姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
「……見事な手際だな」
「そうか?」
緊縛で縛ってからの『ファンド*1』をした己に向けてツギハギ殿が言う。慣れれば誰でもできるだろうに……と言おうとしたが、そういえば己のスマホの性能がそう言うことに特化していた事を思い出す。
「己の使っているプログラムは、なんかそう言うことに長けているらしいのだ」
「珍しく曖昧な表現だな」
「その、な……解析データを貰ったが、まだ全てを理解できてはいないのだよ。難しくてな」
「……そういう所は年相応か」
そうツギハギ殿が言った所で、背後からトンボ殿が駆け寄ってくる。
「のほほんとしないでくださいよぉ! 私、守ってもらわないと即パト*2っすからね⁉︎」
「ガードできれば一発くらい耐えられる筈だぞ」
「修羅勢の感覚を基本にしないで欲しいっス!」
そんなトンボ殿の背後からふよふよとアント殿が付いてくる。耳を抑えている事から、耳元であの声を出されるのはうるさいらしい。
サイズ比からいえば、巨人が喋っているのを近くで聞いているようなものだからだろうか? ちょっと気になる。
「バカトンボ。ワンパンで死ぬような所に着いていくっつったのはお前だろうが。ギャーギャーわめくな」
「もうちょい介護があると思ったんすよぉ!」
「……また、敵が来たぞ。喚きすぎだ」
「目的はレベル上げなのだから良いのではないか? 己は悪魔勧誘をさせてもらうのだけれども」
合体素材集めをしようと言う時に、リオはまたしてもCOMPスミスの方々にお呼ばれした。なんでも物理貫通が付与できる装備*3が完成しそうだと言う話らしい。
先日呼ばれた時と同じ呼ばれ方であるので、本当に完成するかは五分だろうが、夢のある話だ。
低レベル異界での合体素材集めとて、単身で行くのは危ない。故に事故回避の為にツギハギ殿を誘わせて貰った。その時たまたま近くにいたトンボ殿も『楽してレベリング!』と飛びついてきたので一緒に来て貰っている次第である。
『黒子の歩法*4』と『バッドカンパニー*5』という己が見た手札だけで相当であるのに、多様なスキルを使えるアント殿もついてくると言うのだから否と言うことはない。凄まじく便利だ。
「……時にナッジアント。お前はどうしてトンボに取り憑いている?」
「MAGの相性の関係だ。コイツのMAGが霊体の維持に必要なんだよ。シャーマン系の適性があるからな」
「え、そうなんすか⁉︎」
「
戦闘中でありながらこの会話。なかなかに緩く、なかなかに油断モリモリである。どこかで事故りそうだ、うん。
まぁ、眼前の敵は全て『バインドボイス*6』にて緊縛状態かつ『テンタラフー*7』により混乱状態、女性タイプの悪魔は『マリンカリン*8』からの『スカウト*9』でCOMPの中に、という半分程戦闘は終わった訳なのだけれども。
「うむ、せっかくだから混乱トレード*10を試してみるか? 便利だぞ?」
「え、できるんすか?」
「うむ! 会話の際に『物々交換をしよう』という意を示せば良いのだ」
「じゃあ、やってみるっスかね」
「ぉおオレは! マッドガッサーだぁ! 他の何でもない、マッドガッサーなんだぁ!」
「あの、ブラックウーズさん? 混乱ってここまでヘンになるものなんすか?」
「オレはマッドガッサーだぁ!」
「えぇ……?」
そんな事を言いながら、ブラックウーズは体内から宝玉を渡してくる。うむ。トレードは成立だな!
