初めて会った時から、ミッテルトはレイナーレの全てが好きだった。美しい顔立ちや均整の取れた体つきはミッテルトにとって憧れだった。言葉遣いや性格も素晴らしいものに映っただろう。だが一番好きなのはそのどれでもなく、身のこなしだ。
ミッテルトは、レイナーレが男に放った蹴りを何百回も練習した。あの時の動きを自然とできるようになる為にレイナーレの一挙一動をこっそりと観察し、何千回も繰り返した。その努力が全て徒労に終わった時、ミッテルトは悟った。
ウチは、永遠にレイナーレ姉さまに勝てないんだ。いいや、姉さまに勝てるヤツなんてこの世にいない。
だから自分が仲間たちとともにリアス・グレモリーに吹き飛ばされ、奇跡的に助かった時もミッテルトは慌てていなかった。
さっそうと現れて、目の前の赤い髪をした悪魔や巫女のコスプレした奴をあっさりと倒すんだ。だって姉さまは強いんだから。
確かにレイナーレは強い。しかし、兵藤一誠はもっと強かった。
それだけのことだったが、ミッテルトは認められなかった。
だからミッテルトは今、兵藤一誠の前に立っていた。
殺意はあったが、ミッテルトがここに来たのは殺すためではなかった。
そんなことをしたって、姉さまは生き返らない。コイツに、姉さまを殺したコイツに生き返らせてほしいって頼むんだ。悪魔に転生させられれば、姉さまはまた元に戻れる。
姉さまは悪魔のことをきらってた。自分が悪魔になったことを知ったら、姉さまはどんな顔をするだろう。死んだ方がマシだって思うのかもしれない。たぶんウチの行動は単なる自己満なんだ。
でも、それしか思いつかないの。ウチの頭じゃね。
「姉さまは最初はアンタを殺そうとしなかった。槍をワザと外した。なのにアンタは……」
やらないより、試したほうがまだマシだという思いでミッテルトは兵藤一誠へと向かって話しかけた。
実際はやらないほうがずっとマシだったのだが。
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兵藤一誠は、目の前にいきなり現れた少女についていくつか推理した。
(1)コイツはかわいくて、(2)身長とおっぱいは小猫ちゃん並みに小さく、(3)背中にレイナーレと同じ羽をはやした堕天使で……最後が一番重要なんだ……
(4)俺に敵意を持っている。
どう見ても話し合いが通じるヤツではない。この前に現れたカラワーナ……部長が消し飛ばしたとか言っていた奴に俺が襲われた時と状況は一緒だ。俺を殺そうとしているのも全く同じ。でも違うことが一つ。
極めたら神すら倒せる神器である「赤龍帝の籠手」、即ちブーステッド・ギアを俺が持ってるということ。それを向こうは知らない。
それを利用しない手はなかった。一誠は左腕の「赤龍帝の籠手」をレイナーレがアーシアを殺害したことへの怒りによってこっそりと起動させた。『Dragoon Booster!』と言う声とともにでかい光と音が発せられる。
一誠はバレやしないかとひやひやしたが、相手は驚いて攻撃したりせず話しかけてきた。
「何でレイナーレ姉さまを殺したの」
一誠はミッテルトのお喋りを邪魔したりはしなかった。むしろもっと続けてくれたほうがありがたかった。時間がたてば経つほど、一誠の「赤龍帝の籠手」は強くなるのだから。10秒ごとに力を倍にする神器なのだ。
レイナーレとの戦いは、この神器の詳しい性能が分からないまま終わってしまった。コイツとの戦いで確かめてみるのもいいかもしれない、という思いがあった。
『Boost!』
4倍。体中を力が漲ってくるのが一誠にははっきりと分かった。
「姉さまは最初はアンタを殺そうとしなかった。槍をワザと外した。なのにアンタは……」
一誠はミッテルトの話すことなど聞いていなかった。レイナーレと同じく長ったらしいことをペチャクチャ喋っているのが、むしろ滑稽にも思えた。
『Boost!』
これで8倍!
一誠は既に余裕をもって考えていた。レイナーレにはこの時点で既に追いついていた。じゃあ目の前で何か喋っているコイツにはこの辺りで十分なんじゃないか?いや、そう考えるのは危険だ。俺には万に一つの負けも許されないんだ。負けたら死ぬ。それを忘れてはいけない……
『Boost!』
16倍!!
一誠は目の前の少女に真正面から突進していった……
兵藤一誠がまっすぐ突っ込んできたことがミッテルトには信じられなかった。そんな行動をすべきなのは余りにも実力差がある相手の場合だけだからだ。だから必ず、何らかのフェイントを入れるに違いない。右か、左か、はたまた上か。それとも姉さまのように蹴りを?
しかし、一誠はどれもせずに掴み掛ってきた。ミッテルトは引き離そうとした。光槍を使って戦うミッテルトにとって、接近戦は不利だ。しかし、突っ込んできた以上に信じられないことが起こったのだ。
引き離せない。
両腕を万力のような力で締め上げられている。ミッテルトは全力で抵抗したが、そんなものは存在しないのと同じだった。一誠が振りかぶって頭突きをしようとする。どうすることもできないまま、こんなはずがないとミッテルトは混乱していた。
一誠の頭突きがミッテルトの顔にまともにヒットして、彼女の鼻の骨が折れたとき、ミッテルトは混乱の極みにあった。ありえない。ただ力を倍にするしかない「龍の手」(トゥワイス・クリティカル)にここまでの力があるわけがない。
一誠は追撃のパンチを入れる。4発だった。
1発目の右フックは懸命にブロックしようとしたミッテルトの左腕をへし折った。
2発目は腹へのボディブローだった。ミッテルトの体がくの字に折りたたまれる。
3発目の顎に入ったアッパーカットはもっとひどい結果をもたらした。
ミッテルトの下顎骨は数本の歯とともに粉砕された。
そして、4発目の狙いすました必殺の左ストレートがミッテルトに向かって放たれた。レイナーレに放ったものと全く一緒の軌道だ。全てを終わらせたあの一撃と。
しかしそれは空振りに終わる。
ミッテルトは3発目のパンチで大きく後方へと吹き飛んでいた。
吹き飛ばされながら、薄れゆく意識の中でミッテルトは考えていた……
レイナーレ姉さまはコイツに負けて死んだ。
ウチも死ぬんだ。
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敵を倒す時に最も大切なことは何か?
この問いの答えを知らないものは多い。ミッテルトがその典型例だろう。知っていても実践できないものはもっと多い。レイナーレも、ドーナシークもそうだった。
一誠は違う。
油断するな、と言い聞かせて一誠は荒い息を吐きながら、吹き飛んで家の塀に激突して倒れているミッテルトに向かって歩き出した。立ち去ったり、無駄口を叩いたりなんてしない。
一誠は問いの答えを知っていた。
しっかりと息の根を止めるということを。