エルデ「…そういえば黄金の彼は?」
魔術師「...(無言で黄金樹の中を指し示す)」
エルデ「…あのマザコンめ、それがなければ優秀な男だというのに…」
「……」
カーリア館に特別に作られた執務室。そこはクリプター兼異聞帯の王であるエルデの専用の部屋だ。
玉座の間とはちがい、あくまで個人的な部屋に近いものである。
そのため、入れるものはデミゴッドたちに限られており、通常の騎士では近づくことさえ禁じられている。
そんな場所に、満月の魔術師…レナラはやってきていた。
『御用の方はノックを』
「……あら。いつの間にこのようなものが。」
昔の王ならばこのようなものを貼らなかったというのに、と思いつつ、筆跡は明らかに王のものであったため、扉をノックしつつ部屋に入る。
「……失礼致します、王よ。」
「……ん。貴公か。座りたまえ。」
「では。」
王に指し示されるまま、来客用に置かれているソファに腰掛ける。
私は良いが、あの巨体の息子が来た時はどうするのだろう、と少し疑問に思う。
「それで、貴公。何用かな?」
エルデに声をかけられ、現実に引き戻されたレナラは、連絡役としての責務を果たすため、王へと向き直る。
「はい。外部からの連絡です。まずロシア異聞帯が陥落しました。」
「そうか。やはりダメだったか。……流石はカルデアといったところか。」
その報告を王は予想していたのか、特に驚く様子はなく執務作業を続けている。
「現在はロシア異聞帯から脱出したカルデアを異星の使徒が追撃している模様です。」
「逃げる敵を追う。妥当な判断だろうな。」
「その件で二つ目です。」
「……ほう?」
私の言葉にようやく手を止め、此方を向く王。
「クリプターの長であるキリシュタリア殿から連絡です。『カドック救出を頼めないか』と。」
「……ふむ。だがすでに異星の使徒が向かっているのだろう?」
王が当然の反応を示す。現状のカルデア戦力ならば、救出くらい使徒だけでなんとかなるだろう。
だが、クリプターの首魁はその返答を予想していた。
「私もそう思いまして、問うてみたのです。そうしたら、『異星の神は信用できないからね』と。」
「……なるほど。まああれを信用する方が無理だという話だし、大体雇い主の方も存在が不明だ。
……よし、わかったとキリシュタリアに伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
「……それと。」
王は椅子から立ち上がり、戦闘用の装備に着替えながら私に言う。
「黄金の彼を呼んでくれ。フォルサクスを使うことも許可すると。」
「……よろしいのですか? 彼は我らが黄金樹トップクラスの戦力です。」
「力をカルデアに示す。……親が子に自分が上だと教え込むのは当然だろう?」
「ではそのように。」
「ああ。」
言うが早いが王はそのまま祝福転移を利用し部屋を去って行った。
「……では、彼の元に向かいましょう。」
私は次に黄金樹へと向かうことにした。
♢
「……クソッ! 確実にダメージを受けてる! やっぱりあの神父をなんとかしないとまずい!」
『今のところはマシュちゃんの障壁でなんとかなってるけど……とはいえジリ貧だね……!』
ストームボーダーは、時速90キロで走り回る神父の攻撃を受けていた。
一応マシュが展開している障壁によってダメージを受けずに済んでいるが、とはいえ外の神父をなんとかしない限りこれを永遠に続けるわけにもいかない。
どうするかとカルデアの彼らが悩んでいると、突然ダ・ヴィンチが声を上げる。
『ムニエルくんストップ! 前方100メートルくらいに人影!!』
「うおおっ!? 嘘だろ!?」
ダ・ヴィンチの声を聞いたムニエルが、慌ててシャドウボーダーを止める。
止めた際に発生した砂煙の中には、確かに人影が見えた。
そしてその砂煙は晴れ、その人物が姿を現した。
『……っ!? なんで彼がこんなところに!?』
「あれは……エルデさん!?」
その人物とは、クリプターでありカルデアと敵対している人物の一人、エルデであった。
『……貴公ら、聞こえているかは知らんが……久しぶり、もしくは初めましてだ。私はエルデ、友人のカドックを助けるべくここに立っている。……なに、彼の身柄を引き渡してくれさえすれば、私は君たちになにもせず、神父の方も帰らせよう。何せ彼は大事な友人なのでな。』
と、エルデは彼の目的を話す。どうやらカドックを回収しにきたらしい。
しかしカルデアとしては、彼は敵の主要人物の一人。絶対に逃したくないのだ。
それを理解していた現所長、ゴルドルフは当然反対する。
「いいわけないだろう! やつは大事な情報源だ! というかサーヴァント一人連れずにストームボーダーの前に出てくるとは舐めプというやつか!?」
その言葉を、機械を通して魔力量を見ていたダ・ヴィンチが否定する。
『……少なくともそういうわけじゃないらしいよ。…彼の今の魔力量は、神霊並みだからね。』
「はぁ!? やつは人間だろう!? 昔のやつの記録を見たが、魔力量は多いが人間の域は出ないと!」
『私だってわからないよぅ! でも今の彼は間違いなく神霊のそれだ! 迂闊に動いたらここでみんなお陀仏かもしれないって!』
そうゴルドルフとダ・ヴィンチが議論していると、エルデが声をかける。
『あー、貴公ら。私としては構わないんだが、ここで私の交渉に応じてくれないと君たちの大事な車は神父によってスクラップになってしまうぞ?』
その言葉と共に、止まっていた爆発音が再び鳴り始める。
「くそーっ! 技術顧問! 背に腹はかえられない! カドックを出してやれ!」
『わかった……って、あーーーーっ!?』
「今度はなんだーーーっ!」
カメラを確認したであろう技術顧問が、突然叫び後を上げる。
そして言葉を続ける
『後部ハッチ空いてるよー! カドックもいないし、停車してる間に逃げたっぽいー!』
「……本当かね? じゃあ我々ここで死ぬのかい?」
顔を青くしたゴルドルフがそう呟く。
渡せるものがないとここで死ぬかも、と考えたらしい。
しかし、そうはならなかった。
『ん……? ああ。……貴公ら。カドックを引き渡してくれて感謝する。どうやら私のサーヴァントの眷属が拾い上げたらしい。 これで我々に用はない。 ……来るべき時まで、我が異聞帯で待っているぞ、カルデア。』
そういうとエルデは、飛んできた龍の足に捕まり、そのまま離脱していった。
『……今のって龍だよね? ワイバーンじゃなくて。』
「……やめたまえ技術顧問、現実逃避くらい静かにさせてくれたまえ。」
そしてさらに、後ろではとんでもない大きさの羽ばたく音が聞こえる。
その風圧によってシャドウボーダーが軋むほどのものだ。
「ぬおお!? 何だこれは!?」
『……うわぁ。カメラの映像出すね……』
ダ・ヴィンチがとんでもないものを見たような声で、カメラの映像を出す。
そこには、「竜」ではなく、「龍」という言葉が似合うような、赤い雷を纏った竜種がいた。
そしてその頭の上に乗っている金髪の男と、その隣にいるエルデの姿も。
そして彼らはそのまま飛び立っていってしまった。
『……これが彼の最高戦力だと信じたいね。』
「え……あれがいる異聞帯攻略しなきゃいけないの……?」
ダ・ヴィンチは畏怖を、ゴルドルフは恐怖を、エルデに抱くことになった。
彼の目的だった、力を見せつけることは、間違い無く成功しただろう。
ゴッドウィンくん生存確認ヨシっ!
なぜ生きているかはこの二次創作の終盤の方で予定している異聞帯攻略編で明かされることになるでしょう。