姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝   作:気力♪

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もっとエロいフォントを探し続けていたらキリがないので投稿します。
フォントは沼ですねぇ……

-追記- テストの時期について微修正しました。


サマナーの少年、奈落に挑むの章
中間テストのあった日


「最近、危機感があるのよね」

「どしたのリオ。頭いかれた?」

 

 ジエンくんが学校に行き、フジワラちゃんがヤタガラス関係の施設でいくらかの検査を受けている中の昼下がり。休憩をしながらのリオが、突然に言い出してきた。

 

「……フジワラちゃん、ウチに来たじゃない」

「うん」

「フジワラちゃん、ジエンくんと同年代くらいらしいから12か3じゃない」

「そだね」

「しかも、あんなに劇的に命を救われているじゃない。ジエンくんに」

「私は知らないけど、まぁそうなんじゃない?」

 

「……これは、私が負けヒロインの流れになってない?」

「そもそも自分がヒロインだとか思ってることが頭茹だってると思うよ、アラサー脱法ロリ」

 

 ……いつもならこのあたりで反撃が来るのだが、まだ手が出てこない。奇妙だ。

 大人のフリをしているけれど基本的に暴力に始まり暴力に終わるバイオレンスモンスターのリオにしては理性が続くのが長すぎる。

 

 腰を据えて、話を聞こう。

 

「見た目年齢的には、私いけるじゃない。お似合いのカップルやれるじゃない」

「……拾ったショタっ子を性的に捕食しようって試みの邪悪さは無視するんだね」

「いや、ちゃんと純愛にするからね」

「懐かせて依存させてリオを好きだと勘違いさせるつもりだったんだよね責任能力のない子供に」

「……まぁ、否定はしないんだけどさ」

「是が非でも否定しなきゃダメだった奴だよ?」

「いいじゃない! 誓って悪さはしていないわよ! 自由意志の向く先を誘導しようとしているだけだから!」

「言葉にすると邪悪だよね本当」

 

 こうまで挑発しても手が出てこないのは、本当に不思議だ。悪いものでも食べたのだろうか? 

 

「で、話戻すけど」

「うん」

「ジエンくんとフジワラちゃんがヒーローとヒロインの流れになるとするじゃない」

「ジエンくんの光属性は相当だから、ヒーローでもおかしくないしね」

「……私、第二部序盤で倒される味方側の裏切り者のポジションになってない?」

 

 少し考える。なるほど、しっくりくる。囚われのお姫様を助ける為に命をかけて戦った地底人の少年。うん。主人公とヒロインだ。

 

 そして、リオのポジションを物語的に表現するとするならば、序盤のお助けキャラ。FEにおけるパラディン枠とかだ。

 

 こんな頼りになる人が、裏切るなんて! というのは次の展開に引き込むための良い動線になるだろう。たとえば……

 

「ああーんスト様が死んだ?」

「そんな感じ」

 

 自分のことをあのストレイツォと同格のお助けキャラだと評価しているらしい。片腹が痛い。

 

「そんな事言うってことは、裏切る予定あるの?」

「まぁ、流れでフジワラちゃんと戦うかも」

「年増の嫉妬は醜いって」

「嫉妬じゃなくて、なんて言うんだろ?」

 

 

「殺しといた方が良い感じがするんだよね。なんとなく」

 

 ……また、リオはこう言うことを言う。

 リオはたまに、見ている世界が違うのではないか? と思うような感性になることがある。

 全属性の魔法を使いこなしていたミドルレンジ魔法使いとして戦闘スタイルを固めていたのに、ある日突然に物理技だけに絞っての鍛錬をするようになった。

 

『なんとなく』らしかった。

 

 事実、物理技に特化した事で戦闘効率は高まって、この世界がおかしくなる前に十分に高いレベルになっていた。獲得した成長のほぼ全てを『力』へと振っているような、そんな恐ろしい伸びになったのはあの時からだったか? 

