姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
それは、昨夜で掲示板でわちゃわちゃ*1してからすぐの事。第二フロア前半にまで仕込んでいた監視機器に反応があった。
第二フロア内を逃げ回り、敵悪魔との交戦を避けながらも徐々に上層に近づいてくるようなヴリトラ戦車が発見されたのだ。レベルはたったの30ほど。ラベルは見えないタイプだったので、便宜上『素体』と呼ぶことにする。
その時の警戒シフトに入っていたのは己だけである。現在時刻午前5時であり、授業中絶対に寝落ちしてしまう確信があるもののぶっちゃけ己以外全員グロッキーであったことに加えて、昼の警戒シフトに学校に行く己が入れないことなどから己単独という選択肢以外がなかったりする訳である。
嘘だ。だれか無理して起きてくれ。若干寂しい。
とはいえ、有事であれば叩き起こすのは当然のこと。そう思い仮眠スペースに赴いて戦力を整えようとした己を待っていたのは、二つのベッドが空っぽであるという事実だった。
「
面倒な事をしやがったな! という怒りを抑えて、すぐさま脳内で方針を考える。これは、とてもとてもチャンスである。
己は掲示板でふっかけた通り、『漫画好き』殿が全てを薙ぎ払う前に可能な限り経験値もMAGもアイテムも回収して自己強化に励みたいと思っている。
無理無茶無謀は承知であるが、できる時に無茶をしなければ強くはなれないのは世の常で、ケツを持ってくれそうな強者がいるのならば、馬鹿はするべきなのだ。
というのが、己個人の理屈。
普通に
「リオ、フジワラ、起きてくれ!」
「……ジエンくん?」
「敵襲ですか?」
「己は少し、先走った者を止めてくる。フジワラは前線基地からバックアップを。リオには己の代わりに警戒シフトを頼みたい」
「……うわ、ブレイドちゃんと成金いないし。ジエンくん、他に連れてけそうな人居る?」
「移動速度を考えると、己一人の方が速い。敵対処も単独で可能であるから、パパッと行ってくるぞ!」
「……いやいや、パパッと行ける敵じゃないでしょうが」
寝起きのリオに思考が戻ってくる。押しきれなかったか。
「自ら望んで死地に向かっただけでしょう? 助けたいのは分かりますが、助ける義務も必要も無いと思いますが」
「何をいう。追いかけたいというのは十分な理由だろうに」
「単独、あるいはコンビにて深層の悪魔を仕留められる算段あってのことでしょう? 過剰なる心配は侮辱になります」
「まぁ、とにかく己は行ってくる。スタンドプレーでは事故が起きるからな」
「あ、ちょっとジエンくん?」
「スタンドプレーで事故が起こるのは、貴方もでしょうが」
困惑の声を振り切って異界内部に侵入をする。
ヒリついた空気はそのままだが、どうにも空気が乾いている感じがする。炎や雷がぶっ放されたあとの感じだ。
よくよく見てみれば、黒ずんだものが通路に付いている。電撃や火炎で焼きついた跡のようだ。景気よくぶっ放しているようだ。
死体を見るに、火炎反射のガルーダが火炎属性で焼かれているようだ。わかっていたが、
あの二人は、異界のボスの経験値をぶんどるために虎視眈々としていた。であるならば、
「こちらジエン。第一フロアに敵の痕跡はなし。
「こちらフジワラ。遠隔支援ですが、問題はありませんか?」
「ギボアイズの反応が悪いな。まぁ、ないものとして扱えば問題はないぞ」
「ジエンくん、この異界多分時差出るようになってるよ。深層の方が時間が早くなるタイプ。深く潜れば潜るほど救援が遅くなるから、生存優先で」
「……なんと」
空気が乾いたように思えていたが、空気が変わってもいたらしい。時差の出る異界というのは普通に厄介だ。
時差が加速タイプなら敵の防備は強くなるし、減速タイプなら己は学校をサボってしまうことになる。バックアップが潤沢である事を考えると減速タイプであって欲しいが、まぁ普通に加速タイプだろう。
「昨日の探索では何倍の時間差だ?」
「過去のデータとの比較は意味なさそうかな。昨日侵入した時より明らかに違う数字になってる」
「……今、測定データをまとめた物をスマホに送りました。更新が途絶した際には、そちらを参考に時差を算出して下さい」
フジワラより送られてきたデータを見る。グラフが描かれており、横に進めば進むほど上向きになる曲線が描かれている。確か、横軸はxであり……xとはなんだったか?
