姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
先の異界踏破から一夜開け、清々しい朝がやってきた。
明る過ぎて眠っていられないという感覚にはまだ慣れないが、睡眠時間を調整するのに朝日というのは役に立つ。衝動に従い起きたならばそれが正しい時間だ、というのはとても良い。
という事で、散歩をしようと思い至る。
左腕にスマホを装着し、胸部防護するインナー型装備と、足回りを保護するプロテクターを仕込んで衣服で隠す。
「武器防具を大っぴらにひけらかしてはならない。敵を作るだけだから……と。出来ているな!」
姿見を見て簡単に確認、問題はなさそうだ。
部屋を出て、仕事場に向かう。
指紋認証でのロックを開けて、ホワイトボード掲示板に出先のメモを残す。
散歩に行ってくる。と。
「これは上手く書けたのではないか?」
水溶性のインクによってホワイトボードに文字を書くという文化。ホワイトボードはインクの染み込みを起こさないのでクリーナーで簡単に文字を拭き取り再利用ができる。素晴らしいものだ。だが、壁にかかっているものに文字を記すというのは中々に難儀であり、いつも不恰好な文字を晒していた訳だった。
今回は、綺麗に書けたがな!
「あ、ジエンくん。おはよう」
「今日も良い朝で何よりだな! 体に不調はないか? 杏奈よ」
「全然平気。むしろちょっと動きたいくらい」
「ふむ……己はこれより散歩に出かけるつもりなのだが、一緒に来るか?」
「ん……そうだね。行こっか」
「おうとも!」
そう言うと、杏奈は手元のCOMPから装備を取り出して装着をする。
己のとはサイズ違いの胸部装備や呪いの込められた布などを体に装備して、頑丈そうで、しかし柔らかい印象を持つ服を上に羽織った。
「……ジエンくん、ガッツリ見たね」
「む?」
「女性の着替えを注視するのは、ダメだよ」
「……しまった。失礼を謝罪する」
「あんまりにも邪気がなかったから着替える前に言うの忘れちゃってたよ。私もごめんね」
杏奈に謝らせてしまった。悪い事ではないと言うのに。次に同じことをのないように気を付けよう。
杏奈もホワイトボードに『散歩』と書いたのを確認してから、一緒に歩いていく。
「ジエンくんは、ウチに慣れた?」
「うむ! リオも皆もとても良くしてくれているからな! 心安らぐばかりで少々恐ろしく思えてきたりもするほどだ」
「わかるかも。皆優しいもんね……今の私を受け入れてるくらいに」
自嘲するような表情で、杏奈は言う。皆の前では表に出さないようにしているが、皆がどう思っているかは気になるらしい。
「不安があるのか?」
「そりゃそうだよ。自分自身、あからさまにヤバい事言ってる自覚はあるから。誰の子とも言えない『この子』を産んで育てたい、だなんてさ」
「……そうなのか? 子を産むのは素晴らしい事だろうに?」
素直にそう言えば、杏奈は優しい表情で己の頭を撫でてきた。害意はなく、優しい手触りだった。
「皆はさ、私のお腹に『悪魔の子供』がいるんじゃないか? とか、私自身が錯乱してるんじゃないか? とか当然疑ってるよ。ジエンくんも分かるでしょ? 母体を食い破って現れる悪魔は」
「うむ。己も最初はその類かと思っていたぞ」
「ぶっこむね」
「己は故のない嘘は吐かぬと決めているのでな」
「過剰な真実だって人を傷つけるから、ほどほどにね」
小さく肩をすくめ、言葉を重ねる。
「そんな私を皆が私を受け入れたのは、私が『クロ』だって確証がないから。不審点があっても、行動を起こしていないから。だから私が何か変な事をしたら迷わず殺すだろうけどね」
「それは己も承知しているぞ。ゴドー殿などはあからさまだ。己や杏奈の前で心が刃から離れておらぬ。頼もしい限りだ」
「疑われてるからジエンくんも気をつけて、って言おうとしてたんだけどなぁ……私」
「むしろ信じられた方が恐ろしくないか? 己は異邦人だし杏奈はソレだぞ?」
「ちょっとくらいはわかるけど、ちょっとしか分からないかなぁ……」
杏奈は若干遠い目をする。その瞳からは『あぁ、この子のリオのような化け物枠なんだなぁ……』というような思いが漏れ出している。
リオや己が化け物枠であることは重々承知だが、あのリオと組めていたと言うだけで杏奈もおそらくその枠だぞ。
「む?」
そんな風に話しながら歩いていると、道端にMAGの痕跡が感じられた。あれは、紙幣や硬貨を入れる用途の『財布』だろうか?
