マルタン・アップモントは親切だ。
アーシアンだからというだけで嫌がらせを受けているのに、彼自身は誰に対しても優しさを忘れることはない。臆病であるはずなのに人を助けようとする姿勢が寮長に選ばれた一因であった。
「あれ?これ……」
「どうしたんですかマルタン先輩?」
道を歩いていると生徒手帳を見つけた。手帳と言っても実際は電話であり、身分証であり、財布でもある。学園生活ではなくてはならないものだ。
学籍番号はLP013。誰のものだろうか。
「それ拾ってくれたんだ!……げっ、リリッケ・カドカ・リパティ!」
どうやら持ち主はレネのようだ。拾ったのが地球寮の2人であると分かると面倒そうな顔をする。
「はぁ……とりあえずお礼は言っとく。ありがと」
バツが悪そうに目を背けながら手を差し出して手帳を返すよう示した。
「どうぞ。気をつけなよ?あっそうだ、返す代わりにリリッケにあんまり無茶なことをお願いしないであげてほしいな」
にっこりと笑いながらマルタンは手帳をレネに渡す。
「へぇ……田舎者のくせになかなかいい男じゃん、自信なさげなところもなかなか可愛くて面白いね。どう?あたしのキープ君になってみる?」
レネは軽い冗談を飛ばしてみた。真面目なマルタンは真に受けてしまう。
「うぇ!?こ、こんなの別に普通だから!そんな大袈裟な!だだだ、大体一応僕は三年生なんだからそんな言葉遣いは……」
「じゃあ先輩、あたしのキープ君になってみませんか?」
地球寮以外の女子とあまり会話しないマルタンはタジタジである。
リリッケ・カドカ・リパティは優しい。
マルタンと同じく彼女も誰にでも優しくすることができる。とはいえ、地球寮の仲間がからかわれては別である。あまり怒ることはないが、その時があるとすればそれは自分のためでなく人のためなのが彼女だ。
「ダメです〜〜!マルタン先輩は地球寮の寮長なんですから!そんな変な関係に首を突っ込んじゃいけません!」
リリッケがマルタンの腕を引っ張りレネから引き離す。
「失礼な!あたしはキープ君全員に平等に愛を与えてんの!
それにしても……へぇ、ふぅん、ほぉん……なるほどね、リリッケ・カドカ・リパティ!そういうことなら最初からそう言えばいいのに!それなら誘いを断るのも仕方ないか!」
「は、はぁ!?そんなんじゃないですから〜!も〜、早くどっか行ってください!」
遠くからピンクの毛玉が近づいてくるのが見える。一体どこから聞きつけているのだろうか、レネは驚きつつ退散することにした。
「じゃあねリリッケ!頑張んなよ!」
「おらぁ!待てクソスペェ!!」
レネとチュチュはどこかへ消えてしまった。
「ねぇリリッケ、レネさんが言ってたそういうことってどういうことなの?」
「知りません!」