姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝   作:気力♪

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達き日の戦士達に

 

 妙に自我の薄い悪魔、倒しても取り込めないMAG、転がり落ちる漂流者、そういうのが名物である異界。

 実入りはなく、異界の主もいないので破壊もできない『よく分からないモノ』。調査もされてはいるが、優先されてはいない場所。

 

 それが、『影異界』。

 

「人物ならぬ悪魔人格プロファイリングの結果ねぇ……」

「堕天使パイモンが衝動的に行動を起こしたというのはリオも認めるところだろう?」

「で、あのスタジオ周辺でヤバめなパワーを得られた可能性が高い場所が影異界の森。アホほどにトラップの残骸が転がってるのが特徴といえば特徴なのかな?」

「ほう、トラップ」

「資料見た限りだと複雑なのはあんまりないかな。ワイヤートラップの先に攻撃系アイテムを配置してやる奴とか」

「ふむ。その手のトラップは攻撃アイテムを起動状態にしたままにするのが難しかった記憶があるな」

「へぇ……」

 

 かつての世界の最終盤。補給のない中で優先するべきはMPの回復だった。故に異界の中を逃げ回って『パーティMPリカバリ*1』を有効活用する作戦を取っており、その際徘徊する悪魔のルートが逃げ道と重なっては挟み撃ちにされてくたばるので罠を用いて敵の誘導を行っていた。

 

 無論、悪魔に有効な罠というのはそんなにあるわけではない。悪魔はダンジョンを徘徊している際に形をいくらか崩している*2事がある。女性型、獣型、鳥型などは遠くから把握できても、接敵するまで詳細を認識できない。

 

 そうして実体化の薄い状態の悪魔は純粋物理的現象による干渉が通りにくいという性質も持っている。奴らはドアを開けることすらできない代わりに、ワイヤーに引っ掛けることすらできやしない。

 

 なので、最終的には森全体にトラップを張り巡らせて、機動はニードルショット*3で手動操作をする事にしていた。

罠の作り方はハンターメモにあったが、それを作り上げられる技術は己にはなかったのだ……

 

「おーい、戻ってこーい」

「……しまった。油断が過ぎるな」

「連戦続きで疲れてない? 休む?」

「問題はない。見知った森の形状で昔を思い出してしまったのだ」

「へー、元の世界にもこの森があったの?」

「あくまで似たモノだ。己はこの目で森が砕け散るのを見ているのだから」

 

 とても良く似ている。踏みしめ道にした草花も、悪魔の血肉で穢れきった木々も。その存在感を除けば瓜二つなのだ。

 

「……そういやこの世界に来る直前の事を詳しく聞いてなかったんだけど、良い?」

「うむ。まぁ実際己はよく分かっていないのだ。詳しい話を下っ端の兵隊が知った所でどうなる訳でもないしな」

「……ジエンくんみたいなのを兵隊として使い捨てるとか、あんまり良い感じしないね」

「そう言ってくれる人もいたな。だが、どのみち護り戦うのだから大差ない、と聞く耳を持たなかったのは己なのだ。仲間達を悪く言わないでくれ」

「……外野からの言葉だから、ジエンくんも適当に流してていいんだよ?」

「気をつける」

 

 リオの気遣いを受け入れる。しかし己の過ごした戦いの日々も、丁寧に言葉にしていかなくては相互理解は得られまい。

 

「上の方針で作戦を進めていき、シェルターの防衛を続けていた。だが、守っても守っても戦況は良くならず、逆襲に出た先輩やパイセンも還らない。そういう真綿で首を絞めるような死に方をしたのだよ、己の世界の人類は」

 

 その話をしんみりと聞いたリオだったが、しかしふと妙なことに気が付いたと口調をいつものモノへと戻す。

 

「今、先輩とパイセンで分けてた?」

「先輩とは先に同じ仕事をしていた者で、パイセンとはその中で特に親しい人を指す。この世界では違うのか?」

「パイセンは若干舐めてる感じあるかなぁ……」

「なんと……」

 

 パイセンは、ダメなのか……? 