「すまぬ、見てくる」
「うん」
近寄って周りを見る。不意打ちの気配はなし。戦闘の痕跡も見当たらない。
普通に誰かの落とし物であるようだ。
「さて、中身はどれほどかな?」
「ネコババする気満々だねジエンくん」
「……ネコババ?」
話を聞く限りでは、『ネコババ』とは落とし物である金銭や物品を不正に持ち去ることを指す言葉らしい。
「不正ということは、『ネコババ』は悪いことなのか?」
「落としものは、本人に返さなきゃ犯罪なんだよ。一応」
「なんと⁉︎」
心底びっくりした声を上げると、杏奈はその事にびっくりした様子だった。
「という事は、死体から装備やアイテムを拾うこと*1も犯罪なのか⁉︎困るぞ己の収入源だ!」
「ここは現代日本だよ。死体が宝箱みたくバカスカ転がってたりはしないから」
「そう……なのか……」
「まぁ、犯罪ってのは公権力にバレたらダメって事でしかないから。異界内部ではあんまり考えなくて大丈夫だからね」
「しかしここは異界ではない。また、この中の金銭がなければ己や杏奈が飢えて死ぬ訳でもない。届けねば礼を失するだろうて」
「じゃあ、交番に行こっか。近くだし」
「コウバン……確か、治安維持組織である警察の監察官が常駐している施設だったか?」
「そうそう。皆の街を巡って安心をくれるから、『お巡りさん』とも呼ばれてる人たちだよ。監察官とは呼ばないかな?」
「ほう。お巡りさん」
印象が一気に優しいものになった。呼称によってこうまで変えられるとは面白いものだ。
大通りに出て駅の方に歩く。
朝早くからスーツを着用して電車に乗り込もうとする戦士達を横目に交番に向かうと、眠そうにしている男性が居た。目元に隈があり、十分な休息を取れていないようだ。
「どうしました?」
眠さを隠せていないながらも丁寧に対応しよう気概を感じる。好人物だ。
「うむ、落とし物の届けに来た。こちらの財布だ」
「おや、ありがとうございます」
そう感謝の言葉を述べて己と目が合う。すると、自分の目を疑うように目を擦り、メガネを付け直してまた見てきた。
「……なんかの冗談?」
「冗談ではないぞ。この財布が落ちていたのだ。3つ向こうの角のあたりだ」
「ああ、どうも……?」
財布の中身を確認して、内部のカードを取り出して確認していた。その時に表情が変わったので、知っている人なのだろうか?