「あ、はい。マッドガッサーさん。ありがとうございますっス」
「おぉ!」
なお、当然ながら緊縛状態も兼ねているので会話を終えて帰ろうという流れにはならない。多分あの悪魔は全体ストーンあたりを隠し持っているな。
「……あの娘、なかなかにやるな」
「うむ。前線でも一芸を見せられるタイプだろうな。即死しない基礎レベルがあればより強くなるだろうな!」
そうして『ファンド』と『トレード』をやりつつ不要な悪魔を始末し、ついでに目当ての悪魔を探す。
今回悪魔合体で作りたい悪魔は、メインアタッカーとなる悪魔と専門のサポーター。
メインアタッカーに渡したいプレロマ、ハイプレロマは己の全書から引っ張って来れるが、サポーターに求める
おそらくこれからの激戦においてたくさん使うので、ついでに全書に登録しておきたいのである。
「あ、モーショボーっス!」
「奴が目当てか?」
「正直な話、仲間にして詳細アナライズを確認するまで分からん」
「変なハナシっスよね。ブフ使いのモーショボーとか。鳥なんだからザン使うのが普通に思ってたっス」
「鳥だからって思考停止するなバカトンボ。そんなんだとカマソッソ*11に銃を撃つぞお前」
「失敬な! 銃なんて金食い虫使えるわけないじゃないっスか!」
「……どこが失敬なんだ?」
という雑談をしながらマリンカリンで魅了、からの『スカウト』。
確認した所、ベースレベルは15それが強化されてレベル30周辺までなったらしい。
衝撃高揚とザンマ、マハザンマ、ディア、タルンダオート、割合ダメージの自爆を習得している*12。
つまり、外れである。
悪魔のストックを開ける為に、適当な合体をしなくてはならない。タルンダオートは便利なので、いっそのこと御霊にして誰かに継承させるか?
「けど、そんなに欲しいスキルなんですか? 氷結ガードキル*13って」
「うむ。氷結ガードキルの効力は3ターン。その間合体魔法で氷結でのハメが通用するようになるわけだからな」
机上の空論にしてはなかなかに素敵に映るものだ。格上をハメ殺したときの安堵と達成感と開放感がごちゃ混ぜになったあの感覚を味わう為ならば多少の苦労は苦ではないとも。
「……合体魔法での確定氷結や確定感電というのは、正直理解を拒む」
「ケッ、よくわからん相性飛んでくる『しんけいだん*14』よかマシだ。プレートバンダナもドルフィンヘルムも貫通すんだぞアレ」
「ほう! 欲しいな!」
「俺も欲しいわ!」
「けどアントさん今銃撃てないじゃないっスか、幽霊なんスから」
「……畜生、よくも身体を粉微塵にしやがったなお前」
「引き時を見失ったならば死ぬのは普通でないのか?」
「その通りだよクソッタレ!」
その後、ぶつぶつと呪詛を吐いているアント殿。うむ、ちょっとした刺激が心地よい。電気風呂のようだ。
「……あれは?」
と、ツギハギ殿が声を発する。油断マシマシだった場の空気が一気に引き締まる。
まずはファフニールを召喚、87.5から75%の耐性は頼りになるのか微妙だが、マカラカーンを振り回せるのはありがたい。
御霊合体で活脈系スキルを仕込めないか試してみよう。3分になるか2分になるかは、財布次第であるけれど。
「……負傷している悪魔がいる。周辺に敵は見えん」
「悪魔同士のナワバリバトルっスすかね?」
「いや、あの悪魔レベルが高いぞ。40周辺だ。30あたりの奴らしか出ないこの異界だとMAG切れで死ぬ奴だ」
「ふむ、接触してみるか。ツギハギ殿、後方警戒を。トンボ殿は自身を守る事を優先で」
スキルを構えつつ接近。
眼前の悪魔は妖魔ヴァルキリー。いくらかスキルがカスタムされていそうな雰囲気がある。
「己はジエン。ハンターだ。貴女は?」
「……妖魔ヴァルキリー、この異界の敗残兵よ」
「ふむ、何者に負けたのだ?」
「魔王スルト。この異界に現れた炎の悪魔よ」
話を聞く所によると、ダークサマナーという種類の者達によって召喚された魔王スルトは、この異界の主だったヴァルキリーの主人を始末したらしい。
そして、この異界の掌握を始めているのだとか。
