元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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体調を崩して年が明ける前に書けなかったことが悔やまれる。


大晦日と除夜の鐘

 

 

 

十二月三十一日。大晦日。

いつもは男だけの寂しくむさ苦しい年末とは違い、今年は一緒に過ごしたい人がいる。

今年最後の振り返りとして一年を思い返せば、今年はいい年だったなぁと自分らしくもない感想が出た。

愛理と再会して、認可した覚えがない同棲が始まり、それからなし崩し的に体の関係がズルズルと続いたが、まぁ悪くなかったと言ってもいいのではないのだろうか。

 

大掃除を終えて引っ張り出した炬燵に入りながら目の前にいる可愛い同棲人を眺めていたら、ふとした瞬間に視線が合って自然に頰を緩ませて微笑みかけてくる。可愛い。

 

「なに?」

「いや、なんも」

 

何が凄いっておっぱいが机の上に載ってるんですよね。

見慣れててもうちの愚息の教育には悪い光景だ。つい眺めてしまうのは男の性だろう。仕方ない。

 

「お兄さんまたお姉ちゃんのおっぱいばかり見てます」

 

そんな俺の視線の先を見逃さなかった都が、呆れたようにそう言って炬燵の中で脚をぶつけてくる。

 

「そういえばおっぱいで思い出したんだが」

「なんですか?」

「あれに蜜柑載せてみたいなと」

「なるほど。そういえば男子が一時、タピオカチャレンジだのおっぱい鏡餅だので盛り上がってましたね」

「そう。それ」

 

都が無言で卓上の蜜柑を手に取り、自分の胸の上に載せる。

 

「むぅ。私じゃ少し体を逸らさないと落ちますね」

「まぁ、おまえは巨乳ってより美乳だからな」

「誰が微乳ですか」

「絶対おまえわざと言ったろ」

「脱げば挟めるんですが」

 

そう言ってネック部分を引っ張った。

 

「まぁ、それはさておき」

 

二人分の視線がある一点に集中する。

熱烈な視線を受けた愛理は、警戒した猫のように見返してきた。

 

「何処に行きます?やっぱり上より横から?」

「まぁ、鏡餅だしな」

「そういえばうちに鏡餅ありませんね」

「今から作るんだろ」

「「というわけでちょっと横になって」」

 

蜜柑を片手に迫る都と、餅を確保しようと迫る俺に愛理は身構えた。

 

「……ヘンなことしないでよね」

「これが変じゃなかったらなんだってんだよ」

 

炬燵から出るのは名残惜しかったが、無事愛理を確保してお姫様抱っこで抱えた。

 

「取り敢えずそこのソファーでいっか」

「そうですね」

 

ソファーの上に愛理を寝かせて、二つ重なったおっぱいの上に都が蜜柑を載せる。

 

「おぉ、鏡餅です……!」

「確かにこれは鏡餅だな」

「……何故だかすっごく恥ずかしいんだけど」

 

俺と都は意思疎通もなくスマホを取り出し、パシャパシャと写真を撮り出す。

 

「なんで撮るのよ」

「俺は保存用。観賞用」

「私は布教用ですね」

「誰に送るつもりよ!?」

「お母さん」

「ちょっ、やめなさい!」

 

愛理が慌てて身を起こしたことによって蜜柑が転がり落ちそうだったが、途中でキャッチしたことにより床への落下は免れた。

 

「残念。もう送りました」

「なんてことしてくれてんのよ!?」

「縁起良さそうだったので」

 

悪びれもなく言い切る妹に、姉は強く言えない様子。

 

「うぅ、私どんな顔して実家に帰ればいいのよ……」

「その時はお兄さんも一緒ですから」

「新年早々一家団欒を邪魔するのもなー」

「絶対にお父さんに会いたくないだけですよね」

「否定はしない」

 

新年一発目から会わないといけないとかどんな罰ゲームだろうか。胃が痛すぎる。

 

「まぁ、それも置いておきましょう」

「そうだな」

「鏡開きってご存知ですか?」

「聞いたことあるような、ないような……」

「鏡餅って食べるらしいですよ」

「ほう。詳しく」

「飾っていた鏡餅を割って食べるらしいです」

「ハンマーで?」

「木槌ですね。まぁ、お兄さんの場合は木槌より立派な逸物を持ってるじゃないですか」

「なるほど。これでもいいのか」

 

食べる、と聞いて頰を赤くして黙って聞いているむっつり期待気味な愛理を眺めながら、新年の予定を構築していく。

まだ年は明けていないが、新年も楽しい事が待っていると確信して幾分か気分は前向きになった。

 

