モビルスーツは1人で動かせない。
どんなに優れた技量を持ったパイロットでも整備されていない機体では戦えない。何人ものメカニックと、さらにそれを支える部品メーカーの助けがあって、はじめて動かすことができる。
ペイル社の所有する格納庫ではガンダムファラクトの整備が行われていた。エアリアルとの決闘でバラバラにされた本機は、どうにか元の姿を取り戻しつつあった。
「全く!冗談じゃねぇよ!なんだって負けるんだ、整備が面倒だろうが!」
1人のメカニックがコックピットの点検を行なっている。ペイル社に入社してから数十年にもなるベテランの彼は手早くも正確に不良を探していた。
「ごめんなさい、今いいかしら」
後ろを振り返るとベルメリア・ウィンストンがいた。エラン・ケレスも一緒だ。
「何か御用ですか?あいにくまだ動かせませんが……」
「いえ、いいのよ。ちょっとした調整をしておきたいだけなの。少し席を外してもらえるかしら」
「はぁ…分かりました」
コックピットから出るとエラン・ケレスがこちらに微笑んだ。
微笑んだ?
今までエランが整備班に笑いかけたことなどなかった。学園では氷の君とか呼ばれていたらしいが、その名の通りエランはほとんど誰とも会話せず淡々と整備に必要な情報だけを伝えていた。それが随分と柔らかい笑顔が出来るようになったものだ。
以前一度だけ、彼はエランと会話したことがあった。何かきっかけがあったわけでもなく、なんとなく故郷の話をしてみた。
「僕はもう帰れないよ」
その時エランはそれだけ言って以降は何も言わなかった。
一体どういう風の吹き回しで笑ったりしたのだろうか。コックピットに入っていくエランに声をかけてみる。
「なぁお前さん……何かいい事でもあったかい?」
「そうだねぇ、ま、そうなのかもしれないな」
エランはまた笑った。
やはりおかしい。こんな口調で今まで話しかけたことはない。ペイル社の擁立パイロットとしてそれなりに立場のあるエランに対して、彼はいつも敬語だった。
それなのにエランはなんの反応も示さない。それだけならいつもの氷の君かもしれない。だが今目の前にいるエラン・ケレスは、今までの自分というものを忘れてしまったかのように見えた。
メカニックとしてこの機体がどういうものなのか知らないわけではない。ペイルの最高機密であるファラクトを整備するメンバーは皆腕利きで口も堅い。だからこれが呪われた兵器であることも教えられたし、教えられなくても触れば分かっただろう。
それでも知らされていないこともある。なぜデータストームを受けているのにパイロットは無事なのか。なぜエラン・ケレスに直接連絡を取ることが禁止されているのか。なぜエラン・ケレスは笑ったのか。
事実からそれなりの考察をすることは出来る。だが彼はそれ以上考えるのはやめておくことにした。
「触らぬ神に祟りなしだな」
これにて書いてたものは全てです。
もしかしたら2期が始まったりして新しいアイデアが思いつけば追加する…かも