ニュー・ダーリントンの地下トンネル。
人の悪意によって生まれた怨念たちがひしめき合っていたトンネルは、一人の人物ごと崩れようとしていた。
「……行っちゃった」
カルデア一行の後ろ姿を眺めつつ、トンネルの崩れる音を聞いている人物……
異聞帯を失ったクリプターの一人、スカンジナビア・ペペロンチーノその人であった。
彼はクリプターを裏切り、キリシュタリアに攻撃した元クリプターの仲間、ベリル・ガットを追うためにベリルの異聞帯であるブリテン異聞帯に潜入していた。
そして利害の一致したカルデア一行と共にベリルを追っていたのだが、道中にてこのトンネルに誘い込まれることとなり、カルデア一行を守るために命を賭したのだった。
彼は過去のことを少し思い出しつつ呟く。
「……そりゃあそうよねぇ。あんなことをしたんだもの、こうやって一人で死ぬのが定め。最後くらいいい目を見たいなんて、許されるわけがないわよねぇ」
そんなことを表では言いつつ、しかし彼の内心は寂しがっていた。
まだ生きていたい。彼らと共に旅をしたい。A'チームの夢を諦めたくない。
しかし運命の女神が彼に微笑むことはなく、こうして崩れゆくトンネルの中で彼らを見送ることしかできないのだ。
そんな間抜けな自分のことを考えていると、唐突にあることを思い出す。
「……ああ! そう言うことだったの! ……だからあの時会いにきてくれたのね、デイビット」
かつて自らの異聞帯にいた時。友人でありクリプターの仲間でもあるデイビットが、一度きりの異聞帯間の移動を使ってまで彼に会いにきたことがあった。
きっとデイビットはわかっていたんだろうとペペロンチーノは思い至る。
「……ありがとう、デイビット。……私が汚れる前に来てくれて」
その言葉を絞り出すと同時に、トンネルの崩壊が始まってしまう。
これはもうダメだなとペペロンチーノは改めて思う。
そして目を瞑り、痛みが一瞬で終わることを祈り……。
「……?」
しかして、痛みはいつまで経っても来なかった。
「……え?」
周囲の岩石は、まるで重力が変わったように浮いていた。
そして、そんな彼の隣には。
『……貴公の覚悟を裏切るようなことをしてすまなかったな』
「……あら、いつもより随分光ってるわね?」
『そう言う貴公は随分と血まみれだな』
いつの間にか、金色の霊体のような姿のエルデが座っていた。
どうやら上の岩石は彼が押さえているらしかった。
「……それで? 何しに来たの? 助けに来てくれたならもうちょっと早く来て欲しかったけど」
どうせ近くで見てたんでしょ、とペペロンチーノは少し笑いながらエルデに言う。
エルデは苦笑いで返しつつ言った。
『……まあ、魔術で覗いてはいた』
「なら早く助けに来てちょうだいよ、ピンチなの見えてたでしょう?」
少しふざけながらペペロンチーノがいうと、エルデは表情を真面目なものに戻しながら言った。
『貴公は、それで喜ぶのか? ……自らの覚悟を邪魔されて、喜ぶような男なのか?』
その言葉にペペロンチーノは少し驚く。 人間関係に興味ないだろうと思っていたエルデから、まさかそんな言葉が飛び出すなんて。
ほうけているペペロンチーノを無視しつつ、エルデは言葉を続ける。
『そもそも貴公、ここに大量の成れ果てがいたと言うのはわかっていただろう。わかっていたのならばカルデアの力でもなんでも借りればよかった。 だが貴公は彼らに黙り、そして一人で戦った。彼らに人殺しの罪を背負わせないために。 ……違うか? 妙漣寺鴉郎』
「……あら。もう全部お見通しってわけ。 ……言い逃れはできなさそうね」
正直、今更命乞いをしてまで助けてもらうつもりは毛頭なかった。
可愛い後輩たちのために、ここで果てるつもりだった。
ではなぜ、エルデは分かりきったことだと言うのにここまでやってきたのだろうか。
『……簡単だ。貴公に質問しにきたのさ』
「あらなにそれ? そんなことのためにわざわざ? ……今の私でよかったら全然答えるわよ」
思ったより簡単な理由だったなと少し笑いつつ、エルデに質問の内容を聞く。
『……貴公。 彼らの道のりを眺めていて、どうだった?』
その質問。ペペロンチーノには心当たりがあるものだった。
インド異聞帯でエルデに言われた言葉。
”他人の道のりを眺めると言うのも、なかなか悪くないだろう? ”
まさしく、彼の質問はソレに通じるものだった。
体は痛むが、思わず大声で笑ってしまう。
「あっはっは! あの時のアレのことでしょ? それ。 ……まさかわざわざ人の死の間際にきてまで聞いてくるなんて」
『なかなか語れる相手がいなくてな』
うーんそうねぇ、とペペロンチーノはこの異聞帯で彼らと共に冒険した短い思い出を思い返す。
楽しかったこともあれば、親のように暖かく眺めることもあった。
少なくとも、とても良い思い出なのは確かだった。
『……そうか』
ペペロンチーノの答えに、エルデは簡素に答えると、座っていた霊体の腰を上げる。
いよいよ最後か、と少しペペロンチーノが身構えると、エルデは彼の顔を見ながら言った。
『貴公。思い詰めるな。……死など、貴公が培って、そして見てきた数多の思い出に比べれば軽いものよ』
その言葉に、ペペロンチーノはどこか強い説得力を感じ、身構えるのをやめた。
『そう、それで良い。……では、また輪廻の先で会おう、我が友よ』
「……ええ。死の淵まで助言ありがとうね、友達さん」
ペペロンチーノの最後の言葉に、エルデは微笑みながら答え、そして去っていった。
彼が去ったと言うことは重力魔術も消えることを意味しており、すぐに崩落がまた始まる。
しかしペペロンチーノは身構えず、死を受け入れた。
温かい、楽しい思い出に囲まれながら。
金色の霊体はゴッドフレイの例のアレと同じだと考えていただければ。
ぺぺさんの最後があまりにも悲しすぎたのであっためておきました。ご精察ください。