 

 そんな変化を思い出す、奇妙で奇怪な発言だった。

 

「……なんかの汚染でも受けたの?」

「かもねぇ……それも含めて第二部始めの戦いっぽいじゃない」

「ジエンくんに降りかかる再びの試練だーみたいなストーリーラインだね」

「今度は、フジワラちゃんというお姫様を守り切ることができるのかぁ! みたいな?」

 

 茶化して失言を誤魔化そうとするリオ。そこに乗って今は聞かなかったことにする。リオとしても、内に秘めておくつもりだった言葉がポロッと溢れてしまっただけのようなのだから。ジエンくんの前で張っていた気が、緩んでいるのかもしれない。

 

「まぁ、そうはさせないんだけどさ。ジエンくん私の護衛だし。ジエンくん居ないと私もまぁまぁ死んでたかもしれないし」

「リオは正面衝突しかできないからね」

「たまに暗殺もするわよ」

「一人目暗殺してからはガチンコじゃん」

「まぁ、私離脱系スキルないしね」

「守られるお姫様のスキル構成じゃないよね。お姫様のペットの番犬だよ」

「……犬扱いは許せないかなー」

 

 と、ここでようやくリオが動き出した。手の形は中指の所だけを出っ張らせた変則的な握り拳の形。

 

 こめかみをグリグリする時にする、アレだった。頭を叩かれるのとは違って、アレはダメージが後を引いてしまう! 

 

「……リオ、落ち着いて、私は妊婦。その拳で二人の命を奪う覚悟はあるの?」

「ないと思うの?」

「ごめんなさい、私は暴力に屈します。こんな母だけど許してね……」

「無駄に感動的な演出やめなさいな」

 

 頭ぐりぐり。

 手加減されていなければ私のこめかみには穴が空いて貫通していただろう。恐ろしい力だ。

 

「けど、リオに護衛が要らないのは本当じゃない?」

「それがそうでもないのよねぇ。この前戦ったメシアンの一人が魔界産の『髑髏の稽古着*1』なんか着てたのよ。スプリガンベストみたいな技反射じゃなくて、物理反射よ?」

「属性物理で殴れるじゃん」

「属性物理は小回りきくけど威力が雑魚なの。このレベル帯でアギラオ級の威力とかどうしろってのさ」

 

 アギラオは普通に有効な火力じゃないか? と思ってしまうのは私が最前線についていけてなかっただからだろうか? 

 レベル70の見ている世界というのは、私の見ていたモノと大分異なっているようで、少し寂しい。

 

「じゃあ、貫通物理覚えたら?」

「そんな簡単に言わないの。コツがさっぱり掴めてないんだからね?」

「へー」

「興味ないなコイツ。これだからレベルアップでスキルを覚える奴は」

 

 鍛錬でスキルを覚えられる方が変態だと思う。自分の中にスキルの手本がない中で、なんだってスキルが型通りに発動できるのだろうか? 

 

「鍛錬で馬鹿みたいな数のスキルを身につけたリオが言う台詞じゃないと思うよ。物理スキル大体使えるじゃない」

「仕方ないじゃない。コレのせいなんだから」

 

我流・无二打(アカシャアーツ)物理スキル敵単体に物理属性大ダメージ(劣化)

 ニヤリ時貫通効果付与(劣化により反射貫通不可)

 

 リオがさっと放つそれ。アカシャアーツの派生技であり、リオが物理に特化してから身につけようと躍起になっている技。

 

 リオは勘違いしているが、物理に特化しだしたのが先で、この技を完成させようと手を尽くしているのが後だ。

 

 完成することなく、五年は経っている

 

「リオはいい加減そのスキルを諦めるべき。ソレも昔は強かったけど、特大ダメージ技なら他にもある」

「まぁねぇ。剣が使えるならコレとか」

 

刹那五月雨切り物理スキル敵単体に物理属性小ダメージ5回 命中率が低い

 

「これとかもいいんだけど」

 

朧一閃物理スキル敵単体に物理属性特大ダメージ 命中率が低い

 

 さっと剣を使って振り回すスキル。傍目から見たら一線級のスキルであり、どちらも特大ダメージ級の一撃になる事は素振りだけでも理解できる。なんだってこう色々とできるのだろう? 