 

 いや、別に呼んでいて悪い顔はされていなかったな。うん。

 

「まぁ話を戻すが、その逆襲に全てを賭けていた人外ハンター商会は大きく弱り、以降悪魔共相手に防戦一方。すり潰される中で情報収集能力も考える頭も弱っていったのだ」

 

 今にして思えば、組織の頭が吹き飛んだ後でも手足が頑丈だったから動き続けられただけだったのかもしれない。本当は先輩方が逆襲に失敗した時点で勝ち目などなかったのに、しぶとく生き残り続けてしまっただけなのではないか? と。

 

「……そんな状況からよくもまぁシェルターで世界から脱出する! なんてやってのけたわね」

「うむ。皆で頑張ったからな!」

「……皆がジエンくんレベルで頑張ったのならできるわね、うん」

 

 そうこうしていると、影異界のある森の境界と無事に辿り着く事ができた。話は中断しよう。

 

 一応の警戒はしていたが狙撃の類は見当たらず、足元に落とし穴などのを作られた痕跡はない。普通だ。ナサ殿が己達を殺す為に偽りをしたという線は一旦置いておく、ないとは思うが。

 

 影異界の森は実際の森と地続きになっている。この森の北西部あたりが入り口らしく、その辺りからは属性がニュートラルの悪魔がボロボロ出るらしい。

 

 影異界の性質として自我のない悪魔のため悪魔会話でのスカウトは不可能らしいが、メジャー悪魔故にスキル、耐性などは良く知られている奴でそう苦戦はしない。レベルも低いし。

 

 影異界を進んでいく。不思議と見覚えのある壊れ方をしている結界を抜けて、迷う事なく先に進んでいける。

 

 そして、見覚えのある目印のあるワイヤーを見つけた。

 

「……なんと」

「どったのさジエンくん、マッカでも落ちてた?」

「これは……己が作ったトラップだ!」

「……え?」

 

 理由は想像もつかない。己が数ヶ月の間サバイバルしていた中庸の森がこの世界に転写されていた。

 

 


 

 勝手知ったる森の中をスタスタと進んでいく。出てくる悪魔は弱く、本来であれば中庸の森にはこのくらいの悪魔がいたのだなぁ……というノスタルジーを感じさせる。

 

 それはそれとしてあえてATTACKで倒す事で武器の熟練度を上げようとの試みはするのだが。

 

「……どゆこと?」

「ふむ……この異界が砕かれた時に己がこの世界に転がり落ちたのだから、異界の方も転がっていてもおかしくはない、というのはどうだ?」

「……まぁ、考えるのは後回しにしましょ。そっちのバックアッパーの反応はどう?」

「数個反応があるな。影異界の調査をしたハンターの調査メモだとタイトルにあるが、開いては居ない。大丈夫そうか?」

「こっちでも確認したよ……オヤジの混ざってるじゃん」

「ほう、ゴドー殿の探索記録か」

 

 興味をそそられたので閲覧してみる。

 

 オートマッピング結果と悪魔の情報のメモ書きが機械的に記されている。無機質だが、とても読みやすい。注釈として敵悪魔の行動方針があり、それは驚くほどに敵の行動と合致していた。

 機械的に、規則性をもって動いているのだとこうしてまとめられていると改めて理解できるというものだ。

 

「とりあえず、この記録が残された時点では何か変化はなさそうね」

「うむ。現在でもなにかの強大なパワーの痕跡は見られない。あれば感じ取れるしな、この気配の薄い異界ならば」

「だよねぇ……」

 

 オートマッピングの同期をリセットして自分の歩いた場所のみのマッピングを開始する。別にゴドー殿のマップそのままに歩いても良いのだが、どこを歩いたかを覚えておくのが面倒なので手間は省いておく。

 

「とりあえず時計回りに順繰り進んでいこっか」

「うむ。悪魔からよりも人間からの奇襲を警戒しながらな。罠が残っているのだから理解し利用する者がいるかもしれん」

「わざわざ紐を撃ち抜く奴を?」

「便利だったぞ?」

「それ他の方法と比較してないからじゃないかなぁ?」

「否、クレイモア地雷や魔導式など様々に試した結果だ。手動で起動するのが1番間違いが起きぬ」

 

