ラウダ・ニールは兄思いだ。
それを当然として行動しているのだが、グエルはそれに気づいていない。
ここ最近は兄のためと思って行動しても、兄自身にそれを余計なことと扱われてしまう。あの水星女が来てから兄は変わってしまった。ラウダの目にはそう映る。
夜も更けるころ、グエルのテントを訪ねる。グエルは寮を追い出されテント生活を強いられていた。
といっても、父の意図はとっととくだらない学園生活というものへの執着を捨てさせ、次期CEOとしての自覚を持たせるため退学させ会社にでも入れることだったはずだ。野宿はグエルのささやかなわがままだった。
「兄さん、いつまでもこんなところで生活してちゃ駄目だ。父さんと話そう。きっと分かってくれる、寮にも戻れるよ」
父の言い分も分かる。だがラウダは兄が父の期待に応えるためにずっと学園で努力してきたことを知っている。その頑張りを他ならぬ父から否定されるのはあまりにも屈辱的だ。
だから話し合わなくてはならない。最後に親子で集まったのはいつだろうか。片や御三家のCEO、片や寮長。それぞれが負う役目は重く、自由な時間を奪っていた。そしてグエルも心配させまいと積極的には父に会おうとしない。呼び出されても一方的な叱責が飛ぶだけだった。
もどかしい。なぜもう少し素直に話し合わないのか。ラウダは父と兄の間を何度も取り持とうとしてきた。水星女に敗北した時も兄のために精一杯父を宥めた。それなのに兄はまた感情任せに突っ走った。父もその理由を聞こうともしない。
このままではいずれ取り返しのつかないことになる。
「俺は父さんから追い出されたんだ。今更話して何になる」
「これ以上こんなことを続けても父さんを怒らせるだけだ!父さんはこんなこと望んでない!その気になれば兄さんを退学にだって……」
「ハッ!なんだ、結局父さんに言われてきたんだな。俺に、また謝らせようと……お前も父さんも、俺の気持ちは誰も聞いちゃくれない!!」
失言だった。退学など持ち出せば今のグエルは脅しと捉える。「兄さんのことを思って」、そんな心からの言葉を言ってももう響かない。日を改める必要がある。
「……父さんには僕から話しておく。学園には通えるように話をつけるよ」
グエル・ジェタークは意地を張った。
また弟に声を荒げてしまった。それでもプライドを曲げることはできない。ちっぽけで父や弟には理解できないのかもしれない。だがそこを曲げたら、最後の砦を失って自分というものが消えてしまう気がする。
学園にいる限り、グエルは「グエル・ジェターク」なのだ。会社に縛られ、期待に応えるために走り続けるしかない。
もし退学を言い渡されたらどうすればいいのだろう?父のために築いてきたプライドを踏み躙られたら、グエルには何も残らない。いくら曲げたくないことでも父の権力には結局敵わないのだ。
もしそうなったら「俺」は誰なのか。
とにかく今はラウダが妥協案を持ってくることに期待するしかなかった。
「プライドを守るのにも誰かを頼らないといけないなんて、俺は情けない」
自分の力で生きてみたい。そんな思いがグエルに芽生え始めていた。