不味い、すっぱり忘れたぞ。わからん。
「……つまり、どういうことなのだ?」
「奥に進めば進むほど、時が経てば経つほどに時間が加速していきます。3層までに
「要は急げばいいのだな。心得た」
通信を終えて、第二フロアに侵入する。
これまで、敵との交戦はゼロ。
どうにも、二人は
階段を降りて、第二フロアに侵入。監視機器に反応があった場所へと直行する。
そういう根拠から、二人が先行した結果として第二フロアに素体戦車がやってきたのだと仮定する。
「死ネ、ニンゲンッ!!」
「見えているぞ、凶鳥アンズー」
異界を飛び回っていたアンズー4体との交戦となる。敵接近には気づいていたので、敵対処チームは召喚済み。
『フォッグブレス*2』を一手目に放ち、アンズーの回避性能を低下。続いてロキが『ザンダイン*3』。ブースタなしの低火力だが、上振れれば呼吸をより奪える*4優れものだ。今回は通常ヒットだったが。
続いてマハーマユリが『慈愛の旋風*5』にて追撃、2体目にダメージを与えつつ、敵の飛翔を妨害する。そこに、ゴグマゴクの『アースクエイク*6』が命中する。全体にダイン級物理ダメージを与え、そこに己が『グランドタック*7』にてダメージを追加。そして、十分なダメージを重ねたタイミングでロキの『マハブフダイン*8』でダメージを重ねた3体を纏めて凍死させる。
そして残った一体は、マハーマユリの『慈愛の旋風』にてトドメ。
敵本隊はアールキング2体とギリメカラ2体。数が少ないのは、おそらく敗北し逃走中のチームだから。ギリメカラの一体に、右腕が焼け落ちている個体がいる。
先手にて『施餓鬼米*9』を使ってギリメカラを浄化。破魔弱点を見せるとこうなるのだから笑えない。続いてロキが『アギダイン*10』にてアールキングにダメージ。上振れてアールキングの崩れ方が大きくなった*11がチャート変更なし、そのままソロネルートに。
マハーマユリは天使ソロネに『チェンジ』して、『マハラギダイン*12』を使用。2体のアールキングに大ダメージ。そしてゴグマゴグの貫通『ATTACK』、己の使う『火炎の秘石*13』でダメージを散らして、ロキの『マハブフダイン』にてトドメ。
消耗軽微、問題なし。
そうして押し通っていくと、前方からタイヤが異界の大地を擦っている音が聞こえてくる。どうにも噂の『素体』戦車は向こうからやってきてくれたらしい。
チャクラドロップ*14を一つ舐める。フォッグブレスのMP消耗しかなかったので無補給でも連戦は可能だが、念のためだ。
己がよく頼りにしているハンターアプリ『パーティMPリカバリ*15』は、非戦闘状態の周辺MAGを吸収する事でのMP回復であるから、即時の連戦には向かないのだ。
そうして、曲がり角の向こうにいる『素体』戦車が飛び出してくる。
外装はボロボロであるが、運動機能は損なわれていない。装甲には修理された痕跡もある。
そいつは、己の方に真っ直ぐ突っ込んでくる。いつものヴリトラ戦車では隠されている、霊体を召喚するエリアに少女の姿の精神体を曝け出しながら。
「子供⁉︎こんな所に⁉︎」
「そちらの歳の頃も同じ程度に見えるが?」
「ごめん、話は後! 私、上に行かなきゃならないの!」
「行かせる訳にはいかない。まずは故を話してくれ、でなければ敵とみなして始末する」
「下で大変なことが起こってるの! このままだと、この異界から大量の悪魔が溢れちゃう!沢山の、人が死んじゃう!」
そのマシンの身体は十分に疑う理由だが、どうにも言の葉に嘘は無さそうだ。
潜入用の仮想人格として作られた仮面の可能性、機械の支配からなんらかの理由で脱した可能性、ほかにも色々ありそうだが、ひとまず会話は記録して、バックアッパーにて共有をかけておく。
