姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
昨今、キリギリスの面子の中で無視できるかどうか微妙なレベルの稼働率低下が見えてきている。
理由はいくつか。
推しのソシャゲがもうすぐサービス終了するが、できる限りのデータを集めたオフライン版を出してくれたから、とか。
最近、アーマード・コア6にStarfieldという超絶大作ゲームが連続して発売されてしまったから、とか。
カードゲームの推しテーマが強化されたからとか、推しの作品のリメイクが発表されたとか、AI技術を使ってキャラと会話させるサービスだとか
なんというか、娯楽の密度がやばいのだ。
外様である己達がビビりっぱなしであるのはいつもの事であるのだが、この世界の原住民たるリオたちでもまぁまぁにビビっているこの娯楽の量。
まるで、世界が滅ぶ前に出し切るものを出し切っているようだと思うかもしれない。だが別にそんなことは全くなく、なんなら次回作に着手中だとか、クリエイターの皆さんはバリバリにノリノリだ。
つまりは、娯楽のビッグウェーブがやってきているのだ!
「まぁ、こういう皆が休みたいタイミングってのが、稼げるタイミングではあるんだよねぇ……クリスマスの日の売り子さんとかさ」
そんな愉快さバリバリの休暇中バスターを、リオが死んだ目で見る。3徹した後の目だ。
「……奥多摩アビスでの稼ぎが、あそこまでしょっぱいものだとは思いたくなかったぞ」
「共同攻略ですから依頼報酬も頭割りとなります。取り分で揉めて殺し合いになるよりかはマシだったと」
最前線で突っ走った己達は消耗品だとかの準備面で優遇してもらったので報酬の頭割りには文句はないのだが、それにしたって報酬がしょっぱすぎるのだ。
……いやまぁ、奥多摩アビスは別段要所という訳ではないのだから一般的な異界の相場なのは当然なのだけれどね、ちょっと変なのが過去周回から流れ着いただけの異界であるし。
閑話休題
そんな苦労の割にはリターンの少なかった己たちは、今ちょっとしたバイトをしている。
それは、合体悪魔集めである。
シモン殿曰く、以前起きたという龍王ユルング*1というレベルの高い雑魚との戦闘で結構な数バスターのレベルががっつり上がり、手持ち更新のための合体ブームが起きたのだった。
このバイトの依頼人である悪魔素材ブローカー殿は、当時こそ備蓄に回していた悪魔を放出することでどうにかしたらしい。しかし、何故だかその合体ブームが全然下火にならず素材が尽きかけているのだとか。レベルの上げ方、格上の狩り方のコツを掴んだのではないか?とは言っていたが。
とまあ、そんなこんなでデビルサマナーの仕事である。合体素材を集めまくれ、と。
報酬がマッカ払いではないのは残念だが、現金は現金で使い道はあるし大丈夫のはずだ。技研に入れる金は現金換算であるらしいし。
「で、今回集める優先ターゲットってなんだっけ? もう全部くれー! っていう叫び声しか印象にないんだけど」
「優先ターゲットは『女神サラスヴァティ』LV45*2を合体できる構成ですね。3身合体でのみ作れるタイプの女神らしく、『妖精』×『妖魔』×『地霊』、『夜魔』×『天使』×『妖精』あたりの合体が必要ですね。……まぁ、3身合体のベースレベル増加*3もあって現状の出現悪魔から直接サラスヴァティを作るのは難しいので、素材のランクダウンも適宜必要だそうです」
「む? 作った女神をランクダウンさせるのは不可能なのか?」
「はい。求められているサラスヴァティの合体法則*4では、『魔神』、『天魔』、『女神』の精霊合体は不可能らしいですね。なのでランクアップもダウンもできないのだと」
とすると、己の知る合体法則だと妖精のランクダウンに『アーシーズ』、妖魔のランクダウンに『フレイミーズ』、地霊のランクダウンに『エアロス』か『アクアンズ』あたりだろうか?