「あー……えっと、一応名前とかの記入お願いできます? 落とし主からのお礼として中のお金から少し出ますので」
「……礼として金銭が出るのか⁉︎」
「あ、忘れてた」
お巡りさんの言葉にびっくりした己は、その反応でお巡りさんをびっくりさせてしまった。
と、ここで気付く。彼の眼鏡が少し妙だと。なにか情報を瞳に向けて発信しているような感じだ。
眼鏡自体がモニター用途のモノになっているCOMPなのだろうか? そう言えば交番周辺に入った時に機械的に何かを向けられた感覚があった。あれはアナライズのセンサーなのではないか? という説が頭を過ぎる。
まぁ、今現在は隠すこともないのでどうでも良いのだが。
「……これは、書いて良いのか?」
「ウチは普通に会社経営してるし、住所はオープンだから平気だよ」
「承知した!」
書き慣れない『琴葉』という苗字の下に、片仮名という表記法で『ジエン』と記す。この国のシステムに登録している名前はこれだ。
そして住所を記載して完了。報奨金が多少とはいえ出るのだ。良い気分にもなる。
「うむ、では失礼する。対応感謝するぞ! お巡りさん!」
「……はい、困ったことがあればいつでもどうぞ」
内心にては己の強さに怯えながらも、しっかり対応してくれた彼からは、『お巡りさんの心意気』を感じることができたと思う。あのような誠実な者が多くいる組織なら、信用に足るであろう。
まぁ、この平和な社会を保てている時点で信用など元々青天井なのだけども。
「杏奈、あのような交番にアナライズ機械があるのは普通のことなのか?」
「どうだろ?気にしたことなかった」
ちょうど良い時間であるから、このまま社に戻ることにした。気分は上々だ。
「おかえりー」
「ただいまー」
「ただいま帰ったぞ!」
朝食を終えた後であろうリオとばったり出くわす。手元のコーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、食欲を増進させてくる。
「朝の散歩、どうだった?」
「『お巡りさん』という者を見たぞ。誠実な人物であった。あれなら皆も頼りにすると得心がいったぞ」
「へぇ」
杏奈がトースターにパンを入れ、スイッチレバーを倒す。果物の砂糖漬けであるジャムはリオが使ったのがテーブルの上にまだあったので、後用意するものは特にない。
さて、軽い運動の後の美味しい朝食とするとしよう。りんごのジャムは甘くて美味いのだ。
朝食を食べ終えて、リラックスして背伸びをする。今日はこれから学校に登校する日だが、まだ時間は十分にある。
「あ、そうだジエンくん。今日時間ある?」
「む? ……放課後に特に要件は入れていなかったな」
「丁度良かった。知り合いのプログラマーの予定取れたから。ジエンくんの召喚プログラム見てもらおうって思って」
「ほう! 大変興味があるぞ!」
「じゃあ学校終わったら連絡してねー」
「うむ!」
最近掲示板で知ったのだが、
「して、そのプログラマーというのはどのような人物なのだ?」
「名前は由崎
「ふむ。どんな経緯で知り合ったのだ?」
「ウチの会社の基本システム作ったのソイツなのよ。事務のバイトとして雇ったら凄い勢いで事業の効率化とかしちゃって」
「ほう! それは心強い! あの資料検索機能を作った方なのだな!」
「そうそう」
報告書を書く時にとてもとても頼りになった『テンプレート』、秘伝書の中の内容をカケラも理解できなかった己を助けてくれた研究レポートへのジャンプ機能。その手のものを作った方だと聞いた己はナサ殿に対して大変な敬意を覚えている。
それが『新婚』というのだからめでたくて良い。
という事で放課後、早速その銭湯『草津温泉風湯布院』に赴くのだった。
「いらっしゃい」
扉とのれんを抜けた先には、赤みがかった髪の美人が一人そこにいた。気怠そうな態度だが、凛とした佇まいが隠せていない。
歓迎の言葉とは裏腹に筋肉は程よく緩んでおり、何か仕掛けても反撃を放てそうな雰囲気がある。
「久しぶりだね、リオ」
「やっほー司、ナサの奴は?」
「部屋で仕事中。話は聞いてるから、入って良いよ」
「ありがと」
「……所で、その子は?」
「己はジエン。現在リオと組んでいるハンター……デビルサマナーだ」
「……ショタコンの気があるのは知ってたけど、逆光源氏は引くって」
堂々と名乗った己の名前に「あぁ」と納得してから、リオに対して毒を吐いた司殿。しょたこんとは……何だっただろうか?
