アドステラの日常   作:春季攻勢

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ニカとベルメリアの葛藤編

 ニカ・ナナウラは株式会社ガンダムの仲間である。

 今日は試験中のGUND義足の調整を行なっている。

 突然転がり込んできた株式会社ガンダムの仕事。今まで触れたことのない技術を、仲間と共に形にしていくという作業がニカにはたまらなく楽しい。勢いのままミオリネに乗せられてみて良かったと思えた。

 生徒手帳が震える。ニカはポケットから手帳を取り出しメールボックスを確認する。

 

 シャディクからの定期報告の要請だ。

 

 ニカ・ナナウラは裏切り者である。

 それを忘れたことはない。チュチュが知ったらどう思うだろうか。血管を破裂させながら殴りかかってくるかもしれない。あるいは誰とも話さず塞ぎ込んでしまうかもしれない。

 それでもそれが自分で選んだ道だった。自分のため、地球のため、それが最善だと信じた。

 なのにここのところは定期報告が遅れがちだった。会社が忙しいからというのは言い訳でしかないのはニカ自身が一番分かっていた。

 後ろめたさを感じている。

 仮にどんなに崇高な目的であっても、仲間達を騙し続けていることに変わりはないのだから。

 

 ベルメリア・ウィンストンは裏切り者である。

 それは強化人士たちに対してであり、株式会社ガンダムの社員に対してであり、自らの理想に対してである。

 なのに学園にやってくると心が弾んでしまう。夢を追う若者たちを見るとかつての自分を思いだす。

 

 「ナナウラさん」

 

 作業中のニカに声をかける。まだまだ未熟だが一人で作業できるぐらいにはニカは知識を吸収していた。

 そんなニカにベルメリアがしてやれるのは弁当でも奢りながら見守ってやることだ。

 

 「ありがとうございます、ベルメリアさん」

 「お魚、大丈夫かしら?」

 

 ニカの好物は焼き魚弁当だ。伝えたことはなかったが、おそらく名前から地元を推察し選んでくれたのだろう。

 

 「大丈夫どころか好物です。お金は……」

 「いいのよこのくらい。子供に弁当代をたかるなんて恥ずかしいじゃない。ここは大人の顔を立てて?」

 「すみません、いただきます」

 

 学園では箸などわざわざ置いてくれない。一部のアーシアンか物好きぐらいしか使わないからだ。付属していたフォークで魚を切り分ける。どうにも慣れない光景でニカにはなんとなく気持ち悪い。

 食事の時というのは誰でも警戒心が薄れる。頼れる大人というものに久しく会っていなかったニカは、同じ技術屋としてもベルメリアを頼りにしている。ついつい話さなくていいことまで話してしまった。

 

 「……ベルメリアさんは、もし誰にも言えない秘密があったとして、しかもそれが自分や友達を裏切ることだとしたら……それを守れますか?もし耐えられなくなったら、生きていられますか?」

 

 言葉を発してからニカは口を押さえた。何を言ってしまったのか。誰かに疑われるような行動は絶対にしてはいけないのに。

 

 ベルメリア・ウィンストンは悩んでいる。

 そしてニカの悩みはベルメリアの悩みでもあった。

 もちろん何について悩んでいるのかは分からないし、自分がそれに解答を示すことも許されない。

 それでも大人として、同じ悩みを抱える者として、何か助け舟を出してやりたい。もしかするとこれも教師ごっこの延長でしかないのかもしれない。しかしニカの思い詰めた顔を見ると、助けてあげたいと純粋な心が応えた。

 

 「私には……きっとあなたにアドバイスする資格はないわ。あなたより少し長く生きているけど、分からないことばかりだもの。

 でもね、それでも何か助言するなら、たくさん悩むことよ。あなたはまだ若い。今ならどんな道にも進むことが出来る。秘密を守り通すのも打ち明けるのもあなたの自由だけど、出来るだけ後悔のないようにしなさい。手遅れになってから悩んでも遅いの。私にはもう……」

 

 ニカはじっとベルメリアを見つめていた。その時二人はお互いが抱える闇の深さを垣間見たような気がした。

 

 「ごめんなさい、答えになってないわね」

 「いえ、えっと……嬉しいです、真剣に聞いてもらえて。私こそいきなりこんな話してごめんなさい」

 

 ニカから弁当の容器を受け取り、ゴミ箱に向かう。

 

 「ああ、それとナナウラさん」

 

 まだ伝えていないことがあった。時と同じく、ベルメリアになくてニカにはあるもの。

 

 「あなたには仲間がいるわ。あの子たちならきっと、どんな秘密でも、受け入れる努力をするはずよ。本当に耐えられない時がきたら、それを思い出して」

 

 ベルメリア・ウィンストンには仲間がいない。

 そして株式会社ガンダムの仲間にも、もはやなれない。もうニカたちの仲間になるには遅すぎるとベルメリアは思った。

 だがニカはまだ、進むことも迷うことも戻ることも出来る。自分と同じ轍を踏んで欲しくない。ベルメリアの「仲間」になっては欲しくないのだ。

 

 「そう、ですね。ありがとう、ベルメリアさん」

 

 ニカの心は揺れた。悩みはさらに深まったが、話してよかったと思えた。

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