元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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一方その頃……。


女子会(愛理抜き)

 

 

 

「さぁ、観念してください京介様!」

「何が観念しろだ!なんだよその格好!」

「寝巻きですが?」

「そんなスケスケな寝巻があるか!」

 

突然、隣の部屋から大声で怒鳴り合う声が聞こえてきた。

片方はうちの弟、もう片方は親友。

ひとつ屋根の下で何をしているのか、中学生にあるまじき会話内容である。

 

うちの弟はスケスケのネグリジェが出てくる薄い本を持っているくせに、そう言って隠すからむっつりとか言われるのだ。

 

私としてはその“スケスケのネグリジェ”が一目見たいが、親友がいい雰囲気を作っているので邪魔するわけにもいかず、会話が気になって耳を澄ませてみると随分と面白い状況のようだった。

 

「一緒に寝るだけではないですか。何がいけないと言うのです?」

「色々だ!色々!恋人でもない男女が同衾とかおかしいだろ!」

「良いではないですか。いずれは夫婦になるんですのよ」

「返事は卒業まで待てって言っただろ!」

「それはそれ。これはこれ。アプローチはわたくしの自由ですわ。その結果、聖夜に何があっても構わないでしょう」

 

隣の部屋の喧騒は随分と面白い。つい聞き入ってしまうのだが、ドアがバタンと開き二人の鬼ごっこが始まったところで物理的に情報が得られなくなった。

 

「–––さて、それではこっちは女子会を始めましょうか!」

 

それはさておき。

 

私はポンと手を打ち合わせて今宵のメインイベントの開始を宣言する。

鈴音さん、美月さん、桜さん、雪菜さん、私を含めた五名が今回の女子会のメンバーだ。

それぞれ持参したパジャマに着替えて、キングサイズのベッドの上に集まっていた。

 

「……いいのかなぁ」

 

もう隣の部屋にはいない二人を放置して。教師として、あるいは保護者として責任があると言わんばかりの鈴音さんは二人の行く末が心配なのか不安そうな顔をして言う。

 

「自己責任ですよ。もうそういう経験がある子だってクラスに一人か二人くらいはいるみたいですよ」

「最近の中学生って進んでるんだね……」

 

しみじみと呟く鈴音さんと美月さんの声が重なった。

 

「それにああ見えて本気で嫌がってるわけじゃないですから。むっつりですので」

 

なるようになるだろう。私はそう言っておく。

 

「こっちはこっちで相手のいない同士、恋バナでもしましょう」

 

切り替えてそう言うと、約一名の顔が曇る。

 

「……今頃世のカップルはイチャイチャしてるんだろうね」

「美月さんも彼氏欲しいんですか?」

「それはそうだよ。……まぁ、誰でもいいってわけじゃないけど」

「それこそお兄さんみたいな人がいいと」

「あぁ、うん…………」

 

反射的に答えて、あたふたと慌て出す。

 

「ち、ちがっ、今のは物の例えで!」

「もう素直にゲロってくださいよ。お兄さんのこと好きなんですよね?」

「容赦なくぶち込んでくるね!?」

 

私の中では、既に確定している。

“美月さんはお兄さんが好き”だ。

きっと、鈴音さんも桜お姉さんも程度はどうあれ好意に近い感情を抱いているのは間違いない。

ただ残念なことに美月さんは恋愛に関してはポンコツのようだし、鈴音さんはお姉ちゃんに遠慮して“好きになってはいけない”と思い込むようにしているようで。

 

前述の二人はまだいい。一番の問題はこの二人。

まったく読めないお嬢様とメイドだ。

いつものほほんとしている桜さんは好意の度合いがまるで未知数で、メイドに至っては“元カノ”である。

 

「そ、それは、都ちゃんだってどうなの?ほ、ほら、さっき–––」

「キスですか?しましたが」

 

話を逸らそうとした美月さんに堂々と言うと、何故かあちらが赤面した。

 

「私はお兄さんのこと好きですし、愛してます。当然男性としてです」

「……」

 

はっきりと言い切った私に、美月さんは開いた口が塞がらないとぽかーんと口を開けていた。

 

「……いや、でもさ。お姉ちゃんがいるわけじゃん?」

「まだ二人は正式に付き合ってませんし、文句を言われる筋合いはないわけですが」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

