その日、兵藤一誠の周りには予想外な出来事ばかりが起こった。
アーシアの件はいい意味で想定外なものだろう。リアス・グレモリーの魔力によって両親は何の反対もせずに、アーシアが自分の家で同居する事を許してくれた。問題はその後だ。
学校に着いた時点で、一誠は今日が厄日であることに気付いた。松田と元浜からはアーシアの同居のことでボコボコにされ、そのアーシアは女子達によって一誠がいかに人でなしであるかを異常にしつこく教えられていたが、そのことについては一誠は何とも思わなかった。
俺はとっくに人間やめて悪魔になっちゃってますから、人でなしなのは当たり前ですもんね!それに、足元を槍でぶっ刺された痛みにくらべりゃどうってことねえよ。
あいつに、レイナーレにな。
その後も災厄は続いた。夜に人間と契約をするために自転車で家へと向かい、ドアを開けた先に待っていたのは人間ではなく魔法少女の服を着た超人ハルクだった。その超人ハルクと共に「魔法少女 ミルキースパイラル7」とかいう深夜アニメをぶっ続けで見させられている時、一誠はこれで災難が終わることを願った。
2度も異常な奴らにいろいろされたんだから、もう十分じゃないのか?
終わらなかった―――。
2度あることは3度あった―――。
契約が終わり、自転車に乗って帰ろうとするとき、一誠は前に何者かが立っているのを見つけた。一誠はすぐに天性の勘によって、目の前の者が美少女であることを感じた。
その勘は正しいだろう。だが、肝心な事が抜けていた。
その美少女は今までとは比べ物にならないくらい異常だった。
何せゴスロリの服を纏い、背中に羽を生やし、眼には明確な殺意を持っていたのだから。
ミッテルトは面と向かって立っている兵藤一誠に怒りを抑えきれなかった。
こいつが、こいつがレイナーレ姉さまを殺したんだ。
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ミッテルトは、天使だったころの自らの過去のことはあまり覚えていなかった。思い出したくなかったと言ったほうが正しいかもしれない。
なにせ彼女は親に生まれた直後に捨てられ、言葉すら話すことができなかったのだから、それも致し方ないだろう。
それでも、ミッテルトは両親のことが好きだった。ウチを生んでくれただけで、感謝しなくちゃならないんだから。
やがて彼女は独学で言葉を覚えたが、その言葉遣いは下級天使の話し方から見よう見まねで学んだものなので、とても汚らしかった。
そして、冬がやってきた。何の才能もない者にとって、冬の寒さはとても耐えられるものではない。ミッテルトは草原で飢えて倒れていたところを見つけられ、天界の養護施設に預けられることとなったが、彼女にとっては周りの大人たちの自分に対する態度が気に食わなかった。
いつもいつも、ウチだけにはなんで腫物を触るように扱うんだろう?