 トラップを使おうと思い立ち、自分諸共吹っ飛んだことは記憶に色褪せずに残っている。命懸けで走り回ってる中で罠の場所を全て把握するのはほぼ不可能だった。少なくとも己には。

 

 スマホにメモを取って使うときだけ思い出してやれば不都合はなかったし。

 

「あ、トラップみっけ」

「あそこはデビルポイズンだった筈。今は足りているな」

「ジエンくん自前でバステ振り回せるもんね」

「適正があったのだろうな。きっかけは悪魔からの囁き(ウィスパー)であるが、己の技として記憶できている」

「そういや、ああいうポイズマとかのバステ魔法で魔力属性のダメージが発生するタイプ*4があるらしいよ」

「ほう!」

「ダメージ量は小さいけど、魔力ダメージを弱点にする悪魔もちらほらいるんだって」

「是非覚えたいな。魔力が並程度の己では威力にはならないだろうが、手数にはなる」

「ジエンくん百麻痺針*5とかのバステ付与系攻撃好きだよねぇ。グランドタック*6とか刹那五月雨撃ち*7とか覚えないの?」

「……正直どこもかしこもプレートバンダナ*8だらけの現在でただの銃撃属性が必要か? と思い始めてる己がいるのだ。あとそのような高位スキルは容易く習得はできぬ」

「火力不足で悩んでるくせに」

「それは言わないでくれ……」

 

 お手軽に使える火力が欲しいのは人類皆共通だと思うので、未来の己か他の誰かが何か思いつくだろう。今は思考を外に置く。

 

 異界前半の森林部分の踏破が終わる。ゴドー殿のマップとの差異はなく、出てくる悪魔も雑魚ばかり。ナイフを積極的に振るようにしているが熟練度が上がって威力が上昇する*9感覚はない。掲示板の情報は玉石混交だからか? 応えてくれ己のモータルナイフ! *10

 

「武器系スキルに熟練度補正乗るらしいのよねぇ……また素手から離れられない理由が増えた」

「そう言えば、リオは武装をさほど使わないな。何か理由があるのか?」

「武器の耐久力の問題……いや、私の技術の問題の方が大きいかな? 武器がダメになるのが早いのよ。新品のが戦闘中に駄目になったこともあったりでさ」

「それは不良品を掴まされただけなのでは?」

「どうかなー? 杏奈もオヤジも問題ないって太鼓判押した奴だから」

「……なんと」

「それ以来武器をサブ感覚で使ってたらいつのまにか素手だけでなんでもできちゃうリオさんになった訳なのよ」

「ふむ。リーチの問題はあるか?」

「慣れちゃった」

 

 さらっというその一言がどれだけ恐ろしい事なのかをリオは理解しているのだろうか? 

 

 1ターンをもっと細分化して見た時、攻撃を当てられる距離に近づく事にかけられる時間は4秒はない。

 敵も味方も変わる変わる攻撃を繰り返すのだから、味方の攻撃に反応して離れる事をするし、敵の攻撃に備えもするから常に攻撃できる距離で戦うというのはかなり難しい。その上近づく事に集中しすぎれば敵からの攻撃で致命打(クリティカル)を受ける事になるし、敵の牽制のせいで近寄りきれず攻撃を失敗する事も当然ある。銃撃ならば距離がある程度離れていてもなんとかなるが、こと近接ならそうはいかない。悪魔は基本的に人間よりも長いリーチの技を持っているのだから。

 

 慣れた、というのはつまり

 手の届く距離まで近づく事を当たり前に可能とし、一方的に殴られる距離からの踏み込みを常道とし、攻撃の後の隙を致命打にならないような残心を万全にしているという事。

 

 改めて、リオのような近接バスターの強さに恐れ入る。

 

「……ん?」

「敵か?」

「どうだろ? 警戒強めに、右前方から違和感」

「了解、戦闘準備」

 

 現在探索の共として出していたのはクイーンメイブ一体だけだった。

 故に追加召喚は2体、ファフニールとゲンブだ。先日の異界より使いまわしているコンビであるからセット運用は慣れつつある。体躯が大きく、敵の攻撃からの盾として非常に使い勝手が良い仲魔だ。