「うっさいよ歳の差婚」
「はぁ? 司ちゃんは16歳を何回かやってるだけの16歳だから。そこ勘違いしないでね」
「何回か、とかサバ読みすぎ」
リオと司という者の気安い煽り合いが続く。16歳というのは肉体年齢なのだろう。異界で長く居たのか不老の術でもかけられているのか? と思う。そんな秘伝を己にチラつかせて良いものか? とリオを見るが気にした様子はない。司殿にもそんな様子はないので、二人の中では普通の話なのだろう。
まぁ今はたとえ永遠の命を得ていたとしても普通に死ぬような情勢なので、きっと誤差なのだろう。
「一応、アナライズをかけさせてもらうよ」
「え、アンタが?」
「何さ、私だって日々進歩してるんだよ。機械が苦手なのは過去のことだと思ってくれて良いんだよ」
そう自信満々に言った彼女は、おっかなびっくりな手つきで手元の何かを動かす。タップ回数は数回なので、操作は簡易的かつ即効性の高いものになっているのだろう。
「え、レベル高……」
「なかなかやるでしょ、ウチのジエンくん」
「ドン引きするくらい強いんだけど、何? リオみたく見た目詐欺? 実年齢何歳?」
「うむ、年齢は13くらいだ」
「見た目年齢通り⁉︎」
「はぁ〜」と一息つく司殿。色々と考えることがあるのだろう。見た感じレベルは40前後。最前線には一歩二歩届いてないラインだ。
「若者の人間離れが深刻化してるね……」
「それは本当に思う。この前私よりレベルの高い女学生*2見たし」
「喜ばしい事だな!」
その己の発言に少しほわっとする二人。稀によくあるこの視線だが、いまいちタイミングが掴めない。失言という訳ではないと思うのだが……
「あ、そうだ。ジエンくんって今朝財布拾ったりしなかった?」
「む? 拾って届けたな」
「ありがとね。あれだんな様の財布だったんだよ。なんかの拍子で落としてたみたいで」
「そうなのか! 大事がなくて何よりだ」
「心ばかりのお礼って事で無料券をあげよう。ここの銭湯、なかなかに凄いよ」
「ほう!」
「最近ちょっと工事したんだっけ?」
「そうそう。最近ちょっと荒っぽいのが多くなったからそれ対策にね。レルム帰りのデビバスが寄ることもあるから」
「……む?」
「この銭湯、最寄り駅からレルムへの通り道にあるのよ」
「おかげで盛況なのは良いんだけどね」
なるほど、と立地を思い返す。
最短経路からは2本ほど道を外れるが、確かに先にはレルムがある。車を使わないスタイルのサマナーなら、通ることになるだろう。
それに来る時に幾つかのレンタル駐車場を見た。車でレルムにやって来ても帰り道に被ることはそれなりにありそうである。
そう考えていると、奥の方から足音が聞こえてきた。つい反応してスキルの起動待機に移行しかけ、それを司殿の視線で妨げられる。申し訳ない。
出てきたのは一人の若い男性だった。殺しの技を向けられかけた事を意に介さず、平凡な風体で眼前にやってきたのは大した度胸かもしれない。あるいは司殿がいるから大丈夫だ、という感覚なのかも。
「だんな様、どうしたのさ」
「話し声が聞こえたからリオさん来たのかなって」
「ごめん、話し込み過ぎてた」
この男性の戦闘能力はさほど高そうでなく、立ち振る舞いも只人並み。研究者や技術者の類に見えるが、しかし内臓MAGはそれなりにある。MAG太りという奴だろうか?