ともすれば、己の目当てのモーショボーが今まで一度も見つからなかったのはそのせいかもしれない。許せぬ。
「この異界の主はどんな悪魔で、レベルはどの程度だった?」
「44の地母神ハリティーよ」
「魔王スルトからすれば優に仕留められるだろうな」
「つってもスルトにゃあレベル幅がある。80台に乗る奴もいれば、45程度の奴もいる。どの程度だ?」
「ハリティー様と、戦いにはなっていたわ」
アント殿の言葉に答えたヴァルキリーの言葉に、ベースレベルは45*15だと推定する。そこからサマナーの手で強化されているとすると50から60の間くらいだろうか。
「ダークサマナーの手による異界の乗っ取りというのなら放置はできんか」
「ですけど、この異界乗っ取ってどうなるんスかね? ここキリギリスの掲示板に載ってるレベルの稼ぎ場っすから、長い事占領してたらレベル高い変な連中が襲ってくるっスよ。怒れるオタクの急襲っス」
「……やめろ」
頭上に?マークを浮かべるトンボ殿。デフォルメされながらも苦虫を噛み潰したような表情のアント殿を不思議に思っていたようだ。
「死んだ時を思い出す故にだな。あの時もキリギリスの者達がノリと勢いでアント殿の雇い主を襲撃した*16が故と聞く」
「分かったんなら掘り返すなや! あのクソデブ金払い良かったからそれなりに守る義理はあったんだよクソが! 見捨ててりゃあ良かったなぁ!」
「む? リオを仕留めるべく来たのでは?」
「そりゃ敵方にネームドが居たら真っ先にやるだろ。護衛依頼だぞ」
それもそうか、と納得する。その上初手で致命傷を与えるべく必殺の合体魔法をかましてきたのだから、矛盾もない。
とはいえ、己が同行していない場合でも、あの程度でリオを仕留められたか?と考えると疑問であるのだが。
「あの、ジエン様?」
「すまぬヴァルキリー、話が脱線していた。己達はとりあえずスルト達を狩るとする。貴女はどうする?」
「……治療をしていただければ、役に立ちます」
「ならば己と契約をしてくれ。仲魔でない悪魔を治療することはしない」
「わかりました。私は妖魔ヴァルキリー、今後ともよろしくお願いいたします」
「うむ!」
契約のラインが結ばれ、己達を害せない事を確認してから魔石をいくつか与える。
回復したヴァルキリーは、やる気だった。
アナライズを確認する。ベースレベル40のヴァルキリーであり、破魔無効に衝撃弱点というシンプルに強みの少ない耐性をしている。現在レベルは43で『セーフティ』というスキルを習得しているようだ。
シロエwikiだと『検証中』になっていたスキルである。なんでもミスした時の立ち直りが早いらしい。
攻撃スキルとしては『会心撃*17』、『雷龍撃*18』、『マハジオンガ*19』に加えて、水撃系スキル『マハアクエス*20、地変系スキル『マハマグナス*21』、疾風系スキル『マハガルーラ*22』を会得していた。
「この広域魔法はどうやって習得した? 珍しい属性が多い上に、ヴァルキリーとの関連性は無さそうだが」
「私は元々あるサマナーの仲魔だったのです。ストックの限界が来たという事で契約を外されてしまいましたが」
「うむ。確かにこれは中継素材のスキル設定*23だな。雑に攻撃系スキルだけを仕込んでいるあたりが」
「……そういうものなのか?」
「あぁ。こういう希少な属性魔法を合体継承する為に適当な悪魔に纏めて全書に登録したんだろうよ。だがプレロマ系スキル、耐性系スキルとの継承の兼ね合いで結局使わずストック内で放置って事じゃねえか?」
「……ハイ、その通りです。使えなかったヴァルキリーです」
「貴女程の悪魔を放棄するということは、普通にレベルが高かっただけではないか? 70から80台はあるだろう」
「あー、基礎レベルが足りてない! って奴っすね。臨時のパーティ募集に飛び込んだ時よくそれでお祈りメッセされるっス」
先程までの緩かった空気のせいで、皆口が軽い。こういう口が軽さは欠点に思えるが、精神的疲労を軽くするのにとても役に立つ。