……うん、考えるのが面倒になる。取りあえず全部仲魔にすれば良いとはよく言ったものだ。4精霊で大体全部ごちゃごちゃできる合体法則*5もあると知っているし。
社用車から降りて、代用防具の『熱光学迷彩服*6(迷彩故障中)』を聖華学園の制服の上にしっかりと着込む。なんでも元々はスイッチ一つで風景に溶け込める姿へと変化できるものだったそうだが、迷彩効果を直せる職人さんがいなかったので壊したままで技研の蔵に仕舞われていた一品らしい。
リオが使っていた一品を多少の手直しで着回せるというのは、己たちのチームの結構な強みであると感じている。その分見た目で侮られる、などの問題が暴力を振り回せないタイミングで起きそうなものであるのだけれど、その辺りには未だ面していないのは、リオやゴドーがきちんと戦場を選んでいるからだろうか?
「ジエン、動きに問題は?」
「かなり動きやすいぞ。防御力は紙同然であるがな」
「いや、ホントごめんね。50帯あたりの装備って集める前に過ぎちゃったから倉庫にないのよ」
「この世界がおかしくなって、がむしゃらにやっていた時期だからか?」
「そ。なーんか知り合いの中堅レベルが足抜けしてって、なーんか敵が強くなって、なーんか杏奈が妊娠してた! みたいな時期」
「……よく生きていましたね」
「まぁ、運が良かったのよ。やり合った敵は避けて殴れば仕留められる程度の連中ばっかりだったから」
リオの武力で殴られれば大体の人も悪魔も死ぬのだから、運というか、まぁ順当ではある。
今回己たちが漁る異界は、埼玉県は春日部市の外れにある廃マンション。
解体工事をするお金がないとかで昭和の時代に建てたれたそれは今は放置され、不良の根白になったりそれが悪魔に乗っ取られたりと紆余曲折の結果として、レベル30台の悪魔がちらほら現れる関東近辺屈指の優良異界となっているのだった。そうなったのが最近だからまだあんまり知られてこそいないのも、今回はプラスである。
「み、見つけたぜぇ! ガキ3人! うち女が2人だぁ!」
「へっへっへっ! 男の方もそれなりに良い顔してんじゃねぇか、変態どもに売ったらいくらになるのかねぇ!」
「助かりたいんなら埼玉県銘菓であるこの十万石饅頭を食っていくんだなぁ!」
とまぁそんな優良異界なので、拠点にしている連中もいるのだ。縄張り意識が強く、元マンハントというヤバ目な経歴を持つカジュアルサマナーたちだ。
「……今の何点?」
「20点くらいかなー? 照れが見える」
「生き方から無理に離れた喋り方をしてもボロが出るのだから、キャラ付けをもう少しやりやすく変えるべきでは?」
「いや、お前ら遠慮ってものがねぇのかよ」
とはいえここの連中とは既に話はついている。かつて存在したと言う『悪魔召喚アプリで好き放題してやるぜぇ!!!!』というスタンスのカジュアルサマナーなる人々がここの異界に囚われて、中でなんやかんやあってニューリーダーの
「で、アナライズ大丈夫?」
「そちらもよろしいですか?」
「OKだよ」
「やほー」と後ろから出てきてカチカチっとスマホを弄る春日部殿。態度こそ緩そうにしているが、こちらが先手を取れば後手で必殺をかましてきそうな強かさが見える。シモン殿の紹介だからと完全に信頼しないのは、とても良い感じだ。
「うっわ、ヤバ」
「……なるほど、相当ですね」
フジワラの『ハイ・アナライズ』の結果が己たちの目に映される。
埼玉県民 | 春日部つむぎ | LV53 | 物理に強い、破魔無効、精神無効 |
「ほう、前衛型であるな!」
「……いや埼玉県民って何さ」
「え、あーし埼玉県民だよ?」
「いや、種族のところ……ってか、この場合フジワラに言った方がいいのかな?」
