に、なんとなく惹き寄せられて……ふと気がつけば肩にキスを落としていた。

 

「ひゃっ!?」

「あ、悪い。つい……」

「い、いえ……びっくりしましたけど、嫌じゃないですよ……」

「そうか。もうひとつだけいいか?」

 

本音をひとつ伝えておこう。

そう思って、俺は都の耳元へ囁く。

 

「……ずっと一緒にいられたらなと思ってる。正直、家に帰ってほしくない」

 

鹿島夫妻には悪いとは思うが、これは本音だ。

都のいない日常はつまらないし、家に返したくないとも思う。

既に都は、生活の一部なのだ。

 

「愛してる」

 

全てを最後の一言に集約し、愛してるを伝えれば。

ぐらりとソファーの上に都が倒れた。

そのまま耳を塞ぐように縮こまり、ダンゴムシのように丸くなる。

 

「……耳が孕みそう」

 

隙間から垣間見える都の顔は、羞恥で真っ赤になっていた。

 

 

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