「初めましてだ。己はジエン。今日はプログラムを見てもらいたく参上した」
「うん。僕は由崎星空。よろしくね」
銭湯の受付、番台という所で手を振る司殿とリオを尻目に奥に進む。二人は少し話があるようで、歩いている途中でも罵り合いの声がちらほら聞こえてくる。仲が良いらしい。
銭湯の離れにあるという由崎夫婦の自宅は、こじんまりとしていた。とても凄腕プログラマーの拠点とは思えない。もっと凄い機械が多く必要なのではないか? と思い聞いてみると、そういう高度な計算はクラウド……遠方の大型コンピュータとリンクさせる事で行うらしい。
このようにクラウド通信をする事で手元に大型マシンを置かなくても良いのだとか。覚えておこう。
「それで、調べたいのってジエンくんのCOMPだよね。確か悪魔情報汚染があるとかで」
「うむ。己の体調に変化はないし、プログラムの動作に変化はないとはいえ、理解を深めておきたくはあるのだ」
「じゃあ、ここに接続してみて」
「うむ!」
指示された通りに簡素なコンピュータに
カタカタカタと数個のコマンドが打ち込まれ、数秒経つと画面表示周りが変化した。
多くの数字が出て来ている。
「うん、大体わかったよ」
「もうなのか⁉︎」
そして、それが解析の全部らしかった。
「いや、召喚プログラムの診断するって話は聞いてたからね。ツールを最適化しておけばこれくらいは簡単にできるんだよ。自動化って奴」
「ふむ?」
簡易コンピュータに示された数字を見ていく。多くのラベル名と測定値があり、どれがどれだかは分からない。説明を聞こう。
「じゃあ、まずこの値。事前に聞いてたプログラムからの情報汚染だね。危険値ギリギリの汚染が発生するようになってるから、肉体の悪魔化兆候が出て来てもおかしくないレベルだよ。けど、この籠手がその汚染にフィルターをかけていて、人間の範疇から外れるような情報をシャットアウトしてる感じかな?」
「……ふむ。この籠手以外にプログラムをコピーして使うのは危険なのだな」
「そうだね。それで、この辺りがMAG消費量と情報伝達率の比率。数字だけじゃ伝わりにくいだろうからグラフにするね」
「おお! ……ぉお?」
図表で情報を示されたが、これでどうなのだろうか? 何が良くて何が悪いのかはちんぷんかんだ。
「このプログラムは、プログラム自体を起動するために必要とするMAGがかなり多いみたい。けどプログラムの起動さえできれば悪魔2〜3体までのの情報伝達効率が高いから、維持用、戦闘用のMAGは結構抑えられてる。強めの異界みたいなところだと周囲からのMAG回収とトントンにできそうだね」
「4体以上召喚する場合はどうなるのだ?」
「プログラム内部で扱い切れる情報量を超えるから、使用者の側に相当な負担がかかるかな。4体目はプログラムでの縛りから外れちゃうだろうから命令を聞くかも怪しくなる訳だから、奥の手としてもやるべきじゃないと僕は思う」
「うむ! 熟慮しよう!」
「……使う気だよね」
「必要とあらばな」
ジトっとした目で見られてしまった。しかし不可能でないのならば奥の手の一つとしては使うべきだと思うのだ。何度かやった時の肉体的負担が相当であったので多用するべきでないとは理解できているけれども。
「しかし、4体目が指示を聞かないとは思わなかった。3体までの場合だと指示への強制力などはあるのか?」
「かなり強いのがあるよ。どうにもこのプログラム自体が悪魔の意思をコントロールする方向性に強いみたいでね。悪魔会話だと物物交換、金銭提供を誘導できるみたいに、使用者の情報を悪魔に対して強く押し付けられるようになってるみたい。まぁ当然酷い扱いをしたら反逆されるけど、普通にしていれば命令に沿って動いてくれるかな」
「……ほう」
なんとなく、『ファンド』やら『トレード』やらについて思い返す。これらはかつてのトウキョウにて、このプログラムの拡張機能としてダウンロードしたものである。意識して行うと悪魔への『スカウト』とは違う話の流れに持っていきやすいのは、そういった情報の取り扱い方に理由があったらしい。
なんとなく使っていたモノがどのように動いているのかとかは、けっこう面白い話だった。
「とりあえずはこんな所。このプログラムは起動が難しい事と専用のCOMPを使わない場合の汚染がある事がネックだけど、それを除いたから凄く良いスペックをしてる。一部の才能ある人間に最適化してるタイプだね」
「……ふむ」
「あとは……ちょっと待って、この数値おかしくない?」
そう締めくくろうとしたナサ殿は、何かの部分を見て眉を顰める。数値の記されている所はメインの部分とは離れているから、何かの拡張機能についてだろうか?