すぐに分かった。
彼女の生みの親は、名門の上級天使だった。その上級天使の一族は凄まじく高い知性を持っていることを誇りにしており、全員が生まれた時からその素養があった。
ミッテルトを除いては。
こいつは殆ど0と言ってもいいくらい知性もなく、おまけに戦闘能力も皆無だ。とても使い物にならない。
一族は相談し……ミッテルトを山に捨てた。
だが、彼女は死ななかった。生命力だけは一人前だったのだ。
養護施設の者たちは、ミッテルトが上級天使の捨て子である確信はなかった。だが倒れていた時に彼女の着用していた、高貴な純白のロリィタファッションを見れば、誰だってそう思うだろう。
それを知った時も、まだミッテルトは両親が好きだった。全部、ウチが悪いんだ。
やがてミッテルトがある程度成長したとき、彼女の元に1通の手紙が舞い込んできた。如何にも高価な紙で出来た、立派な封筒だ。そしてその中には、彼女がずっと待ち望んだことが書いてあった。
「私が間違っていた。明日迎えに来る」
ミッテルトは心の底から嬉しかった。人目を憚らず、親に、神様に向かって大声で叫んだ。
「あっざーす!!」
夕方に迎えが来た。8枚もの翼を持つ上級天使の男が近づいてくる。翼が2枚しかないミッテルトはいつもの真っ白なロリィタファッションに身を包んで、いつもの会釈をした。
「これはこれは~!ウチがミッテルトで~す!」
男は何も答えない。
2人は空を飛び立ったが、ミッテルトの飛ぶ速度は男に比べると遥かに遅い。
「待ってよ~!」
男はいったん止まり、ミッテルトが追い付いてから再び動き始めた。
「ゴメンゴメン、ウチはあんたたちよりずっと才能ないから。これでもモーレツに努力したんだけどね~。あ~っ、努力して当たり前っていう顔してる!まあ、実際ウチにはそれくらいしか取り柄がないんだけどさ。にしてもなんでアンタ、そんなに速いの?いったいどうやって……」
ミッテルトはそれ以上話さなかった。コイツは何の反応も示さない。ウチ一人がペラペラ喋りまくってバカみたいだ。
暫く飛んでいると、男がゆっくりと右斜め前方を指さす。ミッテルトがそちらを向くと、空高く聳え立つ立派な屋敷が見えた。
ここからウチの新たな人生が始まるんだ。ミッテルトの心は躍った。
男が屋敷の入り口に立つ。ミッテルトは一刻も早く入りたくてうずうずしていた。
入り口の扉が開け放たれるが、出迎える者は誰もいない。しかし、ミッテルトはそれを特に可笑しいとは思わなかった。
きっと、仕事で忙しいんだろう。
男は手でミッテルトについてこいという合図をする。行く先には地下へと潜る階段があった。ミッテルトは素直についていった。
階段を降りると、目の前に現れたのは部屋全体を金属に覆われ、中には何一つない殺風景な部屋だった。初めてミッテルトはおかしいと気付いた。
「……」
「なんで?」
「入れ」
「なんでって聞いてるのよ!」
「早く入れ」
「なんで!どうしてウチがこんな部屋に入らなきゃならないのよ!」
「いいから、早く、入れ」
「質問してるのはウチなのよ!早くなんか」
それ以上ミッテルトは話せなかった。男に突き飛ばされたのだ。ミッテルトは部屋のドアの向こう側まで吹き飛ばされる。
「早く入れと言っているのが、聞こえなかったのか?」
ミッテルトはもう少しも心は躍ってなどいない。一刻も早く元の場所に帰りたかった。
入ったと同時に、ガタン!という何か重いものを落とす音が聞こえた。男は扉の覗き板を開けてこちらを見ている。
ミッテルトは怯えた口調で話し出した。
「どうして……どうして……ウチをこんな目に……」
「もっとひどい目にあわせてやる。今俺の右手にある液体は何かな? 答えは言わぬが花だな」
「なんでよ!ウチが何をしたっていうのよ!」
「何かをしただけでもダメだ」
「それならなぜ、手紙に間違っていたなんて書いたの……」
「本当にそう思っているからだ。たしかに間違っていた……お前は生まれてすぐに殺しておくべきだった」
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男はミッテルトの父親だったが、彼女のことが疎ましくてしょうがなかった。あのクソガキのせいで、どれほど危ない橋を渡ったことか。
ミッテルトが養護施設に拾われたことを知った時、男は慌てた。もしミッテルトを捨てた事が皆に知られたら、自分たちの一族は天界から追放されてしまうだろう。その事態を避けるために、ありとあらゆるところに大金をはたいて揉み消し、肝心のミッテルトも牢屋に放り込んだのだ。
あの部屋は全体を合金で固められていて、その硬さたるや中級堕天使ですら破壊することができないレベルだ。同じく扉も合金でできているのは言うまでもないだろう。
あんなカスみたいな能力しか持たないクソガキに開けられるものではない。明日じっくり殺してやる。
男は満足してベッドで眠りについた……それが命取りになると知らずに。
男はクソガキを、ミッテルトを舐めすぎた。