ボスを狩る、強敵と戦う、奇襲を警戒する、そういう事をストレスに感じる人は多いらしく、緊張したままではボス戦の時に折れて使い物にならない事が多かった。
元の世界の話であるからあまり当てはまらないかもしれないが、そう間違ってはいないだろう。
必要なのは軽口を叩かない事でなく、軽口を叩きながらでも十分な緊張、警戒を続ける事。そして、戦闘へのスイッチを入れた時に直前までのテンションを引き摺らない事。
トンボ殿はできていなさそうだが、ツギハギ殿、アント殿は慣れている。トンボ殿にはアント殿が付くのだから立ち直るのも早くなる訳で、初手でトンボ殿を暗殺される事がないように警戒をすれば大きな問題は起きないだろう。
狙撃、『暗殺拳』、閉所での広範囲呪詛、この辺りを重点的に警戒する。
「しっかし、ジエンくんベテランみたいな動きっスね。本当に13っスか? 人生2回目とかじゃないっス?」
「うむ、死亡からの蘇生は何度も行ったので、人生は1回目ではないな」
「いやそういう事じゃねぇよ」
「……サブカルチャー的な意味だな。転生、というのは記憶、経験を持って新たに生まれ変わることを指す」
「それは奇妙で、しかも面白そうだ! 知らぬモノを知っている赤子というのは奇妙で恐ろしいモノだからな!」
「あ、ホラー系だと思われてる」
「少しショッキングな映像はあるが、アニメーションの『推しの子*24』というのにその転生が出てくるぞ」
「あー! アニメ化されたんスよね! まだ見れてないスよ私! 早く携帯テレビ買いたいっス!」
「お前はまず家を買えや」
「というかスマホが使えるのなら、サブスクリプションサービスで見れば良いのではないか?」
「いや、このスマホSIMカードないんで一般ネット繋がらないんス。サマナーネットは繋がるんであんま不自由はないんすけど」
歩きながら、雑談をする。
雑談をしながら、歩く。
敵が居たので、奇襲を仕掛ける。会話で己達に気付いては居たが、先んじた己に反応しきれず攻撃が先に命中する。敵の動きをは崩れた。
「後方警戒!」
「来てるのは3体っス! 霊鳥スザク48、聖獣ビャッコ48! 地霊スダマ47!*25」
「まずは削るぞ! 『百麻痺針*26!』」
崩れている相手に先手で打ち込んだ銃撃スキル。全員に一発ずつヒット、スダマの崩れなさからして耐性、スザクは弱点、ビャッコは通常耐性だ。
ただし緊縛のヒットはなし。運の下振れめぇ……
続いて敵方のビャッコが動く。かなり足が速い、緊縛で止めたかった。
飛んできたのは、『マハジオンガ』
ツギハギ殿は素で耐えられるので、己とファフニールでトンボ殿とアント殿を『かばう*27』。己は胸部装備*28のおかげで電撃を吸収でき、ファフニールは87.5%の微弱な耐性と高い体力がある。
こうして吸収を取った事で呼吸を奪う*29! というのがいつもの流れであるのだが、現在は戦場前列に
続いて動くのは、新参であるヴァルキリー。
「受けなさい、『マハジオンガ』!」
ただし、それは負の面だけではない。電撃使いのビャッコに無効にされたとしても、調子が崩れるのはヴァルキリーだけ、全体の行動に影響はないのだ
……む? ヴァルキリーが呼吸を崩してない? 『セーフティ*30』の立ち直りが早いという奴か?
マハジオンガのダメージによってスザク、スダマがあと一撃圏内。スダマは電撃弱点が故にか、致命傷一歩手前でかつ感電状態になっていた。
「スザクには氷結だな」
| 豪氷撃 | 敵単体に氷結属性大ダメージ*31 |
|---|
ツギハギ殿の大型銃器から氷結砲撃が放たれる。ツギハギ殿の銃は前の世界でかなり多くの武器を共食いして整備した結果、色々なスキルが付いているらしい。MP消費の属性銃撃スキルもその一つだ。
スザクは弱点属性をモロに受けて、死亡。スダマは感電していて動けない。
「回復いくっスよ!」『魔石』
「ビャッコが邪魔だな」『ラクンダ』
「ウォオオオオ! 喰らえぇ! 『モータルジハード*32』ォ!」
魔石によってファフニールを回復、ラクンダによって防御が鈍った所にファフニールの一撃が入る。
ビャッコはモロに喰らって死にかける。コレで終わりだ!