「私の解析の結果です。私は彼女をカテゴライズするべきを『埼玉県民』と見たので、そのようにしました」
「いいねーフジワラちゃん。見る目あるよ」
フジワラはアナライズ結果を好き勝手に弄る悪癖一歩手前の癖がある。それは己が『人外ハンター』と括られている事だとかからも分かるだろう。
「面通しも済んだし、あーしたちはもう行くね。下の子達レベリングしときたいからさ」
「うむ! 完全勝利を祈っているぞ!」
「健闘くらいじゃないんだねー」
ゆるっと流しつつ『春日部のカジュアル』と呼ばれる面々から離れる。
「あれだけ良い子そうに見えて、元マンハントだってんだからわからないもんよねえ」
「人は過ちを犯すものだ。そんな過去よりも今良い方向に向かい生きていることは素晴らしいものだと己は思うぞ!」
という感じで異界に入る。
ルールはそこそこにあり、破れば違約金などが発生する契約であるが、ルールそのものに異常な点はない。合体素材を集める分では問題ないだろう。
ということで、勧誘祭りである。
そして己たちは3人おり、召喚制御あたりを戦いながらできる実践レベルではないものの、リオもフジワラも悪魔召喚士の適性を持ち、COMPも持っている。なので、己が勧誘した仲間をリオやフジワラにパスする事で同一悪魔を3体までストックに仕込めるのである。
これは地味に大きく、『マリンカリン*7』からの『スカウト*8』で女性型をノーコストで仲間にしたのをすぐに合体に使う必要がなくなる。
これにより、妖精エルフLV26、鬼女ラミアLV33などを一気に集められた。
そしてその際に発生するガントレットの必殺機能の一つ、『スカウトボーナス*9』が発揮されてマッカを稼げたりもしている。
完璧だ、一回の仕事で貰える金が10万マッカの利益には全然全くこれっぽっちも届かないことを除けば、完璧な仕事である。
「さて、フジワラ。異界の中層まで来たぞ」
「はい、ジエン。想定通り、来ています」
「んー、ジエンくん装備万全じゃないからやめとこう、みたいなのを言うのがだいぶ遅かったなぁこれ。まぁ、私もストレス溜まってるから良いんだけどさ」
もちろん、そんななまっちょろい仕事のためだけにはるばる……というほど遠くもないが、とにかく埼玉県まで渡って来たわけではない。
『春日部のカジュアル』という一党は、異界に取り込まれた際に複数のカジュアルチームが合体して生まれたチームだ。異界攻略自体は
弱者を踏み躙る事でしか甘い汁を吸って来なかった連中だ。そう言う連中がヤクザ連中と繋がって装備を整えて下剋上を狙っているという噂があったりとかもする。
「……レベルが高かろうが所詮はガキですね。状態異常の対策装備を付けていません。……あのサマナーのガキさえ無力化できれば、メス二人にガキの仲魔と戦力が手に入るッ! そうすれば、あの雌豚を相応しい立場に戻せるのですよ!」
あ、フジワラが音声をキャッチしてしまった。
「召喚、ファフニール、ペルセポネー」
「さぁ、やりま……ッ⁉︎」
邪念流動 | 種族固有スキル | 基本射程を2にする。スキル発動直後は一時的に射程を+4する |
バインドボイス | 魔法スキル | 敵全体に緊縛の状態異常を与える |
パンデミアブーム | 魔法スキル | 敵全体に風邪の状態異常を付与する |
毒ガスブレス | 魔法スキル | 敵全体に毒の状態異常を付与する |
「ようこそ! 待っていたのだぞ貯金箱達!」
「馬鹿な⁉︎気付かれていただと⁉︎」
「貴様らは己達を測る捨て駒と見た! 本命もその奥も食い破るのであまり関係はないがなぁ!」
敵の集合ポイントにバインドボイスで緊縛を、毒ガスブレスで猛毒を、そしてパンデミアブームで風邪と