 

「OKだ」

 

 己の言葉に頷いたリオは先頭を進む。リオの進む先には樹木が密集した壁がある。焼いて砕けば先に進めそうな、普通の壁だ。

 

「……この先」

「隠し路か?」

「マップ見た限りじゃ迂回路はない。隠し通路があるかも」

 

 そうして調べてみると壁が薄いポイントが存在するのが分かる。人為的に作られたものではない、異界自体が作り出した隠しエリア。

 

 侵入方法は、壁の破壊がいいだろう。

 

「……しまった、火炎(アギ)使いがおらぬ」

「まぁ火龍撃でいけるでしょ」

 

 若干の不手際がありつつも壁は穿たれ道は開く。

 壁の向こうには通路があった。MAGの通り道としての役割しかなく、人や悪魔が踏み入った形跡があまり見えない獣道だ。

 

「当たりだね」

「行くか」

 

 トラップへの警戒のため『コアシールド*11』を使用する。ダメージゾーンを発生させるタイプはこれで無力化だ。

 移動系トラップ対策にリオと己の距離を詰める。先行させるのはゲンブ、殿はファフニールにして奇襲を警戒。

 

 狙撃が来る可能性は考えなくて良いだろう。道は真っ直ぐでなく曲がりくねっており、遠方には樹木による壁もできているからだ。

 

 ……それはそれとして、ヤクトヘルムのバンドが緩んでいないかを確認はしておく。問題なし。

 

「この違和感、なんなんだろ」

「己は何も感じない。故にリオにあり己にはない条件があると見る」

「近付く度に強くなってる。苦味というか……」

「これは当たりではないか? 文字が痒いのと同様の、異常なるインプレッションが故とみる」

「人を選びまくるバックアッパーか。じゃあ一応女性であるのも条件候補に追加ね」

「身体の性差は、明らかに違うものな」

 

 平常の警戒度を維持しながら情報共有。罠として純然たる殺意の元に待ち構えられている感じではない。何者かが隠れ潜んでいるかもしれない、という感覚だ。杞憂であるのならそれが良い。

 

 そんな時、スマホからアラームが鳴る。

 

「来たな」

「こっちも確認、バックアッパー」

 

 タイトルが文字化けしている共有ファイルがある。以前スタジオで受信したものとは別だ。

 

 使い捨て用途として持ち込んだスマホにて共有ファイルを開くと、悪魔召喚プログラムと思われるモノに文字化けした文章、そして写真が一枚存在した。見知らぬ顔の男性が二人の女性に挟まれている。

 

 ……見知らぬ顔だが、どこか懐かしい。

 

「読めぬか」

「他のバックアッパーだね、これは」

「とすると、研究か何かの一部なのか?」

「かもね。人間に対して使えるのなら、精神をコピペし続けれて不老不死な訳だし」

「ふむ……だが、何故に悪魔召喚プログラムを添付しているのだ? 普通に危険だろう」

「そうだよねぇ……」

 

 と、リオが不意に何かを思いついたようで、COMPで操作する。

 受信したバックアッパーだろうか? と思えばタイトルが異なっていた。化けた文字の種類が違う。

 

「あー……理解した。『技』だよ」

「技?」

 

 そう言ってリオは一つの動画を見せてくる。おそらくバックアッパーにて共有されたもの。己のモノと違うモノを受信していたらしい。

 

 その動画の中には、全身全霊の一撃を放つ男の姿があった。どことなく、リオの放つ无ニ打(アカシャアーツ)に似ていると思われる技だ。

 

「魂を昂らせての貫通効果のない、純粋に高威力のアカシャアーツだよ。文字は読めなかったけど、添付されてた動画は見れた」

「ふむ」

「で、これが添付されてた奴には()()()()()()()()()()()()()()。だからこの一撃は、悪魔召喚プログラムよりも優先させて誰かに遺したい『技』なんじゃないかな? って」

 

 ……なるほど、逆説的にそうなるのか。リオはあの動画にて誰かに技術を遺そうとしていると感じた。その感覚を真とするならば悪魔召喚プログラムの方も遺すべきモノとして見れるという事か。

