元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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都視点です。


鹿島都の再確認

 

 

 

「ねぇ、バレンタインどうする?」

 

昼休みの教室で、友人が突然そんなことを言い出した。

その話題を持ち出したのは、小学校からの付き合いである女の子で、名前は篠崎風香。茶髪ポニーテールがトレードマークの運動神経抜群の元気溌剌活発系女子である。

部活はバレーボール部で、部活と同じくらい恋バナが好きな今時の少女といったところだろうか。

その友人がバレンタインの話題を口にするあたり、恋バナが目的なのは長い付き合いでわかっていた。

 

「どうする、とは?」

「そんなの決まってるじゃん。誰かにあげるのかって話だよ」

「当然わたくしは京介様ですわ!」

 

声高らかに恥ずかしげもなく、同席している翠ちゃんが意中の相手を口にする。

うちの学校では既に有名な話なので、翠ちゃんがバレンタインでチョコを贈る相手については『だろうな』という感じでクラスメイトは普通に聞き流していた。

胃が痛い思いをしているのは貰う張本人だけだ。

 

しかし、話の行末が気になるのか僅かにこちらへ向けられる視線が増えた気がした。

 

「都ちゃんは?」

 

興味津々といった様子で訊いてくる風香に、私は卵焼きを箸で挟みながら逡巡する。

口を噤む私に何を思ったのか、翠が口を挟む。

 

「あなたは当然、お義兄様でしょう?」

「お、お義兄様?」

 

家族構成まで知っている風香は、聞き慣れない敬称が出てきたことに首を傾げていた。

 

「それって……もしかして、最近噂になってるあの?」

「噂?」

「うん。前にショッピングモールで二人並んで歩いてるの見たって、噂になってるよ」

 

二人……という状況は随分と限られる。きっと姉が休日出勤で二人きりだった時だろう。そういう日に限ってお兄さんは私を連れ出してカフェとかに連れて行ってくれるのだ。

 

見られていたことに恥ずかしいと思うよりも、やっぱり目撃されていたかという納得が先に来る。元々ここらで遊ぶ場所といえばショッピングモールが一番なのだから。

 

「そうですね。まぁ、同一人物かはわかりませんが」

 

最近一緒に出掛けた男の人なんて、お兄さん以外にいないのだが曖昧にするためにそう答えた。

 

「へぇ〜、じゃあその人に?」

「当然、本命チョコを」

 

わざと周りに聞こえるように声音を少し上げる。すると複数の箇所でガタガタと椅子が揺れる音が鳴った。

 

「かなり歳上って聞いたんだけど、どれくらいなの!?」

「ちょうど十歳くらいですかね」

「きゃ〜っ!」

 

歳の差恋愛という単語で盛り上がる友人に、私は面白おかしくて頰が緩んでしまう。

 

–––どんなチョコをあげようか。私は友人達との時間を過ごしながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

放課後。教師が解散の合図を出したと同時に、適当に荷物を詰めた鞄を片手に教室を飛び出した。

足を踏み外さないよう階段を早足で駆け下りて、下駄箱についた私は中を見て思わず「ゲッ」と乙女らしからぬ呻き声をあげた。

 

「え〜、また〜?」

 

私の下駄箱には、靴以外にもうひとつ。封筒が入っていた。中身を見てみると便箋が一枚入っていて、取り出して読んでみると案の定だった。

 

内容を要約すると校舎裏への呼び出しらしい。

 

最近こんなのが多い気がする。

卒業が近づいているからか、ダメ元で告ってみようという輩が後を絶たないのだ。

受験が近いんだから邪魔をしないで欲しいのだが、そこら辺の配慮は頭の中には皆無らしく、傍迷惑な勇気を振り絞ってこうして果し状を送りつけてくる。

 

「はぁ〜……」

 

優等生の都ちゃんは、外面だけはいいのでこういう呼び出しには応えないといけない。なんとも面倒な優等生の仮面である。

 

靴に履き替えて、部活に向かう生徒の波に紛れて指定された校舎裏へと向かった。

するとそこには一人の男子生徒がいた。確か隣のクラスの……名前は片岡君。そういえば差出人の名前もなかったんだから無視しておけばよかったのでは、と思ったがその頃には相手の方から既に認識されていた。時既に遅しだ。

 

「ごめんね。急に呼び出して」

「いえ……」

 

面倒そうな態度をおくびにも出さず、私は完璧な笑顔で対応する。

緊張しているのか頰の赤い彼には、勇気とは時には蛮勇にもなりえると今から教える羽目になる私は憂鬱な視線を向けていた。

 

「えっと……鹿島さんって、志望校はA校だったよね」

「ええ、まあ」

 

なんで知ってるのかという質問は面倒だからしない。どうせ妙な情報網ができてるのだろうから。

 

「……僕も、A校なんだ」

「そうなんですか」

 

フッたら面倒そうだな、と思ったが慈悲は存在しない。

私にだって、恋愛する自由はあるのだから。

それがたとえ茨の道で、着地点が他の人とは違っておかしいのだとしても。

 

「……」

 

あまりに話を引き延ばすものだから、私は今日の献立を頭の片隅で考える。

お兄さんはガッツリお肉を食べたいタイプなので、まずはメインの肉料理だろうか。

寒いのでスープ系や煮込み系も欲しい。

う〜ん、どうしよう。悩みに悩んでいると状況に進展があった。

 

「えっと……お互い頑張ろうね」

「はぁ……まぁ、はい」

 