奥多摩アビスでのあれこれで行けなかった特別授業*10の録画にて聞いたのだが、己が撃ちまくっている『風邪』の状態異常はやべーウィルスを悪魔パワーで抑え込んだ結果風邪に収まっているのであって、抗体とかがない人間に対しては『病気*11』という重バッドステータスとして入ることがあるのだとか。
敵が純粋な人間であると言うのが珍しいことだったのでアレだが、授業で聞いたことの復習ができていて『勉強したぞ感』がやってくる。嬉しい。
「あ、あがっ……苦し……」
「畜生、身体が動かねぇッ!」
「誰か、アムリタシャワーだ!」
「持ってねぇよそんなもん! そういうの管理してるサイトーはゲームするとかで今日来てねぇ!」
「ふざけんなぁ!」
先制攻撃を仕掛けて敵の指揮官を炙り出そうという腹積りだったが、存外指揮がぐだぐだだ。
メイン状態異常をほぼ全て無効にできるマシン耐性のダニー、『ガネーシャリング*12』にて精神反射を構えているフジワラ、耐性パズル用にリオが装備している魔力無効の『セイリュウの兜*13』とカジュアルが使うとされているバステ連打を返された場合の対策もしてはいたのだが、それは敵の本隊が来たら使えば良いだろう。
「サードアイにて敵の耐性を確認、スプリガンベスト2、プレートバンダナ1、火炎耐性、電撃耐性が2ずつです」
「おお! 当たりではないか!」
「囮にしては装備豪華ね」
たたんとリオが踏み込んで、バステが入っていない奴の首を通常ATTACKで折ろうとし……奇襲にかかってくる男の迎撃に一手を使った。
リオの『霞駆け*14』と男の『乱入剣*15』が衝突し、互いに痛み分けとなる。
霞駆けはどっちのタイプで撃ったか不明だが、追加効果のヒットはなし。乱入剣の追加効果のPANICも発生してはいなかった。
「その根切り、待っていただきたい!」
「何よアンタ、こっちは言質取ってから襲いかかってんだけど?
「いえいえ、襲うことの正当性はあなた方にあります。我々があなた方を襲い、身包みを剥ごうとした事実は変えられないのだから!」
「故に! 私の首一つで手打ちと願いたく思いたく!」
「何言ってんだお前⁉︎こんなガキ共ぶっ殺せば良いだけだろうが!」
「自らの状態を鑑みて言えた言葉なら心強くはあったのですが……奥の手の類を隠し持っての言葉でなければ、信じたいとは思えませぬな」
「てめぇ……」
フジワラとアイコンタクト、周辺警戒を厳にする。場の空気の主導権が、己達からあの男に移り変わっている。
一挙一動が目を惹く舞のような、人の目線を操る技術を持った人間であるのは間違いはない。悪魔グループを集めて擦り付けるとか、別働隊で横腹をぶち抜くだとかの盤面を変える手を打たれるかもしれない、との危惧からだ。
「現状、周辺に問題はありません。首一つで矛を納めてほしいというのは、本心かと」
「本心でございますとも! 仲間の皆皆様はようやくレベル40に手をかけた所、この世界で生き延びられる足切りレベルにもうすぐ届くのです、それを損なうのは余りに惜しいと」
「まぁ、別に皆殺しが狙いって訳じゃないんだけどさ。それで、なんでアンタの首に私たちの手を止める価値があるって?」
「それは、ひとえに誠意からです。矛を納める証明として、命を一つ払おうかと」
なるほど、道理だ。
「え、アンタの命とかクソ程もいらないんだけど。まぁ、手を引くってんなら別に良いわ」
「なんと慈悲深きことでしょうか! まるで聖母マリアのようです!」
あ、リオがやっぱ殺すか? と迷い始めている。ここは話を逸さねば。こういう出方をするやつと命全てを否定し合うような殺し合いになるのは色々と面倒だ。
「ならば一手手合わせを願いたくあるな」
「……ほぅ?」