炬燵に戻って、三人でまた寛ぐ。

美女二人に弄ばれた蜜柑の皮を剥き、口に放り込むといつもより少しだけ甘い気がした。

正しい事をしているはずなのに、何故かいけない事をしているような気がして喉に引っ掛かったが、なんとか飲み込み温くなったお茶で流し込んだ。

 

「そういえばあんた帰らなくていいの?」

 

二つ目の蜜柑の皮を剥きながら愛理が都に言う。むしろ早く帰れと言わんばかりだ。

 

「早く帰って欲しそうに聞こえるんですけど」

「そうよ」

「お兄さんは私にいて欲しいですよね?」

「むー?」

 

愛理が皮を剥いた蜜柑を口に突き出してきたので食べていると、とんでもない板挟みにあってしまった。

 

「そうだな。……でも、それはそれであの親父さんが煩そうだしなぁ」

 

ほぼ毎日のように泊まっていることで既に怒らせているので今更な気もするが『それはそれ、これはこれ』である。

そう言い張って悩む俺に、都はジト目を向けてきた。

 

「そんなことを言って、私がいると二人で除夜の鐘を突いたり、姫始めができないからでしょう」

「除夜の鐘ってお寺とかじゃないの?」

「お姉ちゃん知らないんだ。お兄さんと実演してあげてもいいですけど」

 

いつもの小悪魔めいた微笑みが、妖艶なモノが混ざり大人っぽく見える。

 

「お寺でしたいって意味かもしれない」

「なるほど。大胆ですねお姉ちゃん」

「なにが大胆なのよ?」

「いいんですよ。お姉ちゃんはまだ知らなくて」

 

都も蜜柑の皮を剥いたかと思うと、俺の口に突き出してきた。

当然食べた。愛理から嫉妬深い視線が飛んできたが素知らぬ顔をして咀嚼して飲み込むと、今度は対抗心剥き出しで愛理が口に突き出してくる。

 

「はい、あーん」

「はい、お兄さんあ〜ん」

 

もはや板挟みにされて胃を痛めるのも馬鹿らしいので、俺は与えられた状況を楽しむべく二人から交互に食べさせてもらって三つ目の蜜柑を完食した。

 

「よし、次行きましょう」

「剥くな。まだ食べさせるつもりか」

「そう言って食べさせてもらうの嬉しいくせに」

「それにしたって限度がある」

 

そのままの勢いだと卓上の蜜柑全部剥きかねなかったため、二人を制止すると割と素直に止まってくれた。

 

「でもまあ、帰らないといけないんですよね」

「あら、随分と素直じゃない」

「帰ったらお父さんがお年玉くれるので」

「現金だな」

「きっとお姉ちゃんも貰えると思いますよ。下手したら死ぬまで渡しますからあの人」

「それは嫌だな」

「そうなのよね。もう大人になったし断ってるんだけど。それはそれで別の形で還元しようとしてくるから。……なんか帰るの嫌になってきた」

 

若干不満そうに眉根を寄せる愛理が面白くて眉間を突く。すると甘えるように指先に額を押し付けてきた。

 

「しかし、珍しいな。親から貰うって」

「「え?」」

「お年玉っておじいちゃんおばあちゃんに貰うもんじゃないのか?」

 

どうしてか二人が首を傾げて顔を見合わせている。

 

「おじいちゃんおばあちゃんもそうだけど、両親からも貰うわよ。親戚とかからも」

「嘘だろ。うちは爺さん婆さんくらいだぞ」

「でもお兄さんは私が頂戴って言ったらくれるんでしょう?」

「あげるな。……なるほどそういうことか」

 

可愛いとお年玉をあげたくなってしまう親戚の心理を今理解した。

 

「ただお年玉ってさ何処から金出してるのかな」

「また唐突ですね」

「いや、老後の蓄えとかから出して貰ってたと思うとなんだかなって思って」

「やめてください。今度どんな顔して貰えばいいんですか!?」

「年金暮らしのお爺ちゃんとかもいるんだぜ」

「追い討ちはやめてください」

 

本気で困った顔をする都を弄りたかったが、なんだかんだで優しい性格なところを見てここまでにしておく。

 

「そういえばお年玉ってどれくらいあげればいいんだろ」

「やだなぁお気持ちだけで十分ですよ」

「本音は?」

「出来るだけ沢山欲しいです」

「正直だな」

 

それにこういうところも好感が持てるポイントだ。

ただもっと具体的な金額を言って欲しい。

 

「親父さんからは幾ら貰ってるんだ?」

「二万円ですね」

「たっっっか!!!!」

 