「それにお兄さんとこういうことをして咎められないのって、付き合っても結婚もしていない今だけなんですよ?」

 

にっこりと笑って言う私に、美月さんは口を噤んだ。

 

「……確かに」

 

ぼそりと肯定してくれたのは、鈴音さんだ。

 

「まぁ、実際二人とも“まだ”付き合ってないみたいだし。文句を言えるような立場じゃないよね」

「そうですよね。そういうところお姉ちゃん危機感ないというか」

「藤宮君って結構な優良物件だから、他の女の子が黙っていないと思うなー」

「そうですそうです。それにお兄さんの職場って女性が多いみたいですし」

 

ちらり、と“ただの同僚”さんに目を向けると視線が泳ぐ。

 

「た、確かに藤宮君ってモテるんだよね。他の部署の女の子からも紹介して欲しいって声があるし。それに将来的には出世も間違いないし」

「出世?」

「うん。私と藤宮君、桜ちゃんが大学を卒業したら桜ちゃんの会社に入ることになるから。それもかなり上の立場だから実際幹部ってところかな」

 

思わぬところから出世の話が暴露されて、驚いてお嬢様とメイドを見ると二人は瞑目して小さく頷く。

 

「将来的に桜ちゃんを支えるために経験を積ませておきたいから、って理由で私も藤宮君も仕事量が他より多いんだよね。前は上の方の会議に出席させられたし」

「……ただのコネとかじゃないんですね」

「失敬な。これでも仕事は出来る方なんだよ。ってなにその目、疑ってる?」

 

懐疑的な視線を向けると、心外だというように頰を膨らませた。でも、私が疑ったのはそこじゃない。

 

「……もしかして、月曜日残業増やしてるのってお兄さんと長くいたいがためにわざとですか?」

「あ、あははは、そんなわけないじゃん……」

「少なくともわざと余計な仕事を請け負っていますよね」

 

冷静に分析したメイドの一言に、美月さんの頰がぴくりと引き攣る。

 

「そ、そんなことないよ……?」

 

目が泳いでいる美月さんは、逃げるようにチビチビとペットボトルの水を飲み始めた。

 

「黒ですね」

 

残業とかどうでもいいけれど、まず間違いなくお兄さんのことは好きだろう。私はそう結論づける。

 

「それで鈴音さんは?お兄さんのこと好きなんですか?」

「ん〜、まぁ……人として?」

 

次第に泳いでいく視線が“それだけじゃない”と言っているようにも見える。

 

「ふ〜ん」

 

長い間、見続けてきた私にとって鈴音さんも姉同然。

嘘を吐く時や、誤魔化そうとする癖は熟知している。

こうやって言葉を濁す時は、だいたい誤魔化したい時だ。はっきりと明言しないあたりが彼女らしい。

 

「まぁ、いいですけど」

 

問題はやっぱりあの二人。私は探りを入れてみることにした。

 

「雪菜さんはどうですか?恋の話など。参考にしたいんですが」

「……私ですか?」

 

ポイントは“誰”と相手を明言しないこと。“元カノ”としての話が聞けるかもしれない、と催促しても彼女は表情ひとつ崩していない。

 

「恋も何も雪菜さんが付き合ったのは直人さんだけですよ」

「お嬢様!?」

 

–––敬愛する主人の裏切りに珍しくメイドが声を荒げた。

 

「へぇ〜、その話聞きたいですね。実際なんで別れたんですか?言いたくなければいいですけど」

 

私の一言に表情が微妙に引き攣る。そこに二人、釣られるように加勢した。

 

「あ、私もそれ気になるかも……」

「わ、私も」

「そ、それは……」

 

言い淀むメイドさん。

 

「「「それは?」」」

 

シンクロする私と鈴音さんと美月さん。

 

「……そ、そんなことより。お嬢様の初恋の話などいかがですか?」

「え?私別に恋をしたことなんて……」

「お嬢様も覚えていないくらい小さい時の話ですから。恋と呼ぶにはあまりにも幼く、どちらかといえば懐いていたという表現が正しいかもしれません」

「なにそれ気になる」

 

急激な話題転換に食いついたのは、桜さんと仲の良い美月さんだった。

 

「……まぁ、もっともあの人も覚えていない話ですが」

 

そう前置きをして、彼女は語り始めた。

 

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