チュアチュリー・パンランチは狂犬である。
元々持っていたスペーシアンへの対抗心と学園に来てから実際に受けた差別が彼女の元からの性格をさらに凶暴にしていた。
「てめぇら!!地球寮生に嫌がらせなんていい度胸じゃねぇか!!懲りねぇスペーシアンどもが!!あーしが相手になってやんよ!!」
嫌がらせがない日の方が少ないくらいかもしれない。今回はアリヤの落とした生徒手帳を踏みつけられたことが発端だった。
「黙れよ泥くせぇアーシアンが!汚ねぇ靴でこの辺を歩くんじゃねぇ!床が汚れんだろうが!」
「んだとぉ!!」
「やめろチュチュ!私は平気だから!」
困ったことにいつもどうにか丸く収めるマルタンとニカはいない。いくら狂犬のチュチュといえど相手は男数人。殴り合いになれば怪我をするのはどちらか目に見えている。
アリヤがそんなことを思っていると懸念通り相手の一人がチュチュの腕を掴んだ。
「チュチュ!」
「おい離せっ!!離せよクソスペェ!!」
じりじりと男たちは近づいてくる。右腕を大きく振りかぶってチュチュに振り下ろそうという時、意外な人物が助けに来た。
「何やってんだよアンタら!」
アリヤが声の方を見ると昨日占った二人だった。
「なんだよお前ら、黙ってろよ。コイツらはアーシアンだぞ?」
「アーシアンだから何?大体その人にはアリヤさんって名前があんの!分かったら散れ!私達を殴るんなら先生だって黙ってないよ!」
素行は悪くても結局子供である。大人に問題に介入されたら勝ち目はない。しかも最悪の場合推薦企業にまで迷惑をかけ退学させられるだろう。
男子たちは舌打ちをしながらどこかへ消えた。
チュアチュリー・パンランチはスペーシアン嫌いである。
「アリヤさん大丈夫?アイツら野蛮人ってんで有名だから……」
アリヤとそこに近づく二人の間にチュチュが割り込み睨みつける。
「何の用だスペーシアン!なんでアリヤの名前知ってんだよ!」
「ひぃっ!!」
「チュチュやめるんだ。この子達は私達を助けてくれたじゃないか」
そうは言ってもチュチュには信用できなかった。アーシアンというだけで虐められるなら、スペーシアンというだけで敵視する理由にもなる。
「信用できねーよ!大体コイツら『私達を殴ったら』って言ってたじゃんか!あーしらが殴られても誰も動かねぇって言いやがったんだ!」
「うっ……」
そこを突かれると、確かに女子二人には言い訳のしようがなかった。なにしろ事実としてアーシアンの訴えなどまともに取り合われないのである。
「チュチュ。二人に悪気がなかったのは分かってるはずだぞ。言葉のあやだ。私たちが殴られてもいいとは一言も言ってなかっただろう」
「けど!!」
「もし助けに来たのがスレッタやミオリネでも、同じことを言ったか?」
「それは……」
現状チュチュとまともに会話ができるスペーシアンの生徒はスレッタとミオリネだけだ。その二人を引き合いに出されるとチュチュは弱い。
スペーシアンというだけで差別するなんてクソスペーシアンと一緒。いつかミオリネに言われた言葉を思い出す。頭では分かっていても頭に血が上ると忘れてしまう。
スレッタ達を思い出すとチュチュは少し穏やかになれた。存在しないと思っていた「話の分かるスペーシアン」が実在したのだから、チュチュも態度を改めなければならない。
「…悪かったよ。あーしは喧嘩っ早くってさ。みんなにもいつも言われてんだけどな……」
「う、ううん、大丈夫!私も前はアイツらと同じようなもんだったし……」
とりあえず友人達が仲直りしてくれてアリヤは安心した。チュチュはしょんぼりしながら新しい知り合いに道を開けた。
「二人とも助かったよ。まさか昨日の今日でこんなことになるとはな」
「有言実行ってやつ!アイツらのことは一応ちゃんと報告しとくから!それじゃ、また占うことがあったらよろしくね!」
手を振りながら2人は去っていった。
それにしてもアリヤは案外顔が広いとチュチュは実感した。さすがは頼りになる先輩だ。
「……アリヤ姐」
「んん???」
「これからアリヤ姐のこと、アリヤ姐って呼んでいいかな!?」
それから数日の間、ニカがアリヤに言われてチュチュを叱るまで、アリヤは「アリヤ姐」だった。