「己はお前達、『カジュアルサマナー』という連中のことを深く知らぬ。己を餌としての狩りを比較的安全なここでしかできなかったのはそのためだ。故に、一手手合わせ願いたい。死合えば、そちらの成長にもなろう」
というのも、今回本当は違法レルムとかに突っ込んで
一当てすれば後は流れでなんとかなる程度の問題だろうけれども、ミスれば致命に入るポイントなので、避けるに限る。というのが冷静さのある時の己の考えである。
「……よろしい! ならばこの私がお相手致しましょう!」
「先手は譲る、カジュアルの基本は、バッドステータスの連打からのハメ殺しであろう?」
「はてさて、それはどうでしょうか?」
「じゃあ、私とフジワラは適当にしてるわね」
「アナライズ支援もカットします。ジエン、それからあなた、お互いに死体が残る程度に抑えてくださいね」
なんやかんやと始まったタイマン勝負、デバフにかかっていた連中はアムリタシャワーでざっと治されて、よく分からないうちに観戦ムードに流されている。
「人外ハンター、ジエン!」
「春日部サマナー連合、カグラギ!」
「「いざ、尋常に!」」
互いに示し合わせたようなタイミングで仲魔を召喚する。
己の召喚した仲魔は『ゴグマゴグ』と『ファフニール』の二体。召喚数を抑えることでファフニールの種族効果を適用させ、基本射程を倍化する。
カグラギ殿の召喚した仲魔は『妖獣トウコツ』に『闘鬼ヤクシャ』の2体
「先手にて、参ります!」
妖光一閃 | 種族固有スキル | 使用の直後のみ移動力が8になり、またバトルでは先に行動しやすい |
大凶化 | 種族固有スキル | 使用直後のバトル中、チーム全員の物理攻撃のクリティカル率が上昇 クリティカル率はバトル行動毎に100%から徐々に減少する |
ファフニールの射程延長で伸ばしていた警戒線を一っ飛びに飛び越えて、カグラギ殿が突っ込んでくる。
続いて発動した闘鬼の種族スキルの『大凶化』で物理攻撃に強化を乗せて、の攻撃だ。
その神速の歩法に惑わされそうではあるが、しかし敵の攻撃は見知った動きが存在する。
サマナー殺しの、『暗殺拳*16』だ。
あれカバーしにくいのよなぁ、とゴグマゴグの立ち位置を調整しながら、カグラギ殿との戦闘に入る。
S的中の秘法 | 先生発動スキル | バトル開始時、敵全体の回避率を0に下げ、攻撃を絶対に命中させる |
「お命、頂きます!」
発動されたスキルにより、足回りがうまく動かなくなる。
あ、これガチにヤバい奴だ。殺される。
テンポの取り方を乱戦寄りに切り替える。待って構えてとしていればぽっくりと死ぬだろう。敵の動きを止めねばならない。
暗殺拳 | 物理スキル | 敵単体に物理属性大ダメージ 敵リーダーの防御効果を無視する |
トウコツが放つスキルが己にクリティカルヒットする。カバーは間に合わず、ガードもすり抜けた一撃だ。ダメージ量は6割程、二発目からは食いしばりを切らされるか。
続いてカグラギ殿が暗殺拳を叩き込む。己の命を潰すに足る一撃だ。
「やりますね!」
「そちらもな!」
しかし、単発攻撃は単発攻撃。情報汚染での蘇生潰しなどがないのなら、『食いしばり*17』で耐えられる。
「しかし、我がヤクシャの一撃を!」
「撃たせなければ問題なかろう!」
敵方は妖獣の種族スキルによって先手を取りやすくしての攻撃であったが、しかし先手を取りやすくするだけでステータスによる速度差が覆るわけではない。己の手番だ。
「召喚、ペルセポネー!」
己含む3体で組んでいた『種族固有が生きやすい戦闘スタイル』を召喚により崩し、乱戦をより強くする。そして、ペルセポネーの抜き打ち『バインドボイス』によりカグラギ殿達を拘束、命中したのは『闘鬼ヤクシャ』だけだったが、しかしヤクシャを潰せたのが1番大きい。このターンの仲魔の行動を遮るものは何もない。