「マ、マテ! 悪カッタ、コノトオリダ!」
と、続いての出番でブラストアローを撃とうとした己をビャッコの声が止める。『命乞い*33』のようだった。
「ならば、仲魔になって尽くすと誓うか?」
「誓ウ! ダカラ殺スナ!」
「……このような時、礼儀のない話し方をする奴は、果たして信用できるものかな?」
「殺サナイデクダサイ! オネガイダ! コイツモ共に行キマスカラ!」
「うむ! 誠意はしかと見た! 契約だ!」
「聖獣ビャッコダ。コンゴトモヨロシク……」
| スカウト+ | ハンターアプリ | 悪魔のスカウトに成功した時、確率で他の悪魔も同時にスカウトできる |
|---|
「何故、私が? しかし私に問題はない。地霊スダマ、コンゴトモヨロシク」
「え、今の流れで着いてきてくれるんスか?」
「悪魔関係は摩訶不思議だ、本当に」
「ハン、小僧のCOMPからの勧誘思念が横にいたスダマに伝播したってだけだ。不思議な事は何もねぇ」
理屈は未だにさっぱり分からないが、運の上振れで仲魔が増えたぞ!
そして、このスダマは当たりのスダマだ! ベースレベルが42で銃撃耐性電撃弱点衝撃無効! レベルによって『衝撃ガードキル*34』と『銃撃無効』を覚えるぞ!
ビャッコは、まぁ普通のビャッコだった。ターゲット集中かつ防御上昇の『咆哮*35』が珍しいくらいか?
大活脈を覚えるならば、ファフニールに喰わせる御霊はビャッコから作ろう。
「ひぃ、怖かったっス」
「レベル低いと全体魔法で飛ぶからな。仕方ねえ、ツギハギ、トンボ、俺らはサブに回るぞ。小僧を自由に動かさせろ」
「少年に頼り切るというのは心苦しいが、足を引っ張るよりかはマシだな。支援に回ろう」
「心得た。出現悪魔のレベルも上がった訳だからな。召喚、ペルセポネー」
召喚と共に優雅に一礼するペルセポネー。そうして礼をすると、二つに分かれている身体の断面がよく見えて、すこし面白い。
「召喚主、ヴァルキリーを前線から下げては?」
「いや、『セーフティ』について簡単な検証をしたい。想像通りならば全書に登録して量産を試みたいレベルのスキルなのだ」
「なるほど、了解です」
「……量産されるのですか、私」
「うむ! その血肉を強くなるために使わせてもらう!」
「分かりました。私じゃないヴァルキリーが頑張るでしょう、被害を受けるのは私じゃないので許します」
「このヴァルキリー性格割とクソじゃないっス?」
「ニュートラル悪魔は関わる者の影響を良く受ける。ハリティーやサマナーの性格がクズだったと考えるのが正しいだろうな」
「ヴァルキリーの基本からかなりズレてるしな。忠義者には思えねぇ」
たまに見かける悪魔への奇襲を繰り返しながら前に進む、MAGが強くなっていくにつれ叩いていた軽口は無くなっていく。ボス部屋が近いのだろう。
少し思うところがあってファフニールを下げてティターニアを召喚する。先手一発目にやりたいことがあるからだ。
……ボス前の扉に辿り着く。
トンボ殿が『居飛車穴熊*36』を、アント殿が『タルカジャ*37』を使った瞬間にドアを蹴破る。
「……ッ⁉︎早すぎるぞキリギリス!」
「狙いはギリギリスの弱体化か?」
ツギハギ殿が言う言葉に『あ、そうなのか』と思いながら先手を放つ。
敵は、サマナーと魔王スルトの2体だけ。魔王スルトのレベルは53ほど、サマナーのレベルもそのくらい。
さて、耐性潰しはしているか?