「ならば急ぐな。己は地上と通信を繋げられる。ここで事情を話してくれ」
「……うん、わかった信じる。けど、本当に時間がないの」
「周辺に会話できそうなスペースはない。上の判断を仰ぐので、データだけ先に頼む」
「……データってどうやって送ればいいんだろ?」
「む? そのマシンにはBluetoothなどはついていないのか?」
必死にあれこれ試して通信を試みようとする『素体』戦車。どうにもこの機体の習熟は微妙なようだった。
「仕方ない、動きながらだ」
「……うん、ごめん」
「幸いなことに、周辺の悪魔は先走った二人が薙ぎ払っているらしい。過度な警戒をする必要はない」
そうして、異界の深部に向かって歩みを進めていく。かたや徒歩で、かたや四脚戦車で。
「えっと、私はコハク。この異界に流れ着いた『マザー』っていう機械の、友達」
「……ふむ? まぁいい。己はジエンという。人外ハンター……ではなくデビルバスターだ」
という事で会話を始めると、初っ端からの聞き覚えのあるワードの連打である。コハクというのはブレイド殿の妹君の名前だった。そしてマザーというのは、
「えっと、信じられないかもだけど、私とマザーは、別の世界からやってきたの」
「うむ。
「それで、いろんな
「ヴリトラ戦車や、球体のサポートボットでの採取だな。交戦し、何体か破壊したぞ」
「……うん、ごめんね」
「謝罪は理由を全て話してからにしてくれ。幸いにもこちらに死者は出ていない」
色々と言葉を選んでいるようだが、まぁこの娘の心根が善良なソレであることは理解できた。マザーとやらは根っからの外道邪悪と踏んでいたので印象が噛み合わないが、どちらも人伝の話なので、半分程度に聞いておくに留めておこう。
「それでね、この異界には『有限発電炉ムサシ*16』っていうモノを回収しにきたんだ。沢山の人の怨念を循環させて凄い量のエネルギーを生み出す装置でね。けどその循環が止まっちゃうと危ないものが出てくるの。怨念結晶体ってやつが」
「……なるほど?」
水が流れていないと腐るとか、そういうものであろうか?
そういう危険性があろうとも己の地元では普通に使うしかなかったとはいえ、かつて暮らしたシェルターが発電し続けなくては爆散する! のようなリスクがあったとは驚きである。いや、話途中なので爆散はしないかもしれないが。
「それで、怨念結晶体とはなんなのだ? 悪魔やシャドウとかだろうか?」
「そういうのじゃなくて、情報汚染とか、ケガレとか、そういう風に言われる悪性情報の塊なの。人の心を『死を望む大きなもの』に引っ張るような、恐ろしいモノ。だから、ロロちゃ……じゃなかった、マザーと私は最悪ぶっ壊してやる! ってつもりでいたんだけど」
「うむ」
「マザーが、汚染されちゃったんだ。怨念結晶体に」
「……なるほど、事故ったのだな」
神妙に頷くコハク殿。神の如き凄まじい力がある事は、事故ってやらかさない理由にはならない。人外ハンターの中でよく言われていた言葉だが、なんと異世界の支配者マシーンにも当てはまってしまうらしい。誰が言ったかしらないが、深い事を言ったものだと己は思う。
「……マザーは今、私の、人間の体を使っててね。機械の身体だった頃より汚染にかかりやすくなってたの」
「つまり、深層に赴いてマザーを治療して欲しい、という助力を求めに来たのか?」
「……助けて貰えるとは思ってないかな。だけど、マザーにこれ以上辛い事をさせたくないの。だから、上の人たちに逃げてって伝えたかったんだ」
要するに、ヤバいから逃げてくれと伝えるためにコハク殿は頑張ったらしい。
「しかしながら、異界が危険なことは百も承知だ。正確な時間は分からんが、この世界のトップ戦力がもうじきやってきてこの異界を破りに来る」