 

「これだけ使えてるのに素手なの?」

「力入れすぎて武器がガタついちゃうのよ。さっきのだって型をなぞっただけでコレよ?」

 

 見せつけられるのは、握力だけで潰れて変形し、赤熱化しているグリップ部分。

 

 武装COMPのパーツとして取り外して交換できるようになっているらしいけれど、それにしたってどうかしている。タングステン超合金を鉛筆か何かのように折らないで欲しいものだ。

 

「このへんを勉強して特大威力のコツを掴もうとしてるんだけど、型だけじゃねぇ」

「さっきみたいのだとダメなの?」

「そりゃそうよ。近接の射程距離に敵を捉えられている時間なんて0.1秒ないわよ? 互いに超高速で動き回っている所から、敵のガードと迎撃の圏を掻い潜って差し込むわけよ。だから、技はいくらか崩さなきゃそもそも打ち込めない。そんで打ち込んだ後の敵の受け方に合わせて残心取って敵の攻撃に備えなきゃ、返す刀で殺される。こんな気を使って型をなぞるような技は、コケ脅しにもなりゃしないわね」

 

 たまに聞く話だが、まだまだよく分からない世界の話である。

 1ターンの中の1行動、それをさらに細分化したような超極小単位の差し合い。位置取り、フェイント、技自体の精度、そういうものが積み重なってミス《攻撃失敗》になるかが定まるとのこと。

 

 大体の人に対して、スキルは魂に刻まれたものをなんとなく放つだけのモノだろう。それをここまで突き詰めるのは、なんかもう偏執的だ。

 

「それで、リオとしてはさっきのアカシャアーツもどき、何がダメだったの?」

「全然さっぱり分かんない。貫通のための小技が不十分なせいで力が乗り切ってないのかもねー」

「あー、耐性を噛むって奴」

「敵の耐性情報が表面に走るのを食い止める為に、MAGで噛んで固める奴ね。ガードキルもこんな感じの力の流れだった気がするわ」

「うん。わかんないかな」

 

 そうして、ゆるっと休憩時間は終わる。通常業務に戻る時だ。

 

 サブスクリプションで公開している秘伝書についての質問があればリオに回し、荒らしがいればIDを確認してコメントをブロックする。問い合わせがあればすぐに対応して、万が一悪魔が発生する可能性が見れたのならば即座に対処用電霊を飛ばして患部を切り捨てる。

 

 ゆるりと続く、この会社の表の業務だった。

 

「ただいま、帰ったぞぉ……」

「あれ、ジエンくん早いね」

「中間テストなのだ。頑張ったぞ」

「あれ、そうだったっけ?」

「テスト勉強とかちゃんとやれていた?」

「はっはっはっ」

 

「シェルターのために……東奔西走していた己に……そんなことができたとでも?」

「うん、今からでも赤点取らないように詰め込もうか」

「それよか寝かせよう? 色々駄目になってるから」

 

 ジエンくんの目は、ぐるぐると渦巻いていた。化け物みたいな強さとメンタルのジエンくんでも、不得手はきちんとあるらしい。

 

 とりあえず『混乱』になっているのでパトラをかけてあげよう。

 

 けれど、少しだけ後を引くものがある。

 

 リオがどうしてフジワラちゃんを殺すべきだと思ったか。その触りくらいは聞いておいた方が良かったのかもしれないと、この時はなんとなく思ったのだった。

 


 

 定期テスト、というものがある。

 おおよそ2月に一度のペースで行われる学習到達度確認のための試験であり、現在の能力を的確に測り、必要な能力に達していない者に追加試験などのペナルティを与えるなどの学校からの調整が入るものだ。まぁ、今回は己たち漂流者を放り込む学年を決定するためのモノで、少し特殊なタイミングではあるけれども、中間テストは中間テストだ。

 

 己は現在、それに大失敗している最中である。

 

「ずえん君、寝たら駄目だべ」

「……ハッ⁉︎危なかった」

「そこ、私語を慎め」

「すんません」

「申し訳ない」

 

