スレッタ・マーキュリーの朝は早い。
それは水星で暮らしていた頃からの習慣である。
いつ事故が発生するか分からない。その時に備えて早くに起床し体を鍛えるのがいつの間にか日課になった。
地球寮の周りを何周かするとミオリネ・レンブランに連絡を入れる。
「ミオリネさん!朝ですよ、おはようございます!」
ミオリネ・レンブランの朝は遅い。
グループ総裁の娘として育てられてきた彼女には生活力というものがない。部屋は汚く、食事はレトルトのものばかり。当然朝にも弱い。
スレッタ・マーキュリーはそれを知っている。
電話をかけてもミオリネはうんとかああとかしか言わず二度寝することを見越している。
ランニングを終えた足でそのままミオリネの部屋に向かう。半ば不正に占拠されている理事長室に自ら入ろうとするのは、元の部屋の主であるデリングを除いてはスレッタぐらいだろう。
扉を開けると案の定ミオリネはまだ寝ている。カーテンを開け、朝の人工の明かりを部屋に差し込ませるのがここ数ヶ月の新しい日課だ。
「ミオリネさん朝ですよ!朝ご飯ちゃんと食べないと体に悪いです!あ〜昨日また夜中にカップラーメン食べましたね!ほら食堂に行きましょう!」
「う〜ん私が何を食べようと勝手でしょぉ…まだ寝るからどっか行ってよぉ……」
寝起きが悪いミオリネを起こすのもスレッタには楽しくて仕方がない。人生で初めて出来た同年代の友達と一緒にすることは何だって楽しいのだ。
食堂に着くと、同じように朝食をとりに来た生徒たちでごった返している。スレッタにとっては学園らしいワクワクする光景だが、ミオリネにとっては見ているだけでも疲れる。
トレーを取り、ビュッフェ方式になっている料理を皿に盛り付けていく。
「ミオリネさん、もうちょっとお野菜も食べなきゃ駄目です!」
「うっさいわね、何食べたっていいじゃない」
「駄目、です!ミオリネさんは私の花嫁で会社の社長なんですから、健康には気を使ってください!」
立場のことを言われると弱い。何より会社についてはミオリネ自身の選択の結果だったから、スレッタの意見を聞き入れざるを得ない。
サラダをトングで掴む。それでもトマトは取らなかった。ミオリネにとってトマトというのは自分で育てているもののことを指す。後でどうせ世界一美味しいトマトの世話をするのだから、わざわざここで食べる必要はない。
「……アンタそれ1人で食べる気?」
「えへへ、美味しそうなものばっかりでつい……」
「食べ過ぎは健康に悪いのよ、花婿さん」
ニカは定食っぽいのを食べてた?
きっと朝食はビュッフェなんだよ、きっと……