いやいや、進展してないから。

結局チキって本題を話さないあたり、そこまでの勇気はなかったのかもしれない。

呼び出しておいて、肝心の話をしないとは……呆れて物も言えず、話はそこで終わったと判断した私はこちらから会話を切ることにした。

 

「あの、私用事あるのでもう行っていいですか?」

「あ、いや、その……鹿島さんに聞きたいことがあったんだけど」

 

もう既に三分。お湯があったならカップラーメンができている頃だ。光の戦士ならきっと食べに帰ってるだろう。

私はそんなくだらないことを考えながら、次の句を待つ。

そうして口を開いたり、閉じたりしている彼が話し始めるのを待っているとようやく彼が肝心の話を口にした。

 

「その……鹿島さんは、あの人と付き合ってるの?」

「あの人とは?」

「前にショッピングモールで見かけたんだ。……腕を組んで歩いてるところを」

 

まさかの目撃者さんである。

しかし、私にとってそのことは重要ではない。

誰に見られようが関係ないのだ。

援交でもなければ、疚しい関係はひとつもない。

 

「……付き合ってませんよ」

 

悔しいが、私は素直に答える。

すると彼はほっとしたように息を吐いた。

私が好きなのは事実だ。

安心する要素は、今のところない。

 

「私の一方的な片想いです」

 

つい余計な一言を口にしてしまう。

言う必要はなかったのに。

 

私の告白を聞いた彼は悔しそうな表情をして、焦ったように口を開く。

 

「あんな歳上の人を……?」

「そんなに歳上に見えますかね」

「う、うん……。少なくとも釣り合わないと思う」

 

『釣り合わない』という一言が、酷く胸に刺さった。

『釣り合わない』とは、どういう意味か。

あの人に私は相応しくないという意味か。そう捲し立てたくなった。

冷静な私がそれに待ったを掛けて、違う意味だと諭す。ただ彼は私に釣り合わないと言ってるんだと。

 

何様のつもりで……?

 

きっと彼は私が好きなんだろう。だから、そう言って否定するのだ。自分は気持ちを伝える勇気もないくせに。誰かを貶すことしか、私の初恋を否定することしかできない。

 

それが許せなくて、私はつい腹が立って声を荒げてしまう。

 

「あなたには関係がないじゃないですか」

「そ、それは……でも、あの人はおっさんって感じで」

「あの人は二十五歳で黒川先生とは同い年です。私からすれば姉と同年代ですから、それほど離れているという印象はありません」

 

仮にお兄さんを“おっさん”と呼ぼうものなら、姉や鈴音さんも“おばさん”ということになる。なんと恐ろしいことを言うのか。間接的に鈴音さんをおばさんと言ってるようなものだ。恐ろしい。

 

「それとも黒川先生がおばさんだと言いたいんですか?」

 

こじつけのように私はそう言って、彼を咎める。

男子生徒に人気の黒川先生。彼もファンの一人のようで、言い淀んで口を噤んだ。

 

「私急いでるので帰りますね」

 

あまりにも不愉快で、私はそれだけ言い残してその場を立ち去った。

 

 

 

電車に乗ってお兄さんの家の最寄駅に到着する。

近くのスーパーで夕食の材料を買って、私は不機嫌なままに誰もいないお兄さんの家へとお邪魔していた。

時間もないのですぐに夕食の準備を始める。途中で宅配便が届いたが中身も確認せず、受領印を押して受け取るとソファーに置いておいた。

 

お姉ちゃんとお兄さんが帰ってきたのは、午後六時ごろ。

玄関が開く音がして、私は胸が高鳴るのを感じた。

一秒でも早く顔が見たくて、火にかけた鍋も放置して玄関へと急ぐ。その時弱火にしておくのも忘れない。

 

「お兄さんおかえり!」

 

今日はなんとなくお兄さんに抱きついてみた。するとお兄さんは私の髪を梳くように優しく頭を撫でてくれた。

 

「ただいま。今日の晩御飯は?」

「今日は中華ですよ。エビチリに、回鍋肉、炒飯と玉子スープです」

「おー、いいな」

 

海老大好きなお兄さんが嬉しそうに笑う。それだけで私は嬉しかった。

 

「ねぇ、私もいるんだけど」

「あ、お姉ちゃんおかえり」

「……まぁ、気持ちはわからなくもないけど。なんか複雑」

 

不満そうな姉を置いて、リビングへ移る。

すぐに夕食を温め直して、配膳する。

 

「はぁ〜、疲れた〜」

「本当にお疲れみたいですね」

「長期休暇明けの仕事が一番きつい」

「あぁ、なんとなくわかります」

「長期休暇明けの学校って行きたくなくなるよな」

「はい」

 

学生も社会人もそこは変わらないらしく、心底同意できた。

 

「それより都、あの段ボールは?」

「あぁ、今日宅配便が届いたんですよ。なんですかね?」

「中身確認してないのか?」

「忙しかったので」

 

少しイライラしていて確認しなかったのだが。

気になったのか姉が見に行く。

 

「『dolls garden』って書いてあるわよ」

「「あっ……!」」

 

私とお兄さんは顔を見合わせた。

 

「ついに届いたか……」

「じゃあ、明日はお姉ちゃんと着てお兄さんを接待してあげますね」

「それは楽しみだな」

「ふふ、襲い掛かってくれてもいいんですよ?」

「せめて結婚できる年齢になってから言ってくれ」

 

もし私が結婚できる年齢だったら……。お兄さんは手を出してくれていたのかと、私は悶々としながら明日お兄さんを精一杯誘惑することを決めた。

 

 




大事なことだから言っておきますが次回はバニーです。
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