「ゴグマゴグ、薙ぎ払え!」
アースクエイク | 物理スキル | 敵全体に物理属性威力150の打撃型ダメージ、この攻撃は物理防御力を参照する |
ゴグマゴグの解き放つアースクエイク。耐性チェックをしていない段階での全体物理とかアホの極みでは? と思う戦法であるが、このゴグマゴグには頭のおかしいスキル外強化が存在する。
ゴグマゴグ、思念融合四段階目解放 |
物理貫通を得る。自身が打撃型攻撃で受けるダメージ30%減少。自身が打撃型攻撃を受けたとき連動効果「最後の敵対者が発動し、自身をチャージ状態にする」(バトル中1回まで) |
「馬鹿な、反射が抜かれたですと⁉︎」
おそらく何か物理反射系の防具を着込んでいたカグラギ殿が驚きの声を叫ぶ。スプリガンベストかなにかだろうとあたりをつけて、頭の隅に置いておく。
「はっはっは! このゴグマゴグは地獄のような異界での拾い物でな! 黒幕にCOMP内容をばら撒くウィルスが入っている代わりに凄まじく強いのだ!」
「あえて毒を喰らったままにしているのですか⁉︎」
「コイツ自身は強く、信用もできるからな!」
ゴグマゴグのアースクエイクはレベル差もあり、ヤクシャ、トウコツには致命傷レベルにまでダメージを入れた。カグラギ殿はまだ若干の余裕があるようで、おそらく活泉などのHP増強を仕込んでいるのだろう。
それは間違いなく足切りレベルを誤魔化して高レベル帯でレベリングをする為のもの。暗殺拳での敵リーダー即殺スタイルの中に回避不能の先制スキルを仕込むあたり、計算尽くでギャンブルをやるタイプなのだろう。
やはり厄介なタイプだ。こうして遊んでいる分にはどうにでもできるが、殺し合いとなればレベル差だとか戦力差だとかで諦めず、蜘蛛の糸のような勝機に賭けての大博打をするタイプだろう。
基本を守る知性がありながら全てを捨てるような大博打をできる人間は、強いのだ。
「まぁ、勝つのは己であるがな。レベルの下駄はたまに役に立つのだ」
『ファフニール』は『クイーンメイブ』に『チェンジ』して、『ディアラハン』で己を癒す。
「その隙、誘いで?」
「さてな、飛び込んでから知れば良い!」
カグラギ殿のEXTRA TURN*18が始まる。始まると言うか、クリティカルで乗ってる動きで一旦離れてからまた突っ込んでくる感じのものであるのだが、ファフニールの射程延長は己達の動きを固くしてしまう*19ので、そのEXTRAに手番を差し込めない。
雑兵といえば遠距離からの連打である、というイメージから反撃用のファフニール召喚であったけれど、完全無欠にに裏目っていたのだった。
そうして突っ込んでくるトウコツもカグラギ殿の暗殺拳の構えだ。二発喰らえば己は死ぬだろう。さっき食いしばりは使ってしまったし。
しかし、変わっている点はいくつかある。
それは……
「……ッ⁉︎カバーリングですと⁉︎」
「カグラギ殿の使った先制での
これはシロエWikiなどにある情報なのかは知らないが、先制発動されたタイミングで感じとったのは直感は当たりだったらしい。
まぁ、召喚の段階で片方は防げるだろうカバーポジションを取らせていたのはあるけれども。
「ならば手を変える時! トウコツ、『ギガジャマ*20』!」
「貴様にリアルラックを見せてやろう!」
あ! これバル先ゼミで見たところだ! と即死コンボが来ると判断。だが、『死神の点呼*21』はギガジャマの忘却って適用だったか? と疑問が一瞬過ぎる。
まぁ、避けるので問題はないのだけれども。
「ちょいさぁ!」
「ただの運での回避ですと⁉︎」