 後ろの席のグラツィエ殿が起こしてくれたので大事はなかったが、今回はちょっとばかり不味いがすぎる。

 

 まず、タイムスケジュールを説明しよう。

 

 この中間ですのの準備期間が始まったあたりで、己は各地の異界を巡って異界拡張用のMAG集めを行った。不眠不休とまではいかないが、それなりに働き詰めだった。

 

 次に、テストの3日前にシェルターに突撃し、フジワラを拾った。まあ、戦闘になるのは予定していたので過剰な疲労は蓄積してはいなかった。

 

 その次、異界崩壊とシェルターの爆発に端を発するメシア教団体及び魔界から出た悪魔との戦闘。天使ソロネを大将にする集団であるので実力はその程度であったが、それなりに疲労はした。悪魔達も多かったので同じくそれなりの疲労が溜まった。

 

 ここで、テスト2日前。

 

 そして、帰ってから1日まるっと爆睡してしまった。何一つの勉強もすることのなく、まるっと爆睡していたのだ。

 

 その結果、もうテスト前日である。

 そしてその時、己は思い出したのだ。『一夜漬け』というテスト勉強における最終タクティクスを。

 

 テスト前日において脳内に記憶しておくことで、忘却する前にテストに臨む事ができるという戦略であり、現状テスト勉強がゼロだった己が落第点を回避するためにはそれしかなかった訳である。

 

 その結果、己はこの世界の摂理を知った。

 

 

 人間の身体というのは、太陽の光を浴びる事によって生活のリズムを作り出すのだ。それは地底育ちの己であっても変わることはない。この世界にやってきてから比較的に整っているリズムで生活をしていたものだから、夜は眠り、朝は起きるというリズムが己を縛っている。そんな中で夜に眠るということをスキップした結果、己は今、産まれて初めて経験する『夜の自然なる眠気』との激闘の中にいるのだ。

 

 地底では、太陽光などなかったので疲れたら眠るというだけで良かった。リズムの基準がないからだ。だから眠気があっても踏みとどまれたのだ。

 

 だか、今は違う(ギュッ)! 

 

 日光を浴びることによって生み出された健康的な生活リズムの存在によって、己は自分の体の睡眠リズムを自在にコントロール出来なくなっているのだ! 

 

「すか……ぴー……」

「ずえん君⁉︎鼻提灯もイビキも駄目だっぺぇ⁉︎起きてけろ!」

「私語はやめろー、退出させるぞー」

「……ごめんな、ずえん君、わだすは、見捨てるしかないんだべ! カンニング扱いはいやなんだべさ!」

 

 

「zzzzzzzzzzzz」

 

 

 

「ジエンお前! お前ぇ⁉︎」

「ねぇわかってんの⁉︎私ら下手したら精神的に留年(ダブり)になるかもしんないんだよ⁉︎」

 

 がっくんがっくんと首を掴まれゆすられる。

 注意して押さえているし、室内の何人かが止められるように気を張ってくれているが、つい反撃で首を飛ばしそうになってしまう。

 

「すま……ぬぅ……」

「せめてイビキはやめてくれぇ⁉︎集中を削ぐなぁ!」

「ねぇ、これもう保健室に叩き込んだ方がいいんじゃないの? ジエンくん本格的ダメダメじゃん」

「……あんの、ちらっと答案見えたんすけんど……」

「グラツィエ?」

「ずえん君、解答欄全部埋めてたべ。そこそこに出来てたみたいだべさ」

「……まさか⁉︎常に眠り続けることによってエネルギー消費を抑制し、テストにおける回答を書く一瞬だけに全力を込めたのか⁉︎」

「マジでなんでもやりすぎんだよこのびっくりモンスターは⁉︎せめて寝てる気配を隠せ!」

 

 気配を隠せと言われてしまった。仕方ない、眠り方を変えるとしよう。

 

「うぉっ⁉︎存在感消えた⁉︎」

「こういうのがあるから、この子が人間に思えないのよねぇ……」

「けど、コレなら文句はねぇ! 二度目の高一なんざごめんだね! 俺はやるぜ、やってやるぜ!」

 