「なにか問題があったか?」
「……アプリ内合体システムの所、情報の参照先に欠けが生まれてるみたい。使ってて不都合はない?」
「いや……そういえば、邪教の館アプリを最近扱っていなかった。不都合はないが、使用データもないな」
「となると、コレ手直しが必要かも。この数値の参照元はコレで、悪魔合体術式の基本軸が4Fタイプになってるから数値は58番で……うん、こんなんで大丈夫かな? テストしてみて」
「承知、邪教の館アプリを起動する!」
「悪魔が集いし邪教の館へようこそぉぉぉ!」
邪教の館の主人のプログラムは、いつも通りに大きく愉快な声を出す。
ナサ殿はポカンとした顔になり、作業の手が少し止まっていた。
そのびっくりした顔で、シェルター内部でコレを起動して怒られた思い出が、なんとなく思い出された。
「合体機能の操作に問題はなさそうだ」
「それなら全書を使って簡単な合体をしてみてくれないかな?」
「よしきた。であればとっておきのレシピを使うとしよう」
「とっておき?」
「容易く強レベルの悪魔を作成する事ができるものだな。合体の際のベースレベルを上昇させるのに便利なのだよ」
| 地霊 | スダマ | LV3 | 合体 | 鬼神 | ショウキ | LV50*3 |
| 地母神 | ペレ | LV7 |
「俺は鬼神ショウキ。今後ともよろしく」
「よろしく頼む! 無事に合体できて何よりだ!」
プログラム内部空間にて現れたショウキと契約をする。悪魔全書の悪魔2体を素材に作り出したものだから自我はまだ薄いだろうが、そのうち馴染むだろう。
「しかし、コレが壊れていたという事は『悪魔合体ライト』も使えなかったのでは?」
「壊れてたのは全書との共有周りだから多分使えたとは思うけど、ゾッとする話だよね」
「うむ。本当にな」
まあ、生きているのでヨシ!
「……うん、とりあえず大まかには説明できたかな。細かいデータとかは今纏めてるけど、プリントアウトして紙で持つ?」
「防諜は得手でない。データとしてスマホの中に送ってくれ」
「分かった。じゃあスマホのアドレスを」
「? この機械からできぬか?」
「知らないスマホに送るのは無理かなぁ」
「否、これが己のスマホだ」
と、この辺りで失言に気付く。この世界では悪魔召喚プログラムを用いる機械のことをCOMPと指すのだった。
「すまぬ、言葉を間違えた。このCOMPの中にくれ」
「分かった。……凄い言い間違えしたね」
「直そうと思っているが、ついな」
スマホ……ではなくCOMPの中にデータが共有される。先程測定したデータと、各数値の説明などが書かれているファイルだ。
「む? バックアッパーと同じ仕組みか?」
「あ、使ってくれてるんだ?」
「あれはナサ殿が作ったものなのか?」
「実は共同開発者の一人だったり」
「なるほど。感謝する。あのソフトにはとても世話になっている」
頭を下げて感謝を述べると、少し照れたように頭を掻いていた。
そんな時、足音が聞こえてきた。片方はリオのモノ。もう片方は司殿だろうか?
「ごめんだんな様、話し込んでて遅くなっちゃった」
「COMPの解析は終わった感じ?」
「大体終わった所だよリオさん。司ちゃんもお疲れ様」
さて。ここに来た目的は己のスマホ内部のプログラムを解析するだけではない。なにやらナサ殿からの依頼があったらしいのだ。
「それじゃあ確認なんだけど、この『バックアッパー』見覚えはあるよね」
ナサ殿が見せたのは先日激闘の末に打倒した堕天使パイモンの体内にあったものだった。ヤタガラスが解析を頼んだ技術者というのはナサ殿のことであったらしい。
「うむ、己とリオで打倒した異界の核だな」
「報告できることは粗方書いて出したわよ。何か足りない所あった?」
「一応主観の情報が欲しいんだ。この球体から発した情報を見たりして、何か妙な事思わなかった? 文の内容が痒いとか、写真が美味しそうとか」
質問の意図が分からない。文章は文字化けして読めなかったはずで、写真には男女の絵姿しかなかったはず。美味しそうとはならぬだろうて
「……文章は痒くならなくない気がするのだが」
「でもジエンくん、あの球を美味しそうだとか言ってたよね」
「言ったな。食っても腹を下さない悪魔の感覚がしたのだ。食べやすそうな形状でもあったしな」
そう言えば司殿は『大丈夫かコイツ?』という目で己を見て、リオは『落ちているモノを食べちゃダメって言ったでしょ!』というような責める目で見る。
「……うん、ありがとう」
「どう言う事? 説明してくれなきゃ分からないわよ?」
「安心してリオ。説明された私もあんまり分かってないから」
「なんか、情報に対してのインプレッションが歪むんだよね、この球体関係の情報って」
「む?」
インプレッション、印象という意味だったか?