「『運』が良いのが取り柄でなぁ!」
シロエwikiの情報によると、『運』のステータスは状態異常付与率、状態異常からの回復率に主に影響があるらしいが、状態異常の被弾率については効果があるか人による*22らしい。
なので実際のところは相手の運が悪いのか己の運が良いのかは微妙な所なのだけれど、ハッタリとしては『運が良いからバステが効かない』と言い張った方が強いのだ。
そうして、カグラギ殿は宝玉輪を使うかどうかを一瞬悩み、『マカの葉*23』に切り替えていた。別段命懸けの殺し合いではないので、ギリギリラインの回復に留めているようだ。
そして、カグラギ殿の仕掛けた戦闘が終わり、己達から仕掛ける戦闘が始まる。
「『百麻痺針*24』ィ!」
そうして先手を取れたのならば、これ以上動かす理由もない。百麻痺針でダメージを与えつつ緊縛を入れ、ゴグマゴグの『アースクエイク』でトウコツとヤクシャを吹き飛ばし、ペルセポネーの『ブフダイン』にてトドメとなった。
まぁ、今回は緊縛が入っていたので寸止めにできたのだけれどもね。
「そこまで!」
「うむ! 先手からの高速暗殺連打、一手違えていれば己は死んでいただろうな!」
「ご謙遜を、死なぬと踏んだからこそ二発目を受けたのでしょう? 召喚は間に合わせられた筈ですのに」
「まさか、間に合うかどうかは微妙であったとも。だからこそ、後手に賭けしっかりと構えたのだ」
「なるほど、割り切りなのでございますね」
朗らかに会話に花を咲かせる己達であったが、どうにもカグラギ殿の他のカジュアル連中は己をとんでもない化け物を見るかのような目で見ている。
「……な、なんでそんな簡単に自分の命を危険に晒せるんだよ?」
「効率がいいからだな。サマナーは敵の攻撃を誘導する良い囮なのだぞ?」
「まっことその通り。これのタチが悪いのは食いついた方が攻める側にとっても利が大きいということ。事実、今回もあと一歩まで追い詰められましたからね」
「肝が冷えたぞ!」
「その一歩を絶対に届かせない戦形を構え続けて良くも言ますねぇ」
どうにも、このお遊びの裏の目的としては、カグラギ殿は仲間たちにデッドラインへの踏み込み方を理解してもらいたかったという事らしい。教材にされてしまったぜ。
「実に実りのある戦いであったと思うが……」
「カグラギ殿は別段カジュアルサマナーではなくないか?」
「いえいえまさか、私は享楽の為に覚悟なく悪魔を振るうカジュアルサマナーですとも」
本当にそうならば、自分のことを覚悟がないなどと自覚はしてないだろうなーと思うばかりである。
と言うわけで、本日のリザルト。
あれから何人かのカジュアルサマナーにはビビられまくっていたが、スプリガンベストを着ていた二人とはそこそこ仲良くなり連絡先も交換した。その際に素材悪魔を手打ちにと融通してくれたので本来の依頼の報酬も増えたりした。襲われた事について多少のしこりはあったのだが、友となったならば笑って許すのが人外ハンターである。
とはいえ無罪放免とはいかず、襲撃をしてきたカグラギ殿一党は春日部殿の一党から放逐された。一応、個人レベルではそこそこな関係を保つことができているらしいが、カグラギ殿が春日部に戻る事はないだろう。……まぁ本人は己達と繋がったコネを用いて金とレベルを稼いで、それなりのデビルバスターチームになるつもりのようであるのだけれども。
「……しっかしずっと疑問だったんだけどさ、なんでアイツキングオージャーのカグラギの口調でやってたの? 名前繋がりでロールプレイ?」
「自らを偽り格好を付けねば勇気を振り絞れないタチなのではないか? 己はさして気にしてもいなかったのだが」
