アドステラの日常   作:春季攻勢

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ジェターク寮の危機編②

 フェルシー・ロロの朝は早い。

 ペトラ・イッタの朝も早い。

 寮長を任されたラウダは忙しそうに飛び回っている。これまで兄弟でこなしてきたことを一人でやらなくてはならない。ラウダもやはり兄に似て、誰にも頼りたがらない。

 そんな彼を見ているとフェルシーとペトラも早起きせざるを得なかった。少しでも手伝って負担を軽減させたい。出来ることは少ないが、ラウダが気兼ねなく関われる相手は自分達ぐらいしかいないのだから。

 

 「グエル先輩、戻ってこないのかな……」

 

 顔を洗って鏡を見ると快活だったフェルシーの顔は不安に塗りつぶされていた。

 

 「フェルシー……」

 

 フェルシーとペトラはいつも一緒だ。

 グエルとラウダにひっつき四人で行動することが多かった。最初は御曹司とその弟に媚を売るという下心がなかったわけではない。しかし関わるうちに、兄弟が不器用ながら優しい人間であることが分かると次第に信頼が生まれた。

 尊敬する人が困っていたら助けなければならない。素朴な思いで二人はグエルのもとに向かった。

 

 「グエル先輩ー!」

 

 さすがのグエルも無下にはできない。ラウダのような込み入った関係でもない、純粋に自分を慕ってくれている二人だからだ。

 

 「お弁当買ってきたっす!一緒に食べましょうよ!」

 「お前らに奢らせるわけには……」

 「もう買ってきてるんですよ?食べないなら捨てるだけです!もったいないじゃないですか!」

 

 渋々グエルは弁当を受け取る。久しぶりに誰かと食事をする。思えば寮にいる間はいつも四人で食べていた。

 食べすすめながらフェルシーが質問する。

 

 「あの……グエル先輩はもう寮には戻らないんですか?」

 「戻るとか戻らないとか、俺が決められることじゃない。父さんが決めたことだ、逆らっても無駄だ」

 

 グエルのプライドは父に従うことで出来てきた。今の状況は父に従えばプライドは崩れ去るという矛盾を抱えていて、グエルはどうすることもできなかった。

 

 「寮にはラウダがいる。俺がいなくてもどうにかなるだろ。あいつは俺なんかよりもよっぽどしっかりしてるから」

 「そんなの……そんなの勝手じゃないっすか!」

 「ちょっ、フェルシー!?」

 

 フェルシーはグエルに怒った。こんなに弱々しいことを言うグエルを見たのは始めてだった。

 

 「ラウダ先輩だけでどうにかなるわけないじゃないっすか!一人でめちゃくちゃ頑張って、それでも追いついてないです!

 そもそもグエル先輩の代わりはいません!ラウダ先輩がどんなに優秀だって、グエル先輩はグエル先輩じゃないっすか!なんでそんな勝手なこと言うんですか!

 私が一緒にいたいのはめちゃくちゃ強くて頼りになるグエル先輩っす!もう……もう知りません!!」

 

 そう言い残してペトラを置いて走って行ってしまった。

 

 「フェルシー!!ごめんなさいグエル先輩。怒らないであげてください。えっと……みんなグエル先輩がいなくて寂しいんです。それじゃ」

 

 後輩を泣かせてしまった。情けない。父さんの許しさえあれば今すぐにでも寮に戻って、フェルシーに謝りたいのにそれも出来ない。結局自分の意思で何も決められない。

 どうすればいいのか全く分からない。何もかも投げ出してしまいたい気持ちもあるが、ラウダやフェルシーたちを見捨てるのも嫌だ。少なくとも学園にいる間は気にかけていたい。

 もし退学を言い渡されれば逃げ出してしまおう。どのみちもう面倒は見てやれないのだから。プライドも粉々になって、弱くなった自分といつまでも一緒にいさせるのは申し訳ない。

 グエルはそう考えながら、二人の残していった弁当を食べた。

 

 夜になってもフェルシーは落ち込んだままだった。

 

 「フェルシー、いい加減元気出しなよ」

 「うっ、えぅ……私、先輩に、酷いこと言っちゃった……一番困ってるのは先輩なのに、勝手だったのは私の方だよ」

 

 あの時なぜ「頼ってください」と言えなかったのか。フェルシーにはそれが心残りだった。だが今もう一度行っても言えないだろう。グエルに頼られるほどの能力はない。いつも守られてばかりだ。

 

 「ペトラ……私もっと頑張る。操縦も超練習して、勉強もやる。グエル先輩に頼ってもらえるようになって、寮まで引っ張ってくるよ」

 「そうだね。落ち着いたらさ、お昼のこと謝りに行こうよ。グエル先輩、怒ってなかったから」

 「うん、うん……ちゃんと謝るよ」

 

 涙を拭いて、布団に潜り込む。ペトラが電気を消した。

 

 「おやすみフェルシー」

 「ペトラもね」

 

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