「この球体の情報量が100として、波長の合わない人間が感じ取れる情報量は2か3くらいなんだ。今回はバックアッパーが引っかかって情報が増えたみたいだけど、それでも4くらい。で、その情報は読み取れない他の情報と混ざって変になる感じ」
「読み取れない訳じゃなくて?」
「うん。『球体が存在する事』とか『どんな色のものなのか』とかは外から観測できてる訳だしね。僕からは材質すら理解できないけど、司ちゃんはこれを魔石の類だと思えてるし」
つまり、見る人によって形が変わる物質なのだろうか? 特定の人間でなければ正しく中身を把握できないモノ?
「……え、形の認識がブレてるの?」
「触って確かめた形状だって僕と司ちゃんで違うモノになった。3Dスキャンして見る形も方式によって違う形になったりする」
「そこにあるのにか?」
「で、4次元以上の情報を持つ構造体ってとりあえず仮定してみて色々試してみたんだよね。それで三次元にはこの球体以上の質量を持たない事と、MAGを燃料に発信する情報は大きな一つのデータの中の一部でしかない事。そのデータは何か特定の性質を持つモノならばその一部のデータから全部の情報を複合できるように繋がってる事が分かったんだ」
己とリオと司殿、3人の頭の中が『?』で埋め尽くされているだろう感覚がある。ギリギリで理解できていた内容から5、6歩外に飛び出した感覚というか、説明を飛ばされたというか。
だが、理解できた情報だけを繋ぎ合わせると見えるものは少しある。
「……つまり、パイモン専用のバックアッパーなのか?」
え、今の長台詞分かったの⁉︎とリオと司殿が驚く。分かってはいないぞ。
「うん。堕天使パイモンの記憶コードのバックアップ。悪魔召喚プログラムで出たまっさらなパイモンにこの球体を渡したら、この前の異界で出たパイモンみたくなる筈……検証が必要だけどさ」
「ふむ」
バックアップを完全に受信したら妙な事が起きるらしい。
「今回は堕天使パイモンだったけど、他のメジャーな悪魔に影響を与えたり、人間に影響を与えるようなのがあったら……」
「知らぬ間に他人になる……と。おっかない話ね」
「最悪の場合は、だけど」
なるほど。悪性の思念を押し込まれたのなら邪悪の手先になりかねないが、ただの技術や情報であるのならそれは『魔導書』などでのレベル経験獲得と大差はないのか。
今の所邪悪の可能性が高いから、危険だと見られているだけで。
「ふむ、そのような最悪を防ぐために己達に何か依頼があるのだな」
「うん。リオさんにお願いしたいのはこの堕天使パイモンの追跡調査。パイモンが何処でコレを手に入れたのかって事を調べて欲しい」
「おーけー」
トントン拍子で話が進む。信頼が理由だろう。料金設定などは別にやるだろうが、受ける事は決まっている訳か。
「で、探索の目星とかはあるの?」
「一応ね。異界のあったスタジオ周辺の影異界。まずはそこから調べて欲しいかな」
「……影異界?」
「あー、あそこの森?」
うむ。影異界というのは分からないが、リオは心当たりがあるようなので後で聞こう。森である事がわかっていれば今は良いはずだ。
「うん。というわけで要件は終わりかな。急に呼びつけちゃってごめんね」
「それは良いわよ」
「これから、パイモンの悪魔召喚プログラムの解析にかかるのか?」
「あ、それはもう終わってる。けっこう簡単な作りだったから」
「誠か!」
「やっぱ変態だわアンタ」
「人のだんな様に酷い言い草だね。まぁ私も若干思ってるけど」
「ひどくない?」
