キリ「…抜けてしまったか。」
ぐっ様「何よ。あいつがこういうところじゃ必要なことしか喋らないのは前からでしょ。」
キリ「昔のように面と向かって話す機会はないだろう? 少し寂しくてね。」
ぐっ様「…あんた、カリスマ的なあれはあるくせに変なところ人間っぽいわよね。」
キリ「?」
あいつを一目見た時、人間じゃないってことがわかった。
気配。立ち振る舞い。そういうのが、少なくとも今の人間どもには不可能なものだった。
今まで見てきた、人間のくせに剣聖を名乗るような愚か者たちが重ねてきた年月を50積み重ねてもまだ足りないほど、彼の剣の技量は高いとわかる。
「……っ」
もしかしたら項羽様でさえも届かないのかも、と愚かな考えと恐怖を消すために頭を振る。
そんなばかなこと、あるはずがないだろう。項羽様に届きうるような化け物が、こんな時代にいるわけがない。
そう思い直し、改めてやつを見ると、
いつの間にか、目の前に来ていた。
「……貴公。」
まるで狂った火を従えたような金色の目で私を射抜く。
「……おい。聞いているのか?」
ああ、ダメなんだ、逃れる術なんかないんだと、私の勘が囁く。
「……あっ。」
私はその圧力に飲まれ、そっと意識を手放した。
♢
「……う。」
医務室らしきベッドの上で目を覚ます。
…そうか、私はあの時。
「……呑まれていたか。」
「ん? 何にだ?」
「ひゃっ!?」
突然聞こえた声に驚きつつ、そちらを見ると、私を押しつぶした主がベッドの横の椅子に座っていた。
だがその目の色はすでに普通の人間のもので、先ほどの圧力はどこかに消えていた。
「先程は失礼した、芥ヒナコ。まさか貴公が人ならざるものとは思いもしなかったのでな。」
「っ、どこでそれを?」
まさか見抜かれているとは、という動揺を隠しつつ、男に問う。
「何、私のこの狂い火の目は人にバレないよう幻術の魔術に近いものをかけているのだ。それなりに高度なものだが、どうやら知覚できるものもそれなりにいるらしくてな、例えば人間より力のある種族の者などな。」
「……そういうこと。」
「そもそも、貴公の気配は人ではなかった。サーヴァントとかいう奴らのそれに近かったのでな。」
ああ、目覚めのコーヒーを、と私にコップを渡しながら、男はとんでもないことを言ってのけた。
幻術をかけているのに一瞬でバレたあたり、間違いなくこいつも人間じゃないだろう。
「……あんたもそうでしょ。私だって幻術くらいかけてるのに。」
「ん? ああ。まあ私はそれなりに特殊でな、私に魔術の類はほとんど効かぬのだよ。」
こちらの世界の魔術がまさか祈祷に近いものだとは、と意味わからないことを言いつつ、男は自分が人外のものだとあっさりと認めた。
「……隠さないのね。」
「ん? 隠したところで意味などないだろう?」
私の呟きに、男は何を言ってるんだこいつはという表情で私の呟きに応える。
…呆れた。こいつは今までどうやって生きてきたんだ。
「普通に考えて人外だってバラしたらどうなるかわかってるんでしょうね? ……あんた今までどうやって生きてきたのよ。」
「ああ、確かにバレた時のリスクはあるだろうなぁ。優しくしてくれた人間が次の日急に襲いかかってきたのはそういうことか……」
「……あんたやっぱ危機管理下手くそでしょ。」
そ、そんなことは、と動揺している男。そんなこともくそもあるか。本当にどうやって生きてきたのよ。
「あー……まあ襲いかかってくるもの全て斬っていたらいつの間にか近づいてくるものがいなくなっていたのでな…。」
「……」
やはりこの男の技量は人を遥かに超えているらしい。
私は男に呆れつつも、正直羨ましくなった。
私にもそのような力があれば、項羽様を…。
「無理だ。」
「……は?」
「私の力があったとしても、友人と一生ともに過ごすことなど不可能だ。……貴公、そのようなことを考えていただろう?」
「…さっ、お前と一緒にするな! 私なら! あの時お前のような力を持っていれば! 項羽様の足手纏いにならずに済んだというのに!」
む、少し違ったか、と男は呟きつつ、再び言葉を発する。
「たとえ力があろうと、選択を誤れば誰一人救えずに終わる。」
「間違えなければいい!」
「無理だ。間違えないことなど不可能。……私は、この目で見たのだから。」
男は何かを思い出すように部屋の天井を見上げ、すぐに顔を戻す。
「貴公、決して選択を悔いてはいけない。貴公の友……項羽と言ったか。彼のためにもだ。」
男と言葉にハッとして、項羽様のおっしゃっていた言葉を思い出す。
『……前に進め。』
……私は、忘れていたのか。
項羽様の言葉を。
「……」
「……おお、貴公。良い目になったな。それでこそ歴史を歩み続ける者たちだ。」
私の目をじっと見つめていた男が、嬉しそうに笑った。
……何が嬉しいんだか。
「……あんたの場合は思い出すというより学ばなきゃいけないこと多いでしょうね。」
「ぬっ!? け、経験は積んでるつもりなのだが……?」
「ならなんでその極まってる動きを隠す努力しないのよ。」
「むむ、……まさかバレているか?」
「バレバレよ。」
「か、隠しているつもりだったのだが……」
あれで隠してるつもりだったのかよ、と心の中で呆れる。
そしてついでに、そういえばこいつの名前聞いていなかったなと思い出す。
「……あんた、そういえば名前は?」
「ん? ああ……自己紹介を忘れていたな。」
男は椅子の上で改めて姿勢を正し、私を見る。
「エルデだ。姓はない、強いていうならカーリアだが。気軽にエルデと読んでくれ、貴公。」
「……虞美人。でも表ではヒナコって呼びなさい。」
「ああ、ヒナコ。これからよろしく頼む。」
男はそういうと、手を出してくる。
「……?」
「む? 現代では握手は挨拶ではなかったか?」
「……ああ、そういう。」
こうやって名前を言ってもきちんと挨拶してくるやつは久しぶりだったから忘れていた。
私はエルデの出してきた手を握り返しつつ、言葉を続ける。
「……ま、よろしく。せいぜい長続きするといいわね。」
私の予感では、なんだかんだ長くなりそうだが。
王となった男は、旅の始まりにて出会った、亜人によって崩壊した砦の主人を思い出す。
その男は力は目を見張るものがあれど、彼は一度、大きな選択を誤った。
その結果、部下を失い、娘さえも失い、自らさえも失ってしまった。
人間は常に選択を誤る。残されたものがやるべきなのはその選択を悔いることではなく、ただ前に進むことなのだ。
王は湖の一角のボロ屋に倒れる男の死体を見つつ、そう学んだ。
♢
エドガー、いつも娘ちゃん王朝行くためにぶっ殺してごめんな…
でも他の場所遠いんだよ。行くの面倒くさいんだよ。
というわけでぐっ様イベントが開放されました。なおエルデは攻略する気なし。
すみません途中の項羽様のありがたきお言葉は完全に捏造です。でもぐっ様にそういうこと言ってそうだし…。
というか3日で90ブクマあざす。伸び具合なかなか狂っててかなりビビってます。