 

「よっぽどの達人でないならば悪魔召喚プログラムが『技』としては最適か」

「使えば誰でも多少は戦えるからね」

「そのレベルの多少で生き死にが変わるだろうか? 今の狂いまくった環境で」

「変わるよきっと……0.01パーくらいは」

 

 そうして進んでいると、文明の痕跡と思われるものが見える。影異界由来のモノではなく、きちんとした情報量を持っている物体だ。

 

 形状は球体。技研で読んだドラゴンボールにあった個人用宇宙船を思わせるハイテックな装いで、周囲のMAGを収集していた。

 大きさは己の膝程度もなく、とても小さい。

 その内部には2個の球体が存在した。外側の機械で必要量のMAGが収集できたら一つの球体が起動し、それが回転して次の球体にMAGを溜めるという回転式弾倉を思わせる作りになっていた。

 だが外装の一角には穴が空いており、その大きさは球体が通るか通らないかというくらい。小さめの個体なら転がり落ちてしまうだろうか? というほどだ。

 

「なるほど、この機体の中に入れるための球形だったか」

「もっとスマートなやり方あるでしょ、こんな面白絡繰を作らなかったってさ」

「浪漫という奴ではないか?」

「……見た目は格好いいから否定できない」

 

 バックアッパーの方の量産の都合なのではないか? という考えが浮かぶが、まぁ真実は己の知るところではない。

 これを停止させ、持って帰れば依頼は終了となるだろう。

 

 

 

ふと、懐かしい匂いを感じた気がした

 

 機械の後ろには異界の裂け目があった。音もなく生まれていたらしい。大きさは掌が通るかどうか程度と、とても小さい。

 裂け目の向こうを見た。その向こうにあるものは己がかつて見た、ジャンプする前のシェルターの姿と重なった。

 

 だが、今にも崩れ去ってしまいそうなボロボロさで、己達を安心させてくれた頑健さは見る影もない。

 

 何事かが、あったのだろう。

 

「待ってくれ、皆!」

 

 衝動的に裂け目の向こうのシェルターに声をかける。だが、声は届かない。

 何事もないかったかのように裂け目は閉じていき、仲間たちの安否は分からない。

 

 音もなく始まっていた接続は、音もなく切断されたのだった。

 


 

 草津温泉風湯布院に帰還した己とリオ。回収した機械にMAG収集を封印する札を張って、ここまで持って帰ってきた。

 

「うん。確認したよ」

「あとはよろしくね。まぁ害意のあるプログラムじゃないみたいだけどさ」

「という事は、堕天使パイモンが強い影響を受けただけなのかな?」

 

 時間を作って対応してくれたナサ殿とリオが話している。

 己は驚きが大きく、平常心は保てていない自覚がある。会話がすんなりと頭に入ってきていない。

 

「それで、異界の裂け目からジエンくんの知ってるシェルターが見えたんだよね?」

「……うむ。己がかつていた霞ヶ関シェルターに相違ない」

「映像も残ってるよ、バックアッパー様々だね」

「役に立ってるなら良かったよ」

 

 ノートパソコンで映像を見たナサ殿は、手元にあるマシンをチェックしている。

 

「確認するけど、コレって漂流者(ドリフター)関連なんだよね?」

「なんで知って……まぁ、知ってる奴なら知ってるわよね」

「ここの銭湯、結構漂流者さんたち来るからさ。自然とね」

 

 口止めをされていた彼らが口を滑らせたのは、レルムに近いからだろうか? それともここの銭湯特有の安らぎが口を軽くしたのだろうか? 