「クソッ⁉︎」
「ふん、効かぬわ! ……何ッ⁉︎」
どうやらスルトには氷結耐性が付けられているらしい。アイスクラッシュのダメージ量は然程でもなかった。
ただし、無効ではなかった。
故に、氷はスルトと敵サマナーの身体を侵食して、『凍結*39』の状態異常を引き起こす。
続いて己は、万一外した時のためにスルトに対して『牙折り*40』を叩き込む。
凍結状態の相手に対して物理攻撃はクリティカルに入る。そして問題なく一段階の弱体化も入った。牙折りの実戦投入は問題ないと確認できた。まぁ所詮牙折りなのでダメージ量はそれなりだが、通常攻撃よりはダメージが大きい。
「あ、コレハマったっすね」
「氷結と電撃の耐性が重要と聞いたが、こういう事か」
続けて先手に動けるヴァルキリーが『ATTACK』にてスルトを攻撃、当然クリティカルヒット。ダメージは加速する。
「『ラクンダ*41』……チャクラドロップでのMP管理、弱体強化のサポート、物理でのダメージ加速、それなりにやる事あんぞ、油断はすんな」
マハアクエスの分のMP消費は、MPが若干低いヴァルキリーには厳しい。水撃系魔法への適正もないが故に。
……まぁ、MP切れの前には倒せるだろうという楽観はあるのだけれども。
「そんな……馬鹿な……ッ!」
「我は氷結を、克服した筈だッ! 何故、このようなッ!」
「それは! 合体でつける耐性スキルを妥協したからだ! 明日は我が身として恐ろしすぎるぞこの世界は!」
「……これ生前の俺が知ってたら普通にこのガキ殺せてたわ」
「智は力って奴っスね。小卒すらしてない身としては耳が痛いっス」
「……俺が使った教育のテキストであれば、貸そうか?」
「勉強嫌なんでいいっス」
「そうか。そうか……」
「うむ! 強敵だったな!」
「そうっスね。まさかHP半分になったときにあんなに恐ろしい強化を使ってくるなんて思わなかったっスよ」
「こちらの防御力を四段階、奴の攻撃力を4段階上昇させるとは、まっとうにやり合っていれば事故死しかねん。誰も火炎耐性装備をしていないからな」
「……いや、立ち回りからしてあいつ貫通系持ってるぞ。一手使う奴だろうがな*43」
「ふむ。やはりあの頑丈さといい、まともにやり合う相手ではないな。恐るべきは魔王だ」
「……で、誰がツッコむんすか?」
「ボケなのか?」
「天然なジエン君は一旦置いといて、ツギハギさんとアントさんノリノリが過ぎません?」
「……正直、笑うしかないだろう」
「そもそもの話として、奴が加算式の眼光を使うタイプ*44じゃなかったらこうまでハマる事なかった訳だしな。加算式の連中には理論上の行動回数に上限は無いが、初手では一手しか動けねぇ」
「確かに、二手以上動けるのであれば一手目で凍結を溶かしてからの行動ができるだろう。そうなれば雑に振られるマハラギダインで死傷者が出かねぬ」
「あれ、アントさん? アントさんもボケ側っスか?」
「誰がツッコミなんて面倒な役回りになるか。死んでるんだから自由にさせろ」
「む? 死んだ程度で本人の性質が変えられるのならば苦労はなく無いか?」
「そりゃ……まぁ、そうだがな」
「というわけで、アントさん! ツッコミどうぞ!」
「この流れでツッコめる奴がいるか! 公開処刑だろうがそのフリは! 羞恥心で殺す気かバカトンボ!」
そうこうしながらも、ツギハギ殿がこの異界の管理者に連絡を取る。上がってしまったゲートパワーを下げるには、新たな異界の主を置くしかない。
どうしよう? ヴァルキリーを据えるのがベターなのだろうが、この合体魔法オーケストラを手放したいとは思えない。なんか適当な理由をつけられないだろうか? と愚考しているとツギハギ殿が頭を押さえながら口を開いた。
「……管理者は異界を破壊する事を決断したぞ」
「あん? どんな理由がありゃこの好条件の異界を潰すってんだ? 交通の便がそれなりで、出てくるMAGも悪かねぇのによ」
「おそらくそれが原因だ。──ダークサマナーに狙われたのは今回が16回目だそうだ。うちサマナーを仕留めたのは6回目。管理者は軽いノイローゼになっていたな」
「暇か⁉︎バカじゃねぇのかダクサマ共は⁉︎んな数失敗してんならちゃんとした対策練れや!」
「しかも追跡調査の結果全てのダークサマナーに関連性がないらしい。狙いやすい丁度いい異界としてのレッテルが貼られているようなのだ」
「これ、一念発起した情弱を嵌める罠として使われてないです?」
「にしたって使われ過ぎだろうがよぉ、情報回せや裏社会」