「……なら、大丈夫かな? うん、この世界の事はよくわかんないけど、さっき君が戦っているのは見えたから。その君が言う強い人ってのを、信じてみるね」
「うむ。であれば」
「うん、だから」
「ジエン君は、逃げて」「道案内を頼もう!」
「「?」」
何故か逃げろと言われてしまった。おかしい。
「データのやり取りができないのであろう? ならばコハク殿の道を精鋭に伝える伝書鳩が必要だと思うのだが?」
「いやいやいや! 本当に危ないから! レベル80とかの化け物たちが一杯出てくるんだよ! 危険だって!」
「それに、己はこの異界に先走った者達を探しに来ていてな。少なくともその二人を見つけるまではおめおめと帰るつもりはないのだよ」
「……たった二人でこの異界に突っ込む人なんているんだ」
「己は一人だぞ」
「ジエンくんはもう既に別枠に見てたかなー」
そう慄くコハク殿だったが、片方が自身の姉だとは思うまい。いや、コレが本当にコハク殿ならば、だが。
「よし、上へのデータの転送は完了した。この会話が信じられるかはともかく、ヤバいのが来ると警戒くらいはされるだろう」
「うん……けど、本当に行くの?」
「うむ! これはあくまで人命救助のためだからな! 強敵と戦い、レベルを上げたいとはあんまり思っていないぞ!」
「大丈夫かなぁ……?」
「なに、大丈夫じゃなかったら死ぬだけだ。気楽でいい」
「死ぬのは気楽じゃないよ!」
そんなこんなで、『素体』戦車のコハク殿が仲間になったのだ。これが、第二フロア中層あたり。
どうにも深部に行けば行くほど、時間が経てば経つほど時間が早くなるというのは本当のようで、スマホに表示されている現世時間と異界時間の誤差は3倍速程度になっていた。こちらの3秒が、地上での1秒となる。
フジワラが3層までに追いつけなかったら救出は無理だ、というのは、戦闘時間を含めても3層以降の二人の速度が己の最速移動速度を上回るからという理由だったようだ。あんまり気にしていなかったけれど、メモ書きの所に理由が書き出されていた。フジワラはなかなか細かいところに気が利くのだよなー。同い年とは思えぬ。
「そういえば、コハク殿は二人とすれ違ったりはしなかったのか?」
「……てんてこ舞いだったから、もしかしたらニアミスしてたかも。その二人ってのは、どんな人?」
「一人は、赤い髪で金持ちイケメンオーラを放っている、
「……
「知り合いが言うには、どこかの世界ではそんな集団を率いていたらしいぞ。成金ハーレムと呼んでいたな」
「……そっか、そうなんだ」
「マザーと敵対していた人物であったと聞いた。事実か?」
「うん。私たち、酷い事したんだ。それしかなかったって今でも思ってるけど、それでも本当に酷いことを」
私たち、と言っているが多分やったのはマザーが一人? 一体? でだろう。
「レイラって子が居たんだ。
「……ふむ」
「それで、その子を治療するために色々頑張ったんだけど、戦争が起こっちゃって。レイラちゃんの身体は死んじゃったの。……病院が、焼かれちゃってさ」
「だけど、治療中の精神は別の所で無事だったんだ。それでもう手段を選べないって言って、戦争を終わらせるためにって目的で、皆んなでレイラちゃんの力を利用し始めたの。……沢山、酷いことした。言い訳できないくらい、悪いことも沢山した」
「……ならば、何故コハク殿はマザーを助けたいと思っているのだ?」
そう尋ねると、コハク殿言い淀んでしまう。なかなかに話し辛い事のようだ。とはいえ、聞かない訳にはいかないのだ。己達は下劣外道な『マザー』という評を
周囲の警戒をしながらも、目を合わせて話す事を強いる。そうしていると、腹を括ったようで、一つずつ言葉を話し始める。