 なんとなく、後者な気がしている。ここの雰囲気は温かい。

 

「それで、漂流者関係だとなにか問題ある感じ?」

「うん。過去の周回の誰かが残した情報だったなら、それが現在の自分自身に伝わってしまう可能性がある。この球体で共有してるのが思念データなら、自分自身との相性は最高で最悪だ。過去の自分に汚染されかねない」

「汚染……」

 

「ヤタガラスの方の調査班が、堕天使パイモンの出現記録を見つけたんだ。発生場所はあの周辺の家屋、召喚したカジュアルのサマナーを殺して自由になったんだって」

「召喚された奴が自由になって、あの異界にて『球体』の影響を受けてあの『堕天使パイモン』になった……で良い?」

「うん。だから懸念されていた『堕天使パイモンを捨てたサマナー』をは存在しなかったって事で一旦切り上げて良いと思う」

 

 とりあえず、ひと段落ついたという所だろう。ほっと一息つきたくなる。

 

「ナサくん的には、悪意でやってると思う? コレ」

 

 リオが、己が聞きたいことを話してくれた。

 もし、シェルターが今生きてるこの世界を侵略するためにバックアッパーによる精神汚染を行ったというのなら……己は、どう戦えば良いのだろう? 

 

 そう思った己の心配を他所に、ナサ殿は冷静に、普通の事として答えた。

 

「自分たちに出来る最後のこととして、技術をを未来に投げ渡そうとしてるんだと思う」

「その、根拠は?」

「写真とかが『自分たちは幸せに生きてました』って印象なのはそうだけど、それよりも球体が技術の多くを思念データで渡そうとしている所かな。遠い未来で、言葉が全く通じない相手に対しても技術を渡すために、いろんな技術が使われてる」

 

 純粋に情報データとして残すのならば、思念データの数倍の量を保存できるらしい。

 それでもそうしなかったのは、言葉の違いによって情報が遮断されないようにするため。

 自分たちのことが記録に残らなくても、技術として肉となり、命を繋ぐ糧になればと。

 

 そういう『記録』こそが、己たちの世界の戦いだった。

 

 左腕のスマホを見る。籠手の形をしたそれを使って数多のハンターメモを読んでいった。分かりにくかったり、ふざけた語り口のものもあったけれど、技術は、確かに繋がっていた。

 

「……あれは己の世界で、己が守ったシェルターだ」

「うん」

「だから、この世界に敵対する者達ではないと……信じたい」

「そうだね」

 

 二人の優しい目が、今は少し痛い。

 

 言われずとも理解している。悪意のない行動が理由だとしても、他者を害する事はある。

 誰かの未来を願っての行動が、誰かの未来を汚染する結果になるかもしれない。

 

「で、これこらジエンくんはどうするの?」

「シェルターに赴き、真意を尋ねたい。全てはそれからだ」

「……で、なんとかできる?」

 

 リオが問う。己ではなくナサ殿に。方針に迷ったのなら多くの知識を持った賢人に尋ねること。それはこの世界でも同じだ。ナサ殿の知識の広さと深さは己も感服するばかりだ。

 

「……専門外だから断言はできないけど、行けると思う」

「誠か⁉︎」

「漂流者の拠点がこの世界に出てくるパターンって、異界が座礁する感じなんだよね。物質空間じゃない所を漂っていたのに、魔界に近づいたこの世界が来たから異界が引っ掛かったって」

 

 それは巫女殿からの話で聞いていた。この世界が魔界に近づいているから起きた現象なのだと。

 

「その漂ってる空での動きはよくわからないけど、この機械を投げ込んで堕天使パイモンを発生させた時に一回、ジエンくん達が確認したときに一回、少なくとも2回はあの場所での接触が起きてる。周期的に接触が発生する動きをしてる訳だね」

「ならば、あの場所を張っていれば良いのだな!」

「それは多分意味はないよ。ジエンくんが見た次元の裂け目は開くべき最小の大きさである球体の大きさ未満だった。あの場所からは離れる動きをしてるんだ」

「……では、どうすれば?」

「もう一か所、次元の裂け目が発生したポイントを見つけて欲しい。そうすれば、この世界の座標と合わせて3点測量の要領でシェルターが次に接触する座標を割り出せる」

「……なんと」

「けど、どうやってシェルターに乗り込むのよ。座標がわかればワープできるわけじゃないわよ?」

「とりあえずはそこそこの大きさの異界を作ってこの世界に引っ掛けるプランかな? その辺は、ヤタガラスの人とかシモンさんとか異界知識に詳しい人と相談してみて」

「……うん、やれそう」

 