「ふむ……己達としては是非は無いのだが、大勢を見た場合この異界がなくなるとどうなる?」
「言い方は悪いが、誤差にすらならん。出てくる悪魔の種類が多いここは初心者用には使われん。中級者となれば最前線のサポート役の方でのレベリングの方が効率は良いから、中級者にも関係はないな」
「……こんな好条件の異界でそれかよ」
「世間様は様変わりしたっスねー」
というわけで、異界の破壊活動を開始。レベル40代の悪魔狩りのサポートはいい経験になったらしく、ツギハギ殿のレベルはそこそこ上がっていた。トンボ殿も、20後半に差し掛かり、支援役としての動きを良くしていた。
トンボ殿の強さに連動してアント殿も力をつけて行く。が、なんか元々の強さの方向性とはかけ離れていっているらしい。かつては物理型だったのが嘘のような支援魔法役である。
魂の得意な性質がそちらなのだろう。それを肉体の影響で無理やり物理型をしていたからでは無いか? というのがツギハギ殿の推測だ。思えば、『ダンダリアン』という知識の悪魔をペルソナにしているののだし、その推測があっていそうではある。
なお、氷結ガードキル持ちのモー・ショボーはGP上昇により出現がなかった。残念……
かと思ったら、なんかビャッコが習得してくれていた。どこかのビャッコ*45と混ざった結果、電撃と氷結の二刀流になっていたらしい。レベル上昇で氷結ブースタと氷結ガードキルを覚えていた。
……ブフ系魔法を一つも持ってはいないのが、若干の哀愁を漂わせはするのだけれども。軸の混ざり、あるいは神話の混線など色々言われている奴だ。
そんな仕様の外の動きをしていれば、たまにはこんな間違いめいた事もできるのだろう、うん。
「うむ! お疲れ様だ!」
「いやー、稼がせてもらったっスよ金もレベルもMAGとかも」
「……トンボ、お前は寝床などをどうするのだ?」
「いや、寝床はあるっスよ。ちょいちょい補修して住みやすくするっス」
「そういえば、何故にトンボ殿は宿無しをやっているのだ? 普通に稼げる力量はあるだろうに」
「いや、私寝床が寝れないタチなんスよ」
あからさまに嘘に思える言葉を本心からを吐くトンボ殿。トンボ殿はトンボ殿でなかなかに難儀な生き方をしているようだ。まぁ難儀でない生き方をしているのならハンターにもデビルバスターにもならないとは思うけれども。
「……話さないなら構わん。だが、頼って来たなら力にはなる。その程度の義理はできたぞ」
「え、じゃあ6億円くれないっスか?」
「……すまんな、限度がある」
「えー」
「ふむ。6億円を稼ぐとするならば、どの程度の期間が必要になるのだろう? 今回の収入はマッカで数万ほどだが」
「今回レベルの稼ぎがそう何度もあるわきゃねぇだろうが……まぁ一月ありゃ普通に稼げるだろうな。円の価値なんざ下がりまくってんだから」
「一月後も世界が存続しているのなら、価値は残る。今のうちに円を貯めておくのも面白いか」
「おお! 投資という奴だな! だが、その手の話には詐欺が多いと聞くぞ」
「マッカを円にするだけの話に詐欺なんざあるか……ってできるわな。換金レートだとか偽札だとかで」
「あー、偽札詐欺。確かサトーさんが偽札詐欺やられて借金してたっスよね。今生きてますかねー?」
「知るか。ヤクザもんの作ったクローン兵士の外れ個体だぞ。普通に落ちぶれて死んでんだろ」
という話をしながら帰路に着く。
そこそこに実入りのある、良い日だった。
まぁ、予想外の収入があり過ぎた結果合体に使うストック枠が潰れているという失敗もあるわけである。そのあたりは、『おりちゃー』でなんとかしよう。
また、できる限り多くの悪魔のデータを魂に記録させ、アナライズを開けておく事も考慮に入れる必要がある。眼前に出た敵が初見であるかどうかは生死に直結……はしないまでも、戦闘での消耗には直結するのだから。
……なお、掲示板にいた識者によると、合体チャートの作成の時に考えなくてはならないのが、『悪魔合体を行うのにかかる時間』とのこと。完璧な合体経路を組み上げても時間切れになってしまえば合体施設の予約を取る所からの再挑戦となるからだ。
業魔殿という船上の最強合体施設では予約を取るのも難しい為、主力を欠いたまま次の合体までの期間を過ごすことになってしまうのだとか。たいへんだ。
シモン殿の合体施設も予約制に時間チケット制を取り入れているので、注意は必要だ。
有志が纏めている各合体施設の作業率も合わせてチェックする必要があるだろう。
うん。リオや杏奈に相談しつつまぁ色々と頑張ろう。まずは合体計画をノートに纏める所からだ!