自分が学生の頃に貰っていた金額との雲泥の差に思わず変な声が出た。

 

「中学生なんて三千円くらいで十分よ」

「でも貰ってたんだろう?」

「お姉ちゃんガチ喜びしてましたね」

「……変なこと言わないでよ」

 

大人が遊戯店で二万増やして喜ぶんだ。子供が喜ばないわけがない。

 

「お兄さんがたくさんくれるなら私もお兄さんにたくさんご奉仕してあげますよ」

「なんかそれだとイケナイコトしてるみたいだな……。まぁ、親父さんと同じ金額でいいだろ」

「……来年あたりからお父さんからのお年玉金額上がりそうですね」

 

勝手にプライド燃やしてあの親父さんが暴走するのは俺の知ったことではない。

 

それからしばらく雑談をしていると、何もしないまま時間が過ぎていった。

 

「もう三時ですし私は帰りますね。それじゃあまた来年。絶対明日来てくださいね。初詣行きましょう」

「はいよ。それじゃあな」

 

去り際にさらっと明日の予定を埋められた気がしたが、避けられる気がしない俺はもうほぼ諦めていた。

 

 

 

炬燵と合体して数時間、年末の特番を見ながら食事をして、風呂を終えていよいよ残すところは寝るだけとなった。

年明けまではあと一時間程、もうすぐ十一時になるというところだ。

 

「今年もあと少しね」

「そうだな」

 

炬燵で隣り合わせに座っているからか、太腿がぶつかり合う。

愛理の方から寄り掛かってくるように体重を掛けてきて、より室内が暖かく感じた。

 

「何かやり残したことってあるか?」

「そうね。ないって言ったら嘘になるんだけど–––」

 

言い淀み口を噤む愛理に顔を向ける。

 

「なんだよ。言えよ」

 

何処からか除夜の鐘が聞こえ始め、俺はふと妙な考えを思いついてしまう。

 

「じゃあ、こうしよう。お互いに除夜の鐘の間は嘘はなし。何を言われても怒らないし気にしないということで」

「ねぇ、それ絶対あとで怒ったり、関係が失くなっちゃったりするやつじゃない?」

「さぁ、それは聞いてみないとわからんな」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべて言うと、抗議のつもりか額を肩にぶつけてくる。

 

「……まぁ、一応言うけどね」

 

観念したらしくそのまま頭を預けてくる。

俺の肩に頭を乗せて、甘えるように腕に抱きついた。

まるで逃さないとでも言うかのように。

当然柔らかな圧力に俺の腕は抜け出せなくなる。

 

「今年中に恋人関係になっておきたかったなって」

「おまえ俺のこと全力で捕まえるつもりじゃねぇか」

「今頃気づいたの?逃さないけど」

「穏便に逃げられる方法があるなら聞いてみたいもんだな」

 

ネットに投稿したら誰か回答してくれるだろうか。

たぶん鹿島父なら喜んで協力してくれるだろう。逃げる気もないけど。

 

「ところで関係が進展する確率は何%?」

「黙秘します」

「あ、ちょっとそれずるい!なんでも赤裸々に喋るって言ったじゃない!」

「そこまでは言ってない気がする」

 

俺がそう言って回避すると、わざとらしく彼女は頰を膨らませて不機嫌をアピールする。

 

「……覚えてなさいよ。来年は絶対に捕まえてやるんだからっ」

 

来年の抱負を語る愛理はメラメラと燃え上がっていた。

 

「さて、じゃあ愛理の心残りも消えたことだし、今度は俺の心残りにも付き合ってもらうか」

 

今度は俺の番、とばかりに愛理の腰に手を回す。

一瞬ぴくりと反応した愛理が、ちらりと視線を寄越した。

 

「な、なによ……?」

「いや、うちでも除夜の鐘を突こうと思ってな」

「それとこれとどう関係あるのよ?」

「これはその準備。男女が協力しなきゃできないんだよ」

 

炬燵布団の中に右手を伸ばし、服の上から太ももを撫でる。

反対の手はテーブルと胸の隙間に滑り込ませて、弄ぶように指の節で持ち上げる。

抵抗する気もなく、愛理はされるがまま。むしろもっと触ってと言わんばかりに身を寄せてくる。

 

「え、ねぇ、待って、除夜の鐘ってそういうこと……?」

 

百八回目の鐘の音が響いたのは、ちょうど年が明けた頃のことだった。

 

 




年々涙腺が緩くなっているせいでヴァイオレット・エヴァーガーデン見ると泣けるんだよね。もう見るの四回目くらいなのに。
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