黄金樹の名の下に   作:黒プー

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第2話

通信機器を起動。

音声、映像装置ともに問題なし。

 

「…ふむ。」

 

現在、男は玉座から離れ、自らの家としているカーリア館の一室にいた。

その部屋は王が住む部屋とは考えられないほどに質素なもので、あるのは小さなベッドに窓際の机と椅子、そして本棚が少々だ。

男はそんな部屋とは見合わない機械を机に設置し、それを触っていた。

 

「…起動。」

『起動確認。通信への接続を開始します。』

 

そして男はそれらを起動し、彼らへの通信を繋いだ。

 

「…数ヶ月ぶりか、これをつけるのは。面倒なことにならなければいいが。」

 

 

場所は変わり、大西洋異聞帯と名付けられた場所のとある大広間。

 

金髪の青年、キリシュタリア・ヴォータイムは、友人達を待っていた。

しばらくすると、大広間中央の円卓の椅子が光りだし、ホログラムのように彼の友人達の姿を映し出していく。

それをみたキリシュタリアは、口を開く。

 

「……空想樹の発芽から90日が経過した。濾過異分子現象_――ロストベルトの書き換えは無事終了した。まずは第1段階の終了を祝おう。これも諸君らの尽力のおかげだと。」

 

キリシュタリアのその言葉に、飢えた狼のような目をした男――ベリル・ガットが反応する。

 

「うん? そいつは大袈裟だぜキリシュタリア。俺たちはまだ誰も労われるようなことはしちゃいない。宇宙からの侵略も、テクスチャの書き換えも、全部『異星の神』様の偉業だからな。

俺たちがしたことといえば、異聞帯の王の御機嫌取りだけさ。本番はここからだろ?」

 

ベリルの言葉に、眼帯の少女、オフェリア・ファムルソローネが呆れたように言う。

 

「……わかってないのね、ベリル。ロストベルトの安定と『樹』の成長は同義よ。キリシュタリア様は異聞帯のサーヴァントの契約とその継続に全力を注げと言っているのです。……あなたのように、遊び気分がまだ抜けていないマスターに対して。」

「おいおい、睨むのは勘弁だぜ? オフェリア。お前さんの場合は洒落にならないだろ? ……にしても、キリシュタリア様ねぇ。 目が覚めてから随分な変わりようで。」

 

ベリルは笑いながらそういうと、ふと表情を消してさらに話す。

 

「……まあその辺りは茶化さないさ。こんな状況だ、誰かに頼りたくなる気持ちもわかる。なんで誤解だけ解いておこうか、お嬢さん。俺はかつてないほど真剣だよ。……こうして蘇生に成功したものの、異星の神とやらの恩情が二度あるとは思えない。なら、生きているうちにできることはやっておきたい。

殺すのも奪うのも、生きているからこそできる喜びだ。――なあ、あんたもそう思うだろ? デイビット。」

 

ベリルに話を振られた謎多き青年、デイビット・ゼム・ヴォイドは、その言葉に同意を示す。

 

「同感だ。作業のような殺傷行為はコフィンの中では体験できない感触だった。……お前と俺の担当地区は原始的だからな、必然その機会に恵まれる。」

「そうとも! 俺たちにその気がなくても向こうからやってくる! 遊んでる暇なんてねえんだよなぁ?」

「……そう。あなた達の担当異聞帯には同情を示すわ。」

 

オフェリアは二人のその言葉に、呆れたようにそう言った。

 

その三人の会話を聞いていたやや不健康そうな青年…カドック・ゼムルプスはそれらの会話に対して何やら恐怖しているように見えた。

 

「……」

 

そして彼の隣にいた人物、スカンジナビア・ペペロンチーノは、その様子を目ざとく見つけ、カドックに声をかける。

 

「あら。平常運転のベリルに比べて元気がないじゃないカドック。目のクマとか最悪よ? 寝不足? それともストレス?」

「……その両方だ、僕のことは放っておいてくれ。仕事はきっちりこなしているんだから。」

 

その言葉に、ペペロンチーノは笑いながら言葉を返す。

 

「それは無理ね。放っておいて欲しいならせめて笑顔でいなさいな。友人が暗い顔をしていたら私まで暗くなる。そうでしょ? 私は私のためにあなたを心配してるの。あなたの事情とか気持ち関係なくね。わかる? 一人でいたいならそれ相応の力を身につけないと。 ストレスが顔に出てるようじゃまだまだよ。何か楽しいことで緩和しなきゃ。」

 

そういったペペロンチーノは少し考え、思いついたように再びカドックに話しかける。

 

「そうね、定番だけどお茶なんかどうかしら。あなたのところの皇女様もきっと喜ぶわよ?」

「……余計な気遣いだ、こんな世界になってもあんたは変わらないな、ペペ。」

「きゃー! 褒められちゃったわ! 殺し文句にしてはなかなかよカドック!」

 

そう、彼らが話していると、唯一ホログラムが起動していなかった椅子が光はじめ、ホログラムを投影する。そこに写っていたのは、一人の青年だった。

 

「……久しぶりじゃないか、エルデ。ここ数ヶ月音沙汰がなかったから心配していたよ。」

 

起動したホログラムの青年…エルデに対して、キリシュタリアが話しかける。

その言葉にエルデは、少し微笑みつつ言葉を返す。

 

「……すまないな、貴公ら。英雄喰らいをやめろと言っても聞かない奴がいたものでね、彼を止めるのに少々時間を使ってしまった。」

「……ふん。どっかでくたばってるもんだと思ってたけど。」

 

エルデのその言葉に、ここまで黙っていたヒナコが言葉を返す。

 