「マザーと一つの身体になってね、心ではずっと苦しんでたって分かったんだ。それしかないから、やるしかなくて。やるしかないのに、もっと良い方法があるんじゃないかとか、もっと優しい道があるんじゃないかって。ずっとずっと探し続けていたの。あの子、本当に悪の親玉向いてないんだよ」
懐かしむように、思い出を話してくる。感じた心をそのままに。
「私の身体を使うのだってそうだよ? 幾らもしない孤児の子供の身体なのに、ガラス細工みたく大切に扱うんだ。私の心だって、使い捨てたって文句を言えないのに大切に守って保管してる。そんで、自分が汚染されて大変なのに、まず私の心を逃すなんて事をしてるの」
「……コハク殿は、マザーに何かしたのか? それほどの恩を売る、何かを」
「してないよ。むしろずっと貰い続けてる。あの子が私の所に流れ着いて、私達を助けてくれてから、ずっと」
それは、昨今噂の知らない過去が追いかけてくる、という奴なのではないだろうか? と一瞬思う。別の周回のコハク殿がマザーに良くしたから、その分マザーからコハク殿に返されているのでは? と。まぁ邪推だが。
「だから、私もあの子を大切にしたいの。あの子の助けになりたいし、あの子が苦しむ事からは、解放してあげたい。……友達だから」
その言葉に、鳴子百合*17の幻影が重なった。己の知る、最も勇ましき者の幻影だ。
きっとパイセンでも、ここは心で決めるだろう。だから己も、ここは心で道を決める時だと信じる。
「よし、己は腹を括ったぞ!」
「え、突然どうしたの?」
「恥を忍んで言うが、己はコハク殿が敵であると踏んでいた! 言の葉は敵の工作であると、全て疑って信じてはいなかった!」
「……まぁ、うん。それが普通だよ、ね?」
「だが! 友を思い、友を助けたいとと言うその言葉に心を打たれた! コハク殿になら騙されても構わない! そう決めたのだ!」
「ありがと……って私の言葉信じてなくない⁉︎騙してないからね⁉︎」
「気にするな!」
「気にするから!」
「だから気にするな!」
「だから気にするから!」
わーわーと騒ぎながら、すっきりとした頭で方針を決めていく。
マザーは、怨念に精神をやられたと聞いた。それは心に外科的なダメージを負ったという事だろう。そして、己は精神に深いダメージを負った人間を治療する外科手術の方法を知っている。
『魔剣X』
トラウマに対する外科治療であり、情報汚染に対しての手術刀。コレを用いれば、マザーを救出する事は可能だろう*18
しからば、最優先はマザーの無力化。ここの異界が世界の崩壊の原因になっては殺す以外を選べなくなるから、その流れを断ち切る必要がある。これは外せない。
次に、
魔剣Xでの施術が終わるまで、二人にマザーを攻撃させない必要がある。
最後にマザーの搬送。深層領域では時間が加速していくという事なので、そこで待っていては『魔剣X』がやってきても手遅れになるだろう。だから、できるだけ上層に引っ張り上げて、ダメージが手遅れになる前に手術に踏み込ませなければならない。
そうしていると、開けた場所に出てきた。
中央にどかんと空いている大穴があり、その外縁部に電車が縦に走っているような大きなものが存在している。噂の大穴エレベーターだろう。
「あれを奪取するぞ」
「うぇ⁉︎ジエンくん、あそこ凄い警備厳重だから! 機械も融合悪魔もびっしりだからね! 避けて行こう?」
「現在のマザーの身体はコハク殿の肉体であると聞いた。重さはどうなっている?」
「淡々と進めるね……マザーは、ナノマシンっていう小さい機械の集合体を私の身体に取り憑かせているんだ。普段は魔法で重さを消してるって話だけど、魔法が切れたら500キロくらいにはなるかもって聞いた」