「まぁ、ジエンはデフォルトの口調がそれですからね。芝居がかった口調に違和感は覚えないでしょうよ」
ちなみに、顔形、声色などは特に似てはいなかった。コスプレもしていないので、単なる
「おお、ジエン様方、まだいらっましゃいましたか」
「どうかしたのか? カグラギ殿」
「あなた方は、技研という秘伝書を蒐集、管理する会社の方であるのでしたよね?」
「そうよ。腐った伝統に間違った修練方、使えない奥義の中にたまにある真理をサブスクで公開してるわね」
「でしたら、ひとつ耳寄りな情報が」
そうして、カグラギ殿は語ってきた。
力を求める者たちがいつの頃からか探し続けている、ある一つの伝説について。
「『武技の泉』というものを、ご存じですか?」
あとがき
ちょっとコロナってました。
熱だとか頭痛だとかで辛かった期間は案外短かったのですが、微熱が結構続いていたのが辛かった所。咳もまだ残ってたりと。
尚、コロナにバファリンが効果あると思わなかった結果、病院行くの遅れたという事がありました。バファリンすげーなオイ。
皆さんもお気を付けてー
・ジエンくん
新章突入によりクソ装備縛りが始まった主人公。金が無い奴には良い装備なんか無いんだよ!
死体が宝箱に見えていた世界出身の感性は根強く、今でも敵の人間が動く宝箱に見える時がある。
頭が悪いタイプのカジュアルサマナーとはあまり仲良くなれなかったが、頭がおかしいタイプのカジュアルサマナーとはめっちゃ仲良くなれている。まぁ、カジュアルと言いつつかなり自浄された後というのもあるけれども。
・スーパー埼玉県民春日部つむぎちやん
なんかふわっと頭に浮かんできたカジュアルサマナー(善玉寄り)の頭目。キャラクターとしてはVOICEVOXという合成音声ソフトに登録されている埼玉県系ギャルである。春日部つくしという埼玉県系Vtuberの音声を元にして作られたのだが合成音声の方が有名になった結果、春日部つくしさんの方が「春日部つむぎとなんか関係あるんですか?」と聞かれるらしい。
閑話休題
春日部市にてカジュアルに異能の力を使って遊んでいた連中の一人、しかし根城にしていた廃墟が悪魔に乗っ取られて、異界内にカジュアルチーム丸ごと放り込まれた。そうして起きたエログロサバトの中で埼玉への郷土愛か覚醒して
とはいえ本人たちだけで異界を取り返せるほどではなかったので、外部からやってきたルビコンに心を囚われたデビバスたちと協力して異界のボスを殴り倒したのである。一応、そのことを聞かれなければ話さない程度にハッタリをかましてはいる。
善玉寄りになったのは、キリギリスに勝てないからという合理的な理由が半分、埼玉県民として覚醒し、共同体を守ろうという自覚が出たのが半分ある。
・カグラギ殿(ロープレ版)
日常的に格上狩りをしてるタイプのカジュアルサマナー。異界に閉じ込められた際、敵対傾向の強いカジュアルチームのリーダーを軒並み暗殺して回ったのでレベルが50に近く、現環境でも普通に戦える。
『私の命一つで手打ちにして下さい』と言ったが、殺されはしないだろうという確信はあった。ジエンくんが遠距離で仕掛けたのがバステだけだったことが根拠。
鎧袖一触に薙ぎ払って蘇生できないレベルで皆殺しにしても良い所を、ゆっくり無力化するという面倒な方法を選んだことで会話ができると踏んで、交渉に打って出た。
カグラギ側の目的はカジュアル連合から足抜けした後の仕事の確保。使える奴だとジエンくんたちに思い知らせることで、よりレベルの高い仕事の紹介を受けるのを狙っていた。
襲撃を企てた連中には用心棒として雇われていただけだったのだが、いつの間にやら大将になっていたとは誰の談であるだろうか?
出身は不明。ロープレしている理由も不明。