 リオが頷いた。ナサ殿の話は決してでまかせではないという確信が持てたからだろう。己にはさっぱり判断がつかないが、ナサ殿の見せてくれた技術の高さと、リオが信用したという事実を元に信じる事を決める。

 

「うん、私たちがやるべき事はシェルターとこの世界の接点を探す事。で、その接点探しのアテはある? なかったら影異界総当たりだけど」

「球体の思念と技術を受け止めて、ある時急に跳ね上がったタイプのデビバスを探す事かな? そのきっかけを影異界で掴んだのなら大当たり」

「……今すぐにとは、いかぬか」

「コレばっかりはね。方法をいろいろ考えては見たんだけど、向こうの『次元ジャンプ』の理屈が分からないとどうにもならなくてさ」

「……いや、感謝する。己だけでは先の影異界で待ちぼうけを喰らっていただろうからな」

「あとは……今は、ゆっくり休んで、明日から頑張って」

 

 そうして、ナサ殿からの追加依頼は終了した。

 

 これからは、己が主となり動く時だ! 頑張るぞ! 

 

 


 

 

「……あれが、ジエン」

 

 霞ヶ関シェルターの一室で、一人の女が口を開く。

 

 彼女は『人外ハンターランク8』を伝聞でしか知らない。情報としてインストールされているが、シェルターを守るために死んだ有象無象のハンターと変わりのない眼差しで、彼を見ていた。

 

「どれほどの悪性情報に穢れれば、あのように醜く悍ましくなるのでしょう」

 

 彼女は知っている。『ケガレビト』を。

 

 力のために悪魔に魂を売り渡し、悪魔の囁きにより道を踏み外す外道ども。どれだけの正義を掲げても、人外ハンターそのものが『ケガレビト』の巣窟であった事には変わらない。

 

「悪性情報を、この世界に伝播させてはならない。ケガレは滅びるべきものだ」

 

 人間が悪魔と戦えるように組み上げた、シンクロ防御システムを組み込んだ最終型悪魔召喚プログラムは、次の世界に投げ渡した。

 

 悪魔と戦えるように、至高に思えた技術は思想と共に次の世界に投げ渡した。

 

 ──ケガレビトが、そこに生きる資格はない。人が人として生きている世界なのだから、人でないもの(人外)は狩り尽くされなければならない。

 

 そんな思想が、彼女の中には存在した。 人外ハンター商会を根幹とするこのシェルターの存在だからこそ。

 

「できる事は、とても少ない。私達の世界の最強を超えているような超人に、乞い願う程度です」

 

『イデアオーブ』に思想を焼き付ける。複数個繋いでいる()()()()()からの情報を使って、誰かの思想と共鳴するように願って。

 

「……届いて下さい、どうか」

 

 彼女は祈る、滅びることを選択したシェルターの主として。

 

 彼女は想う、窮地の中の人間が人外に打ち勝ってくれることを。

 

どうか

私たちを
 
ケガレビトを

   滅ぼして

 

 

 そんな願いを込めて、彼女は動き出す。

 ゆっくりと、一つずつ丁寧に。

 

 ──次の接触地点までは、まだ遠い

 


 

 あとがき

 タイトルの片方『ケガレビト』の回収です。姫の護衛の方は書けば書くほどリオさんが修羅になったせいで姫()護衛のケガレビトになりそうで怖いです。

 

 メタ情報を出してまで敵側情報を先行公開したのは、やりあう敵のスタンスを明確にした方がジエンくんをいろいろなところで使いやすそうだからです。ジエンくんを使いたいという方は特になにか言うでもなく勝手にどうぞ。

 

 

 ジエンくん

 掲示板のアイコンを変えた。モンスターも人外なのでモンハンは実質人外ハンター!ヨシ! 肉を焼くときの音楽を口ずさむことがたまにある。

 

 地元のシェルターからの毒電波で大変! とわかっててんやわんや。

 だけど銭湯に入ってフルーツ牛乳を飲んだらだいたい元通りになる。地元シェルターがどうなっているのかを確かめるのが最優先。問題があれば助けに行きたいし、邪悪に堕ちていれば始末をつけたい。それが人外ハンターの流儀である。