「あ」

 

テタノスカット物理スキル敵単体に物理属性中ダメージ 風邪状態を付与

 

カバー即時効果味方一人への攻撃を代わりに受ける

 

「しまった。無事か?」

「なんとか平気だべ。寝ぼけ過ぎだ」

「……すまん。いま回復しよう」

 

メディラマ魔法スキル味方全体を中回復

 

「なぁ、今俺の首狙われてた?」

「そうだべなぁ。ほんとずえん君はおっかねぇべ」

「流すなよ⁉︎殺されかけた訳だからな俺! けど庇ってくれてサンキューなグラツィエ!」

「わだすの頑丈さならいけるってだけだ。頑丈な奴は盾になるのが仕事だべさ」

「申し訳ない。気配を消していると戦いの感覚が鋭くなってきていてな。勝機と見て勝手に動いたぞ」

「お前まーじーでやめろよな。悪かった。気配消すとかそういう余計な注文はしないから、イビキはやめろ」

「うむ。そう……しよ……う……zzzzz」

「これもう無理じゃない?」

「寝かせておこう。僕らが我慢すればいい」

「大丈夫なんかなぁ?」

 

 その日の2教科目のテストは、5分と起きていなかっただろう感じだった。解答に何か書いてあったが、記憶がない。

 

 そうして、その日のテストは終了となった。

 

 そして当然のように生徒指導室での説教があり、保健室である程度寝かされてからの帰宅となったのだった。

 


 

「うわー。この眠りっぷりは完全にライン超えてるよジエンくん。駄目な奴。怒られなきゃ駄目な奴」

「こんな子を一般クラスに編入させてたらどうなってたかわからないね。学校もいい判断してくれるみたい」

 

「zzzzzzzzzzzz」

 

 眠りながら『同意する』と返して来るジエンくん。ねむねむなジエンくんも超可愛いのだけれど、なかなかに懐には入れない。

 

 眠気を押さえながらというよりも、眠りながらバイタルパートへの直撃コースの飛来物を自動迎撃するような動きになっている。

 

 うん。これは少し寝かせた方が良いだろう。なんなら明日の朝までも。

 

 迎撃に振られるテタノスカットを絡め取り、背後に回って首を絞める。

 

 一瞬凄まじい殺気が膨れ上がって鳥肌が立ちそうになったが、なにかされる前に締め落とせば問題はないと判断して続行。

 

 寝ぼけが治ったジエンくんは意図的に身体を預けてくれたのだった。

 

 

 常に世界全部に対して気を許していないようなジエンくん。そんな子が今、全てを私に任せて眠ってる……

 

やっばい。濡れた。

 

「……リオ?」

ジエンくん、良い匂いするんだよねぇ……甘いクリーム感じの匂いでさぁ

「待ってリオ、常識を取り戻して?」

 

 ジエンくんを背後から抱きしめているこの状況。存分に肌を弄っても反撃の来ないこの状況。

 

 来たのでは? 私の時代が。ジエンくんを拾ってからずっと私の時代だったけど

 

「リオ、お願いだから私に通報させないで? 冗談で済む段階で止めておいて?」

……ちょっと部屋まで運ぶわねー。杏奈はそこで仕事しててー

「待って待って待って」

 

抱きしめたままジエンくんを持っていく。引きずるのは可哀想だから、お姫様抱っこの形になった。

 

 あぁ、唇ぷるぷるしてる。触ってみようかな? でも、まだ駄目だよね? 

 

「リオ⁉︎声出てる⁉︎今誰かに来られたら本格的にアウトだから! お願いだから正気に戻ってジエンくんを解放して!」

 

杏奈がうるさいなぁ。けど、ジエンくんを部屋まで連れていくのが先だよね? 私の部屋でいいよね、ベッドはダブルにしたし、ゴムも用意してるし。あ、でもジエンくんが子供作りたい! って言ったらどうしよう? 私もママになっちゃうのかな? 