「やはり、飛行悪魔での移送は難しいな。深層から地上までマザーを運ぶにあたってあのエレベーターは必要になる。今のうちに奪取しておきたい」
「ほえー」と呑気な顔を見せるコハク殿。
さては、色々とノープランであるな? 上に危険を伝えた後、無謀な特攻を仕掛けるつもりであっただろうな、これは。己が引っ掛けられたのは幸運と言えるだろう。
周辺警戒にはアールキングが立っていた。数は4体。加えて周辺をアンズーとガルーダが飛び回っている。下のフロアから上昇してくる敵もおり、数は見た目以上に多いだろう。とはいえ、短期決算で仕留めれば増援前にエレベーター内部に入れる筈だ。
とはいえ気になることもある。
「記録によるとあそこの警備はマシンだった筈だが、何故悪魔になっているのだ?」
「えっと、悪魔召喚システムを作ってる『デカグラマトンの遺骸』のせいかな。マザーが汚染でダメになる前に、先にダメになっちゃったんだよね」
「……デカグラマトン?」
「アイバって人とネミッサさんがやっつけた、機械の王様みたいな感じのやつ。それ以上は知らないんだけど、なんか凄いものって聞いてる」
コハク殿は、結構フィーリングで情報を捉えている。ふわっとした理解しかないから、ふわっとした表現になるらしい。己も割とフィーリングで解釈する性質なので、誤解が生まれないように注意しなくてはならないだろう。
「それで、マザーの戦力だったマシンと、汚染側の戦力だった悪魔ってことでちょっとの間戦ってたの。だから、もうマザーは汚染に負けそうになってる……ってことだと思う」
「ならば、さっさとやるか。ソロネ、ロキ、ゴグマゴク、マハラギダインとアースクエイクだ。先手のまま終わらせる」
ガードのアールキング部隊に先手で仕掛けて、チャート通りにダメージを出し
そして、アールキングを始末し終えた己達を襲うために、空中からアンズーが襲ってきたタイミングで会話対処。一撃も貰わずに、さくっとエレベーター内部に侵入成功した。
そして、エレベーターの内部を確認。3つの出入り口があり、現在はそれぞれ第2フロア、第3フロア、第4フロアに繋がっている。
「む、操作コンソールが見当たらんな」
「あ、私使えるよ。電波みたいな奴で」
そんなコハク殿の言葉の通り、エレベーターは動き出し、行ける1番下のフロアである第9フロアへと赴くのだった。
しかし、エレベーターの中で階段を降りるのは奇妙な感じである。謎の3階建エレベーターよ。
聞けばモノレールの残骸を使って作ったかららしい。世界を支配したマシーンでも、物資不足には勝てないようだ。
悪魔の力を感じる車両*19から、4人の人間が降りてくる。
一人は、茶色の髪で、剣士の立ち振る舞いが見え隠れする少女。
一人は、桃色の髪で、盾とショットガンを装備している小柄な少女
一人は、銀の髪に機関銃を携えた小柄な少女。
そして、強さの中に不思議な柔らかさを感じさせる一人の男。アナライズをするまでも高レベルに思えるが、それで測れない強さがあるような直感がある。おそらく彼が、『漫画好き』だろう。
「あー、『漫画好き』ってアンタだったんだ」
「知り合いなんですか? 佐々木さん」
「技研*20でいろんな流派の秘伝書読んでみたときに顔合わせたくらいかな。そういえばいたなぁ、って程度」
「ゆるい繋がりですねー」
「早速で悪いんだけど、私とフジワラを連れて異界潜ってくれない? ウチの子が馬鹿二人追いかけて、戻れって言ったポイントより深く踏み込んで行っちゃってるの。割と時間がない感じ」
「……二次遭難って奴じゃない? それ」
「いや、ちゃんと見てなよ保護者なんだから」
「……うん、それは本当私のミスよ。ごめん」
