ミオリネ・レンブランの朝もたまには早い。
朝が得意でないのに早起きしているのはトマトのためである。日照パターンや水やりなど、機械か業者に任せることもできる。
だがミオリネにとっては、あの温室の中だけが母親との繋がりを今も感じられる唯一の場所なのだ。自分のためにも母のためにも、時には頑張って世話しに行かなくてはならない。
「あっ、おはようございますミオリネさん!今日は早起きですね!感心感心、です!」
「うっさい。ウザいわよ」
二人で並んで温室に向かう。ミオリネはまだ半分寝ているようなものだが、スレッタは喋り続ける。雑な相槌ぐらいしか打たなくても、スレッタにとっては友達と並んで歩くというのはそれだけでやりたいことリストが埋まるぐらい大きなことなので止まらない。
「スレッタも手伝って。こっちの水やりよろしく」
温室で手伝いを始めるとやっとスレッタの口が閉じた。
スレッタは人工でないものに触れるという経験がない。もっともここは人工のフロントの中ではあるが、それでも土から伸びた野菜をその場でいただくというのはミオリネからトマトを貰った時が初めてだった。
貴重な経験であると同時に、大切な人の手伝いをしているというのが嬉しい。
水星にいては絶対に経験できないこと。それが出来ることがたまらなく嬉しく、心の中で母に感謝した。
そんなスレッタをミオリネは横目に見る。今まで誰も入れなかった温室の敷居を、スレッタがいつの間にか跨いだ。
あっという間の数ヶ月だった。スレッタがやってきてからミオリネには温室の外に居場所と仲間が出来た。決して表には出さなくとも、そして自分自身認めることもないが、ミオリネはスレッタに感謝している。
この子のためなら私の身が削れてもいい。ミオリネは人生で初めて誰かにそう思った。
「どうかしましたか?ミオリネさん」
どうやら手が止まっていたらしかった。スレッタの声で我に返り、目の前の土に目を戻す。
「別に、なんでもないわ」
一通りの作業を終えたら、熟したトマトを2つ取る。
「スレッタ」
振り向いたスレッタにトマトを手渡す。つやつやのトマトの赤がスレッタの笑顔によく似合った。
温室の入り口に2人で座る。目を輝かせながら果汁を口いっぱいに付けて頬張るスレッタを見ながら食べると、いつもの何倍も美味しくなることにミオリネは最近気づいた。
「美味しい?」
「はい!何度食べても美味しいです!」
「当然よ、お母さんのトマトなんだから」
トマトを褒められてミオリネは微笑んだ。さらにスレッタが笑っていることが、ミオリネの喜びを増幅させていた。