 

「相棒がそこまでサイレントに拗らせてるの知らなかったし知りたくなかった! 待って待って待ってダブルベッドって正気⁉︎セミシングルでも余るアンタなのにどんだけベッドを余らせて寝てるの馬鹿じゃないの⁉︎」

 

なぜだか、杏奈からの『パトラ*2』が飛んでくる。馬鹿だなぁ? 悪魔なんてこの辺りにはいないのに

 

杏奈ー、サボっちゃ駄目だよ? 

「現在進行形で積み重ねた信用をドブに捨てようとしてる親友を見捨てる事よりはなんてことないと思うんだけど⁉︎」

なにもしないわよ、何も

「さっき子供産みたいって言われたらどうしようとかほざいていた口からの言葉がなぁ⁉︎」

 

 

そうしていると、杏奈が決死の顔でハリセンを取り出す。妊婦なんだから無理な運動は避けた方が良いのに。

 

 そして、杏奈は『パシーん』と机を叩いた。

 

 爆音だった。

 

 

 ──目的は、ジエンくんを起こすこと。そう察知した私はジエンくんの耳を塞ぐ。

 

 しかし、ジエンくんの耳を塞ごうとした私の掌が起こした風圧によって、ジエンくんの鼓膜に僅かな異音が響いただろう。

 

 そして、ジエンくんを捕らえて(抱えて)いた両手は現在、その役目を放棄しているッ⁉︎

 

 気付けば、ジエンくんは消えていた。腕の中から、霞のように。

 

「抜けられたッ⁉︎この私のホールド(お姫様抱っこ)からッ⁉︎」

「けどあれは無意識の行動! まだ両目は開いていない! 私が守らなくては! バカロリママ活モンスター(親友)の魔の手から、ジエンくんを!」

 

 瞬間、杏奈の魂に火が付いた。

 あれは、困難に立ち向かう人格の鎧、影人間から独力で回復した時に覚醒したというその能力の名前は! 

 

「ペルソナ!」

 

 杏奈の身体から、戦うためのヴィジョンが発現する! 

 

「ミネルウァ! あの馬鹿を正気に戻すよ!」

 

「前線から勝手に離れたアンタ程度で、私が止められるとでも?」

「止めてみせる! リオはどうでも良いけどジエンくんが女性にトラウマ感じるのは見たくないから!」

「幸せな初体験になるから問題ない!」

「大アリだからぁ!」

 

 ギリシャ神話の超メジャー女神、アテナのローマ神話における姿、ミネルウァが腕についている盾を振りかざす。『物理ブレイク*3』だ。

 

 障壁系スキルを多種多様に扱い、私が動く為の隙を作り出す絶対防御の相棒。それが敵に回るのは面倒だ。

 

 だが、作り出せたのは()()障壁、貫通に問題はない! 

 

「ジエンくんの匂いを間近で嗅いだ今の私の魂は昂っている! 最高潮に!」

「そこで絶頂して果ててよお願いだから!」

「果てるのはジエンくんと一緒にだよ!」

「本人と話し合って!」

 

 と、私が无二打(アカシャアーツ)の構えを取ろうとしたその時だった。私と杏奈双方に針が飛んでくる。

 

 物理ブレイクは銃撃属性を素通しにするので、杏奈にはヒット。腕でガードできたようだがわ深々と骨に針が刺さってそこから麻痺毒が侵入している。

 

 咄嗟に止血とディスパライズを使用。血の中の毒が赤子に影響する前にバイタルを戻す。

 

 私は、自分への針を2本の指で止めていた。宴会芸としてやった事のある北斗ニ指真空把だった。

 

 そうしてついでに針を投げ返すと、放った彼は眠りながらもそれを回避。まるで酔いながら最適な戦闘をするあの拳法、まるで酔拳! 

 

 あれは、睡眠戦闘法だ! 

 達人が無意識に最適な技を繰り出すように、戦いだけの人生だったジエンくんの体は意識がなくても戦うことを可能にしているッ! 