リオが素直に謝っている。眼前の『漫画好き』、あるいは『佐々木』という人物は言い返されるものだと思っていたらしく、肩透かしを喰らっていた。
……このままだと話が進まないので、さっさと情報を出していくことにする。
「状況を説明します。現在、奥多摩アビスでは時間の加速が早まり続けています。先行したジエンのデータでは、2層中盤時点で2.5倍速、それからだんだんとデータが飛んでくる期間が短くなっています。概算ですが、深層では時間の相対速度は10倍速以上になっています。敵悪魔が人工的に生産されたモノである事、敵のマシンの量産が可能である事も含めれば
「状況が変わった原因は?」
「ウチの子が知り合った戦車の子の話だと、深層で『有限発電炉ムサシ』ってのの回収の時に、怨念とかウィルスとかに感染したらしいの。まぁ、深層で何かあったって事みたい」
「……野生児くんは、今どの辺に?」
「
「……大丈夫なの? その野生児って子」
「LV80とかの敵にもワンチャンス取れる子だけど、
リオがそう口にすると、桃色の髪の少女は、「いやー、若いって凄いねぇ」と言い、それを銀髪の少女が「大鳳から話を聞いていたけど、誇張されていなかったのね」と慄いていた。
歳若い事を考えると、聖華学園の生徒*21なのかもしれない。
「救援をするのなら、急ぐ必要があります」
「一応助けれる所までは行っておこうか。凄い子だってのは聞いてるし、案外自分でなんとかするかもだけど、まぁ念のためね」
そうして、少し大所帯なチームで、私たちはジエンの後追いをするのでした。
──
あとがき
奥多摩アビスの本格探索開始です。
タイムリミットが上にも下にもある状況でのジエンくんの活躍をご期待下さい。
情報共有のズレについてはバックアッパーを出した時点からずっとやりたかったので、丁寧に描写していきたいと思います。
・コハクちゃん
肉体がマザーに乗っ取られてるけど、マインドだけを戦車に乗っけて逃がされた一般無能力少女。機械修理が得意。
割と考えなしに勢いで動いているが、大切なところは間違えないタイプ大切な所以外は間違えるとも言う。
・
話の流れで先走った……と見せかけて、そもそもの話として抜け駆けする気満々だった二人。
拠点からハグレ者が二人居なくなるだけだと思っており、追いかけてくる馬鹿が出るのは結構な想定外である。
異界内部のマッピング済みエリアから抜けたら、分かれるつもりであるのだとか。
・皆大好き漫画さん
ハイエースに乗って非処女の少女3人とやってきたダークサマナー。保護者としての責任があるだろうとリオさんにはガチ目にキレているが、それはそれとしてジエンくんが相当やばい子なのを把握して大変だなーと思っている。
側から見たらJKJC新卒とバリエーション豊かに沢山の少女を囲いながら導いている姿は凄まじいので、ドン引きされつつもリスペクトはされてる筈。リオさんはリスペクト寄り。
新参連中からは結構な謎の存在として見られていると(勝手に)思っている。
・かなみん
『魔剣X』というトンデモを携えて、数多のトラウマをぶった斬っている姿はまさにヒーロー。緘口令は敷かれているだろうけど、隠れファンは相当いる筈。そして漫画さんと一緒にいる姿を見て脳は焼かれてる(確信)
ジエンくんの思い込みにより、マシンであるマザーの精神を切り刻めるスーパーウーマンと見られているがマシンには『魔剣X』はそんなに効果はなかった筈なので、マザーへの対処は別ルートです(ネタバレ)
と思ったら通用したのでルートは元に戻りました。流石の魔剣Xよ……
・ジエンくん
信じるじゃなくて、騙されても良いというのがポイント。裏切られるのは当たり前の事と思っている。それでも人を信じると決めたのは、かつて勇者の姿を見たからだろう。今ではもう、遠い思い出だが。