「はは、私がそう簡単にくたばらないことは貴公が一番知っているんじゃないか? ヒナコ。」

「……まあ、そうね。」

「貴公こそもう少し彼らと仲良くしたまえ、人脈はあるに越したことはないだろう。」

「……あんたと仲良くしとけば十分でしょ。」

「そんなことはないと思うがね。」

 

エルデとヒナコの会話が終わったところを見計らい、キリシュタリアが再び話し始める。

 

「……さて。遠隔通信とはいえ、諸君らを呼びつけたのは異聞帯の成長具合を確認するためではない。

……1時間ほど前、私のサーヴァントの一騎が霊基グラフとラウンドサークルの出現を予言した。」

「ほう? ついに来るというわけか。カルデアが。」

「……おそらくはね。」

 

そのキリシュタリアの言葉に、オフェリアとペペロンチーノが反応する。

 

「死亡してはいなかったのですね。3ヶ月間も虚数空間を彷徨っていたというのに。」

「そうね、せっかくコヤンスカヤちゃんが魔術協会に手を回して扱いやすい新所長まで動員したのに。

人選間違えたんじゃないの? 私のサーヴァントなら基地ごと壊せてたわよ?」

 

そのペペロンチーノの言葉をキリシュタリアは否定する。

 

「いや、あれが最適解だった。カルデアの守りは強固ではないが万全だ。新スタッフとして内部から手引きしてもらえなければレイシフトで対応されていただろう。制圧にはまず内側から侵入し、カルデアスを停止させる必要があった。」

「そのような状況で離脱を成功させた、か。存外油断できない相手らしいな、カルデア。」

 

キリシュタリアの言葉に対し、エルデは楽しそうに笑った。

そんな彼を怯えるように見つめつつ、カドックはキリシュタリアに質問する。

 

「……それで。どこに出るのかは予言されているのか。」

「いや、そこまでは。あと数時間でこちらに到着するとだけ。」

 

その言葉に、ベリルは呆れたようにいう。

 

「何だいそりゃ? じゃあ各自自分の持ち場を警戒しろってか?」

「……いや、出現場所はロシアだ。異聞帯内部のな。」

 

ここまで黙っていたデイビットが、ベリルの言葉を否定した。

 

「……それはなぜ?」

 

ヒナコがデイビットに問う。

 

「? 道理も何も、当然だろう。」

「……虚数から浮上するためには縁を辿らなければいけない。しかし現在は彼らにとっての縁になり得る場所は漂白で全てなくなっている。となると唯一縁として繋がれるのはオプリチニキだけ。ということだろう? デイビット。」

「…ああ。そういうことだ。」

「貴公、もう少し言葉数を増やしたまえよ。」

 

あまりにも説明する気がないデイビットに、エルデはそういった。

それを聞いたカドックは、諦めたような笑みを浮かべつつ言う。

 

「……ふん、因果応報とはね。やられたらやり返せ、奴らにとって僕は真っ先に倒すべき敵ってわけだ。」

 

それを聞いたヒナコが呆れたようにカドックに言う。

 

「……結果論だと思うけど。でも、敵討ちに動くような相手なら楽でしょうね。」

 

その言葉を聞いたベリルが楽しそうに笑う。

 

「復讐か! そいつは厄介だ! 話し合いは望めそうもないな!」

「貴公、殺したいだけではないのかね……? できれば私のところに来るまで残しておいて欲しいのだが?」

「おいおいエルデ! 他人に執着しないお前がそう言うなんてどうしちまったんだ? カルデアの奴らに恋でもしちまったのか?」

 

エルデの言葉に、ベリルは驚きながらいう。

 

「……何、ただ彼らは歴史を繋ぐものとして良いのか確かめるだけだとも。貴公らの異聞帯で倒れるならばそれまでだと言う話。だが私は彼らに期待しているのでね。できれば我が異聞帯まで来て欲しいと願っているのさ。」

「……相変わらずよくわからないな、エルデは。」

「そうかね?」

 

カドックの言葉に、エルデは首を捻る。そこまで自分は分かりにくい男ではないと思っていたようだ。

そんな彼らの言葉を聞いていたキリシュタリアは、三人に対して声をかける。

 

「……君たち。忘れてもらっては困るが、我々は互いに不可侵条約を結んでいる。例えその異聞帯が壊され、君たちに中の誰かが捕まろうとも、我々は干渉してはならない。決してそれを忘れないでくれ。」

「わかっているとも、貴公。……だが壊れた後ならば好きに使っても良いのだろう?」

「……構わないよ。」

「それはよかった。」

 

キリシュタリアから答えを得たエルデは、少し楽しそうに笑いながら言葉を続ける。

 

「なに、唯一の戦友を失うのが辛いだけだ。私が保証しよう、君たちがたとえカルデアに負けたとしても、私が君たちをカルデアから救おうと。……まあ、君たちの望み次第だが。」

 

そういうとエルデは席を立ち、クリプター全員を見渡す。

 

「では、私はこれで。この後少し用事があるのだ。それを済まさなければ殺されかねないのだよ。」

「……そうか。では、次の招集まで。」

「ああ。ではな。」

 

そう言ってエルデは、彼らとの通信を切断した。

 

 

「……さて。カルデアの実力、見せてもらおうか。」




おまけ 用事

???「…終わったか、我が王。」
エルデ「ああ、まあな。」
???「では出かけるぞ。何十年も私を待たせた罰だ、今日は1日付き合ってもらう。…もちろん、夜もな?」
エルデ「...(これは長引きそうだな。)」

一体誰ナンダロウナー。どこの雪魔女さまナンダロウナー。
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