 

「あの、リオ? 治療はありがたいんだけど、どうするの? 諦めるよね?」

「諦めとは、私の衝動に蓋をするという事! それを私は許せない!」

「許してあげてよ! ジエンくん無意識に反撃モードになってるから! 気絶させても何しても行為の最中に殺される奴だからねこれは!」

「……クッ、今日は引くしかないみたいね!」

「……良かった、本当に人間としての最低限以下だけど! リオの中に踏みとどまることを選べる良心があって良かった!」

 

百麻痺針銃撃スキル敵複数に銃撃属性小ダメージ1〜3回

 

「……ジエンくん、寝ぼけちゃってるねぇ」

「てんまぁ、貫通ないなら」

 

S護りの盾先制発動スキルバトル開始時、味方全体に攻撃無効障壁を張る

 

「そろそろ起きろー」

 

 私がそう言ってジエンくんの頭を叩くと、ハッとしたようにジエンくんが目を覚ます。

 

「な、何事なのだ⁉︎敵襲か⁉︎」

「寝ぼけてないで部屋行ってちゃんと寝なよー」

「う、うむ。助かった、ありがとう」

 

 そう言ってジエンくんはえっちらおっちら部屋へと歩いていく。

 

 そして、思う。

 

「え、ジエンくん今日誰か殺してないよね?」

「……あ、はい。特別クラスの琴葉ジエンの保護者です。今日ジエンくん暴力事件とか起こしてませんか? ……あ、起こしてるんですね、はい分かりました。……あ、本人同士で話は付いていると。はい、しかしそれでも万が一があるかもしれないので、後日謝罪に向かいます。是非安静にして下さいとお伝え下さい」

 

 杏奈が即座に学校に連絡し、そして被害を受けた生徒が存在することが発覚した。じゃれ合いで済むレベルではなかったらしい。

 

 今晩にでも、話し合う必要があるのかもしれない。うん。

 


 

 第二部開始一発目です。

 皆の良い所はこれまでの話で出せたはずなので、これからは悪い所もがしがし出していきたいと思います。

 尚、隔離クラス、特別クラスなど名前は適当ですが、漂流者に一般常識を叩き込むまで隔離する所なので、テストでも学年は分かれていません。という感じの設定でどうか。

 

 ジエンくん

 寝坊助。浅い眠なら眠りながら戦うことができたりする。これまでの戦闘経験が基本的に自分以外全部敵だったので戦闘スタイルはキルゼムオールな皆殺しモード。

 

 一夜漬け禁止令によってテスト2日目からはノー勉で受けることになったが、日々の勉強を真面目にしていたので一夜漬けしない方が良い結果となった。

 

 リオさん

 ジエンくんが今まで薄氷の上の生活をしていたことをジエンくんだけが知らない。

 待ちに待ったチャンスが来たので、深く深く踏み込もうとしていた。

 

 杏奈さん

 ペルソナ『ミネルウァ』の初登場回がこんなのでごめんなさい。

 各種障壁を取り揃えているのでボス相手にはとてもとてと使い勝手が良い。けれど雑魚相手の打点が銃撃くらいしかないので道中は割とお荷物。そんな性能。

 

 リオがノータイムで止血と治療をしてくれたので怨恨ポイントはプラマイゼロになった。意外と安い女である。

 

 グラツィエちゃん

 

 作者の趣味。

 ダンシくんのクラスメイトであるGVの出演作品三作目、蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト 鎖環(ギブス)の後半ボスの方言娘。ずえど様って言い方大好き。

 ゲーム内では、産土剛力神(サンドストロンガー)グラツィエとして、主人公のきりんとGV(犬)を妨害する。

 

 そんな彼女がどうして聖華学園に来たのかは、ジエンくんはまだ知らない。

 ついでに、年齢的に中高生扱いで大丈夫なのかも若干不安はある。ギリギリ高3って事でどうか……

 

*1
真if 反物理、魔法弱点の胴防具。恐ろしいことに市販品

*2
魔法スキル 幸福、混乱、魅了などの精神状態異常を回復する。してくれ

*3
アバチュ 物理攻撃を一度無効にする障壁を張る

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