という事で、先日の戦闘で気になったところを聞いてみた。
「パイモンの27体召喚とは、どう言う理屈だったのだ? 可能な範囲で聞きたい。そして己が使いたい」
「使うのは無理かな。あのプログラムは複数のパイモンで共同制御していたみたい。堕天使パイモンはプログラム内部に複数いて、それを重ね合わせてより強いパイモンにするってのがパイモンの術式みたいだったから。多分戦闘時に9体くらいの堕天使パイモンが『合体待機状態』で重なってたんだと思う。で、それぞれが別々の悪魔の制御に回ってるから27体が扱い切れている。CPUを複数搭載して負荷を分散してる感じが1番近いかも」
「……ふむ。つまり己も沢山になる事ができれば複数制御が可能なのだな!」
「どうやって増えるのさ。分身の術?」
「探せばなにかはあるだろう。きっと」
ふむ。己がたくさん……漂流者は過去の時代の人間なのだと聞いた。つまり過去の世界で生きた違う己達が重なり合い協力しあえば行けそうだ。霊媒系の技能について調べてみよう。いや、精神を宿すのだから降霊か? どっちも調べよう、うん。
「ただ、これで精神のブレから肉体が崩壊しなかった理由はちょっと分かってない。パイモンの精神力による根性だとは思いたくないしね」
「私根性だと思う」
「己もだ」
「司ちゃんも根性だと思います。恋する女は強いし」
「だよねぇ……」
なんでも理屈の上では複数の精神が単一の肉体の中にあると『悪霊レギオン』のように精神を司るパーツ、頭部が複数発生するような形になるらしい。頭部が複数あれば後方や側面などの別の視界を元にした思考により、さらに強かったかもしれない。今回は敵の精神の屈強さに感謝しよう。
「ま、パイモンの球体はただのレアケースで、僕らの取り越し苦労ならそれが1番だから。結果が出なくても安全第一でお願いね」
「心得た」
「じゃあ一仕事終えた訳だし、お風呂いこっか」
「おお!」
その日、己はこの世界の最先端の風呂の威力に震える事になる。
マイクロバブルシャワー、ジャグジー、サウナ。
文明とは、こういうモノなのだなー……気持ちが良い……
今度掲示板でダイレクトマーケティングというのをやろう。うん。これは良いモノだ。
びっくりする位注釈が少なかった今回です。今までが多すぎたともいう
由崎夫婦
4/7日より2期が始まるアニメ『トニカクカワイイ』より。イカれた頭脳のナサくんと不思議美少女司ちゃんが新婚夫婦をやる作品。本筋に特に絡んでないときの緩い雰囲気が個人的に大好き。
由崎
『NASAより早く高速になる男』っていう決め台詞を最近使ってないイカれ数学野郎にして歩くWikipedia。草津温泉風湯布院の経営危機を救ったことで信用され、離れを課してもらうに至った。
今作ではすこしオカルト方面に縁ができているのでCOMPのプログラム作成だったりをしている。検証班のがんばり(すぎ)を支援する情報管理システムを作っている一人でもある。
由崎司
謎の美少女。武術の心得がある。詳しい設定が気になるのなら原作を読むかアニメを見よう。
今作ではデビバス復帰勢。昔は知る人ぞ知る強者だったが、引きこもっていた時期が長かったので知っている人は少ない。今では強くはあるが普通に埋もれる程度の実力者である。
キリギリスの一員ではあるのだが、機械に弱くチャットの参加はあまりしていない。
リオと、というか技研と縁が深く、秘伝書のうちのいくつかは彼女のツテで持ち込まれていたモノだったりする。
ジエンくん
風呂上がりの牛乳が好きになった