なお、今回の異界探索の移動は電車である。遠方に行くときの乗り換えだとかは難解だが、アント殿の先導が正しかったおかげで己とツギハギ殿は迷わないでいられたのだった。東京ダンジョン、攻略も間近であるだろう、うん。
合体素材を集めるだけの四方山話の注釈の数じゃない……ッ!
ジエンくん
前回ムラカミさん相手にやらかした反省から奇襲一発目に百麻痺針でなくもっとヤバイ技を持ち込んだ。
ヴァルキリーという超便利な悪魔を仲魔にしたが、実をいうのならアクアやマグナの使い手の方がもっと欲しかった。初級スキルならウィスパーイベントでコツを掴めば自力で使える才能マンだからである。尚、比較対象に全属性のダイン級を振り回しながらラスタキャンディ使える高魔力ユニットのイザボー姉さん(現世にてメス堕ちJC化済み)がいるので、強みというほどの強みではない。ジエンくんの魔力は普通レベルである。
アントさん達と別れてから乗り換えを間違えて埼玉県まで行きかけた。ダンジョン攻略はまだ遠い
ツギハギさん
誘われてレベリングの手伝いにほいほい向かった人。ジエンくんを見ると昔の仲間たちを思い出す。良い面も、悪い面も、どうでもいい面も。
さっぱりわからない現代オタク話を理解するために勧められた、検索がやりやすい動画サイト(ニ○ニ○動画)のランキングにあったアニメを見て、カルチャーギャップにびっくりしている。コメントのネタの9割は理解できていないが、何となく楽しんでいる。
ナッジアント達と別れてから自信満々に進むジエンくんの埼玉行きを止めた影の功労者。東京の駅は拠点にしていたので電車の運行ダイヤ以外は理解できている。が、知識のアップデートができていないのでだいたい遠回りになっている。
トンボさん
仕事探してレルム近辺をぶらついていた時に見つけたショタに仕事を集ったホームレス女性。ジエンくんが名前を呼ばなかったら通報されていたことを本人は知らない。アントさんは知っている。
シャーマン系の異能者であり、召喚系スキルへの適性がある。が、COMPにその辺で拾ったスマホを使っているので仲魔契約ができない。勉強も嫌いだし現状を変えようという強い心も持っていない流されるだけの1個人……に見えて、妙にしぶとく図太く生きている。
アントさんが霊体になって専属保護者になったため、生活が改善傾向に向かっている。
アントさん
がんばれ
スルトさんとダークサマナー
一念発起して異界制圧からのスルト超強化でのし上がってやる!という夢を抱いた儚い人たち。氷結無効のスキルを付けそこなったのは悪魔全書から引き出すマッカが足りなかったから。妥協して耐性にしたので死んだ。儚い。
スルト的にはこのサマナーの事は好ましく思っており、自身のクソ雑魚霊基をこの作戦で何とか出来たらちょっとくらいいい目を見させてやろうと思っていた。儚い夢である。
異界の管理者さん
実はこの異界が前回襲撃されたのは一昨日。必死にGPを下げて皆のために使える異界に整備していたのにそのすべての努力が無駄になって壊れた。
現在はもっふんに抱き着いてふて寝している。