 

 今作の人外ハンターは割と思想強め。「明日を生きるために人外を狩るべし」とかの洗脳はあんまりしていないけど、ハンターの背中でそれを魅せつけているのでジエンくんの世代は皆自然にそれを受け入れている。受け入れられなかった奴らは悪魔に喰われて死んだので、全員受け入れた。

 

 

 

 ジエンくんループの世界観設定

 

 なんやかんやで核戦争による終末が起き、将門様が天蓋になった世界観。

 スカイの上からフリンが降りてくることはなかった。しかし妙に強い現地人のおかげで真4と同程度の戦況を保てていたトウキョウ。だが物資の不足などはいかんともしがたく、結果旧時代の精鋭が悪魔たちに一か八かの特攻を仕掛けた。しかし『悪魔王』や『救世主』はダメージはあれど健在であった。

 そんな敗戦後あたりに孤児上がりの人外ハンタージエン(当時12歳)が登場。フリンやナナシ達ハンターに憧れた少年とか錦糸町のプロ幼女さんとかのポジション。原作では平和になったから活躍しなかった類の人物。 

 

 そのほか絶望の状況下で政治とかマヒしてるのに生きてる変な集団がジエンくん世代の人外ハンター。基本雑魚の群れだけど、メンタルはすさまじくしぶといので生きるために超がんばった。

 

『悪魔王』『救世主』が勝手に殺し合ってる中で『アリオト』の襲来を察知した上層部(の生き残り)が悪魔たちに気取られないようにしての次元脱出を試みた。悪魔たちがアリオトに殺された後で漁夫の利する作戦である(無理があるけどそれしかなかった)

 手足であるハンターは最終盤までその目的を知らされなかったので、ハンター連中は本当によくわかってない。なんか凄い! くらい。

 

 しかしシェルターの機能が完成したのと同時期にジャンプ機能が露見し、悪魔王、救世主はそれを乗っ取ろうと集団で攻めてくる。大混戦だったが、殿のジエンくんが暴れ回ったことで指揮系統がマヒし、両軍の足止めに成功。シェルターは次元ジャンプによってこの世界から離脱した。

 

 そのあと生きる目のなくなったトウキョウの悪魔とジエンくんだったが、アリオトのことなど知らぬとばかりに大混戦。天蓋がアリオトの質量攻撃で破壊されこの世界が滅びるまでジエンくんは戦い続け、漫画さんの周回の世界に漂着した。

 

 これをジエンくんの口で語らせようとしたら、「よくわからん!」が多くなって説明にならなくなったのでここに設定を書きました。ただ正直設定としてはあるけども本編の展開に関係なかったり。過去の話は過去の話なので。

 

*1
真4 ハンターアプリ 移動時に味方全員のMPを回復

*2
フィールドシンボル状態、真4の3Dフィールドでは敵パーティ代表一体を象ったシンボルで現れる

*3
敵単体に銃撃属性小ダメージ

*4
SH2の魔力属性。バステ魔法が魔力属性ダメージと確率でのバステ付与になっている。ポイズマでもマリンカリンでもドルミナーでも魔力属性

*5
敵複数体に銃撃属性中ダメージ1~3回 緊縛属性付与

*6
敵単体に銃撃属性大ダメージ

*7
敵複数に銃撃属性で攻撃を複数回攻撃を行う 中ダメージ2~4回の作品(真4)大ダメージ2~4回の作品(DSJ)小ダメージ6~8回(ペルソナQ)と作品によって回数などに微妙な違いがあるが、総じて上位のスキル

*8
銃撃属性ダメージを90%軽減する デビルサマナー

*9
真ifの隠しシステム。熟練度は最大で+15、16回ATTACKする事に一段階上昇し、威力が上昇。ダメージ上昇は一段階につき1.5パーセント程度。熟練度最大で約1.23倍

*10
真4Fの店売りナイフ 小刀 威力198×1~2回 かつての世界からずっと使い続けているのでATTACKの累計回数は240回以上ある。熟練度は最高段階

*11
消費アイテム ダメージゾーンを無効化する

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